黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
58話 驚き
「……見つかったか?」
「……駄目だった」
「「はぁ〜」」
俺とガウェインは同時に溜息を吐く。現在いるのは放課後の食堂。周りは居残りで勉強をするものや、対抗戦に向けて作戦を練るチームなどが食堂を使っている。
その中で俺とガウェインは向かい合いながら溜息を吐いている。理由は、チームメンバーが見つからない事だ。
俺がティリシアと模擬戦をして、ランバルクから対抗戦での賭けの話をした日から今日で1週間になる。
賭けについては次の日にランバルクが誓約書を持って来た。しかも、自分の父親とティリシアの父親の貴族印まで押した物を。
それにティリシアとランバルクも署名して誓約は成立した。これで勝たなければ法に従ってティリシアは奴隷になってしまう。
そんなランバルクたちに勝つために、ティリシアたちと対抗戦のチームを組む事になり、みんなで手分けして残りのメンバーを探したのだが、なぜかみんなに断られるのだ。
俺だったら髪のせいかなと思ったりもするのだが、ティリシアやクララが行っても断られる。ガウェインも然り。断られた中には既にチームを作ったりしているから無理だと言う人もいるのだが、作っていないのに断られる事もある。謎だ。
「しかし、なんで断られるんだ? 意味分かんねえぜ」
「そうだよな。やっばり黒髪の俺がいるからなのか?」
俺がなんとなしに言った言葉にガウェインは、はぁ〜と溜息を吐く。さっきの疲れた溜息では無く、呆れるような溜息だ。
「そんなわけねぇだろ。確かに黒髮を毛嫌いしている奴はいるが、そういう奴だった正直に言うだろ。レディウスに直接言わなくても、俺たちには普通言うだろし。だけど、そんな事を一回も聞いた事ない。みんな理由ははぐらかすだけだ」
「う〜ん。そうすると、本当に理由がわからないな」
「わかったぞ」
俺とガウェインがうんうんと悩んでいたら、後ろから綺麗な声がする。振り向くとそこには、眉にしわを寄せているティリシアと少し苛立っているクララが立っていた。
「あっ、お疲れ様ティリシア、クララ。それからわかったっていうのは……」
「なぜ、他の生徒が私たちのメンバーにならないかだ」
「全部あいつが仕組んだ事だったのよ!」
クララは腕をブンブンと振りながら怒りを露わにしている。見た目は小さい女の子が可愛らしく怒っているだけなのだが、話の内容は聞き捨てならないものだ。
「ランバルクが私たちの仲間になれば、ただじゃあ置かないぞと脅しているそうだ」
「なんでそんな事をする必要があるんだ? そんな事をしなくてもあいつらは学年1位になる実力があるんだろ? 真正面から戦えば良いのに」
「確実に勝ちたいのだろう。貴族からしたら脅しなど日常茶飯事だ。出遅れた私たちが悪いと思うしかないだろう」
ティリシアもやれやれと言いながら席に座る。まあ、それも試合前からの戦略だと言われたらそれまでだしな。
「しかし、それならどうする? このままだと人数が揃わないまま俺たちは出ることも出来ずに負ける事になるよ」
対抗戦には最低でも5人人数が必要になる。だけど、俺たちは4人だ。このままメンバーが見つからなければ、俺たちは出場をする事も出来ずに負けてしまう。そうなれば、ティリシアはランバルクの奴隷になってしまう。
「その事だが、1人だけ当てがある」
「当て?」
「ああ。ランバルクは侯爵家の権力を傘に着てみんなを脅している。それならその脅しに屈しないくらいの貴族の子息や令嬢を探せばいい。そしてその屈しない人たちの中で、まだチームを組んでいない人が1人だけいたのだ」
「おお! それって誰なんだ?」
「それはな。ヴィクトリア・セプテンバーム様だ」
セプテンバーム? ……ああ! 確か公爵家の令嬢だったな。確かに公爵家相手にはランバルクも強く言えないだろう。それにチームを組んでいないならもしかしたら入ってくれるかもしれない。
でも、どうしてまだチームを組んでいないのだろう。みんな公爵家の令嬢なら縁を結びたくて組みたいと思うはずなのだが。そんな事を思っていると
「ただ、彼女の今の立場はかなり微妙になっている」
「どういう事?」
「ヴィクトリア様は元々、アルバスト王国の王子、ウィリアム様と婚約していたのだが、今は婚約破棄をされている」
「え? なんで?」
「ウィリアム王子が別の人を相手に選んだからだ。その相手は、前にも話したエリシア・グレモンドだ」
「……! げほっ、げほっ!」
な、なんで、そこで姉上の名前が出てくるんだよ!? あまりに驚き過ぎて、むせてしまったじゃないか!
「大丈夫かレディウス?」
「ご、ごめん。続けて」
「ああ。ウィリアム王子は、学園にいた頃からエリシアの事が好きだったらしく、この前の戦争の功績を讃えて、国王陛下も認めたらしい。実際に王妃として結婚するのは、王妃の教養が終わってかららしいので、早くても5年はかかるだろう。
その上、流石に国の母である王妃に男爵家の令嬢をつかせるのは身分が低いので、上の位の貴族に養子に入るそうだ。その家が……」
「もしかして、リストニック侯爵家だったりして」
俺が適当に言うと、ティリシアは頷いた。マジかよ。
「リストニック侯爵家はグレモンド男爵家の寄親の寄親だから、そこからの縁でだろう。リストニック侯爵家はかなり大きな派閥のトップだ。
今まではセプテンバーム公爵家も大きかったけど、王妃の座がリストニック侯爵家に取られたせいで、影響力はリストニック侯爵家の方が強くなっている。エリシアが王妃になる事を反対していた貴族も黙ってしまうほどだ。」
「なるほど。それでヴィクトリア様がかなり微妙だって言うのは」
「周りの生徒たちが距離をとっているのだ。理由はリストニック侯爵家から目をつけられたくないからだろう」
元々の寄子の貴族の子息などは側にいるらしいが、それでもチームを作れる程では無いらしい。それでティリシアも悩んでいるそうだ。
「いや、悩む必要はないだろう?」
「レディウス?」
「どうせ、人数を集めなければ対抗戦に出られないんだし、既に目はつけられているんだ。それならヴィクトリア様を誘って、チームを作り、ランバルクを倒した方が良いだろう。ちがう?」
俺にはあまり貴族の関わりがわからないが、今俺たちが考えるべきは対抗戦で勝つためにどうするかだ。それ以前の出れる出れないで迷っている場合じゃない。
俺がそう言うと、ガウェインもそれはそうだと笑い出す。ティリシアとクララもそうだなと納得してくれた。
「よし。ならそのヴィクトリア様を誘いに行こう!」
色々と驚く話は出てきたが、まずは対抗戦で勝つ事だ。姉上の事はその後考えよう。
「……駄目だった」
「「はぁ〜」」
俺とガウェインは同時に溜息を吐く。現在いるのは放課後の食堂。周りは居残りで勉強をするものや、対抗戦に向けて作戦を練るチームなどが食堂を使っている。
その中で俺とガウェインは向かい合いながら溜息を吐いている。理由は、チームメンバーが見つからない事だ。
俺がティリシアと模擬戦をして、ランバルクから対抗戦での賭けの話をした日から今日で1週間になる。
賭けについては次の日にランバルクが誓約書を持って来た。しかも、自分の父親とティリシアの父親の貴族印まで押した物を。
それにティリシアとランバルクも署名して誓約は成立した。これで勝たなければ法に従ってティリシアは奴隷になってしまう。
そんなランバルクたちに勝つために、ティリシアたちと対抗戦のチームを組む事になり、みんなで手分けして残りのメンバーを探したのだが、なぜかみんなに断られるのだ。
俺だったら髪のせいかなと思ったりもするのだが、ティリシアやクララが行っても断られる。ガウェインも然り。断られた中には既にチームを作ったりしているから無理だと言う人もいるのだが、作っていないのに断られる事もある。謎だ。
「しかし、なんで断られるんだ? 意味分かんねえぜ」
「そうだよな。やっばり黒髪の俺がいるからなのか?」
俺がなんとなしに言った言葉にガウェインは、はぁ〜と溜息を吐く。さっきの疲れた溜息では無く、呆れるような溜息だ。
「そんなわけねぇだろ。確かに黒髮を毛嫌いしている奴はいるが、そういう奴だった正直に言うだろ。レディウスに直接言わなくても、俺たちには普通言うだろし。だけど、そんな事を一回も聞いた事ない。みんな理由ははぐらかすだけだ」
「う〜ん。そうすると、本当に理由がわからないな」
「わかったぞ」
俺とガウェインがうんうんと悩んでいたら、後ろから綺麗な声がする。振り向くとそこには、眉にしわを寄せているティリシアと少し苛立っているクララが立っていた。
「あっ、お疲れ様ティリシア、クララ。それからわかったっていうのは……」
「なぜ、他の生徒が私たちのメンバーにならないかだ」
「全部あいつが仕組んだ事だったのよ!」
クララは腕をブンブンと振りながら怒りを露わにしている。見た目は小さい女の子が可愛らしく怒っているだけなのだが、話の内容は聞き捨てならないものだ。
「ランバルクが私たちの仲間になれば、ただじゃあ置かないぞと脅しているそうだ」
「なんでそんな事をする必要があるんだ? そんな事をしなくてもあいつらは学年1位になる実力があるんだろ? 真正面から戦えば良いのに」
「確実に勝ちたいのだろう。貴族からしたら脅しなど日常茶飯事だ。出遅れた私たちが悪いと思うしかないだろう」
ティリシアもやれやれと言いながら席に座る。まあ、それも試合前からの戦略だと言われたらそれまでだしな。
「しかし、それならどうする? このままだと人数が揃わないまま俺たちは出ることも出来ずに負ける事になるよ」
対抗戦には最低でも5人人数が必要になる。だけど、俺たちは4人だ。このままメンバーが見つからなければ、俺たちは出場をする事も出来ずに負けてしまう。そうなれば、ティリシアはランバルクの奴隷になってしまう。
「その事だが、1人だけ当てがある」
「当て?」
「ああ。ランバルクは侯爵家の権力を傘に着てみんなを脅している。それならその脅しに屈しないくらいの貴族の子息や令嬢を探せばいい。そしてその屈しない人たちの中で、まだチームを組んでいない人が1人だけいたのだ」
「おお! それって誰なんだ?」
「それはな。ヴィクトリア・セプテンバーム様だ」
セプテンバーム? ……ああ! 確か公爵家の令嬢だったな。確かに公爵家相手にはランバルクも強く言えないだろう。それにチームを組んでいないならもしかしたら入ってくれるかもしれない。
でも、どうしてまだチームを組んでいないのだろう。みんな公爵家の令嬢なら縁を結びたくて組みたいと思うはずなのだが。そんな事を思っていると
「ただ、彼女の今の立場はかなり微妙になっている」
「どういう事?」
「ヴィクトリア様は元々、アルバスト王国の王子、ウィリアム様と婚約していたのだが、今は婚約破棄をされている」
「え? なんで?」
「ウィリアム王子が別の人を相手に選んだからだ。その相手は、前にも話したエリシア・グレモンドだ」
「……! げほっ、げほっ!」
な、なんで、そこで姉上の名前が出てくるんだよ!? あまりに驚き過ぎて、むせてしまったじゃないか!
「大丈夫かレディウス?」
「ご、ごめん。続けて」
「ああ。ウィリアム王子は、学園にいた頃からエリシアの事が好きだったらしく、この前の戦争の功績を讃えて、国王陛下も認めたらしい。実際に王妃として結婚するのは、王妃の教養が終わってかららしいので、早くても5年はかかるだろう。
その上、流石に国の母である王妃に男爵家の令嬢をつかせるのは身分が低いので、上の位の貴族に養子に入るそうだ。その家が……」
「もしかして、リストニック侯爵家だったりして」
俺が適当に言うと、ティリシアは頷いた。マジかよ。
「リストニック侯爵家はグレモンド男爵家の寄親の寄親だから、そこからの縁でだろう。リストニック侯爵家はかなり大きな派閥のトップだ。
今まではセプテンバーム公爵家も大きかったけど、王妃の座がリストニック侯爵家に取られたせいで、影響力はリストニック侯爵家の方が強くなっている。エリシアが王妃になる事を反対していた貴族も黙ってしまうほどだ。」
「なるほど。それでヴィクトリア様がかなり微妙だって言うのは」
「周りの生徒たちが距離をとっているのだ。理由はリストニック侯爵家から目をつけられたくないからだろう」
元々の寄子の貴族の子息などは側にいるらしいが、それでもチームを作れる程では無いらしい。それでティリシアも悩んでいるそうだ。
「いや、悩む必要はないだろう?」
「レディウス?」
「どうせ、人数を集めなければ対抗戦に出られないんだし、既に目はつけられているんだ。それならヴィクトリア様を誘って、チームを作り、ランバルクを倒した方が良いだろう。ちがう?」
俺にはあまり貴族の関わりがわからないが、今俺たちが考えるべきは対抗戦で勝つためにどうするかだ。それ以前の出れる出れないで迷っている場合じゃない。
俺がそう言うと、ガウェインもそれはそうだと笑い出す。ティリシアとクララもそうだなと納得してくれた。
「よし。ならそのヴィクトリア様を誘いに行こう!」
色々と驚く話は出てきたが、まずは対抗戦で勝つ事だ。姉上の事はその後考えよう。
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