黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

265話 予想外


「行くぞ、レイグ!」

「俺に命令するんじゃねえ!」

「俺たちも援護をするぞ!」

 俺は纏・真を発動して男へと迫る。レイグは文句を言いながらも、俺と並んで走り出す。

「ふん、実力のわからない愚か者たちが」

 男は俺たちを嘲笑しながら、血で作った槍を飛ばしてくる。連続で放ってくる血の槍を、俺もレイグも避けながら男へと近づいていく。

 男を左右挟むように近付いた俺たちはそれぞれ攻める。レイグは男の首を狩るように魔力の込められた回し蹴りを、俺は男の脇腹を切るようにシュバルツを振り上げた。

 男はふん、と鼻で笑いながらレイグの回し蹴りを右手で掴み、俺の切り上げを左腕で受け止めた。さっき防がれた時から硬いのはわかっていたが、こうもやすやすと止められるとショックだぜ。

 男は俺の剣を弾くと、俺に向かってレイグを投げて来た。同時に魔法のコウモリをいくつも放って。俺は飛んできたレイグを受け止め、今度は男の上に向かって思いっきり投げる。

 そして、領域を発動する。まだ戦闘中の範囲は狭いがシュバルツの届く範囲は領域内だ。それに合わせて明水流の魔流を使う。

 領域内に入って来た魔法のコウモリを全て受け流す。逸らす時にコウモリの進路を下の方に変えたため、俺の後ろに流れてから直ぐに地面へとぶつかる。これで後ろに被害は行かない。

「おらぁっっ!!!」

 俺がコウモリを流し切ると同時に、男の頭上に落ちて来たレイグ。何らかの方法で加速したのかただ落ちるだけでは出せない速さで男の頭上目掛けて落ちて行く。

 ドゴォン!! 途轍もない爆発音が響く。レイグの火と雷が混じった一撃を男が受け止めたのだ。流石にきつかったのか、レイグの一撃を両手で受け止めていた。

 しかし、両手で受け止めて耐えた男は、レイグを地面へと叩きつける。レイグは痛みに顔を歪めながらも、直ぐに起き上がり下から腹目掛けて右拳を振り上げる。

 俺もその間に近づきレイグの頭スレスレにシュバルツを横に振るい男の首を切りに行く。男はレイグの拳を左手で、俺のシュバルツを右手で掴んだが、そんな事は先程の事でわかっている。

 俺は男に近づく時に拾っておいた誰かの短剣を男の喉元に向かって突き刺す。レイグも直ぐ様反対の腕を男の脇腹に向かって振るう。しかも、先程以上の魔力を込めて。

 両手が塞がっている男は防ぐ事が出来ずに、俺の短剣を喉元に、レイグの拳を脇腹にモロに受ける。そして、レイグの拳が入った瞬間、再び爆発が起きた。

 流石に受け止めずに体で受けた一撃は効いたようで、数歩たたらを踏む。そこに追い打ちをかけるように俺もレイグも迫る。

 気が付けば男の顔に余裕の表情は無かった。ただ、俺たちを忌々しそうに睨んでくるだけ。

「ようやく、表情変えたなぁ!!」

 それにレイグも気が付いたようで男を煽る。男はレイグに手を向けて血の槍を放つが、レイグは血の槍の横側を殴る事で上手く逸らす。

 俺はレイグを盾にするように後ろに続く。レイグには悪いが少し溜めさせてもらう。

 レイグは放たれる血の槍を全て逸らして近づき、男にタックルをし捕らえる。男は離させようと暴れるが、レイグは血を吐きながらも捕まえる。

「やっれぇぇぇぇっ!!!!」

 俺は叫ぶレイグに応えるように、鞘に戻して魔力を込めていたシュバルツを一気に引き放つ。烈炎流奥義……

「絶炎!!!」

「まっ……」

 男の首を狙って放たれた斬撃は、吸い込まれるように男の首へと向かう。男は流石に不味いと思ったのか、何かを言おうとするが、俺はそれを聞く暇もなく振り抜く。

 一瞬、抵抗感を感じるが、次の瞬間には振り抜く事が出来、ザシュッ、という音と共に男の首が体から跳ねた。

 男の背後にある瓦礫にも斬撃が走り切り裂いてしまった。斬撃の衝撃は男の体も吹き飛ばし、瓦礫に激突する。

 少し時間が経ってから落ちてくる男の頭。本当は捕らえる予定ではいたのだが、これほどの被害を出す奴だ。手加減なんて出来なかった。

「生きてるか?」

「……はっ、死んでたまるかよ」

 腹を押さえながら片膝をつくレイグ。男を押さえるためにタックルした時にやられたのか、腹から血を流していた。

「ほら」

「いらねえよ。直ぐに連れが持ってくる」

 俺が渡そうとしたポーションをレイグはいらないと言いながら、血が流れる腹を押さえながら立ち上がる。

「アルノード伯爵、よくやってくれたな」

 レイグと話していると、ゲイル義兄上がやって来た。ゲルムドさんやガラムドさんはけが人の確認など被害状況を確認しており、ゲイル義兄上の側には別の兵士が付いていた。ロナもなんとか歩けるようになったのか側に来てくれる。

 俺はなんでもなかったとゲイル義兄上に話そうとしたその時、背後からゾワっと鳥肌の立つ気配がした。レイグやガラムドさんたちも気が付いたようだが、レイグは怪我をしており、ガラムドさんたちは離れたところにいる。

 そして、その気配の正体が一気にゲイル義兄上とロナを狙って向かって来たのを感じた俺は、ゲイル義兄上の方はシュバルツで弾き、ロナの方はロナを突き飛ばした。

 しかし、ロナの方に向かって来たものはそのまま俺に方向を変えて再び向かってくる。シュバルツを戻す暇もなく向かって来たそれは、俺の脇腹を貫いた。

 俺を貫いたものは勢いを弱める事なく突き進み、反対側の瓦礫へと突っ込む。俺もその勢いに吹き飛ばされ、そのまま瓦礫に背中から突っ込んでいく。

 背中に走る衝撃と、腹を貫いた痛みに一瞬視界が真っ暗になったが、直ぐに視界が戻りこの伸びて来たものの元凶を見る。

 伸びて来たものを辿ると、そこには予想通り男の姿があった。ただ、あったのは首がなくなった体だけだった。……ったく、なんで首を切り落としたっていうのに動いたんだよ。

 男の体に纏っていた血が伸びて来たようだ。そして、その血から男の顔が出来る。気持ち悪いなこの野郎。

「……血ィ……血ヲ寄越セェェェェ!!!」

 そして、血で出来た男の頭は、首を伸ばして俺の首元へと噛み付いて来たのだった。

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