黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

263話 包囲


「ぐぶっ……なんだ、お前は……?」

 俺の方へと振り返りながら尋ねてくる男。男は血を吐きながらも、俺は思っていたより余裕の表情を浮かべていた。普通ならあり得ないのだが……。

 それだけでなく、メルトファリア王国の王子であるフェラス以来のほとんど伝説と言われている白銀の髪に多少驚きながらも、顔には出さないようにして、背中から突き入れたシュバルツを引き抜き、男から距離を取る。

 胸元を押さえて、俺とレイグ、どちらにも対処出来るように半身だけ向けてくる。しかし、気持ちの悪い魔力をしているなこいつ。色々な魔力を無理矢理混ぜ込んだような感じだ。

 ……まあ、そんな事はどうでもいいのだが。今は、それよりも

「そこにいる黒髪の少女の師匠だよ、このクソ野郎。俺の大切な人を傷つけやがって。許さないぞ」

 ロナを傷つけたこいつをぶっ倒さないといけない。俺が離れた瞬間、レイグも男から距離を取る。そして、男の周りから大量の土の鎖が伸びていき、男に巻き付いていく。

 男は避ける暇もなく土の鎖が体に巻き付いて身動きが出来なくなっている。男が捕らえられたのを確認してから、ヴィクトリアの兄であり、俺の義兄でもあるゲイル義兄上とグリムドの父親であるゲルムド、兄であるガラムドが兵を率いて姿を現した。

 建物の屋根の上にも兵士がおり、男を絶対に逃さないように包囲していた。土の鎖に巻かれる男を確認してから俺はロナのところへと向かう。

 ロナの足はボロボロになっており、青紫色にうっ血していた。地面に倒れ込むロナはかなり痛々しそうで、そんな姿を見た俺は側にしゃがみこんでロナを抱き締めた。

「ごめんな、ロナ。1人で行かせて。あの時一緒に行っていればこんな事にはならなかったのに。危ないって話も聞いていたのに」

「い、いや、謝らないでくださいよ、レディウス様。私が1人で行くって言ったのですから。それよりも、どうしてここに?」

「レイグたちはこの男を捕らえる依頼を公爵から依頼されているって聞いているか? レイグの仲間の1人がロナとの戦闘音を聞いたらしくてな。レイグは先行して、残りの仲間は公爵家に言いに来たんだ。そこに俺が居合わせてな。
 俺がここに転移してきたのは、レイグが持っている仲間の1人が作った転移石ってやつを使って来た。間に合って良かった」

 俺はそう言いながら更に強く抱きしめる。ロナもありがとうございます、と言いながら抱き締め返してくれた。

「お前が最近女性の血を抜き取り殺している殺人犯だな?」

 俺がロナと話している間に、義兄上が指示を出して兵士たちに男を囲ませていた。俺は持って来ていたポーションを1つロナに、もう1つをレイグに渡す。後1つあるがこれは持っておこう。

 ロナは直ぐに飲んで、傷ついた足にも振りかける。レイグは思いっきり頭からかぶっていた。飲んでもかけてもポーションは効果があるからな。

「……はあ、少し暴れ過ぎたようだ。だが、この程度で私を捕らえられたと思われるのは心外だな」

「ふん、周りを見て逃げれるのでも?」

 兵士の1人が侮りながら男へとじわじわと近づく。俺は嫌な予感がしたため、纏を発動して一気に男へと近づく。レイグも俺と同じように感じたのか、魔力で強化をして男へと迫った。

「舐めるなよ。カオスサイクロン」

 男は近づく兵士を睨みつけて魔法を発動した。男を中心に黒い竜巻が起き、近付いていた兵士たちが吹き飛ばされる。俺もレイグも近寄る事が出来ずに立ち止まってしまう。

 その上、竜巻の中からマグマの塊のようなものが四方八方、辺り構わずに放たれる。あれは熔炎魔法!? ……いや、驚く事はないか。白銀髪って事は全ての魔法属性が使えるって事だ。それなら、複合魔法を使えても不思議ではない。

 黒い竜巻が消えた頃には、辺りの建物は男が放った熔炎魔法のせいで、引火していた。兵士たちが慌てて火を消そうとするが中々消えない。

 竜巻が完全に消えて、男が姿を現した時には、男を捕らえていた土の鎖は溶けており、完璧に自由の姿となっていた。しかも、俺が貫いた胸元の傷もすでに治っていた。

「面倒だが仕方あるまい。ここにいる奴ら全員殺させてもらおうか」

 そして、辺りに放たれる男の威圧。ここからが本番ってわけか。

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