黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

116話 気が付けば……

「ちっ、何なんだよあいつら! レディウスが倒したって言っても信じねぇしよ!」


 そう言って、俺の前を歩くガウェインは地面に転がる石ころを蹴飛ばす。かなり苛立っているようだ。


「まあ、それは仕方ないだろう。ギルドの人たちも黒髪の俺が倒すなんて思ってないだろうし」


「レディウス。お前がもっとはっきり言わないからだぞ。お前がちゃんと言えばギルドの奴らだって信じたはずだ」


 おっと、どうやら俺に対しても怒っているようだ。なんで、ガウェインがここまで怒っているかは、少し時間が遡る。


 ◇◇◇


「やっと帰って来たぁ〜!」


 馬車から降りると俺の隣で突然叫び出すガウェイン。まあ、気持ちもわからん事は無いが、せめて人がいないところでしてくれよ。ギルドの前の道でそんな大声で叫ばれると、みんなが見て来るだろ。


「ははっ、それじゃあ中に入ろうか」


 苦笑いしながらギルドの中へ入るアルフレッド。俺がオークキングを倒してから既に6時間が経っている。


 朝にギルドに行って、それからアルフレッドたちと目的の村まで行くのに2時間。棲み家を探すのに1時間。それらを合わせると既に9時間は経過した。


 空も既に太陽が傾いて来た時間帯だ。後3時間ほどで夜になってしまう。


 オークキングを倒してから俺たちは、オークたちの住処を探索する事にした。理由はオークの残りがいないかと、女性冒険者ように囚われている人がいないかを確認するために。


 その時の俺は正直役立たずだった。オークキングとの戦いで魔力を使ってしまって体が上手く動かさなかったのだ。


 まあ、他のみんなが逆に休んでくれと言ってくれたので、お言葉に甘えて休ませてもらったが。その間、何故かメイリーンが眠たそうな目で俺をジッと見て来たのは不思議だったが。


 洞窟の中には残りのオークたちがいたが、アルフレッドたちが全て倒していた。


 その奥には、囚われていた女性たちがいたが、とても悲惨なものだった。みんな正気は失っており、側には生まれたばかりのオークたちが、もう動かなくなった女性たちを食べていたのだから。


 全員で、残りのオークを殺して、女性たちを確認したが、みんな返事が出来ないほどだったので、この洞窟を燃やす事にした。


 アルフレッドは助けられるとか甘い事を言っていたが、俺はそれを無視して、生きたまま焼かれるのは辛いだろうから、黒剣を抜いて、一人一人介錯していった。


 後ろでアルフレッドが怒鳴っていたが、ロンドルが途中で止めていたな。洞窟を燃やすのは、俺は魔法が使えないため、メイリーンがその役をやってくれた。


 その後は麓の村でに報告して、王都まで帰ってきたってわけだ。


 ギルドの中へ入ると、受付嬢がアルフレッドたちに気が付き、直ぐに職員専用の扉の向こうに行く。大方、ギルドマスターでも呼びに行ったのだろう。


 少し待つと、扉が開かれギルドマスターがやって来る。そこからアルフレッドが調査の報告を始めた。初めの方はギルドマスターも黙って聞いていたのだが、流石にオークキングの辺りは黙っておく事が出来なかったようだ。


 何か証拠になる物は無いかと、聞かれたアルフレッドはアルフレッドが使える闇魔法、アイテムボックスからオークキングの死体を出した。


 中々グロい光景のまま保管していたので、受付嬢は腰を抜かして、冒険者たちは顔を青くする。


「おおっ、これはまさしくオークキング! 流石アルフレッドだな!」


 だけど、ギルドマスターの言葉を皮切りに周りがみんなアルフレッドを褒め称える。アルフレッドはどうしようかと迷っているが、ロンドルが


「待ってくれみんな。これを倒したのはアルフレッドじゃねえ。あそこの黒髪の少年、レディウスだ」


 と、本当の事を話た。ロンドルの言葉に一斉に俺の方を見るみんな。みんなジッと俺の方を見るが、次第に


「あっはっはっは!」


 と、笑い始める。


「ロンドル! 冗談が上手いじゃないか!」


 男冒険者がロンドルの背中を叩きながらそんな事を言っている。メイリーンやシャルンも俺が倒したと言ってくれるが、周りは一向に信じない。


 そして、俺の隣でイライラとしているガウェイン。はあ、面倒だな。


「それじゃあ、アルフレッド、俺は失礼するよ。今日のは良い経験になった」


 面倒だからギルドを出る事にした。俺の発言に驚くガウェインたちと、確かにオークキングを見るのは良い経験だったな、と馬鹿騒ぎする冒険者たち。そんな声を背に受けて俺はギルドを後にした。


 ◇◇◇


 これが、ガウェインが怒っている理由だ。


「そんな怒るなよガウェイン。別に良いんだよ、ギルドの評価なんて」


 俺がそう言うと、隣を歩くガウェインは、何言ってんだこいつ? って呆れたような顔で俺を見て来る。殴ってやろうか、この野郎。


「俺の目的のために貴族になる事が達成出来た今、別に冒険者として名を上げなくても良いんだよ。まあ、オークキングと戦えたのはかなりの収穫だったが」


「……はぁ、お前がそう言うなら良いけどよ。俺が倒したわけじゃねえし。でも、確かにオークキングと戦っているときのお前は楽しそうだったけどな」


「楽しそう?」


 一体どう言う事だ? 意味もわからずに尋ねてみると


「なんだ、気が付いてなかったのか? レディウス、オークキングと殺り合っている時物凄く笑ってたぞ。楽しそうに」


 ……それは気がつかなかったな。命を懸けた戦いで気分が高揚しているのはわかったが。


 それから、俺たちは少し王都を探索する事にした。アルバスト王国には無いものが置いて合ったりするので、楽しみながら、色々な店をブラブラして、王宮へと戻った。


 王宮に戻ると、ヴィクトリアが俺たちの帰りを待っていた。どうやらアルフレッドたちはあの後すぐに帰ってきたようで、いない俺たちを心配してくれたようだ。


 そして、どこで何をしていたのかを聞かれたので、正直に答えると、気が付けば明日、ヴィクトリアとも行く話になっていた……あれ?

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