黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
83話 お見舞い
「どうやら着いたようですね。降りましょうか」
学園で一騒動があった後、ヴィクトリアが通学に使っている馬車に乗ってティリシアの屋敷、バンハート子爵家へとやって来た。
ヴィクトリアが通学に使っている馬車の性能が良過ぎて、余り走っているようには感じなかったが。ほとんど揺れなかったからな。
ルシーさんが先に降りて扉を開け、ヴィクトリア、ガウェイン、クララ、俺の順番に馬車から降りる。ここがティリシアの屋敷か。
なんていうか、王宮やヴィクトリアの屋敷を見ているせいか普通の大きさに見えてしまうのは、俺の目がおかしいのだろう。普通に大きいのだけれど、ヴィクトリアの屋敷の方か大きかったせいで、小さく見えてしまう。
「よくぞいらっしゃいました、ヴィクトリア様、ガウェイン様、クララ様、レディウス様。わたしはティリシア様より案内を任されました、テレサと申します」
馬車を降りると、目の前は屋敷の玄関で、玄関の前に1人の侍女が立っていた。年齢はヴィクトリアたちより少し上ぐらいの金髪の女性だった。
「よろしくお願いします。それでティリシアの容態はどうですか?」
俺たちを代表して、ヴィクトリアが挨拶をする。それからティリシアについて尋ねると、テレサさんは困ったような表情を浮かべる。何かあったのだろうか?
「ティリシア様はその……体調は回復されまして、明日からは学園に登校できます。ただ……」
「ただ?」
「その、なんと言いますか、元気が有り余っておりまして。実際に見て頂いた方がよろしいかと」
テレサさんはそう言いながら、屋敷の扉を開ける。どういう事なのかわからないが、実際に会った方がいいか。俺たちもテレサさんの後をついて行く。
屋敷の中を歩く事数分。どこに向かっているのかはわからないが、テレサさんの後をついて行く俺たち。すると
「この音は?」
ガウェインが何か気が付いたようだ。音? 俺も耳を澄ましてみると……確かに音がする。慣れ親しんだ剣がぶつかり合う音だ。訓練でもしているのだろうか?
「……この音はティリシア様の訓練の音です」
テレサさんははぁ〜、と溜息を吐きながら答えてくれる。へぇ〜、病み上がりだから体でも動かしているのかね? 俺も寝込んだ時は体を動かしたくてうずうずしたもんなぁ。
もう大丈夫だと思って体を動かそうとすると、絶対にロナが止めに入ってくるというのが、あの頃のおきまりのパターンだった。
「こちらになります」
テレサさんが開けてくれた扉の先へ行くとそこには
「はぁぁぁ!」
騎士10人相手に訓練をしているティリシアの姿があった。それを見たテレサさんは再び溜息を吐く。
「ティリシア様はこれを朝から続けております」
「……はぁ?」
テレサさんが溜息まじりに変な事を言うから思わず変な声を出してしまった。朝からって、もう夕方近くになるぞ? ティリシアの事だから昼ぎりぎりの朝では無いと思うし。
「ティリシア様はあの試合がよっぽど悔しかったらしく、もっと強くなりたいと」
試合がか。なんだかんだいっても勝ったのだから良いと思うのだけどな。戦場でも生き残った人が勝ちってよく言うだろ? そりゃあ、圧勝して勝てれば嬉しいが。
「仕方ない」
俺は腰に差してある剣を抜き、足に魔闘脚を発動させ一気に駆け出す。さすがに近くで魔法を使われたら、ティリシアも気がつく。
ティリシアは驚いた表情で俺を見てくるが、俺は御構い無しにティリシアまで駆け寄り、剣を右下から切り上げる。ティリシアは手に持つバスタードソードで防ぐが、耐え切れず手放してしまった。その上、俺の勢いに耐え切れず後ろにこけようとする。
「おっと」
さすがに後ろからこけたら痛いだろうから、こけないように剣を持っていない方の左手で、ティリシアの腰を抱き寄せる。危ない危ない。
「へっ、あっ、レ、レディ、ウス、な、なぜ、ここに?」
ティリシアはしどろもどろになりながらも俺がここにいる理由を尋ねてくる。
「何言ってんだよ。お前のお見舞いに決まっているだろ? それなのにこんな訓練して。まだ病み上がりなんだから休んでおけよ」
「だ、だが! 私は試合で無様な姿を見せて……」
「それがどうしたんだよ? それで勝てたんだから良いじゃ無いか」
「し、しかし……」
「しかしもかかしもないよ。勝ったんだからそれで良いだろ? それに悔しくて訓練がしたくても、病み上がりは駄目だ。そんな状態で上達するわけが無いし、治るもんも治らねえぞ? だから今日は終わり。わかったな?」
俺が言うとティリシアは黙って頷く。まあ、ティリシアの気持ちもわからん事は無いからな。
俺もミストレアさんの下へ修行していた時も全く上達せずに、朝からずっとやっていたからな。休める時に休まないでで上達するわけないでしょ! ってヘレネーさんに怒られたっけな。懐かしい。
「近すぎじゃあ無いですか、2人とも?」
うおっ!? び、びっくりしたぁ〜。俺が少し昔の事を思い出していたら、いつの間にかヴィクトリアが直ぐ側までやって来ていた。全く気がつかなかったぞ。
俺は直ぐにティリシアから離れてヴィクトリアを見る。ヴィクトリアは顔は笑っているが、雰囲気が物凄く怖い。なんでそんな笑い方しているんだ?
「……ヴィクトリア、怒っている?」
「怒っていませんが? どうしてそう思うのですか? 何かやましい事でもあるのですか?」
俺が軽く尋ねたらそう返ってきた。こ、怖い。怖すぎる。笑顔なのに物凄く怖い! ティリシアも困ったような表情を浮かべているぞ。
それからは、学園の時のようにガウェインとクララがニヤニヤしながらやって来て、俺たちは弄られながらティリシアの屋敷へと戻って行った。
屋敷ではティリシアの両親のバンハート子爵とバンハート夫人が晩餐の用意をしてくれていて、俺たちも招待された。
なんでも、ティリシアが奴隷になる事から救ってくれたお礼らしい。そう言う事なら頂こう。
でも、思っていたよりティリシアが元気そうで良かった。すこし焦っている部分もあるけど、体調が戻って修行をすれば、直ぐに強くなれる。彼女はそれだけ努力しているからな。
俺はクララと楽しそうに話すティリシアを見て、そう思うのだった。
「レディウス。少しティリシアを見過ぎではありませんか?」
「い、いや、そんな事ないよ」
ヴィクトリアのジト目を受けながら。
学園で一騒動があった後、ヴィクトリアが通学に使っている馬車に乗ってティリシアの屋敷、バンハート子爵家へとやって来た。
ヴィクトリアが通学に使っている馬車の性能が良過ぎて、余り走っているようには感じなかったが。ほとんど揺れなかったからな。
ルシーさんが先に降りて扉を開け、ヴィクトリア、ガウェイン、クララ、俺の順番に馬車から降りる。ここがティリシアの屋敷か。
なんていうか、王宮やヴィクトリアの屋敷を見ているせいか普通の大きさに見えてしまうのは、俺の目がおかしいのだろう。普通に大きいのだけれど、ヴィクトリアの屋敷の方か大きかったせいで、小さく見えてしまう。
「よくぞいらっしゃいました、ヴィクトリア様、ガウェイン様、クララ様、レディウス様。わたしはティリシア様より案内を任されました、テレサと申します」
馬車を降りると、目の前は屋敷の玄関で、玄関の前に1人の侍女が立っていた。年齢はヴィクトリアたちより少し上ぐらいの金髪の女性だった。
「よろしくお願いします。それでティリシアの容態はどうですか?」
俺たちを代表して、ヴィクトリアが挨拶をする。それからティリシアについて尋ねると、テレサさんは困ったような表情を浮かべる。何かあったのだろうか?
「ティリシア様はその……体調は回復されまして、明日からは学園に登校できます。ただ……」
「ただ?」
「その、なんと言いますか、元気が有り余っておりまして。実際に見て頂いた方がよろしいかと」
テレサさんはそう言いながら、屋敷の扉を開ける。どういう事なのかわからないが、実際に会った方がいいか。俺たちもテレサさんの後をついて行く。
屋敷の中を歩く事数分。どこに向かっているのかはわからないが、テレサさんの後をついて行く俺たち。すると
「この音は?」
ガウェインが何か気が付いたようだ。音? 俺も耳を澄ましてみると……確かに音がする。慣れ親しんだ剣がぶつかり合う音だ。訓練でもしているのだろうか?
「……この音はティリシア様の訓練の音です」
テレサさんははぁ〜、と溜息を吐きながら答えてくれる。へぇ〜、病み上がりだから体でも動かしているのかね? 俺も寝込んだ時は体を動かしたくてうずうずしたもんなぁ。
もう大丈夫だと思って体を動かそうとすると、絶対にロナが止めに入ってくるというのが、あの頃のおきまりのパターンだった。
「こちらになります」
テレサさんが開けてくれた扉の先へ行くとそこには
「はぁぁぁ!」
騎士10人相手に訓練をしているティリシアの姿があった。それを見たテレサさんは再び溜息を吐く。
「ティリシア様はこれを朝から続けております」
「……はぁ?」
テレサさんが溜息まじりに変な事を言うから思わず変な声を出してしまった。朝からって、もう夕方近くになるぞ? ティリシアの事だから昼ぎりぎりの朝では無いと思うし。
「ティリシア様はあの試合がよっぽど悔しかったらしく、もっと強くなりたいと」
試合がか。なんだかんだいっても勝ったのだから良いと思うのだけどな。戦場でも生き残った人が勝ちってよく言うだろ? そりゃあ、圧勝して勝てれば嬉しいが。
「仕方ない」
俺は腰に差してある剣を抜き、足に魔闘脚を発動させ一気に駆け出す。さすがに近くで魔法を使われたら、ティリシアも気がつく。
ティリシアは驚いた表情で俺を見てくるが、俺は御構い無しにティリシアまで駆け寄り、剣を右下から切り上げる。ティリシアは手に持つバスタードソードで防ぐが、耐え切れず手放してしまった。その上、俺の勢いに耐え切れず後ろにこけようとする。
「おっと」
さすがに後ろからこけたら痛いだろうから、こけないように剣を持っていない方の左手で、ティリシアの腰を抱き寄せる。危ない危ない。
「へっ、あっ、レ、レディ、ウス、な、なぜ、ここに?」
ティリシアはしどろもどろになりながらも俺がここにいる理由を尋ねてくる。
「何言ってんだよ。お前のお見舞いに決まっているだろ? それなのにこんな訓練して。まだ病み上がりなんだから休んでおけよ」
「だ、だが! 私は試合で無様な姿を見せて……」
「それがどうしたんだよ? それで勝てたんだから良いじゃ無いか」
「し、しかし……」
「しかしもかかしもないよ。勝ったんだからそれで良いだろ? それに悔しくて訓練がしたくても、病み上がりは駄目だ。そんな状態で上達するわけが無いし、治るもんも治らねえぞ? だから今日は終わり。わかったな?」
俺が言うとティリシアは黙って頷く。まあ、ティリシアの気持ちもわからん事は無いからな。
俺もミストレアさんの下へ修行していた時も全く上達せずに、朝からずっとやっていたからな。休める時に休まないでで上達するわけないでしょ! ってヘレネーさんに怒られたっけな。懐かしい。
「近すぎじゃあ無いですか、2人とも?」
うおっ!? び、びっくりしたぁ〜。俺が少し昔の事を思い出していたら、いつの間にかヴィクトリアが直ぐ側までやって来ていた。全く気がつかなかったぞ。
俺は直ぐにティリシアから離れてヴィクトリアを見る。ヴィクトリアは顔は笑っているが、雰囲気が物凄く怖い。なんでそんな笑い方しているんだ?
「……ヴィクトリア、怒っている?」
「怒っていませんが? どうしてそう思うのですか? 何かやましい事でもあるのですか?」
俺が軽く尋ねたらそう返ってきた。こ、怖い。怖すぎる。笑顔なのに物凄く怖い! ティリシアも困ったような表情を浮かべているぞ。
それからは、学園の時のようにガウェインとクララがニヤニヤしながらやって来て、俺たちは弄られながらティリシアの屋敷へと戻って行った。
屋敷ではティリシアの両親のバンハート子爵とバンハート夫人が晩餐の用意をしてくれていて、俺たちも招待された。
なんでも、ティリシアが奴隷になる事から救ってくれたお礼らしい。そう言う事なら頂こう。
でも、思っていたよりティリシアが元気そうで良かった。すこし焦っている部分もあるけど、体調が戻って修行をすれば、直ぐに強くなれる。彼女はそれだけ努力しているからな。
俺はクララと楽しそうに話すティリシアを見て、そう思うのだった。
「レディウス。少しティリシアを見過ぎではありませんか?」
「い、いや、そんな事ないよ」
ヴィクトリアのジト目を受けながら。
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