黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

99話 現れたのは

「……」


「……レディウス、何だか元気ねぇな?」


「それもそうだろう。何せ、元とはいえ、兄弟に命を狙われたのだぞ。レディウスが間に合わなければ、捕らえられていた女の子も危なかったと聞く」


「酷い話だよね〜。私たち貴族の間には稀にそういう話を聞くけど、まさか実際に起きるなんてね〜」


「……レディウス」


 みんなが俺を見ながら話している中。俺は馬車から見える景色を見ていた。


 姉上たちを見送ってから3日が経った。今日は親善戦のためにトルネス王国に向かう日だ。国王陛下も会議のために向かうので、中々の大所帯だ。


 護衛には、ブルックズ近衛騎士団長が率いる近衛騎士団が200人ほど。それに文官たちが付いてくる。それに、俺たち親善戦に参加する学園の生徒が、各学年5人ずつの計20人いる。


 合わせても、500人ほどの移動になるのだ。でもまあ、俺的には新鮮だが、国としては2年に一度ある事なので、かなり慣れている様だ。


 盗賊でも、この時期は国王陛下が乗っているのをわかっているので、襲ってこないらしい。まあ、200人もの兵士相手に向かっては来ないか。下手をすれば近くの領地貴族の兵士も加わり、全滅してしまうしな。


 この旅で、注意するのは魔獣らしい。知能の高い魔獣なら、数の差で近寄っては来ないらしいが、ゴブリンとかコポルト、オークなどは本能で寄ってくるからとか。


 魔獣さえ、襲って来なければ楽しい安全な旅だとデズ学園長は言っていたっけな。毎年通る道は決まっているみたいだから、寄る貴族領も決まっているらしい。その中にはセプテンバーム公爵領も入っているとか。


 そういえば、対抗戦が終わった後に本当は帰る予定だったらしいが、残っていた仕事を王都で終わらせている時に、俺が頼みに行ったんだっけな。後で聞いた話だが、申し訳ない事をしてしまったな。


 ロナはガラナにお願いして来た。ガラナも快く受け入れてくれたので、大丈夫だろう。フランさんも来ていたしな。どうやらこれからの事を話すらしい。今まで前衛だったクルトがいなくなったから仕方ないか。


 もし、フランさんが良ければ、今度領地に来ないか誘ってみようか。俺も親善戦から帰って来たら、旧グレモンド領、今はアルノード領に行かなければならない。


 ロナは付いてくるだろうから、結局チームとしては終わってしまう。それも全てこちらの事情で。それなら、俺が雇っても良いと思っている。ロナに聞いた話だと、フランさんの魔法の実力は中々らしい。俺もロナも全く使えないから、いてくれたら助かる。


 色々と考える事があるが、今一番の問題は……剣が無い事だ。いや、一応のやつは持っている。武器屋で一本大銀貨1枚というとんでもなく安い剣なら。


 ただ、その武器屋には他に俺にあっている剣がなくて、その場しのぎで買ったのだ。あまり手に馴染んでなくて正直にいうと気持ち悪い。


 ミストレアさんから貰った剣も、母上の形見の剣も結構しっくりきていたからなぁ。剣を持っていても寂しさを感じる。トルネス王国で、馴染む物に出会えれば良いのだけど。


「レディウス、先ほどから外ばかり見てどうしたのです? やはり、お姉さんの事を考えていて?」


 俺が剣について悩んでいると、隣に座っているヴィクトリアがそんな事を尋ねてきた。よく見れば、みんなも心配そうに俺の事を見てくる。少し考え事をし過ぎたか。みんなに心配させてしまった。


「いや、なんでも無いよ。ただ、剣をどうにかしないと、と思ってさ」


「剣?」


 俺が腰に差している剣をコンコンと叩くと、ヴィクトリアはこてんと首を傾ける。それと同時にヴィクトリアのサラサラした髪が揺れる。


「確かにその剣は、何というか良くも悪くも普通の剣だな。新米兵士に持たせるような剣だぞ。他には無かったのか?」


 俺の剣を見ただけで、ティリシアはどういう剣なのかわかったようだ。


「ああ、王都の武器屋には俺が買える範囲では手に馴染む物が無かったんだよ。手に馴染まないのに良い物買っても仕方がなかったから、取り敢えずとしてこれにしたんだ」


「なるほどなぁ。それなら仕方ねえけど、早く自分に合う物見つけた方が良いぜ? いざという時に本気が出せないとやばいからな」


「ああ、トルネス王国で探してみるよ」


 それからはみんなと今日の予定の領地に着くまで楽しく話していた。隣でヴィクトリアがボソボソと考え事をしているのには気付かずに。


 ◇◇◇


「う〜ん、レディウス様がいないと寂しいですぅ〜」


「グゥ〜」


 今日からレディウス様は親善戦というのを行うために、隣国のトルネス王国へと向かってしまいました。往復に2週間、滞在に2週間と、計6週間の長旅になります。その間レディウス様に会えないなんて〜。


 今はレディウス様のベッドの上でゴロゴロとしています。隣にはロポさんも一緒にゴロゴロとしています。フランさんは少し所用があるので、王都に戻ってしまいましたが。


「ロポさん、レディウス様のベッドの上でゴロゴロしているのは、私とロポさんだけの秘密ですからね?」


「グゥグゥ」


 ロポさんは私の言葉に、右足を上げてくれます。ふふ、可愛いですね。もしこんな姿をレディウス様に見られたら……うわぁ〜、恥ずかしいですぅ〜。たまにレディウス様がいない間に……ダメです! これ以上考えたら我慢出来ません!


 ふう、少し頭を冷やしますか。私はロポさんを抱きしめて一階へ下ります。しかし、この家も寂しくなってしまいましたね。クルトもミアさんたちに付いて出て行ってしまい、レディウス様もいらっしゃいません。私とロポさんだけです。


「寂しいですね、ロポさん……」


「ググゥ、グゥ!」


 ロポさんは私を見上げながら「俺がいるから寂しく無いぞ!」と言ってくれているようです。ふふ、確かにロポさんがいるから寂しくはありませんね。そう思っていたら、ロポさんは突然玄関の方を見ます。そして


「グウッ!」


 私の腕から飛び出してしまいました。一体どうしたのでしょうか? ロポさんが飛び出したのと同時に、叩かれる扉。誰かがいらしたのですね。ロポさんは扉を前足でカリカリとします。早く開けて欲しそうです。


 私も急いで玄関に向かい扉を開けます。ロポさんは扉が開いた瞬間飛び出して行きました。そこには


「あら、ロポじゃない。元気にしてた?」


 髪の毛は青空のように透き通るような水色の長髪をした、女の私でも見惚れるほどの綺麗な女性が立っていました。

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