黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

212話 ギルドの行動

「そういえば貴族として冒険者ギルドに来るのは初めてだな」


 新たなアルノード伯爵領に着いた次の日。俺とパトリシアは早速冒険者ギルドへとやって来ていた。馬車をギルドの前に止めて俺とパトリシアは中へと入る。護衛は兵士が数人だけだ。


 街の中で堂々と領主を襲う奴はいないだろうというのと、俺とパトリシアなら大抵の相手は対応出来るからだ。


「パトリシア、嫌な視線や罵倒を受けるかもしれないが許してくれ。あまりに酷い奴らは俺がぶっ飛ばすから」


「ふふっ、構いませんよ、レディウス。それよりも、レディウスも気をつけて下さいね。元ブリタリス王国の住民たちはまだ、前アルノード領地に比べて黒髪は認められていません。あなたの方が罵倒など受けるかもしれません。まあ、あまりに酷いようでしたら私が燃やし尽くしてあげますけど」


 そう言いながら俺にウィンクをしてくるパトリシア。狐耳がぴこぴことして可愛い。もふもふしたくなる。屋敷でされたら確実にもふもふしていただろう。今が外な事が残念で仕方ない。冒険者ギルドとかどうでもいいかは帰りたい。


「なに、帰りたそうな顔をしているのですか。ほら、行きますよ!」


 パトリシアには俺の考えはお見通しのようだ。手を強く引っ張られる。ただ、そんな事を言いながらも尻尾を足に擦り付けてくるパトリシア。やっぱり可愛い。このまま家に帰……ってこれじゃあさっきと同じだ。


 よし、さっさと済ませて帰ろう。それで家に帰ったらヴィクトリアと一緒にパトリシアをもふもふするんだ!


 新たな決意を胸に俺は冒険者ギルドの扉を開ける。カランコロンと鳴る鈴の音を聞きながら俺とパトリシアは中へと入る。


 中は思っていたよりも清潔に保たれており、一仕事終えた後なのか、受付嬢たちが談笑をしていた。冒険者たちも少しいるだけだ。殆どはもう依頼を受けて行ったのだろう。


 鈴の音を聞いてこちらを見てきた受付嬢は固まって、冒険者たちは顔を顰める。俺とパトリシアはそれを無視して真っ直ぐ受付へと向かった。


「ここのギルド長を呼んでほしい。これの回答だと言えばわかるだろう」


 俺はくしゃくしゃになったギルド長の印が押された手紙を受付嬢へと渡す。この受付嬢は俺の事を知らないのか髪を見て嫌そうな顔をするけど、手紙を入れていた封筒の印を見て、ギルド長の元へと向かった。


 俺たちをジロジロと見てくる視線を無視しながら待っていると、面倒臭そうに奥から出てくる男性。師匠と同じ紫色の髪をした男性。年は30ほどか。


「あなたが、アルノード伯爵?」


「そうだ。俺がレディウス・アルノード伯爵だ。俺がここに来た理由はわかっているはずだ、ギルド長よ」


 俺がそう尋ねると、はぁ〜と本当に面倒そうに溜息をつきながら受付嬢が本来使うだろう椅子に座る。その事にムッとするパトリシア。


 耳や尻尾の毛が逆立ちギルド長を睨みつけるのは良いのだが、まだ、話し合いの段階だ。落ち着いてくれ。


「さぁ? どういうご用件かわかりませんね。それに……」


 ギルドのが何かを言おうとしたその時、背後から殺気が飛んでくる。パトリシアも気が付いていたが、俺が引っ張るのに対抗せず体を預けてくれて、俺はパトリシアを抱き締めながら、その元を掴む。


 俺が掴んだのは針のように先の尖った細いものだ。俺もあまり詳しくはないが、暗器などと言われている暗殺者が使うようなものだろう。


 そして俺たちを囲む冒険者たち。それぞれ自身の武器を構えて俺たちを睨んでいた。


「これはどういう事だ、ギルド長。領主である俺にこんな事をして良いとでも?」


「大丈夫ですよ。だって、今からあなた方は魔獣に襲われて死ぬのです」


 ギルド長がそう言った瞬間魔法が発動される。そして、変わる視界。ギルドにいた殆どの人数を転移させる事が出来るのか。見た目からは想像のつかない実力か。


 俺たちが転移して来たのはどこかの森だった。まあ、あの領地の近くで魔獣が現れるというのは1ヶ所しかないが。


「我々の利益にならないあなた方は、まあ、邪魔なのですよ。なに、国にはバレる事はありません。この大平原の側では少なくない事です。現に、あなた方も襲われたはずですよ」


 ギルド長の言葉とどうに聞こえてくる翼が羽ばたく音。なるほどな。空を旋回するハーピーたちを見て合点がいった。あの襲撃も初めから俺たちを殺そうとする冒険者ギルドの行いだったのか。


「国の方には我々では討伐出来ない魔獣の討伐を依頼して、帰って来なくなったと伝えておきましょう。やれ」


 冒険者たちに囲まれる中、ハーピーたちが襲ってくる。中にはあのボスのハーピーも混ざっていた。ギルド長がボスのハーピーを操って、ハーピーたちはボスの指示に従っているようだ。


「レディウス!」


「ああ、手加減無しだ!」


 俺はシュバルツを抜き手加減無しに魔力を注ぐ。体を纏う闇属性や魔力。迫るハーピーたちに向かって纏った魔力を放つ!


 シュバルツから流れて来た闇属性の魔力をハーピーたちへと放つ。ハーピーたちは魔力に触れた瞬間触れた箇所が消滅していく。俺の周りに次々と積まれていくハーピーの死体。


「本当は話し合いで済ませたかったが、こんな事されては俺も手加減出来ない。覚悟して貰うぞ」


 周りを囲む冒険者たちに俺は殺気を放つ。少し怯むが腐っても冒険者。より強く睨み返して来た。


「や、奴を殺すのです! 殺した者は全員ランクを上げ、金をやります! さあ、奴を殺すのです!」


 唾を飛ばしながら叫ぶギルド長。全く……本当に面倒な事ばかり起きるな。

コメント

  • リムル様と尚文様は神!!サイタマも!!

    クズだな

    2
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