黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

258話 公爵領の問題

「久し振りだな、アルノード伯爵」

「はい、お久しぶりです、セプテンバーム公爵」

 俺は目の前に立つセプテンバーム公爵に礼をする。セプテンバーム公爵の隣にはにこやかに笑みを浮かべるセプテンバーム夫人が立っていた。

 ここに来る途中に魔獣に襲われていたところを助けたダンゲンさんの弟子であるバルムとは既に別れている。彼には明日には伺うと伝えてもらうようにしている。

 彼とは門で別れた後は、先触れを出しておいたおかげか、直ぐにセプテンバーム公爵の屋敷へと案内された。そして、屋敷の中に入れさせてもらい今に至る。

「無事竜は討伐出来たようだな?」

「はい、何とか倒す事が出来ましたよ。中々手強かったですが」

 俺は苦笑いをしながら勧められた席に座る。ロナは後ろに立とうとするが、公爵が構わないと隣に座らせてくれた。ロナは少し気まずそうだが。

「流石だな。お前の武勇は王国内でもかなりのものになる。今回の事でも褒美が貰えるだろう」

「ははっ、それは有り難いですね。それなら、文官をお願いしたいところですね。うちはどうしてもクリスチャンに頼りっきりで、出来る者が少なくて」

 これは割と深刻な問題になる。クリスチャンを筆頭にいるのだが、領地が大きいためやる事がかなり多いのだ。

 今はヴィクトリア、パトリシアに助けて貰っている状況だが、それはあまりいい状況じゃないからな。どうにかしたかったのだ。陛下にお願いすれば送ってくれるだろうか。

「今までいた文官はどうしたのだ?」

「今までいた文官の殆どは着服などをしていたので、クリスチャンが調べて辞めさせたのですよ。戦時だったのもあってか、かなり酷かったので。まともな者だけは残したのですが、それでは厳しくてですね」

「なるほどな。お前の治める場所は一からやる事が多いからな。陛下もその辺りは考慮してくれるだろう」

 それなら、有り難いな。本当にクリスチャンには無理させているからな。そんな事を考えながら、そういえば

「そういえば、義兄上はいないのですか?」

 ヴィクトリアの兄であるゲイル義兄上の姿を見ていない。いたら挨拶をしてくれると思うのだが、どこかに行っているのだろうか?

「ゲイルか。実はこの街で殺人が多発しておったな。それの調査にゲイルとゲムルドが兵を率いて行っているのだ」

「殺人……ですか」

「ああ。女性ばかりを狙ったもので、既に6人の被害が出ている。それも、全て体の血が全て抜けて干からびたような状態で」

 ……なんだそれは。そんな事があり得るのか? 俺もロナも難しい顔をしている。女性だけならロナも狙われる事があるからな。気を付けさせないと。

「犯行は夜中に行われており、この街にいる兵士を総動員して昼夜問わずに探している状況だ。直ぐに見つかると思うが、2人も気をつけてほしい」

「そうですね。わかりました」

 それから軽く話をして、屋敷に泊まらせてもらうことになった。休憩も含めて取り敢えず明日は滞在する事になるので、兵士たちの分は宿を借りたが。

 兵士たちに今日明日の話をした後は、予定通り、ロナを連れてダンゲンさんのところへと向かう事にした。

 街はやはり殺人の話があったせいか、少し活気が少ないように感じる。外に出ているのも男性ばかりで、女性は少ないようだし。

「やはり、先ほどの話が関係しているのでしょうか?」

「かもしれないな。まあ、いたるところで兵士が巡回しているから、そろそろ捕まりそうな気がするけどな」

 少し寂しくなった街を、その原因の事を話しながら歩いていると、ようやく目的の場所にたどり着いた。

 中を覗いてみると、奥でバルムが武器を拭いているのが見えたので、いつものように鳴らさずに中へと入る。俺たちが中に入るとバルムも気が付いたようで

「ようこそいらっしゃいましたっす、アルノード伯爵! 直ぐに師匠を呼んでくるっす!」

 そう言いながらさらに奥へと行ってしまった。その間にロナは短剣が置いてある棚を眺めていた。今日の目的の一つでもあるから。ロナには言ってないけど。

「よう来たの」

 しばらく眺めていると、奥からのっしのしと現れるダンゲンさん。この人は全く変わってないな。

「お久しぶりです、ダンゲンさん」

「ああ、久し振りだな。今回またとんでもない事に巻き込まれたんだって?」

「はは、何とか達成出来ましたけどね」

「それで、何の用だ? 腰にないレイディアントの代わりか?」

「いえ、そちらについての話と、彼女に合った短剣を買おうかと思いましてね」

 俺はロナの驚く顔を他所に、まずレイディアントの話をする事にしたのだった。

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