黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

267話 戦いを終えて……そして王都へ


「……ヴァンは?」

「ちゃんと殺したわ。まあ、あの男が殆ど魔石を切ってくれたおかげで、頭を射抜くだけで済んだのだけどね」

「しかし、あの馬鹿者め。あれほど表に出るなと言ったのに、かなりの大事にしよって。我々の存在がバレたでは無いか」

「そうね。レディウス・アルノードは完璧に魔石の存在に気が付いていたわ。彼の領地にはなり損ないが沢山いるって話だしね。それで、これからどうするの?」

「ヴァンの死体を消す。奴らが見てわかることは少ないだろうが、残しておく必要もあるまい」

「他に仲間がいるって怪しまれない?」

「ふん、そんなものヴァンの頭を射抜いた時点でバレておるわ。後は予定通り目的の日まで姿を隠す。今回の件で国は捜査するだろうが、ヴァンみたいに表に出なければ見つかることはない」

「はいはい、りょーかい」

 ◇◇◇

「改めて礼を言う。助かったぞ、アルノード伯爵、そしてレイグよ」

 大きな机の1番奥の上座の席で俺たちに向かって軽く頭を下げるセプテンバーム公爵。それに倣って左右に座る公爵家の武官文官も頭を下げてきた。中にはゲイル義兄上やゲルムドさんもいる。

 ここはセプテンバーム公爵家にある会議室だ。あの銀髪の男との戦いから2日経った今日、俺とレイグはここに呼ばれた。

 どうして2日後かと言うと、この2日間は俺もレイグも治療に専念していたからだ。俺の風穴の空いた腹や噛み付かれた首筋はポーションで治ったのだが、流し吸われた血は元には戻らない。結構な貧血でふらふらとしてしまっていたのだ。

 レイグも何度も男の魔法のコウモリをくらったようで、俺ほどではないにしろ結構な血を流したらしい。レイグの仲間の奴隷の女性たちから安静にするように囲まれていたものな。

 それで、ようやくふらつきも無くなり、激しい運動は出来ないが、普通の生活は支障が無いと判断されたため、今日会議が開かれたのだ。そして今に至る。

「ふん、俺は依頼通り動いただけだ。それに被害はかなりのものだった」

 公爵たちの礼に雑に返すレイグ。お前公爵に対してもそんな感じなのかよ。ほら、公爵の文官たちが顔をしかめているぞ。

 だけど、レイグの言っていることはわかる。俺もゲイル義兄上から聞いた話だが、今回の被害はかなりのものだったらしい。

 あの戦った一帯、男の魔法のせいで建物が全壊している。数にして60棟の建物が崩れたらしい。住民は何とか避難させていたが、そのせいで住む場所を無くして、今は公爵が宿を借りて住まわせているらしい。

 それだけでなく、兵士たちへの被害もかなりのものだったという。男が建物を破壊したせいで、その崩落に巻き込まれた兵士が大半だったようで、100人近くの死傷者が出たと言う。

「ふん、お前たちが謝るようなことでは無い。今回の敵が想定外だったのだ。話を聞けば伝説と言われた白銀の髪をしていたと聞いている。そんなものが相手であの被害で済んだのだ。お前たちを咎めることはない」

「……そうかよ」

 レイグはそれっきり目を瞑って黙ってしまった。本当に自由だなおい。公爵でなければキレているぞ、これ。

「アルノード伯爵よ。そなたはこの後王都に向かうと聞いている。悪いのだが陛下にこれを渡して欲しいのだ。それと、街で起きた事を話して欲しい」

 セプテンバーム公爵はそう言い、手紙を渡してきた。手紙には公爵家の印が押されており、正式な手紙なのがわかる。俺はそれを受け取り、そのまま部屋を出る。

 俺たちは予定より2日遅れて王都に帰る。本当は一昨日には帰る予定だったからな。この事は男を倒した日に話しているので、既に準備出来ている。

 俺たちにあてがわれた部屋に戻ると、ロナが最後の片付けをしていた。俺が入って来たのに気が付いて俺の方を見るが、少し見てから顔を逸らす。

 その事に俺は思わず溜息を吐いてしまう。どうして、ロナが少しよそよそしい態度をしているかと言うと、やっぱり、男との戦いが原因である。

 俺が大怪我した事を、ロナは自分のせいだと思っているのだ。自分がちゃんと男が再生する事を伝えていれば、俺が腹を貫かれる事はなかったと。

 その事を気にしなくても良いと言っているのだが、駄目らしく、俺との間に変な距離が出来てしまった。こういう変な距離感、あんまり好きじゃないんだけどなぁ。まあ、仕方ない。気にするなと言っても気にしてしまうのだから、ロナが自分の中で折り合いがつくまで待とう。

 俺はシュバルツ腰に差して部屋を出る。ロナも俺の後についてくる。屋敷の前には既に馬車が用意されており、そこにはセプテンバーム公爵と夫人が待っていてくれた。

「アルノード伯爵、ヴィクトリアにもよろしく伝えてくれ。たまには子供を連れて帰って来いと」

「もう、あなたったら。それが難しい事は分かっているでしょうに。アルノード伯爵、あなたはあまり怪我をしないようにね。ヴィクトリアたちの心配してしまうから」

「はは、ヴィクトリアにちゃんと伝えておきます。それから、なるべく怪我はしないように気をつけます。短い期間ですがお世話になりました」

 俺は2人に頭を下げて馬車へと乗る。続いてロナも。俺たちが乗り終えると馬車は動き出す。

 少し色々と問題はあったが、王都に戻って陛下に様々な報告をした後には、領地に帰るか。ダンゲンさんからのお願いもあるしな。準備をしなければ。

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