黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

94話 謝罪と褒美

 おおよその話は終わり、全員が退室したところ、セプテンバーム公爵と俺が王様に呼び出された。セプテンバーム公爵はわかるが、何故俺も? と思ったが、取り敢えず付いていく。特段用事はなかったし良いだろう。


 謁見の間を出る時に、ウィリアム王太子……王子に戻ったのだったっけ。王子とリストニック侯爵に睨まれたが自業自得だ。俺は無視して謁見の間を出る。


 その時、チラッと姉上を見たのだが、どこかホッとしている様子だった。やはりグレモンド男爵や夫人が助かった事だろうか? 


 まあ、さっき国王陛下が仰っていたが、本来であれば死刑らしいからな。そう考えたら国外追放でも辛いが、まだマシというものか。ホッとするのもわかる気がする。


 ただ、その現状に2人が耐えられるかは別の話だが。そこまで俺も考えるつもりはない。あの2人は母上が辛い日々を送る事になった元凶だからな。特にどうこうするつもりは無いが、特にしようとも思わない。姉上が頼ってくれば別だが。


 そんなこんなで侍女に連れられて歩く事5分。王宮の中は入り組み過ぎて迷うな。覚えにくくするためなんだろうけど、絶対迷子になる奴がいるぞこれ。


 侍女は気にした様子もなく、扉をノックする。中から顔を出したのはレイブン将軍だった。


「ああ、来ましたか。君も案内ありがとう」


「い、いいえ!」


 レイブン将軍はセプテンバーム公爵と俺を見て微笑むと、俺たちをここまで案内してくれた侍女に礼を言う。笑顔で礼を言われた侍女は顔を真っ赤にして、去っていた。


「ふん、女たらしが」


 そして、隣でセプテンバーム公爵が呆れた様子で呟く。どうやら、レイブン将軍は女性にモテるようだ。まあ、歳を感じさせない筋肉に、シワひとつない渋い顔。好きな人は好きなんだろう。


「セプテンバーム公爵、レディウス君。入ってください。国王陛下がお待ちです」


 レイブン将軍が扉を開け、その中をセプテンバーム公爵が進んでいく。俺も後についていく。ゲルムドさんは外で待機しているらしい。


「よく来たな、ベルゼリクス。それにレディウスだったか?」


「……国王陛下よ。いくら周りの目がないからと言って、昔のように呼ぶのはどうかと思いますが」


「何、ここにはお前たちとレイブンしかおらん。別に構わん。それに誰かが聞いていようと、儂が命令したと言えば誰も言えんからな。お前も昔と同じように話せ」


 そう言って笑う国王陛下。どうやら国王陛下とセプテンバーム公爵は親しい仲らしい。まあ、それもそうか。


 呆れた様子だが、何処と無く嬉しそうなセプテンバーム公爵が席に着くのを見てから俺も席に着く。


「全く。それで呼んだ理由は?」


「何だ、もう少し話しても良かろう?」


「私にも色々とやる事があってな」


 そう言って腕を組むセプテンバーム公爵。もう既に国王と家臣の関係では無く、親友みたいな感じになっている。


「まあ、良かろう。お主たちをここに呼んだのは謝罪のためだ」


「謝罪?」


「ああ、まずはベルゼリクス、ヴィクトリアに申し訳ない事をした。あの子の心を傷付けてしまった。儂の謝罪では済まないと思うが、悪かった」


 そう言い国王陛下はセプテンバーム公爵に頭を下げる。ちょっ、いくら周りで誰も見ていないからって国王が頭を下げるのはまずいのでは!? 俺が1人で慌てていると


「頭を上げろバーデン。もう過ぎた事だ。それに謝るべきはバーデンでは無い。王子自身だ。だから頭を上げろ」


 セプテンバーム公爵は頭を下げる国王陛下を見て淡々と伝える。だけどセプテンバーム公爵も思う事があるのだろう。手が白くなるほど強く握って我慢している。


 本当は国王陛下に怒鳴りたいはずだ。公爵と国王という立場では無く、1人の親として。だけど、それを我慢するのは昔からの親友であり、その上セプテンバーム公爵も言っていたが、謝るのは国王では無くて王子の方だ。だから我慢が出来る。


「……済まない。儂がウィリアムを甘く育てたせいだな。姉弟の中で唯一の男で、末の長男だ。本当に甘やかし過ぎた。そのせいでレディウス、君にも迷惑をかけてしまった」


 そして、国王陛下は俺にまで頭を下げようとするから、どうしようかと慌てると


「バーデン、一般人に頭を下げるのは流石に不味い」


 セプテンバーム公爵が止めてくれた。それに合わせてレイブン将軍も同じ意見だと伝えてくれる。国王陛下は渋々ながら頭を上げてくれた。


「……それもそうだな。レディウスよ。言葉だけの謝罪で申し訳ない。その代わり、お主に戦争での褒美をやろう。大抵のことは何でも叶えてやるぞ」


「いや、そんな恐れ多いです。それに褒美なら学園に通わせていただいているので」


「いや、それは褒美にはならん。ある意味お主への投資のようなものだからな」


 学園に入学させてもらっている事を褒美にしようと思ったら断られてしまった。うーん、褒美かぁ。全く思いつかんぞ。


「何も思いつかないんだったら、爵位をあげておけば良いだろう」


「おお、なるほどな。爵位か」


 俺が悩んでいると、セプテンバーム公爵はそんな事を言い、国王陛下も納得してしまった。いや、爵位ってそんな簡単にもらえるものなのか? その事を尋ねてみると


「そんなわけないだろう。小僧がそれ相応の戦果を挙げているからこそだ」


「うむ。レイブンに聞いたところお主は隊長首を2つ、それに軍の危機を救ったそうじゃないか。それぼどならば過去にも爵位を貰って貴族になった者はおる。それに丁度空いたしな」


 丁度空いた? ……それってもしかして


「お主も想像がついていると思うが、元グレモンド領をお主に任せよう」


 やっぱりか。でも、いきなり爵位を持って、その上領地持ちは俺には荷が重過ぎる。何も知らないのに領地の経営なんて出来ない……あっ、それなら出来る人に任せれば良いのか。あの人がいれば。


「受け取っておけ、小僧」


 ……そうだな。今回の事で力不足を痛感したばかりだ。少しでも使える手札があった方が良いだろう。そのために貴族になるのも一つの手か。


「わかりました。受けさせてもらいます」


「うむ。それは良かった。爵位についてはそのまま男爵だ。家名についてはグレモンド家は無くなったからそれ以外で考えて欲しい。何かあれば今決めてもいい」


 家名か。それならすぐに浮かび上がる。俺が万が一貴族になった時に考えていた家名だ。


「その家名は昔あった貴族の家名でもいいのでしょうか?」


「うむ? 犯罪を犯して没落した家で無ければ構わんぞ」


「それなら、私の家名はアルノードを使いたいと思います」


 アルノード。昔母上がまだ貴族だったころの家名だ。既に没落しているので無いはずだ。


「アルノード? ……ああ、商売を失敗して借金で没落した家か。何故お主がその家名を知っておる?」


「はい。私の母がその没落したアルノード男爵家の長女と言っていたのです。没落してからはグレモンド家に侍女として働いていたところ、見染められたらしく」


 俺の言葉になるほどと頷く御三方。そして


「良かろう。略式ではあるが、お主、レディウス・アルノードを男爵として命じる。これからも国のために頼むぞ、アルノード男爵よ」


「はっ、国王陛下!」


 成り行きではあるが、俺はこうして貴族になる事が出来た。

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