黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

180話 アルバスト防衛戦(9)

「ふぅ、1日ぶりの太陽だな」


 俺は燦々と輝く太陽を見ながら呟く。遠くからは地面を揺らす爆音と大気を揺るがす声が轟いている。オスティーン男爵は頑張ってくれているようだ。


「親分、ここからは走りになりますぜ」


「ああ、わかっている。それから親分はやめろ。どこかの盗賊の頭みたいに聞こえるじゃないか」


 俺がそう言うと、目の前でへへぇぃと頭を掻きながら笑う男。両腕は人間のそれではなくて、何かを掻けるように鋭く発達した爪。体中から毛が生えて、顔に若干の人間だった頃の面影を残している男。


 こいつの名前はジェイク。2日前に砦へと地面を掘ってくるという普通ではありえない方法で侵入して来た土竜の獣人の男だ。


 こいつらが侵入して来た日の夜、こいつら地面からやって来る土竜の集団と、砦の外壁を登って来る蜘蛛の集団に気が付いた俺たちは、二手に分けて対応、何とかこいつらを捕らえる事が出来た。


 その後、こいつら全員を牢屋に入れて俺の考えていた話をしたのだ。ここにいる時点でわかると思うが、こいつら獣人、中でも土竜の獣人たちの力を借りて砦を抜け出す事を。


 現在砦の出入用の門は全て連合軍に囲まれている。連合軍に捕らえられたパトリシア王女を助けるためには、その連合軍を突破しなければいけなかったが、ただでさえ人数に差があり押されている状況で、無駄に兵を減らす事が出来ず、その上、門を無理にでも開ければ、直ぐに連合軍が殺到するだろう。


 そうなってしまえば、人数が少ないこちらが圧倒的に不利になってしまう。どうすれば、パトリシア王女を助けに行けるかを考えていたところに、彼らが侵入して来たわけだ。


 正直に言うとこの侵入すらも罠では無いのかと考えている部分もある。俺たちが何とかして砦の外に出る事が出来ないか考えているタイミングで、変則的ではあるが外に出る方法を持った獣人たちが現れるなんて。


 しかし、そんな事も言っていられない。悩んでいる間にも期日は刻々と迫っている。パトリシア王女が獣人にされる日が。それを止めるために俺とオスティーン男爵が話し合った結果、彼らを使い砦を抜ける事に決めた。


 ただ、俺たちがお願いしますと言っても、そんな事を獣人たちは聞くわけがない。俺でも聞かないだろう。あまりこの手は使いたくはないが、時間がないため、俺たちは砦にあった犯罪者用の奴隷の首輪を利用した。


 これをつけると、主人を指定した者の命令は必ず聞かなければならない。聞かなければ全身に痛みが走るようになっている。


 その土竜の獣人たちを全員で5人、他の獣人たちは砦で捕虜にした状態で砦を抜けて来たわけだ。ここにいる兵士は全部で200人ほど。オスティーン男爵が進める強者たちだ。そして


「距離的にはここから走っても半日ほどかかると思います」


 地図を片手に話しかけて来るのは、パトリシア王女の副官をしていたローデン隊長だ。パトリシア王女の救出に行く話になった時に真っ先に手を挙げたのが彼だ。どうしても行きたいと言うのでついて来てもらった。


 それに、彼はパトリシア王女たちがいた砦の副官だ。この辺りの地理も他のものより詳しいのも1つの理由だ。


「半日か。たどり着く頃は夜だな」


「はい。やはり人数の少ない我々は奇襲を仕掛けるべきだと思います」


 確かにまっぴらからこの少ない人数で仕掛けても潰されるだけだろう。俺もローデン隊長の意見に賛成しながらジェイクの案内で、パトリシア王女がいると言う駐屯地へと向かう。


 遠くでは、どちらの軍かはわからないが怒号が聞こえて来て、地面を揺らす爆音が轟く。オスティーン男爵たちが心配だが信じるしかないな。


 それから、俺たちは目的の駐屯地に向けて歩き続ける。重たい鎧を着ての行進はかなり体力が持っていかれるが、それでも、誰も文句は言わない。みんながパトリシア王女を助けるために真剣だからだ。


 魔獣も、近くで戦争をしているせいか1体も見ない。まあ、そのおかげで進むのも楽なのだが。そして、日が暮れて太陽が全て沈みきった頃


「親分、あそこですぜ」


 ジェイクが指を指す先、そこには確かに駐屯地があった。柵に囲われており、所々に篝火にテントが張られている。当然見張りもいる。


 感じられる気配からおおよそ1千といったところだろう。こちらは200ちょっと。5倍の差をどうするか。そのまま考えたかったが、そんな暇は途中で無くなってしまった。それは


「ホッホー、まさか、本当に助かるに来るなんて、思ってなかったホー!」


 俺たちの目に突然降り立つ影。腕は大きな翼で、足は鉤爪の足。そして鋭い嘴。こいつはフクロウの獣人か。しかもこいつだけではなく


「お前ら潰す」


 別の鳥の獣人の背から1人の男が飛び降りて来た。地面についた瞬間ズシンッ! と、人が降りだだけではならない音と揺れが起きる。体長は3メートル近く。巨大な体格に合わせた巨大な斧。人間なんて一瞬で真っ二つに出来る大きさだ。頭には2本の角が生えていた。


「ホホー、たったその数だけでここまで来たのは褒めてあげますが、あなたたちにはここで死んでもらいますよ! ホホホー!」


 フクロウ型の獣人が鳴き声をあげると、駐屯地の方が騒がしくなる。こちらの事がバレたのだろう。


「……レディウス様、このままでは」


「……ふぅ、俺が囮になる。ローデン隊長は他の者を連れて行くんだ。まだ浮き足立っている今しかチャンスはない!」


 俺は纏を発動して一気に駆け出す。目の前には巨大な獣人の男。獣人の男はニヤリと笑みを浮かべて巨大な斧を振り上げる。


「ホッホホー! まさか自ら死にに行くとは! その獣人のベースとなったのはベテラン冒険者でも恐れをなすレッドオーガ! 巨大な力の前でなすすべも無く死ぬがいい!」


 ご丁寧に魔獣の種類まで教えてくれて、あのフクロウ男は。俺はフクロウ男の言葉を無視したまま、オーガ型の男へと迫る。放つは最強の一撃。右手でレイディアントの鞘を掴みいつでも抜けるようにする。


「烈炎流奥義……」


「シネェ!」


 俺めがけて振り下ろされる斧に向けて、一気に振り抜く!


「絶炎!」


 魔力を爆発させ、一気に振り抜かれるレイディアント。纏で強化している上に、更に魔力をプラスして放たれた斬撃は、オーガ型の男の斧を抵抗無く切り落とし、そのままオーガ型の男の肘上辺りから上の胴体を切り落とした。


「ホー……ホッ?」


 さっきまで大笑いしていたフクロウ型の男はこの光景を見て目を丸くする。悪いが


「この程度で足止めできると思うなよ。パトリシア王女を助けるのを邪魔するって言うなら、目の前に立ちはだかる敵は全員ぶった切ってやる!」


 覚悟しやがれ。

コメント

  • 白華

    誤字多すぎ

    0
  • ペンギン

    いいね〜!w最高w

    3
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