黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

113話 洞窟の奥から

「女性を離せ、オークども!」


 オークに捕まっている女性を見て、森から飛び出すアルフレッド。一瞬驚いたが直ぐにアルフレッドの後を追うロンドル。愛用の武器を持ち嬉々として飛び出すシャルン。俺たちの事を哀れみの視線を向けてくるメイリーンに慌てて後を追いかけるビーンズ。


 アルフレッドは自分の剣に雷を付与している。あれは風と光の複合魔法、雷魔法か。


「ブモォ!?」


 森から突然出てきたアルフレッドに驚きの声を上げる女性を担いだオーク。アルフレッドは気にする様子もなくそのオークに切りかかる。オークは抵抗する事なく切り落とされた。


 アルフレッドは、オークが死んだ事で、地面に落とされる女冒険者を紙一重で抱き止める。当然、見張りのオークも敵襲に気が付いたので、泣き叫びながらアルフレッドへ剣を振りかぶる。だが


「させるかよ!」


 縁の下の力持ち、ロンドルが愛用のバトルアックスをオークよりも振り下ろす。オークの後ろから振り下ろされたバトルアックスは、抵抗を感じる事なくオークの首を切り落とした。まるで処刑人だな。


「ふふふっ、血が滾りますわ!」


 シャルンは2体いたうちの片方に向かって鞭を振る。鞭を振った瞬間、鞭に火魔法が付与されまるで蛇のように動く。


「行きなさい、炎蛇鞭!」


 炎の鞭はオークに巻きついて燃やしていく。オークは断末魔を上げ、逃げようと暴れるが、きつく締められているのか解くことが出来ずにそのまま燃やされる。


「大丈夫か!?」


 アルフレッドはそのうちに女冒険者を縛っていた縄を切り、猿轡を取る。女冒険者は自分が助かったのがわかると、涙を流しながらアルフレッドに抱き着いた。アルフレッドも抱き締め返す。だが、そう悠長にしている時間は無かった。何故なら


『ブモゥオオオオオオオオオ!!!!!』


 洞窟の中からかなりの数のオークが現れたからだ。それも当然か。あれほどオークの叫び声が聞こえたんだ。出て来るのは当然だ。だが慌てる事なくメイリーン、ビーンズが洞窟に向けて魔法を放つ。


「ファイアバレット」


「アースバレット!」


 それぞれ魔法を放ってオークを牽制する。その間には俺とガウェインも森から出て行く。


「アルフレッド、どうする?」


「このまま、行こう。君は歩けるかい?」


「は、はい、大丈夫です」


「申し訳ないがもう少し我慢してくれ。なぁに、私たちの側にいれば安全さ!」


 アルフレッドは笑顔でそんな事を言う。それを見ていた女冒険者は顔を赤く染めて何度も頷く。なんだかなぁ〜。


 だけど、バレてしまったのは仕方がない。俺も同じ事をしていただろう。ガウェインを見ると、ニヤリと笑みを浮かべながら剣を抜き盾を構える。やる気満々だな。俺も黒剣を抜く。


「ふふん、もしよろしければあなたたちは後ろで震えて見ていて下さってもよろしいのですわよ?」


「へっ、勝手に言ってろ、金髪ドリル女。俺たちの実力を見せてやる!」


 そう言って睨み合う2人。だから張り合うなよお前ら。俺は苦笑いをしながらも、纏を発動。さてと、俺もやりますかね。


 オークの集落なんて、最後の卒業試験以来だな。あの時は200ぐらいだったか。俺は昔を思い出しながら走り出す。


 一番近くのオークの両手を切り落とし、腹を思いっきり蹴り飛ばす。魔闘脚をした蹴りで、蹴られたオークの腹は陥没して吹き飛ぶ。脂肪と筋肉の塊のオークは一体で100数十キロ程の重さがある。そんなオークが飛んできたら


 グシャ


 と、潰れる音がする。蹴り飛ばされたオークと他のオークがぶつかった音だ。中々グロいな。


「フュー、やるじゃねえか!」


 後ろでロンドルが賞賛の声を上げるが、俺は気にせず洞窟のオークたちに向かう。ガウェインも俺について来る。


 当然、オークたちも俺たちに向かってきた。怒りの声をあげながら殴りかかって来る。俺は頭を下げて拳を避け、足を切り裂く。バランスを崩したオークは前に倒れるので、その途中で剣を振り下ろし首を切り落とす。


 別のオークが棍棒を横振りしてきたのを、体を後ろに逸らして避ける。そのまま体を起こす勢いを利用して、突きを放つ。顔面に何度も突きを放ち、顔面は吹き飛んだ。


「これは負けていられないな! ロンドル、いつも通り頼む!」


「はいはい、わかりましたよ」


 アルフレッドは、女冒険者を後ろから援護をしてくれるメイリーンとビーンズの下に連れて行き、俺たちと同じように洞窟へ走り出す。ロンドルは、はぁ〜、と溜息を吐きながらも、そんな後衛組の2人の前で護衛のように立つ。シャルンは1人で突っ込んでいる。


「ライジングエッジ!」


 アルフレッドはバリバリとなる雷を付与した剣で次々とオークたちを切っていく。麻痺効果でもあるのか、オークは触れるだけで体をビクッとさせて硬らせる。その隙にオークの首を切ったり、心臓を刺したりする。


 後ろからメイリーンたちの的確な援護で俺たちは囲まれる事なくオークを倒して行くことが出来る。これなら、倒せるか。そう思った時、洞窟の奥からヒュッ! と何かが飛んで来る音がする。


 その正体にいち早く気が付いたのはガウェイン。そして俺も気が付いた。飛んできたのは俺たちの体以上の大きさの岩だった。それがガウェインの走る先、シャルンの方に向かって飛んで来る。シャルンはオークを倒すのに集中して気が付いていない。


「金髪ドリル女!」


「あなた! また私の髪をそん……きゃあ!」


 ガウェインはシャルンを押し倒す。その瞬間ガウェインたちの上を巨大な岩が通り過ぎる。……危なかった。ガウェインが気がつくのが遅ければ、シャルンは岩で潰れていただろう。


 シャルンもようやく自分の身に何が起きたのかわかったのか、顔を青くさせる。そして


「ブルゥアアアアア!」


 一体のオークが出てきた。しかし、それはただのオークではない。オークの倍以上、4メートル近くはある大きさ。俺たちの胴回り以上に太い腕。俺たちの身長程の大きさの大剣を軽々と振る。


「……なっ、ま、まじかよ、おい」


 ロンドルも額から冷や汗を流している。今まで色々なオークの集落を行ったことはあるが、俺も見るのは初めてだ。まさか、こんな奴がいるなんてな。


「ランク……Aランク……オークキング」


 そこには、俺たちを食料にしか思っていない化け物が立っていた。

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