黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

71話 対抗戦(1)

「しかし、かなりの人だな〜」


 俺は校舎から門を眺めて呟く。門からは続々と人や馬車が入って来る。理由はわかっているのだが、俺の思っていた以上に人が集まるらしい。


「まあ、毎年こんなものさ。対抗戦は、貴族の子息と令嬢が出る。その晴れ姿を見るために親が来て、その貴族の派閥も来る。今回は4年生という最後の年にセプテンバーム家とリストニック家いるから余計だな」


 俺の隣で同じように校門を見ていたガウェインがそう言って来る。


 俺がヴィクトリアの家、セプテンバーム家に呼ばれてから2週間が経った。2週間はみんなで連携の練習や纏の練習に使い何とかものにすることが出来た。


 そして、今日はその訓練の成果を発揮する対抗戦の日である。対抗戦は3日間に分かれて行われる。


 チームは全部で36チームだ。5人チームが6組。6人チームが10組。7人チームが20組になる。合計で230人だな。


 予定よりチーム数は増えてしまったが、4チーム毎の対戦は変わらないらしい。なので今日は、全部で9試合行われる。1試合1時間。勝敗の時間によって早くなったりするが、それでもかなりの時間だ。


 グループは全部でAからIグループまで分かられている。各グループの勝利チームがトーナメントに出場できる。


 俺たちのチームはDグループだ。因縁があるランバルクのチームはGグループだった。トーナメントでどうなるかはわからないが、とりあえずこのグループ戦では勝たない事にはランバルクたちと戦えない。


「そろそろ行こうぜー。学園長の開会式が始まる」


「ああ。わかった」


 俺はガウェインの後をついて、訓練場に向かうのだった。


 ◇◇◇


「レディース・アーーーンド・ジェルトルマーン! 本日は、メイガス学園にお集まりいただき誠にありがとうございます! 本日より3日間、対抗戦を行いたいと思います! それでは開会の宣言をメイガス学園学園長、デズモンド・クリスタンド学園長にして頂きましょう!」


 壇上で、多分商業科の生徒が手に黒い棒のような物ーーマイクーーとやらを持って大声で話す。その声は訓練場に付けられたスピーカーという魔道具から声が出て来る。どちらも風魔法を使っているらしい。


「みなさん、おはようございます。本年もこの日がやって来ましたわ。
 1年生は、まだ慣れないでしょうけど、日々の成果を発揮して頑張るのよ!
 2、3年は、学園に慣れて来たからって、調子に乗る子もいるけど、あまりおいたが過ぎるとぶっ飛ばすからね! 気を付けてね?
 4年生は、学園で過ごして来た集大成を見せる時よ! 日々の努力を存分に発揮して頂戴!
 最終日、みんなが楽しかったと言える対抗戦にしましょう!
 観客の皆様には、商業科が行うお店の投票もして頂きます。お手数ですがよろしくお願いします。それでは、皆さん楽しみましょう!」


 デズ学園長が挨拶を終えるのと同時に、訓練場の周りから上空に魔法が放たれる。火魔法みたいだ。パァン! パァン! と音がして、それと同時に観客や生徒がワァァァーと拍手をする。盛り上げるための演出か。


「それでは、私たちも移動しよう。試合まではまだ数時間あるが、早まる場合もある。訓練場からは離れられないからな。商業科の屋台で食べ物でも買って観戦しよう」


 これからどうするのか考えていたら、ティリシアがそんな提案をしてくる。……目がキラキラしているぞ。商業科の屋台がそんなに楽しみなのか? まあ、良いのだが。


 それから、会場を出た俺たちは商業科が開く屋台を見て回る。みんな同じ考えなのか人が多いな。それに色々な匂いがする。


 ティリシアは、目に見えた店を片っ端から見に行っている。そして手に増える食べ物たち……そんなに食えるのか? 食えるんだろうな〜。


 俺も何か買おうかと思ったら、オロオロしているヴィクトリアの姿があった。どうしたのだろうか?


「ヴィクトリアは買わないのか?」


「ふぇっ? レ、レディウスですか。それは、あの」


 俺が話しかけると、ヴィクトリアはびくんっ! 驚く。そして俺だとわかると、今度はオロオロし始めた。どうしたんだ?


「……実は、屋台の使い方がわかりません」


「はぁ?」


 頰を赤く染めて照れながら言うヴィクトリア。屋台の使い方って、普通に欲しい物を買うだけなのだが……。


「今までは貴族同士でチームを組んでいたものですから、食事を取るときは、校舎内にあるお店で食べていたのです。そこでも、試合を見る事は出来るようになっていましたから」


 ふむ。それで今回が屋台を使うのが初めてと。貴族はあまり屋台とか使わなさそうだものな。まあ、ティリシアたちみたいに慣れている人もいるが、って既に手一杯の食べ物が、ティリシアの手の中に。もう何も言わないぞ。ただ、戦闘に支障が出ないぐらいまで抑えてくれよ。


「それじゃあ、俺と一緒に回ろうか。何か食べたい物があったら一緒に買おう」


 俺がそう言うと、ヴィクトリアも嬉しそうに頷く。それから先を行くティリシアたちの後を追いかけながら、屋台で食べ物を買って行く。


 ヴィクトリアは、屋台で買った食べ物は全て初めて見るらしく、どう食べれば良いかわからないらしいので、俺が一つ一つ実践して行く。手掴みで食べるのも初めてらしい。


 それでも、慣れてくると美味しそうに食べ始めるヴィクトリア。屋台の料理はどれも美味しい。ヴィクトリアの口にもあったようだ。ただ、屋台の商品を買うのに、金貨はやめた方がいい。あまり良い顔をされないから。


 そんな風に2人で食べ歩きをしていると、一つの屋台に人だかりができていた。その中にはティリシアやガウェインにクララもいた。クララは背が低いのでわかりづらいが。


「何かあったのでしょうか?」


「わからないが、とりあえず行ってみよう」


 俺とヴィクトリアは、人だかりの方へ進む。


「ガウェイン。何かあったのか?」


「ん? ああ、レディウスか。あいつらが騒ぎを起こしているだよ」


 ガウェインはうんざりそうにこの人だかりの原因の方を見る。俺たちもつられてそっちの方を見ると


「貴様。こんな不味いものを俺たちに食べさせようとしたのか! ふざけるなよ!」


 男たちが6人ほどで一つの屋台に文句を言っていた。屋台の生徒は男女2人でやっているみたいだ。


「不味いわけあるか! 姉貴が作った料理が不味いわけあるか!」


「や、やめなさいグラス。失礼しました。お代は結構ですので」


「貴様、その程度で許されると思っているのか!? 俺はバーン伯爵家の三男だぞ! その俺が不味いと言った店を、このままやるつもりか!?」


「なあ、ガウェイン。あいつ誰だ?」


「あいつは、ゲヒン・バーンだ。バーン伯爵の三男で俺らと同い年。合同学科にいる。ちなみにバーン伯爵家はリストニック侯爵家の寄子だ」


 俺がガウェインに聞くと、そんな答えが返ってきた。彼女たちが作っているのは、丸い食べ物だ。上の方は黒いタレのようなものがかかっており、その上に緑色した粉を振りかけ、茶色いヒラヒラしたものを乗せている食べ物だ。良い匂いがするのだが、不味いのか。


 俺は味が気になったので、屋台の方へ行く。周りは俺に注目するが今は無視。後ろからガウェインたちが付いてくるのがわかる。隣にはティリシアが財布を片手に立っていた……まだ買うのかよ。


「みんな食べるか?」


 みんなに聞いて見ると、4人とも頷く。


「すみません。これを5人分お願いします」


「えっ? あの、その、今は」


「なんだ、お前たちは!? 私がだれ……か……ああ」


 そのゲヒンとか言う奴が、俺たちに文句を言おうとして、途中で止める。ゲヒンの目の先には、ヴィクトリアがいたからだ。当の本人は、目の前でユラユラ揺れる茶色い物に目を奪われているが。そして、渡された木のフォークで食べ物を刺して、口に運ぶ。


「ーーーー!!!!」


 そして、口に入れた瞬間、ヴィクトリアは涙目になった。口を手で押さえて、何かを求める仕草。俺たちはわからないが、店員の女の人はわかったみたいで


「み、水を! ヴィクトリア様に水を渡して!」


 と、叫ぶ。俺は常備している水筒をヴィクトリアに渡すと、ヴィクトリアはゴクゴクと凄い勢いで水を飲む。どうしたのか尋ねると


「も、物凄く熱かったです……」


 と、息も絶え絶えだ。俺も注意しながら食べると、あ、熱い! でも、準備が出来ていたので我慢できるほどだ。でも美味しいぞこれ。


 外はパリッとしていて、中はトロッとしている。それに凄く歯ごたえのある物が中に入っている。かかっているタレも合っていて美味しい。


「美味しいじゃないかこれ。なあ、ヴィクトリア?」


「え? ええ、美味しいです」


 ヴィクトリアも美味しそうに食べている。ただ、時々俺の水筒と俺を交互に見て。どうしたのだろうか? まあ、今はそれより、屋台の事だ。


「それでゲヒン君はこのお店の食べ物は不味いんだったか?」


 俺がゲヒンの方を見て言うと、ゲヒンは狼狽える。ゲヒン1人が不味いと言うが、俺たちは全員が美味しいと言う。


 食べ物の良し悪しの判断は人それぞれ違うだろうが、それでも1人の意見より複数人の意見の方が通りやすい。特に美味しいものを食べるのが慣れているヴィクトリアのお墨付きだ。周りも美味しいのか? と判断するだろう。


「ぐ、くそっ、俺は失礼する!」


 そのため、自分が不利になったのを悟ったゲヒンは、その場から去っていった。一体何がしたかったのだろうか。


「そういえば、対戦相手のチームの一つはゲヒンのチームだったな」


 ゲヒンたちの後ろ姿を見ていると、ガウェインがそんな事を言ってくる。そういえば、名前があったな。今思い出した。それじゃあ、その時にでも聞いて見るか。

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