黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

149話 日が経ち……

「放てぇぇ!」


 グリムドの号令で一斉に放たれる矢。矢は山なりに飛んで行き、そして俺たちの方へと走ってくる盗賊たちへと降り注ぐ。


 盗賊たちは、全員が盾を持っているため、盾を上に掲げて矢を防ぎながら走ってくるが、そこに他の矢とは比べ物にならないほど、強力な矢がら一筋の軌跡を描いて、突き進む。


 その矢は、吸い込まれるように突き進み、盗賊の中でも一際大きな体をしている男の右目へと突き刺さり、頭を貫通した。


 先ほどまで手に持つ斧を空に掲げて走って来た男に、突然矢が刺さった事に驚く周りの盗賊たち。そこにさらに矢が降っていく。


 とつぜんリーダー格の男が死んだ事により、慌てふためく盗賊たち。そこにグリムドが


「突撃!」


 号令をかける。歩兵200人、騎馬兵100人が一気に盗賊たちへと攻め立てる。盗賊たちはあっという間に取り囲まれ捕まった。


「この半年で大分様になったな」


「ええ。数は領地にいる分を合わせても、1000人ほどですが、練度は普通の兵士たちには負けません」


 俺の隣でそう言うグリムド。盗賊たちを縛る指示は、半年前に部下になったグレイブが出している。彼を部下にしてから、既に半年が過ぎようとしている。


 この半年間は、貴族として慣れるのに精一杯だった。なんせ、貴族の事なんか全くと言っていいほど知らなかったからな。ヴィクトリアやヘレナ、ミネルバがいなければ難しかったぞ。


 アルノード子爵領も、領主の交代があって少しの間、ざわついていた雰囲気があったが、半年も経つともうそんな事で悩んでいる人はいない。


 今では周りの貴族ともいい関係を築けて、仲良くさせて貰っている。ただ、この半年間で面倒だったのは、何故か数の増えた盗賊団の対処だ。


 アルノード子爵領は、元々領主が突然去って行ってしまったため、いろいろな事が不安定だったそうだ。前に聞いたように、やる気のない門兵のせいで簡単に中に入れたりもするとか。 


 俺たちはそんな風に入って来た盗賊をこの半年間、討伐し続けた。そこまで大きな盗賊団はあらわれなかったが、それでも10人近くの武装した男が、街道などに現れたら、普通の人間では、ひとたまりもない。
  
 そんな暮らしをしていたら、半年があっという間に過ぎ去ってしまった。そんな事を考えていたら


「それでは、帰りましょうか」


 と、グリムドが言ってくる。盗賊たちも全員縄に縛られたようだ。盗賊たちのアジトを見て、特に怪しいものは無かったので、そのまま街へ戻る。


 最近のアルノード子爵領は、少しお祭り騒ぎとなっている。理由は、来週俺の誕生日だからだ。そして、それに合わせて、結婚式が開催される事になっている。


 そのため、ヴィクトリアとヘレネーもてんやわんやといった風だ。彼女たちとセプテンバーム夫人に殆ど任せている状態なのは心苦しいが、準備は女性がするものだと言い張って手伝わせてくれないのだ。


 俺がやる事といったら、精々各貴族に招待状を送るぐらいだ。後返事を見るくらい。


 俺の結婚式はかなりの人数が集まる。理由は、アルバスト陛下が参加するからだ。


 本来なら子爵の結婚式に国王が参加する事は無く、代理などを出すのだが、俺とも知らない間柄では無いし、それにヴィクトリアの結婚式だ。


 昔から4人目の娘のように思っていたヴィクトリアの結婚式には参加したいと、手紙が送られてきたのだ。ヴィクトリアが嬉しそうに涙を流していたのを思い出す。


 でも、そのおかげでクリスチャンも大忙しだ。子爵領にそんな人数を呼べる程の建物は無いからな。今回のためだけでは勿体無いので、今後も使えるようにと屋敷を増築したりして、嬉しい出費ですね、と泣いていたな。


 屋敷に戻ると、門のところにはヴィクトリア、ヘレネーが先頭に、ロナ、ヘレナ、ミネルバ、マリー、ルシーが並び、更に他の侍女たちが並ぶ。中には半年前にグレイブと一緒に来たミレイナも混ざっている。


「お帰りなさい、レディウス。今日も怪我がなくて良かったですわ」


「ふふ、当たり前よヴィクトリア。レディウスがそう簡単に傷を負うわけないじゃ無い」


「それは、わかっているのだけど、やっぱり心配じゃ無い」


 俺の事を心配してくれるヴィクトリアと、俺の実力を信頼してくれるヘレネー。どちらも嬉しいから掴み合いはしないでくれ。まあ、じゃれているだけなのだろうけど。


「お帰りなさいです、レディウス様。今日はお客様がお越しですよ」


 そんな2人を見ていたら、ロナが俺の側まで来てそう教えてくれる。お客様? 一体誰だろうか?


「そうですよ! 私もあの伝説の方に初めて出会いましたよ! ヘレネー様があれほど強いのも頷けます!」


 ミネルバが興奮したように話す。今の話を聞いて俺は1人の人物が思い浮かんだ。ヘレネーを見ると、ヘレネーも頷いている。


 俺は足早に屋敷に向かう。客間にいるというので、俺はどこにも寄らずに真っ直ぐと客間を目指す。そして客間の前に立つと深呼吸。ふぅ、あの人と出会うのも2年ぶりか。少し緊張してしまうな。


 俺は扉をノックすると、中から返事が聞こえてくる。ゆっくりとドアノブに手をかけ、扉を開けると、中には


「久しぶりだね、レディウス」


 膝の上に乗せたロポをゆっくりと撫でながら、優雅に紅茶を飲んでいる、俺の命の恩人で俺の師匠でもある、俺の頭の上がらない人物。ミストレア・ラグレスが座っていた。

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