黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
198話 最悪な訪問
「うーーーー」
「うるさいですよ、ヘレネー」
私は机の上に綺麗な顎を置いて唸っているヘレネーに注意します。先程からずっと唸っていて気が散ります。
「だって、つまらないんだもん。レディウスも1週間しかいなくて、すぐに王都に出ちゃったんだから」
「仕方ありませんよ。パトリシアお姉様の事を考えればら早く連れて来てあげた方が良いに決まっていますからね」
「それはわかっているんだけど……さみしいよー」
そう言いながら机の上をパチパチと叩くヘレネー。まあ、ヘレネーの気持ちもわかります。半年振りにやっと帰って来たレディウスと再び離れ離れになってしまうのですから。
まだ、離れて3日しか経っていませんが、正直に言うと私もとっても寂しいです。もっとレディウスと引っ付きたいです。しかし、ここは妻として我儘を言うべきではありませんしね。パトリシアお姉様を迎えに行って帰って来た後は、子供が産まれるまで一緒にいてくれると言ってくれましたし。それまでは我慢です。
頭の中でレディウスとどのように過ごそうか考えていると、ヘレネーがじーっと私を見て来ます。正確に言えば私の手元ですが。
「ヴィクトリアは本当に器用よね。編み物なんて上手くできないわ」
「ふふっ、こういうのは慣れですよ。私も初めは出来ませんでした。教えてもらいながらようやくです」
私はそのまま視線を外す事なく手元の編み物を見ます。今わたしが作っているのは赤ちゃん用の帽子です。少し早い気がしますし、男の子か女の子かもわからないのですが、それでも、じっとはしていられなかったので、ご近所の奥様から教えて頂きました。
今でこそ形になっていますが、始めの頃はただの糸の集まりでしたからね。あれは自分でも無いと思いましたよ。
それからしばらくは黙々と私は編み続けました。ヘレネーは暇だと言いながらも私の編む様子をじっと見ています。物凄く穏やかな時間。ここにレディウスがいればもっと良かったのですが。
しかし、そんな時間も終わりが近づいていました。その原因は廊下を走る音です。私とヘレネーがいる部屋に近付いてくる足音。私が気づくのですから、当然ヘレネーも気が付きます。
バタバタと走って来て勢い良く開けられる扉。部屋に入って来たのはルシーでした。息を荒げながら部屋に入ってくる様子を見て、怒ろうと思っていた私の気持ちが疑問へと変わっていく。
「……何かあったのですか?」
「はぁ……はぁ……お、お嬢様、た、大変です!」
「だから何があったのですか?」
「ううう……う、ウィリアムお、王子が、お嬢様にお会いに来たのです!!」
何度も噛みながらも要件を言うルシーの言葉に私は固まってしまいました。何も言えずに固まっていると
「今、マリーさんが止めて下さっていますが、どうしますか?」
私の中で様々な事がぐるぐると回っています。どうしてここに来たのか、今更何の用なのか。考える事は色々とありますが、会わないわけにはいかないでしょう。
「わかりました。応接室に向かいますので、そちらに案内して下さい」
「……大丈夫なの、ヴィクトリア。なんなら、私も立ち会いましょうか?」
私の事を心配してくれるヘレネー。私はクスッと笑いながら首を横に振ります。普段は何だかんだ言い合う仲ですが、こういう時は心配してくれる大切な家族です。
「大丈夫ですよ。ただ、話をするだけですから」
「……それならいいのだけど。何かあったらすぐに叫ぶのよ? 外にグリムドとミネルバを待機させておくから」
「心配し過ぎですよ」
ヘレネーの言葉に思わず苦笑いしてしまいます。そこまでしなくても大丈夫ですよ。私はまだ途中の編み物を糸と一緒に籠に入れて椅子の上に置きます。
心配そうに私を見るヘレネーに大丈夫という意味を込めて頷き部屋を出ます。正直に言いますと怖いと思う事はありますが、私はアルノード伯爵夫人。あの人に恥じないように堂々とします。
応接室の前には、また、不安そうな表情を浮かべたマリーと、グリムドが立っていました。私は2人に微笑み、扉を叩きます。中から懐かしい声が聞こえて来ました。昔は彼の声に一喜一憂していたのですが、今は何も感じませんね。
返事に従い中へと入ると、中にはいつもの3人が座っていました。私は無言のままウィリアム王子の前の席まで向かいます。何故か睨んでくるウィリアム王子ですが、無視して行きましょう。
「遅くなりました、ウィリアム王子」
「ふん、私をほんの少しでも待たせるとな。王子である私が来たのだから走ってでも来るべきだろ?」
……突然何を言いだすのですか、この人は。グラモアとフェリエンスも、驚いた表情を浮かべていますよ。ですが、それを指摘すると、また、面倒な事を言われるのがわかっています。嫌ですが、ここは素直に謝っておきましょう。はぁ、赤ちゃんに悪いですね。
「遅れて申し訳ございません」
「わかればいいんだよ。それで、私が……」
「ウィリアム、ヴィクトリアは妊婦です。まずは椅子に座らせてあげるべきです」
フェリエンスの言葉に嫌々そうに座るように指示を出すウィリアム王子。どうして私はこの人のために今まで尽くして来たのでしょうか? 不思議で仕方ありませんね。
私は体がしんどく無いようにゆっくりと座ります。それすらも待てないウィリアム王子は、コツコツコツと机を指先で叩きます。ブツブツと私を待たせて、など言っていますが聞こえていますよ。
「それで、ご用件は何でしょうか?」
「……何だよ、その態度は。昔の婚約者が会いに来たというのに」
……何を今更。どの口が言っているのですか。皆の前で私との婚約を解消しておきながら。少しイライラとする気持ちを何とか抑えて、王子を見ます。
「要件が無いのであれば、私は休ませてもらいます」
「ちっ、本当はお前に頼みたくは無いのだが、私に金を貸せ」
……この人は何を言っているのですか? 突然やって来て、何を言うのかと思えば、自ら振った相手に金を貸して欲しいと? 全く意味がわかりません。しかも、どうして頼む側なのに上からなのでしょう?
「我が家にはお貸しするお金はありません。何に使うかはわかりませんが、私たちを訪ねる前に、陛下には尋ねたのですか?」
「……父上には言えん。だが、これは国のためだ。ここで覚えをよくしておいた方が、私が国王になった時に助かると思うがな」
「貸せません」
「……何?」
「何に使うかも不明なのに、帰って来るかもわからないのに、お金をお貸しする事は出来ません。お引き取りを」
私が真っ直ぐと王子を見据えて答えると、王子は少したじろぎますが、再び私を睨んで来ます。しばらく睨み合っていると、王子が私のお腹を見て鼻で笑って来ました。
「そういえば、お前の腹の中には下賎な男の子供がいるのだったな。やはり、お前との婚約をやめておいてよかった。あのような黒髪の汚らわしい男とまぐわう事が出来る女だったのだからな。どうせ生まれてくる子供も、父親の血を引いて下賎な者が生まれるに決まっている」
そう言って笑う王子。2人は流石に言い過ぎだと、王子を止めようとしますが、更に王子はレディウスの事を悪く罵って来ます。
私はその言葉を聞いて我慢をやめました。私に対する事なら幾らでも我慢出来ました。しかし、私の愛するレディウス、更にはまだ生まれてきてもいない名もない愛しの子に対しても、酷い言い様。もう私には我慢する事なんて出来ませんでした。
私は立ち上がり王子の前まで行きます。王子は睨みつけてきますが、私はそのまま右手を振りかざし、王子の顔へと振り下ろしました。パチンッと響く音。そして
「下賎なのはどちらですか! 私だけならまだしも、レディウスやまだお腹の中にいる子供まで罵って。それでも、将来の王ですか!? その考えをこれからも続けるというのなら、あなたに王の資格はありません!!」
私は我慢が出来ずに怒鳴ってしまいました。それと同時にガチャっという音と、再びパチンッとなる音どドンと走る衝撃。音が聞こえた時には私は机の倒れ込んでいました。頰が次第に熱くなる感覚と、お腹にくるズキズキとした痛み。
「私に王の資格が無いだと! ふざけるなよ、ヴィクトリア! この……くっ、離せ、フェリエンス、グラモア! この女を! この女をぉぉっ!」
「落ち着け、ウィリアム! いくら腹が立ったからといって、女を、しかも妊婦を叩く奴があるか!?」
「そうです! あなたたち! ウィリアムをこの部屋から出すのを手伝ってください!」
ドタバタと走り回る音と怒鳴る声。耳には聞こえてくるのですが頭には全く入ってきません。それよりも、そんな事より、お腹が痛いです。今までに無い痛みがお腹から全身に走ってきます。
「全く、何なのよあいつは。ヴィクトリア、大丈夫かしら……ヴィクトリア?」
イライラとした声を出すヘレネーが声をかけてくれますが、私は反応が出来ませんでした。ズキズキとお腹に伝わる痛みで涙が止まらずに動けないのです。
私の様子に気が付いたヘレネーが叫んでいますが、私はあまりの痛みに、そのまま、気を失ってしまいました。
「うるさいですよ、ヘレネー」
私は机の上に綺麗な顎を置いて唸っているヘレネーに注意します。先程からずっと唸っていて気が散ります。
「だって、つまらないんだもん。レディウスも1週間しかいなくて、すぐに王都に出ちゃったんだから」
「仕方ありませんよ。パトリシアお姉様の事を考えればら早く連れて来てあげた方が良いに決まっていますからね」
「それはわかっているんだけど……さみしいよー」
そう言いながら机の上をパチパチと叩くヘレネー。まあ、ヘレネーの気持ちもわかります。半年振りにやっと帰って来たレディウスと再び離れ離れになってしまうのですから。
まだ、離れて3日しか経っていませんが、正直に言うと私もとっても寂しいです。もっとレディウスと引っ付きたいです。しかし、ここは妻として我儘を言うべきではありませんしね。パトリシアお姉様を迎えに行って帰って来た後は、子供が産まれるまで一緒にいてくれると言ってくれましたし。それまでは我慢です。
頭の中でレディウスとどのように過ごそうか考えていると、ヘレネーがじーっと私を見て来ます。正確に言えば私の手元ですが。
「ヴィクトリアは本当に器用よね。編み物なんて上手くできないわ」
「ふふっ、こういうのは慣れですよ。私も初めは出来ませんでした。教えてもらいながらようやくです」
私はそのまま視線を外す事なく手元の編み物を見ます。今わたしが作っているのは赤ちゃん用の帽子です。少し早い気がしますし、男の子か女の子かもわからないのですが、それでも、じっとはしていられなかったので、ご近所の奥様から教えて頂きました。
今でこそ形になっていますが、始めの頃はただの糸の集まりでしたからね。あれは自分でも無いと思いましたよ。
それからしばらくは黙々と私は編み続けました。ヘレネーは暇だと言いながらも私の編む様子をじっと見ています。物凄く穏やかな時間。ここにレディウスがいればもっと良かったのですが。
しかし、そんな時間も終わりが近づいていました。その原因は廊下を走る音です。私とヘレネーがいる部屋に近付いてくる足音。私が気づくのですから、当然ヘレネーも気が付きます。
バタバタと走って来て勢い良く開けられる扉。部屋に入って来たのはルシーでした。息を荒げながら部屋に入ってくる様子を見て、怒ろうと思っていた私の気持ちが疑問へと変わっていく。
「……何かあったのですか?」
「はぁ……はぁ……お、お嬢様、た、大変です!」
「だから何があったのですか?」
「ううう……う、ウィリアムお、王子が、お嬢様にお会いに来たのです!!」
何度も噛みながらも要件を言うルシーの言葉に私は固まってしまいました。何も言えずに固まっていると
「今、マリーさんが止めて下さっていますが、どうしますか?」
私の中で様々な事がぐるぐると回っています。どうしてここに来たのか、今更何の用なのか。考える事は色々とありますが、会わないわけにはいかないでしょう。
「わかりました。応接室に向かいますので、そちらに案内して下さい」
「……大丈夫なの、ヴィクトリア。なんなら、私も立ち会いましょうか?」
私の事を心配してくれるヘレネー。私はクスッと笑いながら首を横に振ります。普段は何だかんだ言い合う仲ですが、こういう時は心配してくれる大切な家族です。
「大丈夫ですよ。ただ、話をするだけですから」
「……それならいいのだけど。何かあったらすぐに叫ぶのよ? 外にグリムドとミネルバを待機させておくから」
「心配し過ぎですよ」
ヘレネーの言葉に思わず苦笑いしてしまいます。そこまでしなくても大丈夫ですよ。私はまだ途中の編み物を糸と一緒に籠に入れて椅子の上に置きます。
心配そうに私を見るヘレネーに大丈夫という意味を込めて頷き部屋を出ます。正直に言いますと怖いと思う事はありますが、私はアルノード伯爵夫人。あの人に恥じないように堂々とします。
応接室の前には、また、不安そうな表情を浮かべたマリーと、グリムドが立っていました。私は2人に微笑み、扉を叩きます。中から懐かしい声が聞こえて来ました。昔は彼の声に一喜一憂していたのですが、今は何も感じませんね。
返事に従い中へと入ると、中にはいつもの3人が座っていました。私は無言のままウィリアム王子の前の席まで向かいます。何故か睨んでくるウィリアム王子ですが、無視して行きましょう。
「遅くなりました、ウィリアム王子」
「ふん、私をほんの少しでも待たせるとな。王子である私が来たのだから走ってでも来るべきだろ?」
……突然何を言いだすのですか、この人は。グラモアとフェリエンスも、驚いた表情を浮かべていますよ。ですが、それを指摘すると、また、面倒な事を言われるのがわかっています。嫌ですが、ここは素直に謝っておきましょう。はぁ、赤ちゃんに悪いですね。
「遅れて申し訳ございません」
「わかればいいんだよ。それで、私が……」
「ウィリアム、ヴィクトリアは妊婦です。まずは椅子に座らせてあげるべきです」
フェリエンスの言葉に嫌々そうに座るように指示を出すウィリアム王子。どうして私はこの人のために今まで尽くして来たのでしょうか? 不思議で仕方ありませんね。
私は体がしんどく無いようにゆっくりと座ります。それすらも待てないウィリアム王子は、コツコツコツと机を指先で叩きます。ブツブツと私を待たせて、など言っていますが聞こえていますよ。
「それで、ご用件は何でしょうか?」
「……何だよ、その態度は。昔の婚約者が会いに来たというのに」
……何を今更。どの口が言っているのですか。皆の前で私との婚約を解消しておきながら。少しイライラとする気持ちを何とか抑えて、王子を見ます。
「要件が無いのであれば、私は休ませてもらいます」
「ちっ、本当はお前に頼みたくは無いのだが、私に金を貸せ」
……この人は何を言っているのですか? 突然やって来て、何を言うのかと思えば、自ら振った相手に金を貸して欲しいと? 全く意味がわかりません。しかも、どうして頼む側なのに上からなのでしょう?
「我が家にはお貸しするお金はありません。何に使うかはわかりませんが、私たちを訪ねる前に、陛下には尋ねたのですか?」
「……父上には言えん。だが、これは国のためだ。ここで覚えをよくしておいた方が、私が国王になった時に助かると思うがな」
「貸せません」
「……何?」
「何に使うかも不明なのに、帰って来るかもわからないのに、お金をお貸しする事は出来ません。お引き取りを」
私が真っ直ぐと王子を見据えて答えると、王子は少したじろぎますが、再び私を睨んで来ます。しばらく睨み合っていると、王子が私のお腹を見て鼻で笑って来ました。
「そういえば、お前の腹の中には下賎な男の子供がいるのだったな。やはり、お前との婚約をやめておいてよかった。あのような黒髪の汚らわしい男とまぐわう事が出来る女だったのだからな。どうせ生まれてくる子供も、父親の血を引いて下賎な者が生まれるに決まっている」
そう言って笑う王子。2人は流石に言い過ぎだと、王子を止めようとしますが、更に王子はレディウスの事を悪く罵って来ます。
私はその言葉を聞いて我慢をやめました。私に対する事なら幾らでも我慢出来ました。しかし、私の愛するレディウス、更にはまだ生まれてきてもいない名もない愛しの子に対しても、酷い言い様。もう私には我慢する事なんて出来ませんでした。
私は立ち上がり王子の前まで行きます。王子は睨みつけてきますが、私はそのまま右手を振りかざし、王子の顔へと振り下ろしました。パチンッと響く音。そして
「下賎なのはどちらですか! 私だけならまだしも、レディウスやまだお腹の中にいる子供まで罵って。それでも、将来の王ですか!? その考えをこれからも続けるというのなら、あなたに王の資格はありません!!」
私は我慢が出来ずに怒鳴ってしまいました。それと同時にガチャっという音と、再びパチンッとなる音どドンと走る衝撃。音が聞こえた時には私は机の倒れ込んでいました。頰が次第に熱くなる感覚と、お腹にくるズキズキとした痛み。
「私に王の資格が無いだと! ふざけるなよ、ヴィクトリア! この……くっ、離せ、フェリエンス、グラモア! この女を! この女をぉぉっ!」
「落ち着け、ウィリアム! いくら腹が立ったからといって、女を、しかも妊婦を叩く奴があるか!?」
「そうです! あなたたち! ウィリアムをこの部屋から出すのを手伝ってください!」
ドタバタと走り回る音と怒鳴る声。耳には聞こえてくるのですが頭には全く入ってきません。それよりも、そんな事より、お腹が痛いです。今までに無い痛みがお腹から全身に走ってきます。
「全く、何なのよあいつは。ヴィクトリア、大丈夫かしら……ヴィクトリア?」
イライラとした声を出すヘレネーが声をかけてくれますが、私は反応が出来ませんでした。ズキズキとお腹に伝わる痛みで涙が止まらずに動けないのです。
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