黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

236話 退却

「目的は、町の中の兵士たちが退く時間を稼ぐ事だ! 無理する事は無いからな!」


 俺の言葉に叫ぶように返事をする兵士たち。俺はその声を背に受けながらレイディアントに魔力を流す。レイディアントの剣身を魔力で伸ばし、魔獣の大軍へと突っ込む。


 町へ攻撃する事に意識を割かれているゴブリンへとレイディアントを振り下ろす。興奮しているゴブリンは近くまで俺に気が付かず、簡単に切り飛ばせた。


 そのまま門まで行こうとするが、気が付いた魔獣たちが集まってくる。風切を放って近づかないようにするが、数が多い。


 だが、戦っているのは俺1人じゃない。後ろから次々と飛んで来る魔法。兵士たちが門への道を阻む魔獣たちに向かって魔法を放ってくれているのだ。


 前方に集中して魔法を放っているため、かなりの速さで魔獣が倒れて行く。町からも次々と魔法が飛んで来る。俺たちに気が付いたようだ。


 少しずつ減って行く魔獣たち。これなら門まで辿り着けるだろう、と思った瞬間、空からやって来る気配が。空を見上げるとやって来たのはワイバーンだった。


 鋭い鉤爪で俺を捕らえようとするが、俺は出来るだけ馬の陰に隠れて身を低くする。それと同時に迫る鉤爪へとレイディアントを振り上げ弾く。


 俺を掴めなかったワイバーンは怒り、空に昇ってから再び俺に向かって降りて来た。今度は俺を掴もうとはせずに馬ごと俺を潰すつもりのようだ。


 馬に無理矢理走らせるが、周りは倒したと言ってもまだ魔獣が多く、そこまで速度を出せない。それに疲労も溜まっているだろうし。


 兵士たちもワイバーンに向けて魔法を放つが、空を飛ぶワイバーンには中々当たらない。ちっ、ワイバーン1体に時間をかけている暇は無いっていうのに。


 再び俺へと迫るワイバーン。これは避けられないと感じた俺は、もう一振りの剣であるシュバルツを抜き、馬から飛び降りる。


 馬は俺がいなくなったから軽快に走って行く。そして、ワイバーンは馬を狙わずに俺へと向かって来た。まあ、別に馬を身代わりにしたわけじゃ無いけどな。


 俺はまあまあの速さで走っていた馬から飛び降りたため、勢いを殺すため何度か地面を転がる。直ぐに体勢を立て直し、顔を上げると目の前にはワイバーンの鉤爪が。


 ワイバーンの鉤爪の横側を狙って両剣を振るう。鉤爪へとぶつけた衝撃を使い、再び横へと飛ぶ。ワイバーンが地面へと降り立った衝撃で軽く吹き飛ばされたが、予想の範囲内だ。


 直ぐに立ち上がりワイバーンに向かって走り出す。ワイバーンは回転し長い尾を振り回して来るが、俺は姿勢を地面スレスレまで低くして避ける。運の良い事に他の魔獣たちを巻き込んでくれた。ありがとう、ワイバーン。


 ワイバーンが暴れてくれるお陰で、魔獣が近づいてこないため俺は、そのままワイバーンへと向かう。近く俺に苛立ちに唸り声を上げるワイバーンは、噛み付こうと迫って来た。これは好都合だ。


 俺はレイディアントを鞘に仕舞い、シュバルツに魔力を流す。そして纏を発動すると同時に領域を発動する。迫るワイバーンの牙を避け、振り上げたシュバルツを一気に振り下ろす。


「烈炎流、桜火!」


 抵抗を感じる事なく振り下ろしたシュバルツは、地面を叩いた。同時に地面が揺れる音が響く。ワイバーンの死体が倒れた音だ。


「アルノード伯爵様! 馬を!」


 そこに、兵士の1人がさっき走り去った馬を引いて来てくれた。それと同時にこちらへと一斉に向かって来る魔獣たち。ワイバーンがいなくなったから来たのか? と思ったが、奴らは俺じゃなくてワイバーンを見ていた。


 このままだと巻き込まれると思った俺は、他の兵士の後を追い門へと向かう。後ろを振り返ると魔獣たちは、砂糖に集まる蟻のようにワイバーンに集まり、肉を食べていた。


 ……どうしてそうなっているのかはわからないが、門の前の魔獣たちも匂いにつられてか、ワイバーンの死体の方へと向かう奴もいて、こちらとしては少し楽になった。


 門の前の魔獣が減ったからか門が開き、中から兵士が飛び出して来た。先頭には茶色の髪の女性が兵を率いて出て来て、門の前にいる魔獣を倒して行く。茶髪の女性は魔獣を倒しながらも俺の側までやって来た。


「救援ありがとうございます! 私はこの町の防衛を任されている隊長の補佐をしています、アルテナと申します。あなたは?」


「俺はアルバスト国王の命により救援に来た、レディウス・アルノードだ。レグナント殿下と共に参った」


「レディウス? どこかで聞いた事あるような……まあ良いや。時間がありませんので、早速本題に入ります! この町は放棄して退避いたしますので、付いて来てください!」


 アルテナと名乗った女性の言葉に俺は頷く。元よりそのつもりだったからな。これだけの魔獣に囲まれているのに籠るなど言われたら無理矢理でも逃がすつもりだった。


 何より、まだドラゴンが何もしてこない事が1番の問題だった。奴は、空からじっと見ているだけで町を囲まれる程なのだ。ドラゴンが本気を出せばこの町の門なんて簡単に吹き飛ばせる。その事を考えれば、あいつとやり合うにはもっと準備が必要になる。


「さあ、行きます!」


「わかった。アルバスト兵よ! これより、トルネス兵の退却の援護を行う! 魔獣どもを近づけさせるな!」


 俺の言葉に叫ぶアルバスト兵たち。俺は再び集まって来る魔獣を切りながら空を見上げる。悠然と飛び俺たちを見下ろして来るドラゴン。まずは奴を地上に引き摺り落とさなければな。

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コメント

  • リムル様と尚文様は神!!サイタマも!!

    クルトと会う??

    1
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