黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

144話 屋敷へ

「母上、お久しぶりです。お元気にしていましたか? 俺は何とか元気にしております」


 俺は目の前にある母上の墓石に跪いて黙祷を捧げる。前にここに来た時は、戦争の前だっけな。あの時はロナと一緒に来たんだ。だけど、今日はヘレネーにヴィクトリア、ロナ、ヘレナ、ミネルバ、フランさん、マリーさん、ルシーさんも一緒に黙祷を捧げてくれる。


「初めましてお義母様。私の名前はヘレネー・ラグレスと言います。レディウスの妻の1人です。これからは家族一丸となってレディウスを支えて行きますので、見ていて下さい!」


「初めましてお義母様。私の名前はヴィクトリア・セプテンバームと申します。レディウスの、つ、妻の1人です。ヘレネーより愛してます。これからレディウスを支えて行きますので、どうか見守っていてくだ……ひゃいっ!? な、なにをしゅるのでしゅぅ!」


「何をってこっちの話よ! 私の方がレディウスを愛しているわよ!」


 ……突然暴れるなよ2人とも。2人とも俺の事を愛してくれているのはわかっているから。それからみんなが母上に挨拶をしてくれた。


 その時に心温かい風が俺たちを包む。もしかして、祝福してくれているのかな? ヴィクトリアとヘレネーも大人しくなって左右から俺の手を掴む。これからも見守って下さい。母上。


 俺たちはお墓を後にして、元グレモンド男爵の屋敷へと向かう。時折、先に派遣したクリスチャンさんから手紙が送られて来るので、ここにいるはずだ。前触も出してあるしな。


 クリスチャンさんの冤罪かどうかの話は、国王陛下が調査を命じてくれて、その結果疑いが晴れたらしい。その後は学園に入学している俺の代わりに、領主代理としてアルノード子爵領を治めてくれている。


 俺が来る事を前触れしたせいか、町の人々が俺たちを見て来る。俺は町の人々の視線に晒されながらも歩く。ヴィクトリアたちが作った黒一色のマントを翻し。


 振興貴族には、その家を表す家紋というものがいるらしく、みんなであーだ、こーだと考えたのだ。その結果決まったのが、俺の髪を表す黒色となったのだ。そしてその中心に交差させる二本の剣。これは俺が二本使うからだな。


 そんなマントを羽織っている俺。黒髪黒目で黒いマントを羽織って、全身が黒い俺。そんな俺を周りが見ないわけもなく。


 ただ、見られている理由の1つに綺麗な人たちが周りにいるのも理由だ。みんな負けず劣らず美人だからな。男たちは目を離す事が出来ない。


 ぼーっと見て壁に激突する人や、看板にぶつかる人、よそ見している人同士でぶつかる人も、身過ぎて女性に殴られている人もいる。


 ふふ、この内の2人は俺の妻なんだぞ、と少し優越感に浸りながらも進んで行くと、懐かしい屋敷が見えて来る。懐かしいな。やっぱり変わっていない。良くも悪くも俺が育った場所だ。


 屋敷に近づくと2人の男が屋敷から出て来る。1人は当然先に行かせていたクリスチャンさんだ。変わらずの金髪のオールバックでにこやかに頭を下げて来る。ただその隣には


「えっ? どうしてここにグリムドさんが?」


 そう、本来ならセプテンバーム公爵領にいるはずのグリムドさんが、目の前にいたのだ。俺はヴィクトリアに振り返ると、ヴィクトリアは知っていたのかクスクスと笑っている。


「ここにいる理由はまず、アルノード子爵の馬であるブランカを連れて来たのと、私はヴィクトリア様の護衛だ。ヴィクトリア様がここにいるのに私が離れるわけには行かないだろう。これからよろしく頼みますよ、アルノード子爵よ」


 ニヤッと笑みを浮かべ頭を下げて来るグリムドさん。これは一本やられたな。だけど、この人がいるなら心強い。グリムドさんは軍の知識もあると言う。彼に軍部を担って貰えば。


「わかった、これからよろしく頼みます、グリムドさん。それから俺がいない間、この領地を治めてくれて有難うございます、クリスチャンさん」


「何、私はご領主の命令に従ったまでです。それより、我々部下に頭を下げるものではありませんぞ」


 確かにその通りだな。これからは俺が位では上になるんだ。ただでさえ年が若くて舐められる事があるのに、部下に敬語や頭を下げる事はあまりしない方がいいな。


「わかった。これからもよろしく頼むぞ、グリムド、クリスチャン」


「「はっ!」」


 俺はみんなを連れて門をくぐる。中へ入ると、見覚えのある侍女たちが数人ほど。兵士も見覚えがある。みんなも俺に気が付いたのだろう、驚きに目を開きそして顔を逸らす。


 中には実際に俺に手を出して来た奴もいるからな。後ろめたいのだろう。俺の事を知らない侍女などは、ただ俺の髪が黒髪の事に驚いている。そういえばこの家には家令がいなかったな。


 俺は全員が入れる広間に入る。ここは貴族などを呼んでパーティーなどをする場所だ。そこで俺は1番前に行く。隣にはヴィクトリアとヘレネー、後ろに他のみんなが並ぶ。


 何を言われるか不安に思っている侍女や兵士たちに俺は言う。


「俺の事を知っている者もいるとは思うが、ここで自己紹介をしておく。俺の名前はレディウス・アルノード。国王陛下より子爵を賜り、この領地を治る事になった。よろしく頼む。
 まず初めに言っておくが、昔の事は気にしない。俺を助けなかった者や殴った奴もいるだろう。全て水に流す。その上で残りたい者は残って、俺の下で働けない者は、出て行ってもらっても構わない。どうする?」


 俺の言葉に迷う、侍女や兵士たち。俺の事を知らない者は何を言っているのかわからないようだが、俺の事を知っている者たちは皆安堵の表情を浮かべる。


 みんなに水に流すとは言ったが、それは昔の話だ。もしその事で何かふざけた事を言ってくる奴がいたら容赦はしないが。


 全員が俺に頭を下げたので、そこから人事を話す。グリムドのの事は予想外だったが、良い方での予想外だ。


 グリムド・ベイク 
 アルノード子爵領兵団長


 フラン
 アルノード子爵領魔法師団長


 クリスチャン・レプナレス
 アルノード子爵領内政・外政担当


 ヴィクトリア・セプテンバーム
 アルノード子爵第1夫人(表向き)・領主代理


 ヘレネー・ラグレス
 アルノード子爵第2夫人(表向き)・有事兵団長


 ロナ&ミネルバ
 領主補佐・近衛


 マリー
 筆頭侍女長


 ヘレナ&ルシー
 侍女長補佐


 ざっと、こんなものだろう。フランさんが、顔を青くして私に務まるのかと考えていたが、フランさんの実力は俺も見せてもらったが、中々のものだった。謙遜する事はない。


 取り敢えず今日から頑張っていかなければ。まずは近隣貴族に挨拶をしなければ。

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