黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

62話 デートの筈が……

「やぁっ!」


「おっと」


 俺は首元に迫る短剣を剣で逸らす。短剣を持つ相手、ロナは、その短剣をすぐ様返して再び切りかかってくる。それも避けると、逆の手に持つ短剣で切りかかってくる。


 迫り来るロナの剣戟を俺は剣で捌いていく。うん、前より動きが良くなっている。ここのところ見て上げる事が出来なかったからな。


「せいっ!」


 短剣を捌ききると、ロナはスラっとした綺麗な右足で、俺の首目掛けて回し蹴りを放ってくる。俺は首を逸らして避けるが、今度は左足で後ろ回し蹴りをしてきた。


 俺はそれを手で掴む。


「ひゃあん!?」


 俺は軸足となっている右足を払って、ロナは尻餅をつく。


「はい、これで終わり」


 尻餅ついて痛そうにしているロナの首元に剣を添える。


「うぅ〜、全然当たりません〜」


 ロナは悔しいのか眉を寄せて上目遣いで睨んでくる。なんだか猫みたいだな。可愛い。そんなロナの頭を撫でて上げると、俺の手のひらに頭を擦り付けてくる。


「久しぶりに相手をしたけど、前より動きが良くなっているよ。頑張っているんだな」


「はいっ! レディウス様のお力になれるように頑張っていますので!」


 目を細めて俺の手を満喫している。朝から良い運動になった。


 今日は学園が休みなので、王都近くの廃村でロナの相手をして上げている。まあ、ここにはガラナたちが住んでいるので、廃村ではないのだが。


 俺たちは基本的には廃村で生活している。戦争前は犯罪者たちの収容所になっていたが、今は戦争から帰ってきて、帰る場所がない元犯罪者たちが暮らしている。


 ガラナが一応ここの村長となっている。これは国から許可を貰っている。たまに兵士たちが見回りに来るが、みんな普通に生活しているため特に何も言われない。


 俺たちもこの村の一家を借りている。俺とロナとクルトで生活している。最近は学園にいるのであまりいる事は出来ないのだが。


「そうだ、ロナ。今日は暇なのか?」


「私ですか? はい、今日はガラナさんの字の勉強もありませんから」


「それならロナの服を買いに行こう。今まであまり買わなかったからな。女の子なんだから色々と必要だろ?」


 前の戦争の報酬でいくらか貰っているしな。女の子だからオシャレもしたいだろう。


「ももも、もしかして、そ、それって、ででで、デートですか!?」


 ロナは勢いよく立ち上がって俺に尋ねて来る。ち、近いっ!


「ま、まあ、2人で出かけるからそう言ってもかわら……」


「すぐに用意してきます!」


 俺が言い終わる前にロナは家に走って行ってしまった。全く。俺は1人で笑っていると、ロナが走って行った方からガラナが歩いてきた。その後ろにはボロボロのクルトと、その足下にロポがポコポコと歩いている。


「よう、レディウス。なんでロナのお嬢ちゃん、あんな嬉しそうに走って行ったんだ?」


「ん? ああ、今から2人で買い物に行くって言ったらな」


「なるほどな。それはロナのお嬢ちゃんも喜ぶわけだ」


 ガラナがガハハと笑う。クルトは後ろでロポとじゃれている。


「お、お待たせしました、レディウス様!」


 そして待つ事10分ほど。家からロナがやってきた。背にリュックを背負って、腰には二刀の短剣を差している。まあ、荷物を入れるのにリュックは必要だな。


「それじゃあ、行こうか」


 俺は軍から貰った馬に乗る。後ろにロナを乗せる。2人乗りは初めてだが、まあ、大丈夫だろう。


「ロナ、落ちると危ないから、俺の腰にしがみついておけよ」


「は、はいです! えへへ〜、暖かいですぅ〜」


 うおっ、しがみつけとは言ったが、そこまで引っ付かなくても大丈夫だぞ。背中に柔らかい感触がするし。まあ、後ろから楽しそうな声が聞こえるから良いか。


 馬を駆ける事15分ほど。王都の門に着いた俺たちは、門の馬小屋に馬を預けて、王都へ入る。


「……久し振りに王都に来ました」


 そう言えば、ロナは王都生まれだったな。ロナたちを拾ってから聞いたが、ロナの母親は娼婦だったらしい。父親はどこの誰かもわからずに、ロナの母親は女手一つで育ててくれたそうだ。


 ただ、ロナは黒髪。他の人たちは助けてくれずに、ロナが5歳の時にロナの母親は体調を崩して、そのまま帰らぬ人となったと言う。その後に同い年のクルトと、亡くなったセシルと他にも数人の子供たちと過ごして来たらしい。


 でも、子供だけで生きるのには厳しい環境だ。日に日に子供たちの人数は減っていき、気が付けば3人で助け合いながら生きてきたとクルトが話していた。そして俺と出会った。


 それからはずっと過ごしている。今では可愛い仲間だ。これからどうなるかはわからないが、なるべく笑顔で過ごせるようにしてあげたいな。


「レディウス様、あのお店に行きましょう!」


 俺はロナに手を引かれながら店を順番に入って行く。店の人たちは俺たちの頭の色を見て嫌そうな顔をするが、お金を出すと、普通の客として対応してくれる。現金だが仕方ないのだろう。


 今いるのは、少し値段が高めの服屋だ。ロナに良いものを着てもらおうと思い連れて来たが


「レディウス様、これなんて似合っていると思いますよ!」


 何故か俺の服を選ぶロナ。いやいや、ロナの服を買いに来たのに、自分のを選んでくれよ。俺がいくら言っても、自分は後でと言う。全くこの子は。


「ほら、行くぞ!」


「え? レディウス様、どちらへ?」


 全くロナが自分のを選ばないので、無理矢理女性服のところへ連れて行く。店員にお金を渡して、ロナに似合っている服を選んでもらう。俺じゃあわからないしな。


 それからロナは店員たちの着せ替え人形となった。次々と着せられては俺に見せてくるロナ。黒髪でも、とても可愛いロナだ。店員の人たちもどんな服を着せても似合うので、楽しくなって来ているようだ。


「レ、レディウス様ぁ〜」


 ロナは涙目で助けを求めてくるけど、店員は嬉々として更衣室に連れて行く。まあ、少し我慢してくれ。


 俺も少し店の中を見ようかな。そう思い店の中を回っていたら、店内が少し騒がしくなる。客も騒がしいが、特に店員がバタバタとしている。なんだ?


「申し訳ございません。今よりこの店は貸切となりますので」


 そう思っていたら、店員が店にいる客にそんな事を言ってくる。ロナも更衣室から出て来た。服も元の服に戻っている。


 仕方がないので店を出ると、王宮の方から大きな馬車が走ってくる。馬車の前と後ろには騎士が守るように立つ。あれは……王家の紋章か。何故王家の人がこの店に?


 そして、馬車から降りて来たのは2人の男女……あの2人は。


「どうしてここなんだい? 君の服は王家御用達の店で良いんじゃないのかい?」


「ここの服が好きなんですよ。王都に来た時から使っている店なので」


「そうか。それなら良いが。悪いな店長。少し貸切にさせて貰うぞ」


「は、はいぃぃ! ようこそお越し下さいました、ウィリアム王子!」


 戦争の時にチラリと見たウィリアム王子とその隣に歩くのは、エリシア・グレモンド……今はエリシア・リストニックか。姉上が歩いていた。


「あっ、あの人は」


「……ロナ、知っているのか?」


「はい。以前レディウス様のお母様のお墓詣りに行った時に、墓地の前で出会った方です」


 それじゃあ、あの時の母上の墓地のお供え物は姉上がか。そんな姉上はこっちを見たかと思うと、こっちに歩いてくる。そして


「あら、あなた。前にグレモンド領の墓地で会った子よね?」


「あっ、はい、お久しぶりです」


 ロナに話しかける。まさかロナと接点があったとは。


「今日は1人? 前は人を待っていたけど……」


「いえ、今日は私の大事な人と一緒なんです……レディウス様。どうして反対側を向いているのですか?」


「……えっ? レディウスって……」


 ……ああ、言っちゃった。さすがにわかるよな。同じ名前で、黒髪の男がいたら。仕方ない。こんなところで挨拶するつもりは無かったが。俺は振り返って姉上を見る。


 姉上も俺の顔を見たのか、目を見開いて言葉が出ないようだ。


「お久しぶりです、姉上」


「……え? うそ……で……しょ……ど、どうして……し、死んだはずじゃあ……」


「いえ、俺は生きています」


 俺が生きていると伝えると、何故か姉上の顔色はどんどんと悪くなっていって、そして倒れてしまった。


「姉上!?」


 俺は驚いて姉上に触れようとすると


「貴様! エリシアに何をしたぁ!?」


 とウィリアム王子がやって来て顔を思いっきり殴られる。そして後からやって来た騎士たちに捕縛される。


「レディウス様! は、離してください! レディウス様! レディウス様ぁ!」


 一緒にいたロナも捕まってしまった。姉上は馬車に運ばれ、俺たちもそのまま王宮まで連れて行かれる事になってしまった。はぁ、最悪な出会いになってしまった。

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