黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

192話 アルバスト防衛戦(21)

「魔天装まで。しかも属性を持たぬ黒髪が……」


 流石にこれにはゼファー将軍も驚いたようだ。だけどそれを悠長に聞いている余裕は無い。かなりの魔力を持っていかれる魔天装を長くは使えないからだ。


 ふぅ、体の痛みが引いて行く。俺が持つレイディアントの光属性の能力は全ての身体能力の強化だ。筋力や視力、治癒力すら強化する。劇的ってわけじゃ無いけど俺の体の痛みが少しずつ引いていっているのはそういう事だろう。


 それにレイディアントの強化はそれだけじゃ無い。この剣の凄いところは強化の上がり方にある。普通ならほんの少し筋力が上がったや、速度が上がったと感じる程度だが、レイディアントの力を引き出すと、倍近く力が上がるのがわかる。それも、魔闘装などをした状態から倍近くだ。


 魔力消費はシュバルツの比では無いが、元々持っている魔力吸収のおかげでそんなすぐには枯渇しない。


 ……ふぅ、さっきほどでは無いけど、いい感じだ。俺とゼファー将軍は武器を構えたまま動かない。パトリシア王女も同じように構えたままだ。


 3人が誰1人と動かない中、一筋の風が吹く。その瞬間


「はぁぁっ!」


「ガァァッ!」


 俺のレイディアントとゼファー将軍の青龍刀がぶつかり合う。少し遅れてパトリシア王女が火球を放ち将軍を牽制する。


 ゼファー将軍の背にある翼がはためき掻き消されるが一瞬でも注意がそちらに向くので十分だ。その一瞬をついて俺は青龍刀を弾き切りかかる。


 将軍は下から石突きを振り上げ俺の剣を弾き、そのまま回して刃の方を振り上げてくる。俺は後ろへ下り避けるが、後を追うように尻尾が迫ってきた。


 迫る青龍刀と突き出される尻尾をレイディアントで弾き青龍刀の内側に入ろうとするが、青龍刀を上手く動かし弾かれる。


 流石としか言いようがないか、俺は更に踏み込む。風を纏った青龍刀が振られる度に俺の体に傷が出来て行くが、レイディアントのおかげで痛みを殆ど感じない。


 だが、慢心も出来ない。治癒力は上がっているが、回復する度に魔力を持っていかれるのだ。細かな傷で少量だったとしても、積もればかなりの量になる。避けられるものは避けないと。


 再び距離を取り睨み合う俺たち。あの鱗を、あの速さを、あの武術をどう超えるか。いくら考えても解決策が出てこない。やっぱり、今まで以上に命を賭けるしか無いか。


「……その雰囲気、ククッ、これだから武人はやめられないのだ。幾つになろうとも命を賭けた戦いは心躍るものがある」


 俺の雰囲気を察してか、ゼファー将軍は嬉しそうに笑みを浮かべる。まあ、確かにゼファー将軍の気持ちがわからなくも無い。俺も似たような事を思う時があるしな。


「行くぞ」


「来い!」


 もう魔天装も長くは持たない。これで決める。俺は強く地面を踏みしめ、ゼファー将軍へと向かう。俺は振り上げた剣をゼファー将軍の頭上目掛けて振り下ろす。


 将軍は青龍刀を両手で持ち中心部分で剣を防ぎ弾かれるが、俺はそのまましゃがみこみ足を狙って剣を横に振る。


 将軍は翼を使い宙に浮き俺の剣を避けた後、青龍刀を鋭く振り下ろしてくる。俺は跳んで避けるが、青龍刀が地面にぶつかった衝撃で吹き飛ばされる。


 何度か地面を転がり顔を上げると、青龍刀を斜めに大きく振り上げたゼファー将軍が飛んで迫ってきた。かなりの巨体の上に竜並みの力。それに速度も合わさり威力はとんでも無いだろう。


 今なら避ける事が出来るが、俺の持てる力を全て注ぎ込む。俺が纏っていた魔力を全てレイディアントに集める。


 そしてレイディアントを上段に構える。全ての意識をゼファー将軍へと向ける。色も無く音も無く、あるのはレイディアントを握る感覚だけ。


「黒撃」


 そのまま、向かってくるゼファー将軍へと振り下ろす。ゼファー将軍の青龍刀とぶつかる感覚が一瞬あるが、そのまま振り下ろした。


 一瞬にして視界に色が戻り、音が聞こえてくると、俺はその場で立っていられなくなった。全身から汗が吹き出し、剣を杖代わりにしないと直ぐにでも倒れそうなほど。


 あの感覚を思い出して今使える最強の技を放ったのだが、疲労が凄すぎる。気を失うよりも辛い。


 なんとか震える足を踏ん張り振り向くと、ゼファー将軍も地面に手をついていた。地面には血溜まりが出来ており、ゼファー将軍は胸を押さえていた。


 その場で立ち上がろうとするが、俺と同じように力が入らないのかその場に倒れこむ。心なし体が一回り小さくなったのは、魔石の効果が無くなったからだろう。将軍の離れたところに真っ二つになった青龍刀があるし。パトリシア王女の時と同じだ。


「レディウス!」


 そして、動けない俺の元にパトリシア王女が走ってくる。俺は疲れ過ぎて体を動かす事が出来ないけど、目線だけは向ける事が出来た……というかいつの間にか名前呼びに変わっている。


 そんな事を考えていると、アルバスト兵たちが歓声を上げる。まだ戦いは終わってはいないが敵の大将の1人を倒したのだ。これも当然だろう。


「さすがです。とてもカッコ良かったですよ」


 気が付けばパトリシア王女に頭を抱きかかえられていた。腕に当たる尻尾がふさふさとして柔らかい。申し訳なさで一杯だが体が全く動かない。


 それと同時に揺れる地面。大量に走りこんでくる音。歓声を聞いた連合軍が攻めてきたのだろう。だけど、俺は慌てなかった。こんなタイミングが良いなんて奇跡としか言いようがないが、俺の感覚には反対からも来ているのがわかった。


 そして、大きな破裂音。魔法が爆発した音だ。そして


「全軍突撃! 我が国を脅かす侵略者どもを追い払うのだ!」


 レイブン将軍の号令が砦の中を木霊するのだった。

「黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く