黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

269話 報告


「……ふむ、謎の白銀の髪の男か。そやつがセプテンバーム公爵領で暴れたと」

「はい。私も共に戦いましたが、かなりの実力でした。伝説通り全ての魔法属性が使えて、あの男なだけなのかはわかりませんが、驚異の再生能力を持っていました。胸を貫いても首を切り落としても生きていたのです」

 公爵領に現れた男の説明をすると、周りの大臣たちがざわつき始める。あのレイブン将軍ですらかなり難しい顔をしていた。

「そんな者がいるとは。どうやって倒したのだ?」

「何度切っても再生するのには何かしらの理由があると考えた私は、魔力の流れを探りました。そしてわかったのが、両手両足心臓付近、そして頭に魔獣の魔石が埋め込まれている事がわかりました」

 俺がそう言うと、全員が顔をしかめる。体に魔獣の魔石を埋め込まれていると聞けば誰だってそうなるか。獣人たちを領地に置いている俺だって眉をひそめた。

「……それは獣人たちと同じという事かい?」

「広く見ればそう考えて間違いないでしょう。しかし、あれは獣人たちとは能力が桁違いでした。手紙にも書いてあったかもしれませんが、奴は周辺の家屋を全壊するほどの広範囲魔法を連続で放つ事が出来ます。しかも、全属性使える上に、複合魔法もです。前の戦争などで出て来た獣人たちとは、格が違うでしょう」

 それほど、獣人たちとは力の差を感じた。周りの大臣たち全員が黙り込んでしまう。特に獣人の強さを知っている武官たちは更に苦々しい顔をしていた。

「手紙に書いてあったが、その男には仲間がいると?」

「恐らくですが。私が頭以外の魔石を破壊し、男を捕らえようとした時に、私の気配の外から矢を放たれました。その矢は真っ直ぐ男の頭を貫きました。即死だったので魔石を貫いたのでしょう。
 男から情報が漏れるのを嫌がったのでしょう。それに、男に近い力が無いと正確に男の魔石を撃ち抜くとは難しいと思われます」

「……ふむ。なら、他にも同格の者がおると考えて事を進めなければいけないな。しかし、そんな者たちがなぜ我が国に……レイヴン将軍よ、調査を頼む」

「わかりました、陛下」

「うむ。アルノード伯爵よ、そなたのおかげで助かった。公爵からの手紙では褒賞の代わりに文官を手配してやってくれ、と書かれておった。今、そなたの領地に送っている文官をそのまま使うと良い。他にも数人送ろう」

「はっ、ありがとうございます、陛下」

 俺は陛下に頭を下げる。それを見た陛下から退出していき、その後に俺たちも退出する。

「アルノード伯爵よ」

 玉座の間を出て少ししたところで名前を呼ばれたのでその方を見ると、そこには

「これはオスティーン伯爵!」

 アレスの父であるオスティーン伯爵が立っていたのだ。俺はすぐにオスティーン伯爵の元へと向かう。

「久し振りだな、アルノード伯爵。死竜の討伐に向かったと話を聞いた時は驚いてしまったが、しっかりと討伐してくるとは流石だな」

「いえ、あれは運が良かったんですよ」

 実際姉上が居なければきついものがあったしな。本当に運が良かったんだよなぁ、あれは。

「くくっ、その運を味方につけるほどアルノード伯爵は天に愛されているのだろう」

 そう言って笑うオスティーン伯爵。それならかなり嬉しいのだが。

「アルノード伯爵はいつまで王都に? 家族がいるから直ぐに領地へ帰るのか?」

「いえ、1週間ほどは王都にいようと思います。トルネス王国から殆ど休みなしで帰って来ましたし、他の皆もゆっくりしたいでしょうから」

「そうかそうか。それなら、我が家に来ないか? 前は色々とあって来られなかったからな」

 確かにヘレネーたちが子供を産む前に行く約束をしていたな。ただ、戦争の後に色々とあったせいでそのまま領地に帰ってしまい、その後ヘレネーたちが出産して、子供たちがある程度大きくなったら、伯爵領に移動して行方不明になってしまったから、オスティーン伯爵の家には行けてないんだよな。

「ぜひ伺わせてもらいます」

 断る理由も無いしオスティーン伯爵に答えておく。アレスは前に心配して伯爵領に来てくれたが、その後遅くなった挨拶回りなどであまり話す事が出来ずに帰ってしまったからな。俺も直ぐに王都に行って、死竜の討伐に向かったし。

「おお、それではまた日時が決まったら人を送るよ。明後日ぐらいを予定しているから空けておいてほしい」

「わかりました。楽しみにしています」

 俺とオスティーン伯爵はそのままその場で別れる。王城の用事は報告のみだったので、俺はそのまま馬車へと戻る。

 まだ慣れない王城の道に四苦八苦しながらも馬車があるところへ戻る。馬車の側にはロナが立っており、どうやら俺が行ってからずっと外で待っていたようだ。

「ロナ、戻ったよ」

「あっ、おかえりなさいませ、レディウス様。話は終わりましたか?」

「ああ、無事に全部報告することができたよ。今日は帰ってゆっくりしよう」

「はい、わかりました。それでは屋敷まで帰りましょうか」

「ああ、頼むよ」

 俺は先に馬車に乗り、ロナは御者に場所を伝えてから馬車に乗る。少ししてから動き出した馬車。俺は目の前に座るロナが、憂いのある顔で窓からの景色を眺めている事が気になってしまった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品