黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

208話 勅命

「セシル〜、お爺ちゃんだぞ〜」


 生まれたばかりの俺とヴィクトリアの子供であるセシルを抱きかかえて、俺たちに見せた事の無い目尻の下がった表情を見せる男性。


 この人の普段の表情を知っている人なら、誰もが「誰だっ!?」となるほど、驚きの表情を浮かべている。俺自身、あまりにも見た事の無い表情で戸惑っている部分があるのだから。


「……凄いデレデレとした表情を見せているな……セプテンバーム公爵」


「ふふっ、それほど孫が出来たのが嬉しいのでしょうね。私自身、あのような表情を見るのは初めてですよ」


 俺の隣に立つヴィクトリアも初めて見る表情のようだ。


 俺とヘレネーの子供、ヘレスティアが生まれて2ヶ月、俺とヴィクトリアの子供、セシルが生まれてから1ヶ月が経った頃、我が屋敷に生まれた孫を見ようと、セプテンバーム公爵と公爵夫人がやって来たのだ。


 公爵夫人はヘレスティアを抱きかかえ、セプテンバーム公爵はセシルを抱きかかえて、頰を綻ばせていた。夫人の隣にはヘレネーが女の子の育て方について色々と教えてもらっているようで、ヘレネーも真剣にその話を聞いている。


 体調を崩していたヴィクトリアも出産から1週間が立つ頃には、大分回復していた。気が付けば数日間運動していなかったため、お腹の周りにお肉がついたと、ヘレネーと一緒にダイエットをしていたからな。


 見た限りは出産前と体型は変わっていないのだが、本人達にしかわからない事があるのだろう。


 しばらくセシルを抱いていたセプテンバーム公爵だが、満足したのか、セシルを子供用のベッドへと寝かせる。セシルはベッドに寝転ぶと直ぐに眠ってしまった。


「やはり、ヴィクトリアの子供は母親に似て可愛いな」


「も、もうっ! そんな恥ずかしい事を言わないで下さい!」


「何を言っているんだよ、ヴィクトリア。セプテンバーム公爵の言っている事は正しいぞ」


「レ、レディウスまで!」


 恥ずかしそうに顔を赤く染めるヴィクトリアも可愛い。そんなヴィクトリアを見ていたら、セプテンバーム公爵が真剣な表情で俺を呼ぶ。さっきまでデレデレだった公爵からは想像のつかない顔だ。


「どうされたので、セプテンバーム公爵?」


「うむ。今日ここに来た理由なのだが、孫を見に来た他にも、陛下からの伝言があるのだ」


「陛下からですか?」


「ああ。陛下にもヘレスティアやセシルが生まれた事は伝わっている。そのため……」


「無事に生まれたから、そろそろ新たな領地に向かって欲しいというわけですね」


 俺の言葉に頷くセプテンバーム公爵。これは仕方がないな。本来であれば直ぐに行かないところを、生まれるまで待ってもらったのだ。あの事件があったから、何か文句を言えば通りそうだけど、今は陛下も俺の義父になる。あまり困らせたくはない。


「ただ、それは……」


「ああ、子供たちは連れて行かぬだろう。生まれてまだ数ヶ月も経っていない。今すぐに出発というわけではないが、それでも赤ん坊に馬車の長旅は厳しい。ここから2週間近くはかかってしまうからな」


 くっ、ここで別れたら、ヘレスティアたちが長旅に耐えられるようになるために1年、長くても2年はかかるだろう。ううっ、つ、辛い、辛すぎる。1人で苦虫を潰したような表情をしていると


「なら、私が連れて行ってやるよ」


 と、とても頼もしい声が聞こえて来た。扉の方を向くと、ロナが師匠を連れて来たのだ。そうか! 師匠の転移があれば赤ん坊でも連れて行く事が出来るのか!


「おお、あなた様は」


「久しぶりだねぇ、セプテンバームの坊や。前に結婚式の時に会って以来か」


「そうですな。しかし、赤ん坊でも転移は大丈夫なので? 体に異常が起きたりは?」


「私の経験上は1度も無かったね。自分の子供やヘレネーも赤ん坊の時に転移させたけど、何も無かったよ。まあ、最低首が座ってからの方が安心は出来るけど」


 首が座ってからか。産婆が言うには早くてヘレスティアがもうすぐ、長くても後2ヶ月近くで首は座るものだという。個人差はあるようだけど。


 やっぱり半年近くは会えないようだけど、まあ、その間領地を治めるのに力を入れよう。子供たちが来た時に没頭出来るように。


「ただ、私もどこに転移させればいいかわからないから、初めはレディウスについて行くよ」


「勿論構いませんよ。ぜひよろしくお願いします! それで、セプテンバーム公爵。いつ出れば良いのでしょうか?」


「ああ、予定では半年後終戦1周年になる。その際にアルノード伯爵領で陛下が式典を行いたいそうだ。勿論、物資の準備などは王宮側でするのだが、それまでに領土内を安定させて貰いたいのだ。だから、長くても1ヶ月以内には出発して貰いたい」


 ……中々厳しい事をおっしゃられる。でも、やるしかないな。


「わかりました。陛下の命、承りました」


「ああ。申し訳ないが頼むぞ。何、レディウスがいない間は我が兵士をこの領地に置いてやろう。子供たちを守るためだ」


 いや、それは気持ちだけで有難いです。あまりやり過ぎると、ガウェインもやりづらいだろうし。


 それから、俺はみんなを集めて会議を行った。まずは俺と共について行く者たちだが、俺の他に、夫人としてヴィクトリア、パトリシアが付いて来て、ヘレネーとロナはこの領地で子供たちと時期が来るまでお留守番になった。


 残る側の護衛や身の回りの世話係で、護衛にミネルバにフラン、世話係にヘレナとルシーが残ってくれる。ガウェインも協力してくれるので安心して任せられる。


 新しい領地に行くメンバーは俺たちの他にグリムド、クリスチャン、マリーなどが来てくれる。


 引き継ぎは殆ど終わっているため、行こうと思えばいつでも行けるのだが、自分から子供たちと触れ合える時間をわざわざ短くする必要もない。行かないと行け無くなる時まで目一杯触れ合ってやる!

コメント

  • リムル様と尚文様は神!!サイタマも!!

    これであの王子(仮)来たら絶対クズだから子供を人質にするな

    1
  • ペンギン

    パトリシアって...夫人なの...?

    1
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