黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

91話 帰還

「そこを退け。今なら命は助けてやるよ」


「くくく、お前のような強者と戦えるのに退くわけがないだろう。行くぞ!」


 ローブを着た男は笑いながら俺へと向かってくる。ちっ、戦闘狂かよ。


「はぁぁっ!」


 男は俺の顔面を狙って、拳で殴りかかってくる。男は拳闘家のようだ。俺は男の拳を避ける……ん? この男の拳に纏っているのって……


「どうした、小僧! ちっ、強者だと思ったのだがな」


 やっぱり、この技は……。男は俺が考え事をして、動きが緩慢になったのを見て、喜ぶどころか落胆の声を上げる。


 しかし、俺はそんな男の声に気にする事なく、男の両手両足に纏っている魔力の流れを観察する。やはりこの魔力は纏だ。


 ミストレアさんやヘレネーさんたち以外で初めて見た。でもまあ、ミストレアさんが若かった頃は纏が主流だったようだし。


「おらおら! どうした!?」


 この男、先ほどまでは一言も話さなかったのに、戦闘になった瞬間饒舌になったな。俺はそんな男の言葉を無視して、攻撃を避ける。


「ちっ! なんで攻撃が当たらない!」


 男の拳と蹴りは俺に掠る事なく空を切る。確かにローブの男の動きは速いが纏・真を使っている今なら遅れは取らない。


「おらぁっ!」


 男は俺に向かって回し蹴りを放ってくるが、俺は跳んで避ける。そのまま、男の顔を蹴りとばす。男は地面を転がるが直ぐに立ち上がる。


「ぐっ」


「なんだよ。闇ギルドって言うからもう少し強いのかと思ったがこの程度かよ」 


 これならまだランベルトの方が強かったな。あいつの身体強化は本当に厄介だったからな。男は俺の言葉に怒り、真っ直ぐ突っ込んでくる。俺は剣を構え、そして、男の殴りかかってくる腕を掻い潜り、剣を振るう。


 男の右腕、脇腹、左足、と流れるように切っていく。旋風流鎌鼬。切られた事にすら気がつかない程の速さで切りつける技。


「がっ、がぁぁぁああああ!!」


 気が付いた時にはもう手遅れ。ボトッボトッと音がして落ちるのは切り落とした右腕と左足。男は痛む手足を抑えようにも残っている手は左手だけ。どこかを押さえれば、別のところが押さえられない。


「悪いが、お前のせいでロナたちが危険になったと聞く。じゃあな」


「まっ、ま……」


 俺はそのまま剣を振り下ろす。男の頭はローブを被ったまま飛んで行ってしまった。


「さてと……」


 俺は残っている奴らの方を見る。俺と目があってヒィイ! と怯えるバルト。その横で今にも逃げ出そうとしているグルッカス。


 当然そんな事をさせる訳もなく、俺は地面に落ちているナイフを手に取り、グルッカスに向けて投擲する。ナイフは、グルッカスの右足に刺さる。ナイフが刺さる痛みに地面をのたうち回るグルッカス。


「逃すと思うか? グルッカスよ。お前には言ったはずだよな。『昔と同じように考えていたら痛い目に合うぞ』と。いや、ここまでされれば昔と同じではないか。覚悟はできているんだろうな?」


「ヒイッ! おおお、お待ちください、レディウス様! わ、私はバルト様の命令に仕方なく従っただけで!」


「なっ! グルッカス、貴様! 俺を裏切るのか!」


 2人は勝手にぎゃあぎゃあと喚きだしたが、今はそんな事はどうでもいい。俺はイライラしながら剣で地面を叩く。


 その音にビクッと震える2人。丁度黙ってくれた。話を進めよう。


「ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ、うるせえんだよ。お前らに選択肢はない。ここで死ぬ。それだけだ」


「ままま、待て、待つんだレディウス。おお、俺たちは家族だろ? は、半分とはいえ血を分けた兄弟じゃないか。そんな兄を殺そうとしてお前は心が痛まないのか?」


 ……こいつ、此の期に及んでそんなくだらない事を言うのか? 俺の頭の中でブチっと何かが切れる音がした。俺が剣を振ると、バルトの左手が飛んで行く。


「ぎゃあ……ああ、ああぁぁぁああああ! 腕が、俺のひだりうでがぁぁぁぁっ!」


「てめえ。ふざけるなよ。誰が家族だって? 誰が血の分けた兄弟だって? 俺と血の繋がった家族は亡くなった母上と姉上だけだ。それ以外は家族じゃねえよ。ふざけた事を抜かすんじゃねえよ!」


 俺はそのままバルトへ剣を振り下ろす。しかし、剣がバルトへ届く事はなかった。その理由は


「……なぜ止めるのです、グリムドさん」


 後ろから剣を持った俺の右腕を掴むグリムドさんに止められたからだ。


「悪いが、公爵様からお前がバルト・グレモンドを殺そうとしたら、止められるように言われている。それと、犯罪者のバルト・グレモンドを連れてくるようにと。
 お前も聞いているはずだ。村一つをこいつに潰されている事を。その事についてもそいつから話を聞かないといけないようだ。何、安心しろ。こいつが死刑なのは決まっているからな」


 グリムドさんはそう言って他の付いてきてくれた兵士に指示を出す。あまりの痛みと恐怖で気を失ったバルトとグルッカスを縛り連れて行ってしまった。


 グリムドさんは近くの村まで来ているという、後発隊に連絡の取れる魔道具で連絡を取る。ここの処分はその人たちに任せるそうだ。


 俺たちはこのまま帰る事になる。クルトは別の兵士が馬に乗せてくれるそうで、俺の方にはロナが付いてくる。ロナはあれから一言も話さずに俺の服の袖を掴んで後ろを付いてくる。


 そして、ブランカがいるところまで戻ってくると、向こうも俺たちに気が付いたのか、寄ってくる。


「レ、レディウス様、この綺麗な馬は?」


「この白馬はブランカと言って、俺をここまで乗せてくれた馬だよ」


 俺がロナにブランカの事を教えている間、ブランカはロナの事をしげしげと見る。まるで観察をするかのようにじっくりと。そして、納得がいったのか、ブルルゥと鳴いて、まるで乗れと言わんばかりに背に首を振る。


 俺が先に乗って、ロナの手を引っ張り乗るのを手伝う。


「ロナ、しっかり捕まれよ」


「は、はい!」


 ロナは俺の腰に手を回しギュッと抱き付いてくる。うおっ、背中に柔らかいものが。そんな事を知らないグリムドさんは


「今日は途中の村で一泊してから帰るぞ。さすがに馬を一日中走らせるわけにはいかないからな。では、出発!」


 彼の号令でみんなが走り出す。さてと、俺たちも帰りましょうかね。


「帰ろうか、ロナ」


「はいっ!」

コメント

  • ペンギン

    あれ...?グルトは...?

    0
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