黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

209話 行程の途中で

「……ヘレスティア〜……セシル〜……」


「……もう、町を出て1週間にもなるのに」


「仕方ありませんよ、パトリシアお姉様。レディウスは子供たちの事を大切にしてくれていますからね。ふふっ、子煩悩なレディウス、可愛いです」


「全く。人前ではそんな情けない姿を見せるんじゃないよ、レディウス」


 愛する天使たちと別れて1週間が経った頃。俺は天使たちに会えない寂しさに嘆いでいた。初めの2日ほどは頭の中に浮かぶ2人の姿を思い出して耐えていたのだが、3日目以降からあの子たちに会えなくて寂しくなって来たのだ。


 それに、ヘレスティアやセシルが俺から離れて寂しくしていないか、俺のいないところで怪我をしていないか、初めての言葉がパパじゃなくてロポと言ってないか、と思うと不安で不安で。


 特に最後の初めの言葉がパパじゃなくてロポだったと思うと……。ママとかならまだ許せるけど、ロポだったらあいつを挽肉にしてやる。


 そんな事を考えながら落ち込んだ結果が、目の前にいるみんなだ。ヴィクトリアは可愛いと俺の頭を撫でてくれて、パトリシアは呆れたように見てくる。何より、師匠が若干キレているのが怖い。


 若干殺気も放ってくる師匠に、俺は少しビビって佇まいを直す。そんな姿を見た師匠は、呆れたように俺を見てから、ヴィクトリアを見る。師匠の鋭い視線にヴィクトリアはビクッと震えた。ついでに大きな胸も震えた。


 セシルを妊娠してから前よりも大きくなったと言っていたな、そういえば。それに胸が張るとも。子どもたちが寝静まった後、時折どちらかが吸……げふんげふん! まあ、色々あった。


「ヴィクトリアもヴィクトリアだよ。こんな情けない姿を見せる旦那を戒めるのが妻の仕事だ。貴族の生まれならわかっているだろう?」


「……すみません」


 師匠に怒られてしゅんとするヴィクトリア。その10倍近くの怒声が俺に降ってきたが。ここは何も言わずに甘んじて受けよう。


 頭を下げて謝り続ける事30分。ようやくお許しを貰えた俺は、これから向かう領地の事を話す。これから向かう領地は、元ブリタリス王国の南西、アルバスト王国に近く、それよりも、大平原に近い領地、そこが俺の新しいアルノード伯爵領となる。


 ここは大平原に近い関係上、強力な魔獣も多く出るらしく、他の領地に比べて治安も悪いらしい。理由は、冒険者の地位が他の領地に比べて高いからだ。


 魔獣からの守りが領主の兵士だけで足りずに、冒険者がその仕事を殆ど担っているため、どうしても冒険者の地位が高くなる。普通の貴族からしたら、自分の言う事を聞かない冒険者は忌々しいものだろう。


 だから、陛下は俺を個々の領主に任命したのだと思う。俺は冒険者をやっていた事もあって少し知っているし、元はといえば平民だ。貴族らしい貴族だと反発も出るだろうと考えているのかもしれない。


「グリムドは先に向かっているのですよね?」


「ああ、元々アルノード領の兵士を500人、獣人部隊が110人、それから陛下が送ってくれた兵士が1千人になる。それらを率いて先に領地に向かっているよ」


「なるほど。しかし、大平原が近い領地ですか。私が王女の時に何度かそういう領地に行った事があるけど、やっぱり、冒険者の力が強かったわね」


 パトリシアの話では、冒険者を甘く見ていた領主の土地にゴブリンが巣を作ったらしいのだが、当然冒険者はそんなところで働きたくないと別の領地に行ってしまったため、領主が気が付き討伐に向かった頃には、手をつけられないほどまでになってしまった事もあるらしい。


 それほど、こういう土地では冒険者の協力が必要不可欠なのだとか。なるほどな、と思う反面


「あまり、冒険者に頼り過ぎるのは駄目だし、ギルドの言いなりになるのも駄目だよ。ある程度の協力関係を保つのが良いのさ」


 と、師匠の言葉にも納得できる。下手に出る必要も無いが、上過ぎるのも駄目ってか。中々難しいものだ。前の領地は元々冒険者の力が強くなかったため、特に問題が起きる事は無かったが、新しい領地はそういうのも考えないといけないのか。クリスチャンに丸投げじゃあ駄目かな?……駄目だろうな。


 そう考えていると、突然馬車が止まった。もう既に俺の領地には入っており、後2、3日ってところでだ。一体何が? そう思っていると、扉が叩かれる。扉を開けると兵士が立っていた。


「何かあったのか?」


「はっ、近くの森から魔獣が現れまして、その対処を行なっているところです。しばらくお待ち下さい」


 兵士はそう言い離れていった。俺たちについてきた兵士は100人程度。この人数いれば、普通の魔獣であれば問題が無いと思うが。


「まあ、普通の魔獣なわけがないね。兵士は100人が外を歩いているんだ。ゴブリンやオークはビビって出てこない。なのに、現れたって事は……」


「かなり強力な魔獣か、こちら以上の数で現れたかだろう」


 気になった俺は馬車から降りる。それに続いてみんなも降りてきた。いや、みんなは中に入っていて欲しいんだけど……駄目なようだ。まあ、師匠がいるしパトリシアも戦えるから大丈夫か。ヴィクトリアだけ守るように意識しよう。


 馬車から降りて戦闘音のする方を見ると、そこでは兵士たちと空を飛ぶ人型の魔獣と戦っていた。あれは獣人とかでは無くれっきとした魔獣であり、確かハーピーだったか。


 女の姿をした魔獣で、男を狙って人を襲うらしい。そして連れ去られた男は巣に連れていかれてから、種馬として扱われて、最終的には肉として食われるのだとか。


 俺たちが狙われたのは男が多いからか。数は300羽近くいる。また、面倒な。

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