黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

74話 対抗戦(4)

「今日は昨日以上の人数だなぁ〜」


 俺は訓練場の観客席に座る観客たちを見て呟く。


「当然だろ。前も話したかも知れねえが、この対抗戦はスカウトも含まれている。今日明日やるトーナメントで貴族や騎士団の人らは、本格的に優秀な学生を探しに来ているのさ」


 俺の隣に座っているガウェインがそう教えてくれる。成る程な。貴族の子息は親や周りの貴族に自分の優秀さをアピール出来るし、平民にしても、成績を残せば、貴族や騎士団から雇われたりするもんな。俺が戦争に出たのと同じ理由だ。


 今日は対抗戦の2日目になる。今日から各学年がトーナメントをし、決勝までを決める。1から3年生は順当に8チームになったので、試合は第1試合が4回、第2試合が2回行われる。


 4年生は1チーム多い9チームなので、1チームだけシードになる。そのチームは当然ながらランバルクのチームだ。トーナメントは第1試合からシードの最終戦の第7試合まである。


 第1試合
 カトプレパスチームVSドロシアチーム


 第2試合
 シュネークチームVSカパルトチーム


 第3試合
 ヴィクトリアチームVSヘンリンスチーム


 第4試合
 アーホンチームVSシドニーチーム


 第5試合
 ランバルクチームVS第1試合勝者チーム


 第6試合
 第3試合勝者チームVS第4試合勝者チーム


 第7試合
 第2試合勝者チームVS第5試合勝者チーム


 となる。俺たちのチームは第3試合となる。目的であるランバルクのチームと戦おうと思ったら、決勝まで勝たなければならない。


「しかし、想像以上の強さだったな、ランバルクのチーム」


「ああ。あれが毎年優勝のチームだ。昨日は全く実力を出していなかったがな」


 ガウェインの言葉を聞いて昨日の試合を思い出す。昨日は試合開始と共に、熔炎魔法を使うフューリが魔法を放って、それで半分近くはリタイアした。残りの半分は、ランベルトが自分の身長ほどあるハルバートを振り回し倒していた。


「ランベルトもかなり強かったな」


「あいつは特異体質でな。紫髪で魔法も火、水、風、土、光使えるのだが、攻撃魔法が一切使えないんだ。その代わり身体強化魔法が他の人の倍近く効果があるらしい。同じ風魔法のソニックウインドを使っても、ランベルトには速さで勝てないそうだ。
 その上同時発動が出来るから、攻撃力強化の火、速さ強化の風、防御力強化の土、常時回復の水、闇以外の全ての特性を持った光を全て発動している」


 人の倍の効果か。それ程身体能力が上がるのかはわからないが、かなりの脅威だろう。だからこそ自分の身長と変わらない長さのハルバートを片腕で軽々と振り回せるのか。


「ランバルクは昨日ティリシアが言っていたように、ランベルト同様全ての魔法を同時に使うことか出来る。ランバルクはそれを攻撃魔法で使っているが。
 後の2人は本気で戦っているところを見た事がないためわからねえ。だが、アリッサの方は噂でだが、殴られた相手は内臓が潰れていたらしい」


「そりゃあ、殴られれば潰れる事もあるだろう」


「殆ど外傷が無いのに?」


 ……全く意味がわからない。怪我をさせずに内側だけ潰したって事か?


「まあ、やってみなきゃわからねえが、一筋縄ではいかねえ」


「確かにな」


 俺とガウェインは、そんな話をしながら試合を見るのだった。


 ◇◇◇


「はぁっ!」


「ぐうっ、くそっ!」


 俺の振り下ろした剣を、女性は槍で受け止めるが耐え切れなかったのか直ぐに後ろに下がる。俺は女性について行くように、突きを連続で放つ。


「ミリー! このっ!」


 その俺の背中を狙って、もう1人の女性が剣を振り下ろしてくる。2人とも騎士学科の数少ない女生徒だ。


 俺たちは第3試合を無事に勝ち抜き、現在第6試合を行なっている。相手チームは第4試合の勝者シドニーチームだ。


 合同学科のシドニー・ブラハムが率いるチームで、補欠含めて全員が女生徒だ。そのため、俺とガウェインは物凄くやり辛い。


 向こうの作戦は、俺を二人掛かりで止めて、その間にリーダーを倒そうと考えているらしい。


 シドニー率いる他の3人は交代で魔法を放ってヴィクトリアたちを動かないようにしている。


 3人ともが広範囲魔法であるファイアストームという火魔法を放っているため、ティリシアのアイスウォールから出られないのだ。


 そのため、ここを早く切り抜けて助けに行きたいのだが


「せいやっ!」


 俺が後ろの女生徒の剣を受けている間に、先ほどまで下がっていた女生徒ーーミリーが再び槍で突きを放ってくる。


 俺は腰に差してある剣を左手の逆手で抜く。右手の剣で女生徒の剣を受け止め、左手の剣でミリーの槍を逸らす。


 ミリーは直ぐに槍を手元に戻して横払いをしてくるが、俺は跳んで避ける。そして槍の上を蹴ってミリーの後ろに再び跳ぶ。


 先ほどまで出していた左手の剣は鞘に戻し、左手でミリーのバッチを掴んで潰す。


「ああっ!」


 少し柔らかい感触があったが黙っておこう。ミリーは俺を睨んでくるが不可抗力だ。許してほしい。


「ミリー!? くそぉっ!」


 もう1人の女生徒が剣を構えて走ってくるが、一対一ならば先ほどみたいにはならない。


 俺と数合程打ち合うと、女生徒は下がって腕を振っている。俺の力に耐え切れずに痺れているようだ。


 もちろんその隙を逃さない。俺は魔闘脚を発動し、即座に女生徒との距離を詰める。そして下から切り上げて女生徒のバッチのみを切る。


 女生徒は顔スレスレに通り過ぎた剣を見て、腰が抜けてしまったようで座り込んでしまった。


 少し怖い思いをさせてしまったがこれも勝負だ。仕方ない。俺はそのまま魔法を撃ち続けているシドニーたちの下へ駆ける。


 3人いるうちの1人が俺に気が付き、直様魔法を放ってくるが、俺には当たらない。俺が避けて近づくものだから、3人とも気が付き慌て始める。


 当然その隙を逃すティリシアたちでは無い。魔法が弱まった一瞬をついて、氷の壁からガウェインとクララが走ってくる。


 リーダーのシドニーともう1人の女性とが慌ててガウェインたちに魔法を放つが、2人は魔法を避ける。


 俺も魔法を放ってくる女生徒の横を通り過ぎ、シドニーの前まで行く。シドニーは俺の顔を見てギョッとするが、もう遅い。俺は振り上げた剣を振り下ろす。シドニーのリーダーバッチは左右に割れてしまった。


『第6試合勝者チーム、ヴィクトリアチーム!!!』


「「「うぉぉぉぉぉっ!!!」」」


「きゃあーーー! レディウス様、かっこいいですぅ!!!」


 司会の言葉に湧き上がる観客。観客の歓声に混じってロナの声が聞こえた気がしたが気のせいかな?


「おつかれー! 2人相手でも流石だねー、このこのー」


 ニコニコと笑いながらクララはやってきて俺の脇腹を突く。だから脇腹を突くのはやめい!


「お疲れ様でした、レディウス。まさかレディウスが狙われるとは思いませんでした」


 俺がクララのおでこをデコピンしていると、ヴィクトリアとティリシアがやってくる。


「でも、あの2人は同じ騎士学科だからな。レディウス実力を知っているからこそマークしたんだろうな」


 ヴィクトリアの言葉に、俺を突くクララを微笑ましそうに見ていたガウェインがそう言う。確かにそうかもな。


「何はともあれ、これで決勝だ。ティリシアの事もあるが、何としても勝とうぜ!」


「ああ(うん)(はい)(おう)!」


 こうして、俺たちの2日目の試合はこれで幕を閉じた。


 2日目最終試合、ランバルクチームとカパルトチームの対戦だったが、やはり圧倒的な差でランバルクチームの勝利だった。


 明日の対戦チームは予定通りランバルクチームとなったのだった。

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