黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

146話 盗賊討伐

「あの山に根城があるようです」


 俺の隣で馬に跨り、そう呟くグリムド。俺たちの後ろには兵士が100人ほど。俺もブランカに乗って、山を見ている。


 俺たちは現在、ケントリー伯爵からの依頼である、盗賊の討伐へとやって来た。場所はアルノード子爵領とケントリー伯爵領の境界にある山だ。


 ここで、盗賊たちは拠点を築いているらしい。ケントリー伯爵も何度か兵士たちに命じて攻めたらしいが、前の話にも出て来た凄腕の弓使いのせいで、敗退を何度もしているらしい。


 理由は、隊長格を狙われるらしく、その結果、指示系統が滅茶苦茶になり、そこに盗賊たちが馬に乗って攻めて来るという。


 どれだけ隊長を隠そうにも、空いている隙間から射抜くそうで、これまで3人の隊長が殺されたという。


「確かに、この山の中から狙われたら面倒だな」


 ここからでもかすかに見えるが、山は木々に覆われ、その上、要所要所は色々と補強されている。


「さて、どう攻めるか。近づいたら矢で射抜かれるんだろ?」


「話に聞くにはそのようですね。しかし、近づかない事には捕らえようにも捕らえられません。私たちが領地を出発した事は既に知られて、向こうにも気づかれているでしょうから、守りは硬いと思われますし」


 向こうも迎え撃つ準備は出来ているわけか。それならば


「わかった。俺が囮になろう」


 その百発百中の弓兵にも興味がある。それから、後ろで見ている兵士たちに、ある程度の実力を見せておかないと舐められるからな。


 俺はブランカを歩かせる。グリムドはやれやれといった感じで、後ろで戸惑っている兵士たちへ次々と指示を出す。


 俺は魔闘眼を発動して、腰にあるレイディアントを抜く。さすがに馬に乗った状態で両手に剣を持つのは難しいからな。


 俺はブランカを走らせる。ブランカは嫌々そうながらも、走ってくれる。こいつが俺に懐いてくれるのはいつになるのだろうか。


 その時、俺の視界に一筋の光が目に入る。俺は限界まで目に魔力を集める。光り輝くそれは、俺の脳天目掛けて飛んで来た。


 俺は即座にレイディアントで飛んで来たものを切り落とす。俺は振り返らずにそのままブランカの走らせる速度を上げるが、さっき飛んで来たのは見るまでもなく矢だ。早速のお出ましか。


 今度は大量の矢が飛んで来た。これはさっきのやつじゃなくて、数で攻めて来たわけか。俺は明水流の矢流しを発動。俺の体に降り注ぐ矢を逸らす。そこで俺はブランカにも魔力を流す。


 ブランカは、俺の魔力が流れると、ビクッと震える。そして、何すんのよ、と俺の方を見て来る。お前、走ってるんだからしっかり前見ろよ。危ないだろ。


 俺が顎で前を向け、と指示を出すと、ブランカは嫌々そうに前を向く。お前を守るために魔力を纏わせているのだから少し我慢しろ。


 そこに、再び先ほどの鋭い矢が飛んでくる。先ほどとは違って、別々の方向から3本も。しかも矢に魔力を纏わせている。これは……纏か!


 矢はそれぞれ弧を描きながら俺目掛けて飛んで来た。自分の手元から離れるものに纏をするのは難しいとミストレアさんは言っていたが、これはかなりの技量だ。矢流しでは防ぎ切れない。


 俺は風切を発動して、2本撃ち落とす。残りの1本は避ける。俺の後に続く兵士たちは盾を上に向けて降り注ぐ矢を防ぐ。運が悪く当たる奴もいるが、まだ死人は出ていないようだ。


 俺は1人だけ森へと入る。森の中へ入っても、ブランカは速度を落とす事なく駆け抜ける。だけど、木々がおいしげる森の中でこの速度で走らせるのはブランカにもキツイだろう。


 次第に行く手を阻むように罠が現れる。ブランカは簡単に避けるけど、後ろでは巻き込まれる兵士も。本来ならそこに矢を放って来るが、俺が先行しているせいで、後ろの兵士より、近くの俺を狙って来る。


 鋭い纏の矢も俺を狙って来る。近づくにつれて鋭さも増して来る。そろそろブランカに乗って走るのはキツイな。


「ブランカ、降りるぞ」


「ブルゥゥ」


 俺はブランカから飛び降りる。地面に着地する瞬間、勢いを逃がすために何度も転がる。そして、そのまま纏を体中に張り巡らせ駆け出す。


 腰のシュバルツも抜き、飛んで来る矢を切り落とす。そのまま駆け出すと、見えて来る盗賊たちの本拠地。そこでは慌てる盗賊たちの姿が見える。ここまで近づかれた事が無いのだろう。


 俺が近くのを阻止しようと、大量の矢が俺に向かって降って来る。その中でも一際鋭い矢が。俺はなんとか弾きながら、飛んで来た方を見ると、その中で茶髪の男が弓を構えて俺を見ていた。あいつが凄腕の弓兵か。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品