黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

90話 逆鱗

「ここが、例の森だ」


 王都から馬を走らせる事半日。途中休憩を挟みながらだが、それでも、本来なら馬車で1日かかるところを、半日で踏破したのは、馬たちが頑張ってくれたからだろう。


 特にブランカは、他の馬に比べて速さも耐久力もずば抜けて高い。今もドヤ顔で俺を見て、ブルルゥ、と鳴いているからな。


「ありがとな、ブランカ」


 俺が俺にブランカを撫でると、ブランカはドヤ顔をやめてそっぽを向いてしまった。何だよ、褒めてやっているのに。


「何だ、ブランカ、物凄く嬉しそうじゃないか?」


 そこにグリムドさんがそんな事を言ってくる。そんなはずないでしょう。今無視されているんだから。


 ここからは馬から降りて、森の中を歩いて進む。ここに置いていくのが少し心配だったが、外からは馬がいる事がわかりづらいし、馬の鞍にはセプテンバーム公爵家の家紋が入っているらしく、盗んだら罰せられる。


 ブランカは俺が降りると、フン、といった風に一頭で木の側に行き、草をムシャムシャと食べ始める。全くこいつは……。


「それじゃあ、すぐに帰ってくるから待っててくれよ」


 俺がブランカのたてがみを撫でていると、ブランカは、さっさと行け、と言わんばかりに体を揺らし、ブルル、と鳴く。こ、こいつ……。


「懐いているブランカが可愛いのはわかるが、早く行くぞ」


 俺がそんなブランカを見ていると、グリムドさんは意味不明な事を言ってくる。ブランカが懐いている? 意味がわからない。


 小一時間グリムドさんを問い質したいところだが、今はそれよりも、ロナたちの救出の方が先だ。終わってから尋ねることにしよう。


 周りを警戒しながら、森の中を進んで行く。森の中を進んで行くとわかるが、所々に獣や魔獣の死体が落ちている。


 大方襲って来たのを片っ端から殺して、放置しているのだろう。ゴブリンとかは売れる場所が無いからな。だが、この死体のおかげで、奴らがここにいるのを確定する事が出来た。


 俺は兵士の人たちとグリムドさんの後ろについて行く。


 歩き始めて1時間ほど。ようやく小屋を見つける事が出来た。小屋は全部で三つほどあり、そのうち二つは扉が開きっぱなしで、中には盗賊や傭兵がいるのがわかる。後一つは扉が閉じられており、前には扉を守るように見張りがいる。


「どうする? 救出対象はあの扉が閉まっている小屋にいると思うのだが」


「ええ。俺もそう思います。ここは俺が一直線に突き進もうと思います。皆さんは後から周りの盗賊たちをお願い出来ますか?」


「それは構わないがお前は大丈夫なのか?」


 少し心配そうに伺うグリムドさんに俺は黙って頷く。俺は腰の剣を抜き、纏・真を発動する。そしてそのまま森を出て小屋に向かう。


 もう我慢の限界だ。ここからコソコソとやっていたら間に合わないかもしれない。このまま押し通らせてもらう。


 俺が森から出て来た事に気がついた盗賊や傭兵たちは、武器を持って集まってくる。中には俺がどれだけ耐えられるか、賭けをしている馬鹿もいる。


「おい小僧。なんのよ……がひゅぅ?」


「口を開くな」


 盗賊の男が何かを言おうとしていたが、こいつらの言葉を聞く気は無い。そのまま剣を振るい男の下顎を切り落とした。そして喉に剣を突き刺す。そのまま剣を横に振ると、首は半ばで切れて、体に辛うじて引っ付いている状態のまま男は死に絶えた。


「て、てめぇ、ぶっ殺……」


「風切」


 だから聞く気は無い。風切を連続で放ち、盗賊たちを切り落とす。腕が落ちる者や足を切られる者。顔を縦に切られる者など様々だが、みんな同じなのは、畏怖の目で俺を見て固まっている事だ。


「死にたくなければ退け」


 俺は殺気を放ちながら言葉を発すると、盗賊たちが割れるように左右にわかれる。そして小屋まで一直線に道が出来た。俺がそのまま歩いて行くと、小屋の前にいた見張りのような奴らが武器を構える。そして、右側の男が向かって来た。


「死ねぇ!」


 たぶん、この中では腕が立つのだろう。だから見張りに選ばれたようだが、この程度なら他の奴らと変わらない。


 振り下ろされる剣を魔闘拳した左手で弾き、右薙ぎで剣を振る。男の腹は切り裂かれ、中から臓物が零れ落ちていく。男は痛みを忘れて一生懸命に拾おうとするが、次々と零れ落ちていく臓物を見て、絶望しながら自分の血の海に沈んだ。


「うう、うわぁぁあっ!」


 もう1人の見張りは恐慌しながらも向かってくる。男が両手に持った斧を振り下ろす前に、剣で両手を切り落とす。そして、男の喉元を掴み、小屋に向かって放り投げる。


 男がぶつかり吹き飛んだ入り口を進むとそこには、目的のロナとクルトがいた。


「ききき、貴様! 何故ここにいる! 貴様にはまだ誰も送っていないはずだぞ!」


 俺はぎゃあぎゃあと喚くバルトを無視して、ロナとクルトを見る。クルトは血塗れで倒れている。近くには足を血で汚した男たちがいるから、あいつらにやられたのだろう。


 ロナは外見的にはどこも怪我などは無いようだが、涙を流している。ガリッ、と俺の奥歯が欠けるのがわかる。俺はそれほど歯をくいしばるほど怒りを覚えていた。


「バルト・グレモンド。お前は……殺す」


 俺は殺気を放ちながらバルトに向かって言うと、バルトはひぅっ! と情けない声を出して数歩下がる。


「おおお、お前たち! ここ、こいつを殺せば金貨10……いや、20枚やろう! こいつを殺せ!」


 そう言って命令するバルトは、誰よりも俺から遠くに離れた位置に立っていた。そこにいれば当たらないと思っている馬鹿に向かって風切を放つ。ローブを纏った男は気がついたようだが、もう間に合わない。


「さっさと、殺……うわっ!」


「ば、バルトさ……なっ!?」


 ぎゃあぎゃあと喚いていたバルトは突然地面に這い蹲る。その事に驚いたグルッカスは今のバルトの姿を見て、あまりの姿に声を失う。


 それもそうだろう。何故なら


「な、なんだ? ……あぁ、ああぁぁぁぁあ!!! あああ、あしがぁぁあああ!」


 バルトの両足は切り落としたからだ。バルトが喚いているうちに周りの奴らも殺す。呆然と立っている男を殺し、逃げようとする男を殺し、怯えながらも剣を振り下ろしてくる男を殺し、めちゃくちゃに武器を振り回す男を殺す。


 気がつけば、辺り一面男たちの死体で真っ赤に染まっていた。ローブの男はバルトを守るように立ち、バルトは涙や鼻水で顔をぐしゃぐしゃに汚しながら壁に背をつけ座っていた。ズボンも床も濡れている。何もかもが汚ねえ野郎だ。


 グルッカスは何とか足を引っ付けようとするが、奴の水魔法ではせいぜい止血が精一杯だ。足をつけるほどの水魔法が使えるのは殆どいないだろう。


 俺はその内にロナを縛っている縄を切る。ロナは直様俺に抱き付いて来た。


「ごめんなざい、れでぃゔずしゃま。わたじたちが、ヘマをじたばかりにごめいわくをがげて……」


 ロナは怖かった事より、俺に迷惑をかけた事に後悔していた。……こんな時に言う言葉じゃ無いだろうに、全く。俺はロナの頭を優しく撫でながら


「馬鹿だなロナは。お前は俺の大切な家族なのだから、迷惑なんていっぱいかけていいんだよ。俺が助けられる範囲だったら俺は自分の力を惜しまず、助けるからさ。だから泣くな、ロナ。ロナに泣かれると俺が困る」


 俺がそう言うと、ロナはまだ泣き止んでいないが、笑って頷いてくれる。俺はロナをそのまま連れて、クルトの縄を切る。クルトは気を失っているようだ。


「ロナ。クルトを頼む。武器は、今はこのナイフで我慢してくれ」


 腰に下げていた非常用のナイフをロナに渡して、バルトを見る。バルトの足の血は止まったようだが、痛みが続くようで、顔を汚く汚しながらも、憎悪の目で俺を見てくる。


「殺す! 絶対に殺してやる! レディウス!」


 ……はぁ。何を言っているだこいつは。俺は阿呆の言葉に益々怒りが溜まっていく……それはこっちの台詞だ、クソ野郎。


「ふざけるなよ、バルト。お前は俺の大切な物を傷付けた。お前は俺の逆鱗に触れたんだ。覚悟しろよ? 俺たちに手を出した事を後悔させてやる」


 俺が剣を構えると、ローブ男が立ちはだかる。とっとと、退いてもらおうか。

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