黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

171話 アルバスト防衛戦(1)

「状況はどうだ?」


「はっ、部隊を3つに分けて、早朝、昼、夜で砦を攻めていますので、アルバスト軍は休む暇も無いでしょう。こちらの軍は5万に対して、アルバスト軍は1万程しかいませんからね」


 ふむ、こちらが攻撃を仕掛けて今日で2週間が経った。アルバスト軍も疲労が溜まっているところだろう。こちらは5万を3つに分けて砦を囲み攻撃しているからな。


 向こうは休む暇もなく防衛を強いられている。向こうは少しでも気を抜けば破られるからな。


「ふふふ、順調のようですな、ゼファー将軍よ」


「アタランタ将軍か。ゲルテリウス軍の指揮は良いのか?」


 俺の隣に馬を並べる男。ゲルテリウス王国の将軍でアタランタ・クリムフォード。緑色の髪で4属性の魔法を使う事の出来る将軍で、敵兵は1人残らず殺す事から『死神将軍』と、敵は当然ながら、味方からも恐れられている。


「私がいなくとも優秀な部下がいるので大丈夫ですよ。それよりも、約束は守って下さいね?」


「ふん、何に使うかは知らんがパトリシア王女を捕らえたら、お主にくれてやる。それよりも、お主の軍の中で、全く動かしていない兵士はなんだ? 全員マントを着て」


「ああ、あれは我が軍の秘蔵の兵士たちですよ。とあるルートから手に入れた魔武器を持たせた最強の兵士たちです。数は少ないのでここぞという時のために置いておいたのですが、もしよろしければ、今から数人ほど投入してみましょうか?」


 魔武器を持たせた兵士か。こやつがそれほど言うのも珍しい。我が軍が勝てるのなら何でも使おう。悪魔に魂を売ってでも。


「よかろう。どれほどのものか見せてもらう」


 ◇◇◇


「はっ!」


 私はハシゴを登ってくる兵士を切ります。しかし次々と登ってくる兵士たち。私たちの軍は彼らが攻めてきたからは、ずっと戦いっぱなし。疲労が溜まって、1人、また1人と倒れていきます。


 敵は数に物を言わせ、朝、昼、夜と休む暇も無く攻めて来ます。戦いが始まって2週間、殆ど毎日が寝不足でしょう。


 こちらが王都に送った伝令は既に王都へと辿り着いてはいるでしょうけど、それから兵士の準備をするのに時間がかかってしまいます。


 何とかそれまで耐えねばなりませんが、最悪は私を囮にしてみんなを逃さなければ。


「パトリシア姫、少し休まれては。姫が倒れれば我々は」


 そこにローデンがやって来ました。ローデンも所々血に濡れています。


「私が先頭に立たなくては、皆の指揮に関わります。今は何としても耐えなければいけません。それなのに、私の姿が見えなければ、皆も不安がるでしょう」


「それはそうですが……何だ?」


 ん? 突然敵の攻撃が止みましたね? 私とローデンは砦から敵軍を見下ろすと、ゲルテリウス軍の中から3人の兵士が出てきました。


 男性が2人に女性が1人。男性はアックスを持つ男性と、大槌を持つ男性が1人。女性の方は弓を持っています。あの3人だけで何をするのかと思いましたが、彼らは武器に魔力を流します。


 あれは、魔武器だったのですね。しかも、それだけではありません。魔武器を持っている彼らの姿が変わってきたのです。


 アックスを持った男性は狼の様な風貌へ、大槌の男性は体が倍以上の4メートルほどにまでなり、頭から2本の角が生えてきました。そして弓を持つ女性は、背から翼が生えて、鳥の様に飛んでいます。


 突然姿形が変わった敵兵に、兵士たちが戸惑いの声をあげます。そこに、馬に乗った緑色の髪をした男、確か、ゲルテリウス王国の将軍でアタランタ将軍だったはず。


「彼らは、我が軍の兵士でね。北の大国ではこの魔武器により、変身した者たちの事を魔獣の姿をした者という事で『獣人』と呼ばれているらしい。さあ、やれ!」


 アタランタ将軍の言葉に3人の異形の兵士たちはそれぞれ動き出す。狼の兵士は、その見た目通りの俊敏さで、走ってくる。


 ローデンの指示で、困惑していた兵士たちも魔法を放つけど、かなりの速さで当たらない。そして梯子を使って登って来る。


「奴を止めろ!」


 ローデンが怒鳴り声を上げると同時に、揺れる砦。何が!? と思ってみると、巨大化した男性が砦の門へ体をぶつけていたのだ。巨大化した男性が門へとぶつかる度に、門は悲鳴をあげます。その上


「くそ、デカブツめ! これでもくら……ぎゃっ!」


 巨大化した男性へと魔法を放とうとしたその時、その兵士は何かに射抜かれて死んでしまいました。空を見れば、翼を生やした女兵士が、弓を構えて放ってきました。


 矢は魔力で作られた矢の様で、次々と放ってきます。狼の兵士が登って来る梯子を壊そうとした兵士たちも、矢に射抜かれ倒れてしまい、そこから狼の兵士が登って来ました。


 周りの兵士たちは登って来た狼の兵士に戸惑いながらも、攻撃を仕掛けます。しかし、狼の兵士の素早い動きを捉える事は出来ずに、逆にアックスで兵士たちを切っていきます。


「私が行きます! 魔法師部隊は空に飛ぶ敵を落としてください! ローデン! あの巨大な兵士を頼みます!」


「姫!」


 後ろでローデンが叫んでいますが、あの狼の兵士の相手が出来るのは私でしょう。これでも、ローデンよりは強い身です。


 身体強化を発動し、魔剣であるシルフィーレを発動。剣身に風を纏わせます。私は狼の兵士に向けて刺突を放ちます。


 狼の兵士は慌てる事なくアックスで防ぎ、空いている右腕を振って来ました。私はしゃがんでそれを避け、下からシルフィーレを切り上げます。


 狼の兵士は後ろに跳んで私の剣を避けました。やはり動きが速いですね。しかし、魔獣の力を宿しているのは厄介ですね。


「では、兵士たちも動かすとしますか。ゼファー将軍」


「ふん、全軍、攻撃を再開せよ!」


 ……これは、かなりまずいですね。

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