黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

170話 最悪な報告

「父上、どこへ飾りましょうか? やはり、良く見える入り口がよろしいですかね?」


「ウィリアムよ、少し落ち着くといい。まずは誕生日の贈り物ありがとう。中々良い物を贈ってくれた」


「はい! 父上、母上にも聞かせて差し上げたいですよ、私とグラモア、フェリエンスの3人で行った熱い戦いを!」


 興奮冷めないウィリアム王子に、いつ言い出そうか迷っている国王陛下。これは面倒な事になったなぁ。国王陛下が、俺の贈り物の事を話せば、100%恨まれるのはわかり切っている。だから、国王陛下も言いあぐねているのだろう。


 他の貴族が贈った剥製も大体がCランクだ。普通に魔獣を討伐するよりも、剥製にするため傷をほとんど付けずに倒さないといけないため、兵士を使うにしても、冒険者に依頼するにしても、かなりの被害と金がかかる。


 なので、それ以上の魔獣の剥製には金と命がかかるので、人気とはいえ、剥製にする人はいない……普通であれば。


 俺の場合は、遠征費と兵士たちの給与と剥製代しか払わなくて良いからな。あっ、でも案内役にかなり払ってしまったか。


 まあ、取り敢えず剥製の贈り物というのに絞ると、俺の地竜の頭の剥製が1番だと思う。ウィリアム王子も普通の貴族が贈ったとなれば諦めると思うが……俺だからなぁ。


 ヴィクトリアの子女情報網で聞いたけど、姉上を国外追放で追いやった俺を恨んでいるようだし、全くそんな事は考えていなく愛して結婚したが、ヴィクトリアと結婚した事を、自分への当て付けのように考えているとか。結婚式でも色々と面倒な事してくれたし。


 出来れば国王陛下には黙っておいて欲しいけど、まあ、無理だよな。会議室で飾っているので、ある程度の人は知っているようだし、ウィリアム王子も直ぐに見る事になるだろう。


 いずれ知られるのなら、逆にみんなの前で知られた方が、面倒な事にならなくて済むかな? そんな事を祈りながら、国王陛下たちの話を聞いていると、横合いからレイブン将軍がやって来た。見た事もない程怖い顔をして。


「……何かあったのかしら?」


「わかりませんが、レイブン将軍のあのような表情はあまり見た事がありませんね」


 ヘレネーもヴィクトリアも同じ様に感じた様だ。レイブン将軍の話を聞く国王陛下の顔が段々険しく、苦々しい表情に変わっていくのがここからでもわかる。確実に何かあったな。


「レイブン将軍よ、来た者をここに」


「はい」


 レイブン将軍は再び戻ると、1人の兵士を連れて来た。かなり疲労で疲れている。かなり急いで来たのだろう。


「陛下に報告を」


「はっ! 申し上げます! 本日より5日前、パトリシア様が治めますグランテ砦に、ブリタリス軍、ゲルテリウス軍が侵攻しているのを確認致しました! 数はブリタリス軍が3万、ゲルテリウス軍が2万程になります!」


 兵士の言葉に、言葉を失う貴族たち。これはとんでもない事になったな。これは直ぐに東に兵を送る事になるだろう。


 そう考えていたら、別の兵士が慌てて入って来た。あれは確かレイブン将軍の副官の1人だったよな? その後ろに先ほど報告して来た兵士と似た格好をした兵士がいた。これは嫌な予感しかしないぞ。


 国王陛下もその兵士の話を聞いてか、頭を抱えてしまった。そして先ほどの兵士と同じ様に報告させると


「報告致します! 北のバルスタン公爵が治めますゲルテリウス王国との国境砦へ、ゲルテリウス軍が侵攻! 数は2万です!」


 兵士の言葉に流石に我慢が出来なかったのか、貴族たちの中から悲鳴が聞こえる。これは冗談抜きで国の存亡がかかっているぞ。


 慌てふためく貴族たち。特に戦争に参加した事のない貴族たちは、既に停戦の話をしたりしている。そんな事をすれば、とんでもない条件をふっかけられるのがわかっているというのに。


 まずはかなりの確率でパトリシア様が捕虜になるだろう。下手すれば兵士たちの慰み者だ。更に侵攻は止まらないだろう。国の領地の殆どが攻められ、蹂躙される。


 今直ぐにでも自分の領地へ逃げようとする貴族たち。そこへ


「静まれい!」


 大声で怒鳴る声が会場中に鳴り響く。一瞬で静まる貴族たち。声の主は勿論国王陛下だ。国王陛下は俺たちを見回してからレイブン将軍の方へと向く。


「レイブン将軍よ、お主はどう考える?」


「はっ、恐らくですが、北の侵攻は、バルスタン公爵を釘付けにするための陽動でしょう。北には1万5千の兵がいますので、余程の事が無い限り落ちる事は無いでしょう。本命は2国の連合軍なのは明らか。東は国から兵士を送らなければ、1万程しかいませんから」


「そうだな。今すぐ国軍を動かすにはどのくらいかかる?」


「早くても3日はかかるでしょう。数は2万程になります」


「2日で終わらせるのだ。急げば1週間で辿り着ける筈だ。リストニック侯爵も直ちに増援の準備を、お主の領地にも増援の要請は行っている筈だからな」


「は、はっ! 了解致しました」


「セプテンバーム公爵は、友国のトルネス王国に救援の要請を。それから国内の治安維持のために兵士の派遣を頼む。国軍がいない間に、盗賊たちは動くだろうからな」


「了解致しました」


「それからレイブン将軍よ。先立って兵士を送る事は可能か?」


「……3千なら可能でしょう。本日の警備のために待機させている兵士を動かせば」


「なら、直ぐに準備を。その3千を率いる将は……」


 国王陛下はそう言ってウィリアム王子を見るが、ウィリアム王子は攻め込まれているという事に萎縮して顔を青くしていた。


 それを見た国王陛下は首を横に振る。挽回のチャンスとは思ったのだろうけど、前みたいな戦いではなく、国がかかった戦争だ。私情は挟まなかった。


 そして、何故か俺を見てくる。だけど、隣に並ぶヴィクトリアとヘレネーを見ると、同じ様に首を横に振った。多分、2人のお腹に俺の子どもが宿っているからだろう。


 俺も2人の出産には立ち会いたいから戦争なんて行きたく無い。下手すれば死んでしまうし、子どもたちに会えなくなるのは嫌だ。


 だから……

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