黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

183話 アルバスト防衛戦(12)

「く、くそっ! ど、どうせ奴らは数は少ない! 囲んで数で圧倒しろ!」


 兵士たちの後ろで叫ぶ男。奴がこの部隊の隊長のようだ。周りの兵士たちは、先ほどまでの俺の戦いを見ていたため近付こうとはしないが、隊長の言葉を無視出来ないのか大きく間合いを取って俺を囲んで行く。


 そして周りの兵士たちは一気に範囲魔法を放つつもりのようだ。しかし、それらは放たれる事は無かった。その理由が


「ガァァァァァッ!」


「ラァァァァァァ!」


 と、オーガ型の獣人たちが、ブリタリス兵たちへと襲い掛かったのだ。魔法をくらい傷だらけのオーガ型の獣人たちだが、目は怒りで爛々と輝いていた。そして空からは鳥型の獣人たちも魔法を放っていく。中にはこの隊の隊長であるフクロウ型の獣人もいた。


「ホー! 我々を裏切った事を後悔するホー!」


 獣人たちは先ほどの魔法攻撃に巻き込まれた事を怒っているようだ。数は少ないが、圧倒的なパワーを誇るオーガ型と、誰もが手を出さない空から攻撃をしてくる鳥型の獣人たち。


 数を圧倒しているブリタリス兵だが、まさか同盟側から裏切られるとは思っていなかったようで、ボロボロに陣形を崩していく。俺を包囲していたのもだ。


 まあ、自業自得だ。初めに裏切ったのはブリタリス軍だ。こうなる事も視野に入れて行動するんだったな。


 さて、絶賛混乱中のブリタリス兵たち。俺に対する囲いも無くなった今、悪いが進ませてもらおう。獣人たちに釘付けになっている今がチャンスだ。


 この混乱になっても命令に忠実な兵士たちは俺に切りかかってくるが、数が少ないので苦にはならない。迫るブリタリス兵たちを切り敵陣を切り抜ける。


 敵の駐屯地の中は当然ながらもぬけの殻だった。この中のどこかにパトリシア王女が捕まっているはずだ。ゲルテリウスの将軍の話を信じるなら後1日は猶予があるはずだ。それまでに早く助けなくては。


 俺は魔闘眼を限界まで発動する。ちらほらと微かに感じる魔力は雑用で連れて来られた者たちだろう。その中で一際大きな魔力を感じる。多分これがパトリシア王女だ。


 俺はそこへと向かう。罠があるかもしれないとか考えている暇はない。


 でも、俺のそんな心配とは他所に特に罠などもなくパトリシア王女が捕まっていると思われる場所へと辿り着いた。


 辿り着いた場所は他の倍ぐらいの大きさもあるテントだった。この中から魔力を感じる。ただ、パトリシア王女だけでは無いようだ。中にはもう1人誰かの魔力を感じる。


 俺はテントの入り口を切り裂き中へと入る。テントの中は中心部分に砦で映像を流された状態のままパトリシア王女がいた。十字架に磔にされたままだ。


 そしてその側には1人の男がいた。そいつは


「な、なんだな、お前は!? こ、ここには僕以外は入れないんだな!」


 カエル顔をした男だった。こいつも獣人か? ……いや、獣人たちから感じる魔獣の魔力を感じられない。これは素の顔か。


「お前が誰かは知らないが、その人を返してもらう。俺たちの大切な人だからな」


「なっ!? お、お前、アルバスト兵なんだな!? な、なんでこんなところに!?」


 こいつ、外で戦いが起きている事に気が付いて無かったのか? まあ良い。今はそんな事を聞いている暇も無い。すぐに終わらせてやる!


 俺はすぐに間合いを詰めて右手に持つレイディアントを振り下ろす。カエル男は「ヒッ!」と悲鳴を上げて目を瞑り両手を挙げる。


 このまま切り裂く……つもりだったが、俺はカエル男を切り裂く事が出来なかった。その理由が俺とカエル男の間に突然現れた黒い影だ。


 カエル男の足下から突然現れると、両腕を交差させて俺の剣を防いだ。それと同時に胴体部分から飛び出す黒い棘。複数の棘が俺目掛けて伸びてきたのだ。


 俺は直ぐに後ろへと飛んだが、流石に全て避け切る事が出来なくて、少し掠ってしまった。


「侵入者、排除する」


 黒い影はそれだけ言うと再び消えてしまった。だが、魔闘眼で奴の魔力を見る事は出来たのでわかったが、奴は獣人だ。それも、かなりランクの高い魔獣を取り込んでいる。パトリシア王女のところ魔石よりは劣るが、それでもかなり強いだろう。


 今度は地面から飛び出してくる棘。俺は魔闘装したシュバルツとレイディアントで棘の先を切り落とす。しかし、残った棘の本体から新たに棘が出てきた。今度はしゃがんで避けたが、更に伸びてくる。こいつ、刺さるまでやるつもりか。


 そう思った瞬間背後に気配が。俺が前に倒れこむように避けると、頭上をナイフが通り過ぎる。そしてそれと同時に俺の影から再び棘が出てきた。


 俺は前に転がり避けるが、目の前には男の左足が迫る。両腕を交差させて防ぐが、俺は蹴り飛ばされる。蹴り飛ばされる方へと飛んで避けたため、勢いは逃す事が出来たが中々面倒な相手だ。


 こっちが攻撃しようにも影の中に逃げてしまう。それにその力が無くてもこいつの動きは良い。早く助けなきゃいけないのに本当に面倒だ。


「おい、ゲロス。直ぐに実験を始めろ。アタランタ様の命令だ」


「わ、わかったんだな。確か、敵が万が一攻めてきたら、王女を起こすんだな」


 ……まさか!


「させるか!」


「行かせん」


 俺がパトリシア王女の方へと近づくカエル男へと向かおうとすると、影の男が間に入ってくる。あいつら、このままパトリシア王女に魔石を使うつもりだ!


「退け!」


 俺はレイディアントの光属性を発動させ男へと袈裟切りを放つ。男はナイフに影を纏わせ強化させ俺の剣を防ごうとするが、影が霧散する。光に当てられて影が消えたようだ。


 カァンッ、とナイフが弾かれた影の男は地面の影に手を入れた。俺はそれを見ながらもシュバルツで横薙ぎを放つが、影から取り出した新たなナイフで防がれる。


 しかし、この隙に俺は再び走り出す。俺の目的は影の男を倒す事じゃない。パトリシア王女を助ける事だ。近づく俺を見てビビるカエル男。俺の行く手を阻むように伸びてくる棘。


 必要最小限で棘を避け、最速で駆け抜ける。刺さったのもへし折り突き進む。目の前には顔を青くさせているカエル男。先ほどと同じようにレイディアントを振り下ろす。今度は遮るものもなく振り下ろす事が出来た。


 カエル男の体が左肩から斜めにずれ落ちる。これでパトリシア王女は助かったか。


 ……そう思ったのだが、俺の考えは甘かった。カエル男の血が地面に触れた瞬間、地面が輝き始める。どうやらカエル男が死ぬ事で魔法陣が発動するようになっていたようだ。


 その魔法陣の中心にはパトリシア王女が。これはまさか!


 俺が近づく暇もなく、パトリシア王女を中心に魔力が爆発する。俺たちがいたテントは吹き飛び、俺も魔力の暴風に吹き飛ばされてしまった。


 何度か地面を転がりようやく止まった時には、パトリシア王女がいた場所から天へと向かって赤い光の柱が伸びていた。


 少しずつ、魔力も収まり、吹き荒れる砂煙も落ち着いてくると、姿を現したのは1人の獣人。


 狐色の耳の中心は白い毛で覆われており、爪は鋭く伸び、牙を見せて威嚇してくる。全身も狐色の毛を纏い、お尻の部分には三尾の尻尾が付いている。


 その正体は……狐のような姿をしたパトリシア王女だった。

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