黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

191話 アルバスト防衛戦(20)

 俺とパトリシア王女は左右に分かれてゼファー将軍へと向かう。ゼファー将軍はどちらにも攻撃が出来るように、青龍刀を大きく横に振り払った。当たれば胴体なんて簡単に上下で分かれるほどの斬撃だが、パトリシア王女は跳んで、俺は青龍刀より低く頭を下げて避ける。


 頭の上を通り過ぎる青龍刀の刃に変な汗が流れるが、そのままゼファー将軍へと向かう。しかし、ゼファー将軍は青龍刀を振り切ったまま回転し、尻尾を回してくる。


 空中に跳んでいる避けきれずに当たる、そう思った俺は王女を助けに行こうとしたが、その必要は無かったようだ。


 パトリシア王女は迫る尻尾に向けて、得意の火球を作りぶつける。その爆風に乗るように体を捻り、尻尾を避けたのだ。


 ……心配し過ぎだな。俺は心の中でパトリシア王女に謝り、再びゼファー将軍へと向かう。


 回転し終えたゼファー将軍は大きく振りかぶった青龍刀を振り下ろしてくる。横に跳んで避けるが、今度は動きを小さく切り上げてきた。


 速度重視のため威力は小さいが、それでも見過ごす事の出来ない力だ。そのまま青龍刀を回して石突きをパトリシア王女へと振る。


 王女は後ろに下がって避けるが、そのまま連続で突きを放ってきた。かなりの速さで避けるのもギリギリだ。俺はパトリシア王女へと向かっている隙を狙って迫るが、ゼファー将軍の反応速度が速い!


 こちらが一定の範囲に少しでも入ろうとすると、直ぐに青龍刀が迫ってくる。それに気が付いたパトリシア王女と同時に攻めようとも、先ほどと同じように尻尾も来るため、俺たちは攻めあぐねていた。


 ……これが名を轟かす者の実力か。ただただ尊敬するばかりだ。これほどの力をつけるのに、何十年という月日をかけてきたのだろう。まだ剣を持って10年も経っていない俺なんかと比べる事すらおこがましい。


 普通なら憧れ、尊敬し、そして諦めるだろう。自分がこの強さに届くはずがないと。


「どうした! 威勢が良かったのは初めだけか!?」


 少しずつ青龍刀が掠り、傷付いた俺を見て、怒りに似た声を出すゼファー将軍。その声には反応せずに俺は考える。


 どうすればこの強さに届くのか。普通なら諦めるしかない。このどうしようもなく高い壁を乗り越える事なんて出来ない、と。


 残念な事に俺は普通じゃないからな。この程度の事で諦める訳がない。今までもいくつもの壁を乗り越えてきたんだ。この程度で諦めてたまるか!


「興醒めだ!」


「レディウス!」


 勢い良く振り上げられた青龍刀は、ゼファー将軍の怒りに任せて俺の頭上へと向けて振り下ろされる。その場から動こうとしない俺を見て俺の名前を叫ぶパトリシア王女。


 俺は周りの声を聞きながらもジッと振り下ろされる青龍刀を見ていた。本来なら一瞬のはずが、今は何分、何時間と経っているような気がする。今なら今までで1番力を発揮できるかもしれない。


 気が付けば俺は無意識の内に右手で掴むレイディアントを振り上げていた。ガンッ! と青龍刀とぶつかると同時に腕に走る衝撃。


 さっきまでは片手では受け止められなかったのに、今は耐えられる。そして俺はそのまま反対の左手で持っているシュバルツで青龍刀を弾き、レイディアントで切りかかる。


 ゼファー将軍は驚きながらも俺の剣を空いている左腕で受ける。さっきまではとてつもなく硬い鱗で弾かれていたが、今回は少し傷が入った。良し、これなら……


 しかし次の瞬間、脇腹にとてつもない衝撃が走り、視界が一瞬で変わった。気が付けば俺は空を見上げていた。気分が高揚しているのか痛みは無い。そのかわり視界が赤く染まっている。頭のどこかを切って血が流れているようだ。


 ……さっきの感覚は凄かった。今までに無い感覚だったぞ。どのように体を動かせばいいかわかるし、力もいつも以上に出た。さっきの高揚感はもう無くなってしまったが、感覚は覚えている。その事に思わず笑みを浮かべていたら、視界に青龍刀が入った。


 俺は直ぐに体を動かし、地面に叩きつけられる青龍刀を避ける……げっ、シュバルツがさっきまで俺が立っていたところの地面に刺さっていた。はぁ、剣士が剣を離すなんて……。


「お前はまだその領域では無いようだな。しかし、片足は踏み入れたというところか」


「……さっきのわかるのか?」


「俺に勝ったら教えてやろう!」


 今まで以上に圧が増したゼファー将軍。それだけで地面が震えるが、俺はそんな事を気にせずに魔力を流す。右手に持つレイディアントから光属性の魔力が流れ出し、少しずつ俺の魔力と混ざり合っていく。


 そして、その混ざり合った魔力を体を守る鎧のように纏わせていく。そのまま俺はレイディアントを水平に構える。あまり長くは持たないが、出し惜しみは無しだ。


 俺の出せる本気でこの高い壁を乗り越える!

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