黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

109話 庭で

「早速本題に入るけど、まあ、簡単に言うとこの子は魔眼持ちなのよ」


「魔眼持ちですか……」


 ようやく、ベアトリーチェ様の話になったと思ったら、いきなりとんでもない事を教えてもらったな。まさかの魔眼持ちだったとは。


「トルネス王国の王家には、何代かに1人同じ魔眼が現れるらしいのよ。そして久し振りに現れたのがこの子なの」


 フローゼ様は優しくベアトリーチェ様の頭を撫でる。ベアトリーチェ様も気持ち良さそうだ。


「その魔眼というのは?」


「現れる魔眼は毎回同じで色別眼という魔眼よ。相手の心や性格などを色で見る事が出来るみたい。例えば悪人とかだったら、暗い色だったり、黒に近い色だったり。逆に優しい人や信頼出来る人だと明るめな色が多いみたい」


 へえ〜、そんな魔眼があるんだな。しかも王家に代々伝わるものみたいだし。


「ベアトリーチェ、アルノード男爵は何色が見える?」


「……あか……」


 赤色か。これは何を意味しているのだろうか?


「赤色ねぇ。赤色といえば情熱の色じゃないの。ねえ、ヴィクトリア?」


「ふぇ!? ど、どうしてそこで私に振るのですか!?」


「いえ。だってねぇ」


 フローゼ様はヴィクトリアの方を見て何故かニヤニヤする。一体何なんだ?


「まあ、その魔眼でアルノード男爵が悪い人じゃないってわかったのよね?」


「ん」


 そこで、我慢出来なくなったのか、ベアトリーチェ様は座っていた場所から立ち、俺の下までトトト、と駆け寄り、俺の膝の上に乗った。無表情ながらもドヤ顔をしてくる。


 でも、色だけで懐くものなのかな? 他にも明るい色の人はいると思うが。


「後は、見たことの無い髪の色とか、雰囲気で惹かれたんじゃないかしら? その辺りはもうベアトリーチェの気持ちの問題だから私にはわからないけど」


 そうなのか。まあ、好かれるのは悪い気はしない。俺はベアトリーチェ様の頭を撫でようと……いや、王族の頭を気安く撫でるのは駄目か。そう思って手を浮かせていると


「ふふ、撫でてあげて。ベアトリーチェも喜ぶわ」


 と、フローゼ様から許可をもらえた。俺はベアトリーチェ様の頭を撫でると


「んん!」


 俺の手のひらに擦るように寄ってきた。可愛い。


「……レディウスの膝の上……」


 ん? ヴィクトリアはジッと俺の足を見てくるがどうしたのだろうか? その表情が可愛かったので


「ヴィクトリアも座るか?」


 と、冗談で聞いてみると


「えっ!? い、良いので……いや、でも、その……」


 と、アワアワし始めた。その光景を見たフローゼ様は、再び笑い出すし。そんな風に話していたら


 コンコン


 と、扉がノックされる。フローゼ様が返事をすると、扉を開けて侍女が入ってきた。


「失礼します。フローゼ様、そろそろお時間になります」


「あら、もうそんな時間なの。ヴィクトリア、アルノード男爵。2人にお願いがあるのだけれど……」


 ◇◇◇


「待ってくださ〜い、お嬢様ぁ〜」


「ん! ん!」


「あはは、ベアちゃんは元気だね〜」


「ベアトリーチェ〜、そんなに走ったらこけるよ〜」


 元気良く走るベアトリーチェ様。その後を慌てて追いかけるベアトリーチェ様のお付きの侍女スザンヌちゃん。それを後ろから見守るシルフィオーネ様とフロイスト様。


 俺とヴィクトリアは今、王宮の庭にやって来ている。フローゼ様は今から会議に来ている貴族の夫人たちとのお茶会があるらしく、それに参加している。


 その間のベアトリーチェ様たちの面倒を何故か俺たちが任された。子供たちをお茶会に参加させるのはまだ早いし、ベアトリーチェ様たちも俺たちと一緒にいたいだろうからと。


「可愛いですね」


「ああ、そうだな」


 ヴィクトリアは走り回るベアトリーチェ様たちを見てそんなことを言う。俺も普通に返してしまった。するとヴィクトリアが急にモジモジし始めた。


「あ、あの、れ、レディウスは、子供欲しいと思いますか?」


 と、顔を赤くして聞いてくる。子供か。


「まあ、欲しいかな」


「そ、そうですか! うふふ!」


 俺が正直に言うと、ヴィクトリアは上機嫌になった。しかも、先程より少し距離が近くなっているような。気のせいか?


「くろ! ん!」


 俺がそんなヴィクトリアを見ていると、ベアトリーチェ様が手を万歳させながら俺の前に立っていた。これは抱っこしろと? それに


「ベアトリーチェ様、くろっていうのは?」


「ん? かみ!」


 ああ、髪の毛が黒色だからくろか。まあ、3歳の子にレディウスは言いづらいわな。俺が確認の意味でヴィクトリアを見てみると


「大丈夫だと思いますよ。フローゼお姉様も許してくれると思います」


 と、言われた。まあ、後で謝れば良いか。俺は前で早くしろ、とぴょんぴょんと跳ねるベアトリーチェ様を抱き上げる。右腕の上に座らせるように抱えると、ベアトリーチェ様は俺の服を力強く握って、周りを見回す。


 それに


「ああっ! ベアちゃんはずるい! レディウス、私も!」


「僕もお願い、レディウス!」


「み、皆様、そんな一斉に言っちゃあ駄目ですよ〜」


 と、おねだりをしてくる。だから俺は順番に抱き上げてあげた。もちろんスザンヌちゃんも。「わ、私は侍女なのに〜」と言いながらも嬉しそうだった。


 それから、みんなは庭で追いかけっこを始める。俺とヴィクトリアはそれを見ているだけど、楽しそうに走っている姿は本当に愛らしい。自分の子供ではないのにこんな気持ちになるなんて、子供が出来たらどうなるのだろうか? 想像がつかない。


 そんな風に見守っていたら


「おや? おやおやおや! これはこれは、フロイスト王子にベアトリーチェ王女ではございませんか! それにシルフィオーネ様も!」


 えらいでっぷりと太った男が庭へとやって来た。後ろからはその男を止めようとする侍女がやってくるが無視だ。なんだあの人は?

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