黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
259話 無骨なプレゼント
「……そうかい。レイディアントは娘にやったのか」
険しい顔をしながら煙草を吸うダンゲンさん。物凄く重苦しい空気になったが、この事は絶対に話さないといけないことだった。
「すみません、ダンゲンさん。せっかく作ってくれた剣を」
重苦しい空気の中、俺はダンゲンさんに頭を下げる。せっかく俺のために作ってくれた剣を他の人にあげたのだ。何かを言われても仕方ない。しかし
「何、謝ってんだよ。別に俺は怒っちゃいねえ。あの剣は嬢ちゃんと小僧にやったものじゃ。持ち主のお前が渡すと決めたことだ。俺は何も言わねえよ。ただ、お前が後悔しないかどうかだけだ」
「後悔なんか当たり前ですがしてませんよ」
俺はダンゲンさんの顔を見ながらすぐに答える。それは間違いなかったからだ。しばらく睨み合うように見合う俺とダンゲンさんだったが、ふっ、ダンゲンさんは笑みを浮かべた。
「なら、良いじゃねえか。さっきも言ったが俺に謝る事はねえ。持ち主だったお前が決めた事だからな」
「……ありがとうございます」
「ふん、それよりもそれを言いに来ただけか?」
もう、この話は終わりだ、と言わんばかりに話を変えるダンゲンさん。その流れに俺も乗る事にして、後ろで神妙な顔をして立っていたロナを前に出す。
「彼女の短剣を買いに来たんです。彼女はロナと言いまして、俺の弟子なんですよ。もうすぐで旋風流の上級になれる実力を持っています」
「えっ? ちょっ、れ、レディウス様!?」
突然背中を押されたロナは驚きの声を上げるが、これに関しては前から考えていたんだ。ヴィクトリアとも話をして、公爵たちに会いに行くときにでも一緒に連れて行こうと考えていたところに、今回の死竜の討伐の話が来たのだ。
「その嬢ちゃんの短剣か。前の槍の嬢ちゃんといい、小僧のところには綺麗なのに危ねえ嬢ちゃんが集まるんだな」
慌てて俺を見て来るロナを見て、そんな事を言うダンゲンさん。その言葉に俺は苦笑いしかできなかった。だって、本当に実力のある愛している妻をまだ会わせていないのだから。
「それで、売ってくれますか?」
「小僧の弟子なら構わねえよ。棚から好きなのを選びな。バルム、案内してやんな」
「了解っす、師匠。ささ、ロナさん。こちらになるっす」
バルムに案内されて戸惑いながらも付いていくロナ。時折振り返って俺を見てくるが、俺は手を振るだけだ。
それから、バルムに短剣の飾ってある場所に案内されてからは、2人でどのような性能で、どのようなものなのか説明を聞きながら選んでいた。
「小僧」
その2人の姿を眺めていると、後ろでダンゲンさんが槌を持って剣を打ちながら話しかけて来る。冷気を出す魔道具を置いているのに、奥から流れてくる熱気に怯みながらも、俺は奥へと入る。
「どうしたんですか、ダンゲンさん」
「そこら辺ならあまり暑くねえから、そこから聞いてくれ。実はな、お前に頼みたい事があるんだ」
「俺に頼みたい事?」
ダンゲンさんが俺に頼みってなんだろう。まあ、世話になっているダンゲンさんの頼みだ。可能なものなら聞くのは当然なのだが。
「実は……」
◇◇◇
「レディウス様……その、これに決めました」
そう言い、ロナが持ってきた短剣は、漆黒の短剣だった。柄も刀身も鞘も全て真っ黒で、俺のシュバルツのようだった。
「おっ、それは、小僧にやったシュバルツと同じ石を使って作った短剣じゃねえか。しかも、バルムの奴が。確か銘は」
「ネグロノーツっす。俺の渾身の力作っすよ!」
「ロナはこれで良いんだな?」
「はい! 物凄く手に馴染んで使いやすいんです!」
嬉しそうに言うロナ。それなら、これにしよう。ロナには軍支給の短剣か安い短剣しか使わせてなかったからな。
高いから良いってわけではないが、自分に合った武器の方が良いに決まっている。それから、値段を聞いて支払う。
支払いを終えて、俺たちは鍛冶屋を出る。ダンゲンさんとバルムが外まで出て来てくれて、見送ってくれる。結構な時間いたのか、外は夕暮れ時になっていた。
「ありがとうございました、ダンゲンさん」
「おう、それからあの話は頼んだぞ」
俺はダンゲンさんの言葉に頷く。ダンゲンさんの頼みだから当然だ。2人に頭を下げてお礼を言うロナを呼んで、公爵の屋敷へと帰る。しかし
「あっ!?」
と、突然大声を出すロナ。帰りも半ばといったところで急に出すものだから、驚いてしまった。
「すみません、レディウス様! 少し忘れ物をしましたので、戻って取ってきます!」
「俺もついていくよ?」
「いえ、直ぐに戻りますので、先に戻っていてください!」
ロナは、そう言うと鍛冶屋に向かって走ってしまった。俺はその後ろ姿を見送るのだった。
◇◇◇
「ふう、レディウス様に貰ったお守りを忘れるなんて」
私は手の中にあるお守りを見ながら1人で呟く。短剣の性能を見るのに、少しの間バルムさんに預かってもらっていたのを忘れるなんて。
空はもうすぐで暗くなる手前ってところ。早く帰らないとレディウス様に心配をかけてしまう。そう思った私は、レディウス様と歩いた道を走る。
しばらく走っていると、ついこの間まで匂っていた匂いが、僅かに漂ってくる……血の匂いが。私は立ち止まって辺りを見渡す。何処から匂いがするのか探っていると、においがするのは、狭い路地裏の向こうからだった。
近くに誰かいないかと思ったけど、辺りは事件のせいか人がいなかった。私は意を決して路地裏を進んでいく。
進むに連れて血の匂いが濃くなっていく。私はレディウス様に頂いたばかりの短剣、ネグロノーツを抜き、奥へと進む。
路地裏の奥は行き止まりとなっており、そこには1人の男が立っており、足下には女性が横たわっていた。まるでミイラのように全身の水分を失った女性は微動だにしなかった。
「ふむ。見られてしまったか。ただ、運が良い。見られた相手が女で。男だと血を無駄にしてしまうからな」
そう言い私を見てくる男に、私は萎縮してしまった。そして、生まれて2人目の銀髪に。
険しい顔をしながら煙草を吸うダンゲンさん。物凄く重苦しい空気になったが、この事は絶対に話さないといけないことだった。
「すみません、ダンゲンさん。せっかく作ってくれた剣を」
重苦しい空気の中、俺はダンゲンさんに頭を下げる。せっかく俺のために作ってくれた剣を他の人にあげたのだ。何かを言われても仕方ない。しかし
「何、謝ってんだよ。別に俺は怒っちゃいねえ。あの剣は嬢ちゃんと小僧にやったものじゃ。持ち主のお前が渡すと決めたことだ。俺は何も言わねえよ。ただ、お前が後悔しないかどうかだけだ」
「後悔なんか当たり前ですがしてませんよ」
俺はダンゲンさんの顔を見ながらすぐに答える。それは間違いなかったからだ。しばらく睨み合うように見合う俺とダンゲンさんだったが、ふっ、ダンゲンさんは笑みを浮かべた。
「なら、良いじゃねえか。さっきも言ったが俺に謝る事はねえ。持ち主だったお前が決めた事だからな」
「……ありがとうございます」
「ふん、それよりもそれを言いに来ただけか?」
もう、この話は終わりだ、と言わんばかりに話を変えるダンゲンさん。その流れに俺も乗る事にして、後ろで神妙な顔をして立っていたロナを前に出す。
「彼女の短剣を買いに来たんです。彼女はロナと言いまして、俺の弟子なんですよ。もうすぐで旋風流の上級になれる実力を持っています」
「えっ? ちょっ、れ、レディウス様!?」
突然背中を押されたロナは驚きの声を上げるが、これに関しては前から考えていたんだ。ヴィクトリアとも話をして、公爵たちに会いに行くときにでも一緒に連れて行こうと考えていたところに、今回の死竜の討伐の話が来たのだ。
「その嬢ちゃんの短剣か。前の槍の嬢ちゃんといい、小僧のところには綺麗なのに危ねえ嬢ちゃんが集まるんだな」
慌てて俺を見て来るロナを見て、そんな事を言うダンゲンさん。その言葉に俺は苦笑いしかできなかった。だって、本当に実力のある愛している妻をまだ会わせていないのだから。
「それで、売ってくれますか?」
「小僧の弟子なら構わねえよ。棚から好きなのを選びな。バルム、案内してやんな」
「了解っす、師匠。ささ、ロナさん。こちらになるっす」
バルムに案内されて戸惑いながらも付いていくロナ。時折振り返って俺を見てくるが、俺は手を振るだけだ。
それから、バルムに短剣の飾ってある場所に案内されてからは、2人でどのような性能で、どのようなものなのか説明を聞きながら選んでいた。
「小僧」
その2人の姿を眺めていると、後ろでダンゲンさんが槌を持って剣を打ちながら話しかけて来る。冷気を出す魔道具を置いているのに、奥から流れてくる熱気に怯みながらも、俺は奥へと入る。
「どうしたんですか、ダンゲンさん」
「そこら辺ならあまり暑くねえから、そこから聞いてくれ。実はな、お前に頼みたい事があるんだ」
「俺に頼みたい事?」
ダンゲンさんが俺に頼みってなんだろう。まあ、世話になっているダンゲンさんの頼みだ。可能なものなら聞くのは当然なのだが。
「実は……」
◇◇◇
「レディウス様……その、これに決めました」
そう言い、ロナが持ってきた短剣は、漆黒の短剣だった。柄も刀身も鞘も全て真っ黒で、俺のシュバルツのようだった。
「おっ、それは、小僧にやったシュバルツと同じ石を使って作った短剣じゃねえか。しかも、バルムの奴が。確か銘は」
「ネグロノーツっす。俺の渾身の力作っすよ!」
「ロナはこれで良いんだな?」
「はい! 物凄く手に馴染んで使いやすいんです!」
嬉しそうに言うロナ。それなら、これにしよう。ロナには軍支給の短剣か安い短剣しか使わせてなかったからな。
高いから良いってわけではないが、自分に合った武器の方が良いに決まっている。それから、値段を聞いて支払う。
支払いを終えて、俺たちは鍛冶屋を出る。ダンゲンさんとバルムが外まで出て来てくれて、見送ってくれる。結構な時間いたのか、外は夕暮れ時になっていた。
「ありがとうございました、ダンゲンさん」
「おう、それからあの話は頼んだぞ」
俺はダンゲンさんの言葉に頷く。ダンゲンさんの頼みだから当然だ。2人に頭を下げてお礼を言うロナを呼んで、公爵の屋敷へと帰る。しかし
「あっ!?」
と、突然大声を出すロナ。帰りも半ばといったところで急に出すものだから、驚いてしまった。
「すみません、レディウス様! 少し忘れ物をしましたので、戻って取ってきます!」
「俺もついていくよ?」
「いえ、直ぐに戻りますので、先に戻っていてください!」
ロナは、そう言うと鍛冶屋に向かって走ってしまった。俺はその後ろ姿を見送るのだった。
◇◇◇
「ふう、レディウス様に貰ったお守りを忘れるなんて」
私は手の中にあるお守りを見ながら1人で呟く。短剣の性能を見るのに、少しの間バルムさんに預かってもらっていたのを忘れるなんて。
空はもうすぐで暗くなる手前ってところ。早く帰らないとレディウス様に心配をかけてしまう。そう思った私は、レディウス様と歩いた道を走る。
しばらく走っていると、ついこの間まで匂っていた匂いが、僅かに漂ってくる……血の匂いが。私は立ち止まって辺りを見渡す。何処から匂いがするのか探っていると、においがするのは、狭い路地裏の向こうからだった。
近くに誰かいないかと思ったけど、辺りは事件のせいか人がいなかった。私は意を決して路地裏を進んでいく。
進むに連れて血の匂いが濃くなっていく。私はレディウス様に頂いたばかりの短剣、ネグロノーツを抜き、奥へと進む。
路地裏の奥は行き止まりとなっており、そこには1人の男が立っており、足下には女性が横たわっていた。まるでミイラのように全身の水分を失った女性は微動だにしなかった。
「ふむ。見られてしまったか。ただ、運が良い。見られた相手が女で。男だと血を無駄にしてしまうからな」
そう言い私を見てくる男に、私は萎縮してしまった。そして、生まれて2人目の銀髪に。
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