黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
76話 対抗戦(6)
『4年生3位決定戦も終え、残るは決勝のみ。みんなぁ! 最後の熱き戦いを脳内に刻み込む準備はできているかぁ!!!?』
「「「うおおおおおおお!!!」」」
対抗戦3日目も終わりを迎えてきた。朝の1年生の3位決定戦から7時間近く経っていて、日も傾きかける時間帯だ。
アレスたちの試合も無事に終わったが、アレスたちは負けてしまった。何処かチーム内でギクシャクした雰囲気があって、あまり噛み合っていなかった。何かあったのだろうか。
そんな風に各学年の試合が終わっていく中、俺たちは、待機室で待っていた。ここを出れば訓練場まで一本道で出られる部屋になっている。第1訓練場にしか無くて、しかも対抗戦でしか使われない贅沢な部屋だ。
俺は部屋の中を見渡すと、目を瞑って座っているティリシア。自分の剣を手入れしているガウェイン。部屋の中を物色するクララ。自分の家から持ってきたのか本を読んでいるヴィクトリアがいる。
これだけなら落ち着いた雰囲気でいるのだろうと思うのだが、ティリシアの足下を見れば凄い速さで貧乏ゆすりをしており、ガウェインは手元が狂って自分の手を切っている。クララはもう十周ぐらいしているのにまだ見て回り、ヴィクトリアは本を逆さまにして読んでいる。
お前ら、緊張し過ぎだろ……。
「……ティリシア、少し落ち着けよ。ガウェイン、手が剣で切れているぞ。クララ、さっきから何度も同じところを回っているぞ。ヴィクトリア、読んでいる本が逆さまだ」
俺がそれぞれに指摘してあげると、ティリシアはうっ、てなり、ガウェインは気付いてなかったのか手元を見て慌て出し、クララは、はっ、と気が付き、ヴィクトリアは「き、気づいていましたし!」と俺に怒る。……いや、さっきまで必死に読んでいたじゃ無いか。
「みんな緊張し過ぎだろ。もう少し肩の力を抜けよ」
「……そうは言うが、決勝だぞ? しかも、一番注目される4年生の決勝だ。これには今日一番の観客が入る。そんな中で戦うなんて緊張するだろ!」
ガウェインは、俺にそう言ってくる。まあ、気持ちは分からなくも無いが。
「でも、いくら緊張したところで結局は戦わなければならないんだ。それなら緊張せずに戦いやすいように気持ちを落ち着かせるのがベストだろ?」
「それはそうですが……レディウスはどうしてそんなに落ち着いてられるのですか? ガウェインが言ったようにたくさんの人が集まります。そのため決勝なのに、不甲斐ない戦いをすれば、それは直ぐに国中に広まり、笑い者にされるのですよ? それに勝たなければティリシアが奴隷に……」
「それがどうしたんだよ?」
「えっ?」
なんだよ。みんな何に不安を感じているのかと思ったら、そんな事を思っていたのか。
「なんで試合前に、負けるかもって思っているのかが、俺には不思議なくらいだ。確かにランバルクたちは強いかもしれない。でも、俺からしたらみんなも負けていないと思っている。
防御系の魔法が得意なヴィクトリアに、臨時応変に対応出来るティリシア。みんなをサポートするクララにガウェイン。俺はランバルクのチームに負けているとは思わない。
確かに勝負に絶対はあり得ない。もしかしたら魔法の余波で飛んできた小石が、バッチに当たり割れて負けるかもしれない。躓いてこけるかもしれない」
「……」
「何が起こるかわからないが、試合前に負けるかもって思って不安になっていると、絶対に勝てない。勝つために考える事をやめているからな。だから、みんなもそんな不安に思うより、どうすれば勝てるのか考えようぜ。どちらにせよ、俺たちは絶対に負けられないんだから」
俺がみんなを見渡しながら話すと、ティリシアがふふ、と笑う。なんだよ?
「レディウスには敵わないな。私たちはランバルクのチームの戦い方を見て、少し萎縮していたようだ。奴らが余りにもあっさり勝ってしまうからな」
「確かにそうだよねー。ほとんどフューリの魔法とランベルトが一瞬で倒しちゃうからねー」
「あんな奴らにビビってられねえな。絶対に勝たなきゃいけないから力が入り過ぎていたぜ」
「そうですね。確かに力が入り過ぎていました。ありがとうございます、レディウス。気が付かせてくれて」
みんなの表情がさっきより和らいだのがわかる。これでいつも通り動いてくれればいいのだが。そこに
『それではぁ! 両チームに入場して頂きましょうっ!』
会場から放送が聞こえる。もうそんな時間か。それは腰に差してある二本の剣を確認する。他のみんなもそれぞれの武器を持ち出口に立つ。
「それじゃあ、行きましょうか」
ヴィクトリアを先頭に部屋を出る。一本の道を歩き、訓練場へ繋がる扉を係りの人が開けてくれて、通り抜けると
「「「「わぁぁぁああああああっ!!!!!」」」」
大歓声が俺たちを包む。向こうにはニヤけた顔をしているランバルクが見える。あいつは既に勝ったつもりでいるようだ。
俺たちとランバルクのチームが定位置まで行くと
「ティリシア! 僕の奴隷になる準備は出来たか?」
「誰がお前の奴隷になるか! 私たちが勝ったらお前には何でも言う事を聞いてもらうからな!」
「勝てればな! 司会これを!」
ランバルクは懐に入れていた筒を係りの者に渡す。係りの者は、直ぐに司会のところへと行き渡す。司会はそれを開けて中に入っているものを取り出した。あれはティリシアとランバルクが書いた誓約書か。
『ななな、なんとぉ! ランバルク選手とティリシア選手は今回の対抗戦で賭けをしていたようです!
内容は「ランバルクチームが勝てばティリシア・バンハートは、ランバルク・リストニックの奴隷になる」というものと、「ティリシアが所属するチームが勝てば、ランバルク・リストニックは何でもいう事を聞く」というものです!!
この誓約書には両貴族の貴族印が押されており、この誓約書は公式な物となります! なんて大胆なんだぁ!』
司会が会場全体に聞こえるように、誓約書の内容を読んでしまった。これで負ければ確実にティリシアはランバルクの奴隷になってしまう。
「ふはは。ティリシア。今ならまだ試合前だ。棄権すれば寛容な僕は奴隷になる事は許してあげよう!」
「ふん。誰が棄権するか! 私たちのチームは勝つ! 自分こそ、何を言われるか恐々としながら試合に臨むんだな!」
ニヤニヤ笑みを浮かべているランバルクに、ティリシアはビシッと指をさしながら言う。おおっ、カッコいい。観客にいる女生徒たちも「きゃあー!!!」と言っている。ティリシアの凛々しい雰囲気が、女性にモテるのだろう。
「後悔するなよ、ティリシア!」
「……」
怒るランバルクの言葉をティリシアは無言で返す。そのまま腰の剣を抜きいつでも始められるように構える。それにつられてガウェインとクララも構える。俺も腰の剣を二本抜く。
『そぉれではぁぁあ! 対抗戦4年生決勝戦を始めます! はじめぇぇぇ!!!」
司会の開始の声と同時に、フューリが熔炎魔法を発動する。今までの流れと同じだな。
「マグマバレット!」
何もかもを溶かす高熱の熔岩の塊が飛んでくる。
「耐え切れ! 氷の城壁!」
フューリの攻撃を防ぐためにティリシアが氷魔法を発動する。いつもの氷の壁でなく、何層にも重ね合わせて分厚くした壁だ。
分厚い壁はまるで城を守る城壁のように不動の物となっている。その壁に熔岩の塊がぶつかり、氷の城壁が揺れる。
あまりの高熱に氷の城壁の表面は溶け始め、水が蒸発し、水蒸気を発生させる。そのせいで視界が悪くなる。
かなりの防御力を誇る氷の城壁だが、欠点がある。それは防げる範囲が狭いということだ。かなりの魔力を消費するため、大きさが制限されてしまうのだ。
当然、ランバルクたちもそこを狙ってくるように、氷の城壁の左右を走り抜けて来る影が見える。右側がランベルト、左側がフォックスだ。
「ガウェイン!」
「ああ!」
ここまでは予想通りだ。前もって話していた通り、俺とガウェインが左右に分かれる。俺がランベルトでガウェインがフォックスに。
フォックスはキツネ目のまま、ガウェインに槍を突き放つ。ガウェインは左手に持つ盾で槍を逸らして剣で切りかかる。
「はぁっ!」
俺も斜め右上から振り下ろしてくるハルバートを後ろに飛んで避ける。ランベルトのハルバートは地面を抉るが、ランベルトは気にした様子もなく手元に戻して構える。
魔闘眼で見ると、ランベルトの身体はそれぞれの属性の色で光っている。既に身体強化魔法は発動しているわけだな。
俺はそれを見て、思わずニヤケてしまう。今日ほど注目される日は無いだろう。この会場の人たちは紫髪の学園最強に、黒髪の平民が勝てるとは思わないだろう。
そんな奴らに見せ付けてやる。黒髪でも強くなれる事を!
「「「うおおおおおおお!!!」」」
対抗戦3日目も終わりを迎えてきた。朝の1年生の3位決定戦から7時間近く経っていて、日も傾きかける時間帯だ。
アレスたちの試合も無事に終わったが、アレスたちは負けてしまった。何処かチーム内でギクシャクした雰囲気があって、あまり噛み合っていなかった。何かあったのだろうか。
そんな風に各学年の試合が終わっていく中、俺たちは、待機室で待っていた。ここを出れば訓練場まで一本道で出られる部屋になっている。第1訓練場にしか無くて、しかも対抗戦でしか使われない贅沢な部屋だ。
俺は部屋の中を見渡すと、目を瞑って座っているティリシア。自分の剣を手入れしているガウェイン。部屋の中を物色するクララ。自分の家から持ってきたのか本を読んでいるヴィクトリアがいる。
これだけなら落ち着いた雰囲気でいるのだろうと思うのだが、ティリシアの足下を見れば凄い速さで貧乏ゆすりをしており、ガウェインは手元が狂って自分の手を切っている。クララはもう十周ぐらいしているのにまだ見て回り、ヴィクトリアは本を逆さまにして読んでいる。
お前ら、緊張し過ぎだろ……。
「……ティリシア、少し落ち着けよ。ガウェイン、手が剣で切れているぞ。クララ、さっきから何度も同じところを回っているぞ。ヴィクトリア、読んでいる本が逆さまだ」
俺がそれぞれに指摘してあげると、ティリシアはうっ、てなり、ガウェインは気付いてなかったのか手元を見て慌て出し、クララは、はっ、と気が付き、ヴィクトリアは「き、気づいていましたし!」と俺に怒る。……いや、さっきまで必死に読んでいたじゃ無いか。
「みんな緊張し過ぎだろ。もう少し肩の力を抜けよ」
「……そうは言うが、決勝だぞ? しかも、一番注目される4年生の決勝だ。これには今日一番の観客が入る。そんな中で戦うなんて緊張するだろ!」
ガウェインは、俺にそう言ってくる。まあ、気持ちは分からなくも無いが。
「でも、いくら緊張したところで結局は戦わなければならないんだ。それなら緊張せずに戦いやすいように気持ちを落ち着かせるのがベストだろ?」
「それはそうですが……レディウスはどうしてそんなに落ち着いてられるのですか? ガウェインが言ったようにたくさんの人が集まります。そのため決勝なのに、不甲斐ない戦いをすれば、それは直ぐに国中に広まり、笑い者にされるのですよ? それに勝たなければティリシアが奴隷に……」
「それがどうしたんだよ?」
「えっ?」
なんだよ。みんな何に不安を感じているのかと思ったら、そんな事を思っていたのか。
「なんで試合前に、負けるかもって思っているのかが、俺には不思議なくらいだ。確かにランバルクたちは強いかもしれない。でも、俺からしたらみんなも負けていないと思っている。
防御系の魔法が得意なヴィクトリアに、臨時応変に対応出来るティリシア。みんなをサポートするクララにガウェイン。俺はランバルクのチームに負けているとは思わない。
確かに勝負に絶対はあり得ない。もしかしたら魔法の余波で飛んできた小石が、バッチに当たり割れて負けるかもしれない。躓いてこけるかもしれない」
「……」
「何が起こるかわからないが、試合前に負けるかもって思って不安になっていると、絶対に勝てない。勝つために考える事をやめているからな。だから、みんなもそんな不安に思うより、どうすれば勝てるのか考えようぜ。どちらにせよ、俺たちは絶対に負けられないんだから」
俺がみんなを見渡しながら話すと、ティリシアがふふ、と笑う。なんだよ?
「レディウスには敵わないな。私たちはランバルクのチームの戦い方を見て、少し萎縮していたようだ。奴らが余りにもあっさり勝ってしまうからな」
「確かにそうだよねー。ほとんどフューリの魔法とランベルトが一瞬で倒しちゃうからねー」
「あんな奴らにビビってられねえな。絶対に勝たなきゃいけないから力が入り過ぎていたぜ」
「そうですね。確かに力が入り過ぎていました。ありがとうございます、レディウス。気が付かせてくれて」
みんなの表情がさっきより和らいだのがわかる。これでいつも通り動いてくれればいいのだが。そこに
『それではぁ! 両チームに入場して頂きましょうっ!』
会場から放送が聞こえる。もうそんな時間か。それは腰に差してある二本の剣を確認する。他のみんなもそれぞれの武器を持ち出口に立つ。
「それじゃあ、行きましょうか」
ヴィクトリアを先頭に部屋を出る。一本の道を歩き、訓練場へ繋がる扉を係りの人が開けてくれて、通り抜けると
「「「「わぁぁぁああああああっ!!!!!」」」」
大歓声が俺たちを包む。向こうにはニヤけた顔をしているランバルクが見える。あいつは既に勝ったつもりでいるようだ。
俺たちとランバルクのチームが定位置まで行くと
「ティリシア! 僕の奴隷になる準備は出来たか?」
「誰がお前の奴隷になるか! 私たちが勝ったらお前には何でも言う事を聞いてもらうからな!」
「勝てればな! 司会これを!」
ランバルクは懐に入れていた筒を係りの者に渡す。係りの者は、直ぐに司会のところへと行き渡す。司会はそれを開けて中に入っているものを取り出した。あれはティリシアとランバルクが書いた誓約書か。
『ななな、なんとぉ! ランバルク選手とティリシア選手は今回の対抗戦で賭けをしていたようです!
内容は「ランバルクチームが勝てばティリシア・バンハートは、ランバルク・リストニックの奴隷になる」というものと、「ティリシアが所属するチームが勝てば、ランバルク・リストニックは何でもいう事を聞く」というものです!!
この誓約書には両貴族の貴族印が押されており、この誓約書は公式な物となります! なんて大胆なんだぁ!』
司会が会場全体に聞こえるように、誓約書の内容を読んでしまった。これで負ければ確実にティリシアはランバルクの奴隷になってしまう。
「ふはは。ティリシア。今ならまだ試合前だ。棄権すれば寛容な僕は奴隷になる事は許してあげよう!」
「ふん。誰が棄権するか! 私たちのチームは勝つ! 自分こそ、何を言われるか恐々としながら試合に臨むんだな!」
ニヤニヤ笑みを浮かべているランバルクに、ティリシアはビシッと指をさしながら言う。おおっ、カッコいい。観客にいる女生徒たちも「きゃあー!!!」と言っている。ティリシアの凛々しい雰囲気が、女性にモテるのだろう。
「後悔するなよ、ティリシア!」
「……」
怒るランバルクの言葉をティリシアは無言で返す。そのまま腰の剣を抜きいつでも始められるように構える。それにつられてガウェインとクララも構える。俺も腰の剣を二本抜く。
『そぉれではぁぁあ! 対抗戦4年生決勝戦を始めます! はじめぇぇぇ!!!」
司会の開始の声と同時に、フューリが熔炎魔法を発動する。今までの流れと同じだな。
「マグマバレット!」
何もかもを溶かす高熱の熔岩の塊が飛んでくる。
「耐え切れ! 氷の城壁!」
フューリの攻撃を防ぐためにティリシアが氷魔法を発動する。いつもの氷の壁でなく、何層にも重ね合わせて分厚くした壁だ。
分厚い壁はまるで城を守る城壁のように不動の物となっている。その壁に熔岩の塊がぶつかり、氷の城壁が揺れる。
あまりの高熱に氷の城壁の表面は溶け始め、水が蒸発し、水蒸気を発生させる。そのせいで視界が悪くなる。
かなりの防御力を誇る氷の城壁だが、欠点がある。それは防げる範囲が狭いということだ。かなりの魔力を消費するため、大きさが制限されてしまうのだ。
当然、ランバルクたちもそこを狙ってくるように、氷の城壁の左右を走り抜けて来る影が見える。右側がランベルト、左側がフォックスだ。
「ガウェイン!」
「ああ!」
ここまでは予想通りだ。前もって話していた通り、俺とガウェインが左右に分かれる。俺がランベルトでガウェインがフォックスに。
フォックスはキツネ目のまま、ガウェインに槍を突き放つ。ガウェインは左手に持つ盾で槍を逸らして剣で切りかかる。
「はぁっ!」
俺も斜め右上から振り下ろしてくるハルバートを後ろに飛んで避ける。ランベルトのハルバートは地面を抉るが、ランベルトは気にした様子もなく手元に戻して構える。
魔闘眼で見ると、ランベルトの身体はそれぞれの属性の色で光っている。既に身体強化魔法は発動しているわけだな。
俺はそれを見て、思わずニヤケてしまう。今日ほど注目される日は無いだろう。この会場の人たちは紫髪の学園最強に、黒髪の平民が勝てるとは思わないだろう。
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