黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

197話 色々と説明

「……よいっしょっと」


「大丈夫か、2人とも」


「ええ、大丈夫ですよ、レディウス。ほんの少し疲れただけですから」


 椅子にゆったりと腰掛けて、額の朝を拭うヘレネーとヴィクトリア。少し無理させてしまったかと思ったけど


「もう、そんな心配そうな顔をしないでよ、レディウス。私たちはお腹の子供の栄養のために妊娠する前よりも食事量が増えているから、偶には軽く運動しないといけないのよ。そうじゃ無いとぷくぷくと太っちゃうんだから」


「そう言って剣を振ろうとするのはどうかと思いますけどね」


「べっ、別にほんの少し振るくらい良いじゃ無い! 別に模擬戦をしようってわけじゃ無いんだから!」


 突然言い合いを始める2人。この光景を見るのも久し振りだなぁ。帰ってきた事を実感出来る光景だ……けど、この光景ではあまり実感したくないな。


「ほら、2人とも。あまり怒るとお腹の子に悪いぞ。それからヘレネー。あまり激しくはしたらダメだぞ。やり過ぎも良くないのだから」


「わかってるわよ。でも、レディウス、少し詳しくなった?」


「まあね。この半年間オスティーン伯爵に子育てについて色々と教えてもらったからな」


 俺が胸を張って自慢すると、おおっ、と驚いてくれるヘレネー。ヴィクトリアは首を傾げているけど、どうかしたのか?


「オスティーン伯爵って、前は男爵ではありませんでしたか?」


「ああ、その事か。戦争の褒賞でオスティーン男爵から伯爵になったんだよ。因みに俺も子爵から伯爵になった」


「まあっ! それはおめでとうございます、レディウス! 今日は無事に帰ってきた事と、爵位のお祝いをしなければなりませんね!」


 パンと手を叩き立ち上がって喜んでくれるヴィクトリア。喜んでくれるのは嬉しいのだが、そんな激しい動きをして良いのかよ。俺はその光景だけで冷や汗ものだぞ。


「もう、煩いわね、ヴィクトリアは。爵位が上がるのがそんなに嬉しいの?」


「爵位が上がった事が嬉しいのではありません。レディウスが、自身の剣を信じたレディウスが認められた事が嬉しいのです。
 男爵や子爵は偶にはなる方もいるのですが、伯爵はそれ相応の結果を出さなければ貰う事は出来ません。戦争は起きる事があってはいけませんが、戦争の結果によって伯爵を認められるという事は、レディウスの武が認められたという事です!」


「そう言われると悪い気はしないわね。レディウス、私やお婆さまが助けてからずっと頑張っていたもの」


 2人は見惚れるほどの笑みを浮かべながら俺の事を褒めてくれる。褒められるのは嬉しいし、伯爵になるのは凄い事なのだが、それに伴って彼女たちに伝えなければいけない事があるのだが……物凄く言いづらい。だけど、伝えないとな。


「伯爵を賜った事についてなんだけど、その他に陛下から命じられた事があるんだよ」


「命じられた事、ですか? 何処か土地を任されたとかですか?」


 おおっ、流石は令嬢、直ぐに予想がついたようだ。だけど、彼女もこの領地の近くだと思っているようだ。うう、この事を話すのは忍びないけど、隠しておく意味も無いからな。後に伸ばす方が問題が起きそうだし。


 それから俺は新しい領地の事について2人に話した。流石のヴィクトリアも予想外だったのか驚きの声を上げる。まあ、当然だろうな。


 子供達の事はどうするのか尋ねられたが、陛下からは生まれてからでも構わない事の了承を得ている。その代わりその間代理を送らなければならないのだが。


 代理にはグリムドを任せた。クリスチャンはこの領地の事でガウェインに引き継ぎがあふからお願い出来ないし、新しい領地と言っても元は敵国だ。戦いに精通している人じゃ無いと危険な事も起きると思ったからの任命だ。


 グリムドは戦闘に関しては文句無しだし、セプテンバーム家を代々護衛していた家系のせいか教養もあって、兵士を率いる事も出来る。勿論内政も。グリムドなら安心して任せられる。


 2人は新しい領地については納得してくれたが、その次の話になるのは当然今いるこの領地の事になる。この領地は良くも悪くも俺の思い出が詰まったところで、母上の墓もある。流石に墓を移動させるわけにはいかないので、当たり前だが墓はそのままだ。


 俺が戦争に行っている間は1週間に1回ほど、ヘレネーとヴィクトリアが御墓参りに行って掃除してくれたらしい。彼女たちには感謝しかないよ。


 この土地の事は陛下から言われた通りガウェインに任せる事になっている。ガウェインを知らないヘレネーは首を傾げるが、ヴィクトリアはガウェインなら任せられると頷いてくれた。俺もガウェインなら大丈夫だと思っている。


 後、ブリタリス王国が無くなった事については2人とも驚いていた。俺がゼファー将軍に勝った事もだ。ヘレネーも師匠から何度か聞かされていた事があったらしく、少し悔しそうだった。ヴィクトリアは土地が増えた理由がわかって納得していたが。


 そして、1番言いづらい事が残ってしまった。本当に言いづらいが、言わないと話は進まないしなぁ。土地の時より言いづらいわ。


 だけど言わなきゃなぁ。俺は意を決してパトリシア王女の事を話すと……予想以上に普通に認められた。2人とも全く知らない人では無いし、それに事情が事情だからとさ。


 はぁ、なんだか考え過ぎて損した気分だ。まあ、その後にあまりほったらかしにはしないように釘を刺されたが。そんな事するわけないのに。


 それから俺たちはみんなを集めて宴会をした。みんなには心配をかけたし、この領地を任せっきりだったし、苦労をかけた。ここは俺からみんなを労わないと。


 その日から1週間後、俺はパトリシア王女を迎えに行くために、再び王都へと戻った。今はもう元王女で、陛下も表立ってここまで送る事が出来ない。それに、まだ普通の兵士たちは彼女の姿に見慣れていないから、俺が行く事にした。


 グリムドが自分が行くと行ってくれたが、彼はこれから代理として行ってもらうための準備が色々とある。それに、自分の大切な人になる人を他の人に任せる事は出来なかったし。


 俺はブランカに乗ってお供にロナを付けて2人で王都に向かった……この時はまさかあんな事が起きるなんて、微塵も想像がつかなかった。

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