黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

241話 死竜討伐戦(3)

「レディウス様!」


「馬鹿野郎、危ねえだろ、ロナ!」


 外壁の上からそんな声が聞こえてくる。大方、ロナが外壁から飛び降りようとしたのだろう。俺のためにと思えば嬉しいのだが、あまり危ない事はしないで欲しいな。まあ、ロナからしたら俺が危ない事をするなって感じなのだろうけど。


 ロナの事が少し気にはなるが、今はそれどころではない。目の前には濁った目で俺を睨んでくる死竜が、威嚇をしてきているからな。


「ギィガァァァアア!!!」


 俺を威嚇していた死竜が真っ直ぐ俺に突っ込んできた。頭から外壁に突っ込む死竜。俺は横に飛んで避けるが、死竜が外壁にぶつかった衝撃で、軽く吹き飛ばされる。外壁の上からも悲鳴が聞こえて来た。


 外壁はひび割れて死竜が突っ込んだところは崩れていた。結構な厚さがあるはずだが、死竜クラスが突っ込むとそんなに持たないな。


 それに、アンデッド特有の痛覚がない為、怯む様子も無くこちらへと走ってくる。同時に死竜の体から溢れ出るドロドロとした魔力。魔闘眼を使わなくても見える程の魔力が死竜の爪や翼へと流れていく。


「バリスタ、ってぇ!!!」


 その死竜に向けて外壁上にいる兵士が大声で指示を出す。その指示と同時に放たれたバリスタ。しかし、予想通りというか……死竜の鱗に弾かれてしまった。ワイバーンレベルなら刺さるはずなんだがな。


 ただ、死竜はくらわないといっても煩わしいのか、翼をはためかせバリスタのある外壁上へと飛ぶ。そして、バリスタがある場所へと降り立った。


 降り立ったといったがそんな優しいものじゃない。死竜が降りた場所は奴の重さに耐えきれずに押し潰されてしまった。当然バリスタもだ。


 そして、外壁上で暴れる死竜。近くにいた兵士たちは、爪で切り裂かれ、踏み潰され、尻尾で外壁から吹き飛ばされ、あっという間に混乱状態へと陥ってしまった。


 そして、厄介なのが奴の瘴気に触れた死体がアンデッド化した事だ。奴の瘴気のせいでアンデッド化するのは知っていたが、まさか、こうも早いとは。


 さっきまで隣に並んでいた仲間が敵として襲ってくる恐怖に、外壁上は恐慌状態だ。その間にも近付いてくる魔獣の大群。外壁からの攻撃が減ったせいで魔獣たちの進行速度が速くなる。


 俺は魔天装を最大出力で発動して、外壁を駆ける。普通に壁登りをしても無理なので外壁に足が触れた瞬間軽く消滅させて足場を作っている。申し訳ないが、放棄する予定の壁だ。許してほしい。


 俺は無理矢理壁を駆け上がり、死竜の元へと向かう。外壁の上で暴れまくる死竜は、俺を見ると吠えて噛み付こうと大きな顎門を開けて迫って来た。


 俺は外壁に登りきった瞬間、前にかけるように飛び出す。体の上スレスレを通り過ぎる死竜の頭。体を捻りながら、下から顎目掛けてシュバルツを振り上げる。


「烈炎流、大火山!」


「グガァ!?」


 やはり、魔天装をした攻撃でようやく死竜に傷が付けられるか。それも、死竜からすれば無いのと同じぐらいの傷が。ただ、切るより衝撃で吹き飛ばす大火山で、死竜の頭を軽く仰け反らせる事が出来た。同時に死竜の体の下から俺は抜け出す。


「グゥガアッ!!」


 死竜は再び濁った目で俺を見ながら叫ぶ。すると、ドロドロとする魔力が死竜の体を巡って尻尾の方へと流れていく。


 その間にフローゼ様が兵士たちに指示を出していた。この状況は予定よりは早かったが想定内だ。死竜が稀に自ら攻めてくるのは今までの防衛戦で分かっていた事だ。


 そして、攻めてくるのは門か、外壁上に来る事も。そのため、事前に準備はしていた。死竜を狩るために。


 フローゼ様の指示と共に輝く死竜の足下。バリスタを放てばかなりの確率で潰しに来ると予想していたため、バリスタが設置されているところに準備をしていたそうだ。


 準備していたのは魔法陣。その場に特定の魔力を流せば発動するようになっている魔法陣だった。


 死竜を囲うように発動された魔法。魔法陣から光の壁が現れ死竜が閉じ込められていく。発動されたのは光魔法でシャインサンクチュアリ。


 瘴気などで汚染された場所やアンデッドたちを浄化するための結界魔法で、本来ならかなり大きな範囲を複数人で発動する魔法なのだが、今回は死竜だけに複数人が同じように発動した。


 聖なる光が篭る壁の中に閉じ込められた死竜は、流石に苦しいのか叫びながら壁を壊そうと中で暴れる。かなり強固に作られた魔法だ。そう簡単には破られない。


 その間に、外壁前にも設置しておいた魔法陣を発動させる。魔獣たちの足下が次々と爆発していく。全く警戒していなかった魔獣たちは次々と爆発に巻き込まれていく。


「魔法師部隊、更に光魔法を発動しなさい!!!」


 魔獣たちを魔法陣の罠によって怯ませている間に、この時のために温存していた光魔法が使える魔法師たちを投入。そして、魔法陣のシャインサンクチュアリに重なるように魔法を発動していく。


 光が増した壁の中、死竜は悲鳴を上げる。そして、煙を出しながら体が崩れ始めた。ただ、死竜もそのままやられるつもりは無いようだ。


 魔力を放出し、浄化の光に抗おうとする。光と闇の魔力がせめぎ合い、魔法師たちも汗を流しながら歯を食いしばり耐える。


 次第に死竜はその場に伏せて、段々と弱っていった。これはこのままいけるぞ! と、誰もがそう思わせるほど弱っていたのだ。ただ、俺の目には奴の口に集まる魔力を見逃さなかった。そして、その放たれる方向も。


 俺はすぐさま死竜が向く方向にいる人物、フローゼ様の元へと走る。死竜といっても元は上位の竜だ。死んでも知能は残っていたのだろう。誰を殺せば有利になるかというのを。


 俺はこちらを見て驚いているフローゼ様を突き飛ばして、死竜の方へと向く。その瞬間、死竜の口から放たれたのは竜の必殺技とも言えるブレスだった。それも、ロックドラゴンなどとは比べ物にならない威力を持った。


 死竜のブレスの直線上にいた兵士たちは跡も残らず消し飛ばされて、威力が弱まる事なくこちらへと放たれた。


 俺は限界まで魔天装に魔力を注ぎ込み、ブレスに向かって斬撃を放つ。消滅の力を込めた斬撃は、死竜のブレスと拮抗するが、次第に押されていく。


 このままでは俺が消し飛ばされる。そう思った瞬間、何処からともなく火の球がいくつも飛んで来てブレスに当たり始めた。しかも、1発1発にかなりの魔力が込められた火球だ。


 まるで小さくなった太陽かと思わせるほどの火球がいくつもブレスに当たったおかげで、死竜も限界が来たようでブレスが消えていった。


 ただ、魔法陣は壊れて死竜を閉じ込めていた光の壁も無くなってしまったが。俺もかなり魔力を使ってしまったので立っているのも辛く、シュバルツを杖代わりにその場に膝をつく。


 そんな俺の肩に誰かの手が乗せられた。一瞬ロナかと思ったが、同時に体の痛みが引いていった事に違うと感じた。なぜなら、今俺は魔法で治療されているのだから。


「強くなったわね、レディウス」


 そして、聞こえて来た声に振り向くとそこには、『紅蓮の魔女』……別れた姉が立っていたのだった。

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