黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
244話 領主の居ぬ間に
「……目標は?」
「……奴の娘だ。そいつを誘拐する事になっている。今この屋敷には伯爵はおらず、兵も付いて行っている。今がチャンスだろう」
「だが、屋敷にはまだ兵士が残っているから油断するなよ」
「わかっている。目標は奴の娘、ヘレスティア・アルノードだ。奴を屋敷より誘拐するのが目標だ」
◇◇◇
「……はぁ、早く帰ってこないかしら。ねぇー、ヘレスティア」
「だうっ?」
私は可愛い可愛い大切な娘であるヘレスティアの頭を優しく撫でながら呟く。側では遊び相手になってあげようとロポがいて、ロポに手を伸ばそうとするけど、私が抱きかかえているので、手は届かない。目を離すとすぐにロポの手を噛もうとするんだから、この子は。
「ヴィクトリアからの手紙にはトルネス王国へ援軍に行くと書いてましたからね。早くても1ヶ月はかかってしまいます」
私の前に座るパトリシアがヴィクトリアから送られて来た手紙を机に置いて、耳をぴこぴことさせながらそう言ってくる。
手紙が届いたのは3日前だから、逆算して1週間は前に書かれたものでしょう。そうなると、レディウスは今頃トルネス王国にいるのでしょうね。はぁ、直ぐに帰ってくると思ったのに。
「しかし、ドラゴンとは驚きですね。ワイバーンなら見た事があるのですが」
「ええ、しかもアンデッドのドラゴンなんて殆ど伝説のようなものです。まさか、そんなものが現れるなんて」
手紙の内容を知っているミネルバが驚きの声を上げて、パトリシアがそれに繋ぐように答える。そう、そこが問題なのよね。
ドラゴン。強かった私のお父さんとお母さんを殺した忌々しい魔獣。そのアンデッド相手にレディウスが向かうっていうのを聞いて、私は思わず取り乱してしまったもの。
パトリシアに諭されて今は屋敷にいるけど、本音を言えば物凄く助けに行きたい。私が1人行ったところで役には立たないのはわかっているのだけど、それでも側で一緒に戦いたかった。お母さんやお父さんの時のように後悔しないように。
「そんな行きたそうにうずうずとしても駄目ですよ。ヘレネーさんには伯爵夫人として領主不在のこの領地を守って貰わないといけないのですから」
私の気持ちが顔に出ていたのか、パトリシアに釘を刺されてしまう。もうっ、わかっているわよ。確かに手紙が来た時は行きたかったけど、今はレディウスの帰る家を守るのが大切だって事くらいは。
それに、レディウスがドラゴンになんて負けるはすがないもの。どうせ、ニコニコと笑顔で帰ってくるに決まっているわ。
「ふぅ〜」
そんな話をしていると、2階からヘレナが降りて来た。マリーとルシーはヴィクトリアの方について行っているから、実質今いる侍女の中ではトップなのよね。そんな、ヘレナが疲れた表情を浮かべていた。
「お疲れ様です、ヘレナ。ケイリーはどうでしたか?」
「……はい、ケイリーは私でも他の侍女でも怯えて出て来ませんね。やっぱり、街中で殴られたりしたという時のが心の傷として残っているようで」
疲れたヘレナの言葉にみんなが溜息を吐く。レディウスが連れ帰って来たブリタリス王国の元王妃であるメリエンダさんの息子で傷だらけだったケイリー。
メリエンダさんが居るうちに目を覚ましたのだけど、街中の人々の悪意に晒されたせいか、私たちはもちろん、母親であるメリエンダさんにも怯えて会おうとしない。
偶にその時の事を思い出して暴れたりしてしまって、万が一の時のために兵士を見張りに置いておかないといけないほど。一応食事はしているみたいなのだけどね。
「心の傷ばかりは時間をかけていくしかありませんね。母親であるメリエンダさんもいませんし」
「そうね。無理に行こうとしても逆効果だものね。気長に待つしかないかぁ」
みんなでそんな話をしていると、ゴーンと鐘が鳴った。ヘレスティアを寝かしつける時間だわ。まだ、ロポと遊びたそうにしているヘレスティアだけど、ここは心を鬼にして寝かさないとね。
「それじゃあ、私はヘレスティアを寝かしてくるわ。そのまま寝ると思うから後は頼むわね」
「ええ、私ももう少ししてお風呂に入ってから休もうと思いますので。ミネルバたちも休んでくださいね」
私が立ち上がったのを皮切りにみんなもそれぞれ挨拶をして、自分の部屋などに移動する。私はあうあう言うヘレスティアを抱き上げて自分の部屋へと向かう。足元をとことこと付いてくるロポもヘレスティアに抱き枕になるために付いてくる。
自室に入って、ベッドの隣にあるヘレスティアのベッドに寝かせると、ジタバタとするヘレスティア。そこに、ぴょんぴょんと跳んで入るロポ。
ロポを見つけたヘレスティアは、ガシッと掴んでそのまま眠ってしまった。ロポもやれやれといった風にペロッとヘレスティアのおでこを舐めてから、並ぶように横になる。毎日悪いわね。いつもありがと、ロポ。
私はロポとヘレスティアを撫でてから、布団に入る。多分、夜泣きで目が覚めるからぐっすりとは眠れないだろうけど、少しでも寝なきゃね。
おやすみ、ヘレスティア、ロポ。
「……奴の娘だ。そいつを誘拐する事になっている。今この屋敷には伯爵はおらず、兵も付いて行っている。今がチャンスだろう」
「だが、屋敷にはまだ兵士が残っているから油断するなよ」
「わかっている。目標は奴の娘、ヘレスティア・アルノードだ。奴を屋敷より誘拐するのが目標だ」
◇◇◇
「……はぁ、早く帰ってこないかしら。ねぇー、ヘレスティア」
「だうっ?」
私は可愛い可愛い大切な娘であるヘレスティアの頭を優しく撫でながら呟く。側では遊び相手になってあげようとロポがいて、ロポに手を伸ばそうとするけど、私が抱きかかえているので、手は届かない。目を離すとすぐにロポの手を噛もうとするんだから、この子は。
「ヴィクトリアからの手紙にはトルネス王国へ援軍に行くと書いてましたからね。早くても1ヶ月はかかってしまいます」
私の前に座るパトリシアがヴィクトリアから送られて来た手紙を机に置いて、耳をぴこぴことさせながらそう言ってくる。
手紙が届いたのは3日前だから、逆算して1週間は前に書かれたものでしょう。そうなると、レディウスは今頃トルネス王国にいるのでしょうね。はぁ、直ぐに帰ってくると思ったのに。
「しかし、ドラゴンとは驚きですね。ワイバーンなら見た事があるのですが」
「ええ、しかもアンデッドのドラゴンなんて殆ど伝説のようなものです。まさか、そんなものが現れるなんて」
手紙の内容を知っているミネルバが驚きの声を上げて、パトリシアがそれに繋ぐように答える。そう、そこが問題なのよね。
ドラゴン。強かった私のお父さんとお母さんを殺した忌々しい魔獣。そのアンデッド相手にレディウスが向かうっていうのを聞いて、私は思わず取り乱してしまったもの。
パトリシアに諭されて今は屋敷にいるけど、本音を言えば物凄く助けに行きたい。私が1人行ったところで役には立たないのはわかっているのだけど、それでも側で一緒に戦いたかった。お母さんやお父さんの時のように後悔しないように。
「そんな行きたそうにうずうずとしても駄目ですよ。ヘレネーさんには伯爵夫人として領主不在のこの領地を守って貰わないといけないのですから」
私の気持ちが顔に出ていたのか、パトリシアに釘を刺されてしまう。もうっ、わかっているわよ。確かに手紙が来た時は行きたかったけど、今はレディウスの帰る家を守るのが大切だって事くらいは。
それに、レディウスがドラゴンになんて負けるはすがないもの。どうせ、ニコニコと笑顔で帰ってくるに決まっているわ。
「ふぅ〜」
そんな話をしていると、2階からヘレナが降りて来た。マリーとルシーはヴィクトリアの方について行っているから、実質今いる侍女の中ではトップなのよね。そんな、ヘレナが疲れた表情を浮かべていた。
「お疲れ様です、ヘレナ。ケイリーはどうでしたか?」
「……はい、ケイリーは私でも他の侍女でも怯えて出て来ませんね。やっぱり、街中で殴られたりしたという時のが心の傷として残っているようで」
疲れたヘレナの言葉にみんなが溜息を吐く。レディウスが連れ帰って来たブリタリス王国の元王妃であるメリエンダさんの息子で傷だらけだったケイリー。
メリエンダさんが居るうちに目を覚ましたのだけど、街中の人々の悪意に晒されたせいか、私たちはもちろん、母親であるメリエンダさんにも怯えて会おうとしない。
偶にその時の事を思い出して暴れたりしてしまって、万が一の時のために兵士を見張りに置いておかないといけないほど。一応食事はしているみたいなのだけどね。
「心の傷ばかりは時間をかけていくしかありませんね。母親であるメリエンダさんもいませんし」
「そうね。無理に行こうとしても逆効果だものね。気長に待つしかないかぁ」
みんなでそんな話をしていると、ゴーンと鐘が鳴った。ヘレスティアを寝かしつける時間だわ。まだ、ロポと遊びたそうにしているヘレスティアだけど、ここは心を鬼にして寝かさないとね。
「それじゃあ、私はヘレスティアを寝かしてくるわ。そのまま寝ると思うから後は頼むわね」
「ええ、私ももう少ししてお風呂に入ってから休もうと思いますので。ミネルバたちも休んでくださいね」
私が立ち上がったのを皮切りにみんなもそれぞれ挨拶をして、自分の部屋などに移動する。私はあうあう言うヘレスティアを抱き上げて自分の部屋へと向かう。足元をとことこと付いてくるロポもヘレスティアに抱き枕になるために付いてくる。
自室に入って、ベッドの隣にあるヘレスティアのベッドに寝かせると、ジタバタとするヘレスティア。そこに、ぴょんぴょんと跳んで入るロポ。
ロポを見つけたヘレスティアは、ガシッと掴んでそのまま眠ってしまった。ロポもやれやれといった風にペロッとヘレスティアのおでこを舐めてから、並ぶように横になる。毎日悪いわね。いつもありがと、ロポ。
私はロポとヘレスティアを撫でてから、布団に入る。多分、夜泣きで目が覚めるからぐっすりとは眠れないだろうけど、少しでも寝なきゃね。
おやすみ、ヘレスティア、ロポ。
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