黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

59話 嫌な出会い

「この教室にいるはずなのだが……」


 ティリシアがとある教室を覗いて呟く。今俺たちがやってきているのは学園の合同学科の校舎だ。合同学科は、他の騎士学科や商業科に比べて人数が多いため、校舎が分かれている。


 校舎は合同学科だけの校舎と、騎士学科と商業科の校舎、それから多目的用の校舎の3校舎で分かれており、俺たちは合同学科の校舎にやってきている。


 やってきた教室は合同学科の4年Aクラスだ。昨日、メンバーにヴィクトリア・セプテンバーム様を誘おうという事になったのだが、既に放課後だったためにいなかったのだ。なので今日にしたのだが


「いないのか?」


「うーん、教室にはいない様だな。手分けして探してみるか」


 ティリシアが教室を覗いて見たが、どうやらいなかった様だ。そして手分けして探す事になった。でも、ここで1つ問題が出てくる。それは


「……俺、ヴィクトリア様の容姿を知らないんだけど」


 そう、目的の人物の容姿がわからないのだ。まあ、会った事も無いので当然といえば当然なのだが。


「そうだったな。それなら伝えておこう。髪は金色で腰まで長さがあり、ゆるふわな感じだ。目は翡翠色で垂れ目をしており優しそうな表情をしている。耳には目と同じ色の翡翠色のイヤリングをしており、胸は程々の大きさを持つ私より大きい。腰は折れそうなほど細く、まあ、簡単に言えば、女性の私から見ても綺麗だと思う方だ」


 ……何処かで見たことある様な特徴ばかりだな。そして合同学科の生徒。もしかして、王宮で出会ったあの人かな? 翡翠色のイヤリングも俺が拾って渡したものと同じだろう。


「わかった。それじゃあ分かれよう」


 それから俺たち4人は分かれて探す事になった。しかし、どこにいるのだろう。セプテンバーム家の馬車が学園に入るのは見たという話は聞いたので登校はしているはずなのだが。


 中庭、教室、校舎裏。色々な場所を探して見たが、それらしき人は見当たらない。あんな綺麗な人なら見かけたらわかるのだが。


 もう一度合同学科の校舎に戻ろうかと思ったその時


「な、何で貴様が生きている!?」


 と後ろから大声で叫ぶ男の声が聞こえてきた。一体誰なのかと思い振り返ってみると、そこには忘れられない奴が立っていた。


 昔よりも大きくなった体。汗をかいている顔に重たそうな瞼。だらんとした二重顎にくすんだ金色の髪をしていた。そこにいたのは


「……バルト・グレモンド」


 そう、姉上の弟で俺の腹違いの兄、昔俺を虐めて楽しんでいた男が、そこに立っていたのだ。後ろには取り巻きらしき男が2人付いている。


「どうしたんですバルト様。この黒髪とは知り合いですか?」


「ふん、ただの下僕だ。おいレディウス。何故貴様がが学園にいる。いや、それ以前に何故生きている?」


「……久し振りですね兄上。だけど、俺がここにいる理由を話す必要は無いはずです。それから何故生きているかはある人に助けられたからです」


「貴様、兄である僕に逆らう気か!?」


 ……何を言っているんだこいつは。溜息を吐きそうになったが、何とか我慢する。


「俺は既に勘当された身です。あなたに従う理由は無い」


「何だと!? おい、お前ら! こいつを捕まえろ!」


 頭にきたバルトは後ろにいる取り巻きたちに俺を捕まえる様に指示を出す。本当に馬鹿だなこいつ。こんな人が見ているところでそんな事を。


「ヘッヘ、痛い目に遭いたくなきゃ今の内に土下座するんだな!」


 そして2人のうちの1人がそんな事をのたまいながら殴りかかってくる。……遅い。遅過ぎて欠伸が出るぞ? 
 俺は殴りかかってくる男の拳を余裕を持って避け、腕を掴む。そして足を引っ掛け、体勢を崩したところで腕を捻る。男は回転して背中を地面に打ち付ける。


 背中を強く打ち付けた男は、肺から空気を漏らし苦しそうにしている。俺は逃さない様に男の腹を踏みつける。腹を圧迫され苦しそうにしている。


 そこにもう1人の男が向かってくる。男は手にナイフを持って切りかかってきた。俺は切りかかってくるナイフを避け、顎を一発殴る。男はそれだけで気を失ってしまった。


「な、何だと……」


「これで終わりか、バルト……ああ、もう兄上でも何でも無いから敬語は使わないぞ。それでどうする?」


 俺は早くヴィクトリア様を探しに行きたいのに。こんな馬鹿に構っている暇はない。昔の恨みを晴らしてやってもいいが、こいつの出方次第だな。


「き、貴様ぁぁぁ!!! 僕を舐めるなよぉ!! 燃やし尽くせファイアランス!」


 そしてバルトは魔法を放ってきた。本当に馬鹿だなこいつは。俺は腰の剣に手をかけ、俺に向かって飛んでくる炎の槍を切り落とそうとしたところに、後ろから水の球が飛んできた。そして炎の槍にぶつかり相殺。


「何をやっているのです、あなたたちは!」


 後ろを振り向くとそこにはお探しの人物が、手を前に出して立っていた。


「……バルト・グレモンド。あなた、訓練場以外での魔法の使用は禁止されている事は分かっているはずです」


「すみません、ヴィクトリア様。少し弟と話していたら反抗してきたものですから」


「弟?」


 ヴィクトリア様は俺の顔を見て驚いた表情を浮かべる。この人はグレモンド家に色々と思う事があるはずだ。下手すれば恨んでいるだろう。


「今は勘当された身なので関係ありませんよ。バルト。次は許さないぞ」


「っ! 貴様ぁ! ……ちっ! 覚えていろよ!」


 そう言い去っていくバルト。俺の足下で悶えていた男は気を失っている男を担いでバルトの後を追って行った。


 俺は振り返ってヴィクトリア様の方を見ると、物凄く複雑そうな顔をしている。後ろにいる侍女たちもだ。


「助けていただきありがとうございます、ヴィクトリア様」


「……いえ。私が手を出さなくてもあなたは防いでたと思います。それよりあなたはグレモンド家の生まれだったんですね」


 ヴィクトリア様は辛そうな表情を浮かべながら俺に尋ねてくる。色々と思う事があるのだろう。大切な物を見つけてくれた人が、実は婚約者を奪った家の人間だったなんて。でも


「昔の話です。俺はグレモンド男爵から既に勘当されていますから。それよりも少し話したい事があるのですが」


「……良いでしょう。あなたは私の大切な物を見つけて下さった方です。それでは付いてきてください」


 ようやくヴィクトリア様と出会えて話せる事になったが……物凄く話しづらいな。

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