黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

92話 王宮へ

「やっと帰って来たな」


「はい、レディウス様!」 


 俺たちは、ようやく王都の村へと戻って来た。昨日助けた後は、森から2時間ほど走ったところにある村で一泊してから、今日の朝早くに出て、昼前には帰って来られた。


 グリムドさんたちは先にセプテンバーム公爵の下に帰っているから、後で来いと言われている。クルトも王都の屋敷で治療してくれるそうだ。ありがたい。 


 そして、俺たちは心配しているであろうガラナたちに会いに来たのだ。特にフランさんは心配しているだろうからな。


 俺とロナはブランカに乗ったまま村に入ると


「ググゥッ!」


 村のとある家から黒い毛玉が走ってくる。その毛玉は器用にブランカの頭の上に飛び乗り、そして、俺へと飛んで……来ずに、俺の頭の上を通り過ぎてロナの胸元へと落ちた。そしてロナの胸元へとスリスリと……ロポめ、うらや……けしからんぞ、全く!


「あはは、ただいまです、ロポさん。あはは、くすぐったい!」


「グゥグゥ!」


 ロポのロナの胸元へとスリスリ、頰へとペロペロとしている姿を見て、引き剥がしてやろうかと、考えていたら


「ロナ!」


 と、再び家から走ってくる人影がある。あれはフランさんだな。ロナも気が付いて、ブランカから降りると、フランさんの下まで駆けていく。


「フランさん!」


 そして、ロナはフランさんに抱き着く。フランさんもロナを抱きしめながら涙を流す。


「よ、よかったよぉ、ロナが無事で!」


「私もフランさんがご無事で良かったです。ご心配お掛け致しました」


「そんなの良いのよ! ロナが無事だったんだから! うぇぇぇんん!」


 そして、大声で泣き出してしまったフランさん。それほどロナたちの事を心配してくれたんだな。そう思うと俺も嬉しい。


「やったじゃねえか」


 ロナたちを見ていたら、ガラナがやって来た。


「ああ、何とか助ける事が出来たよ。それよりガラナ、ロナを頼んでも良いか? 今から王都に行かないといけないんだ」


「おう、任せとけ」


 俺は笑顔で言ってくれるガラナに感謝をしながら、ブランカを走らせる。ブランカなら10分ほどで王都に着くだろう。後少しだ、頑張ってくれ。


 ◇◇◇


「レディウス!」


 俺がセプテンバーム公爵家に辿り着くと、門の前で待っていたヴィクトリアが走って来た。俺はブランカを止めて、降りると、ヴィクトリアは勢いを止める事なく俺に抱き付いて来た。うわっ! や、やわらかっ!


「良かったです! 無事に帰って来てくれて!」


「……ああ、心配かけて悪かったよ、ヴィクトリア」


 俺もヴィクトリアを抱き締め返す。ヴィクトリアには色々と心配をかけてしまったな。何かお詫びが出来たら良いのだが。


「ほら、そこですヴィクトリア様。そこでぶちゅっ、とキスをするのです」


 そして、そこに毎度お馴染みのマリーさんが、しかもその後ろには


「ゴホンッ!」


「ひゃあ! えっ、お、お父様!?」


 そう、マリーさんの後ろには悪魔のような顔をしたセプテンバーム公爵が立っていたのだ。その後ろにはやれやれといった風に苦笑いをするゲルムドさんもいる。


「おい、小僧、なに人の大切な娘に手ェ出したんだ、ゴラァッ!」


 そして、セプテンバーム公爵は俺の頭を鷲掴みにしてくる、い、いてててて! 地味に痛いぞこれ!


「ま、待ってお父様、今のは私から抱き付いたの! 余りにも心配で、無事に帰って来た姿を見たらつい……」


 俺を庇うためにヴィクトリアはセプテンバーム公爵に説明しようとするが、先ほどの行為を自分の口に出すと、さっきの事を思い出したのか、顔を真っ赤にして屋敷へと走り去ってしまった。


「ちっ、お前を死刑するのは後にして、今から王宮に行くぞ」


 なんか物凄く怖い事をサラッと言われたが、尋ねる暇もなく馬車に乗り込むセプテンバーム公爵。その後に続くゲルムドさんも


「ほら、乗れ」


 と、言ってくる。仕方がないので俺もなると、腕を組んでイライラとしているセプテンバーム公爵がいた。いや、いるのは当たり前のなのだが、物凄く気まずい。そんな重苦しい空気の中馬車が走り出す。


「え、ええっと、今から王宮に行くのに私を連れて来た理由は?」


「そんなの決まっているだろう。バルト・グレモンドを罰するためだ」


「んん? バルトを罰するためにわざわざセプテンバーム公爵が行くのですか?」


 俺が不思議に思った事を尋ねると、セプテンバーム公爵は首を横に振る。


「普通は行かん。だが、今回の案件は普通ではないからな。グレモンド男爵家は今や貴族たちの中では1番出世した貴族だ。なんて言ったって、家族の中で王族の婚約者が現れたのだからな。だが、その家の後継がとんでもない問題を犯した」


「村のことですか?」


「そうだ。貴族が守るべき民を、自らの手で殺したのだ。百歩譲ってそれが自分の領地の村なら、まだ話は簡単だったが、奴が潰した村は、私の寄子の子爵が管理する村だったのだ。
 これは貴族たちからすれば、寄子を使ったリストニック侯爵家の、セプテンバーム公爵家に対する嫌がらせと見られても仕方ない。そうなれば当然、婚約しているエリシア嬢にも関わってくる」


「……もしかして、セプテンバーム公爵はヴィクトリアを再び王太子の婚約者に戻そうと?」


 俺はそう考えると物凄く嫌な気持ちになってしまった。ヴィクトリアは王太子の話をするときは物凄く辛そうだった。そんなヴィクトリアを見たくはなかったから。だけど、セプテンバーム公爵


「そんなわけなかろう。私たちもヴィクトリアが苦しんでいたのは知っている。何度、婚約を承認した事を後悔した事か。あんな王太子に嫁に行かせるぐらいなら、お前と婚約させた方が100万倍マシだ!」


「えっ?」


「旦那様、それはちょっと……」


 セプテンバーム公爵の突然の発言に俺は固まってしまい、ゲルムドさんは頭を抱えてしまった。そして、セプテンバーム公爵は何を言ったか気が付いて


「……言葉の綾だ。まさか、本当に思ってないだろうな? あぁん?」


 と、ドスの効いた声で俺に尋ねてくる。俺は慌てて首を横に振ると、セプテンバーム公爵も腕を組んで背もたれに背を預けて黙ってしまった。


 時間的にそろそろ王宮が見えてくる頃か。でも、俺の中にはさっきのセプテンバーム公爵の言葉がぐるぐると回っていた。

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