黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

55話 騎士学科

「受付の人の話の通りならここかな?」


 俺は学園の受付の人に聞いた場所にやって来た。思っていたより学園の中が広くて、場所がわからなかったからだ。


 受付の人にも俺の事が伝わっていたらしく、懇切丁寧に説明してくれた。そして説明された通りにやって来たのがここ。学園の東棟の3階。そこの一番奥が学園長室になるらしい。


「取り敢えずノックしてみるか」


 俺が学園長室の扉をノックすると中から「は〜い」と返事をする声が聞こえてくる。あれ? 中にいるのは女性なのか? 男性にしては高い声だったな。レイブン将軍から聞いていた話では男性だって聞いていたんだが。秘書か何かか?


 そう思ったが、取り敢えずは中に入ってからだな。


「失礼します」


 扉を開けて中に入ると、そこには


「あら、黒髮ね。それならあなたがレディウス君ね?」


 と、茶髪を三つ編みにして、口周りが髭の剃った後で青くなった口に、唇には物凄く赤い口紅が塗られており、来ているスーツがはち切れんばかりの筋肉をしたオカマが席に座っていた。


「……」


「あらん? どうしたの? 早く入りなさいな」


「……ええっと、あなたは?」


 失礼だとは思ったが、聞かずにはいられなかった。この部屋にの一番奥の席に座っているという事はそういう事なのだろうが、万が一でも違っていればという期待も込めて聞いて見たのだ。だけど


「あら、レイブンから私の事聞いているでしょ? 私の名前はデズモンド・クリスタンドよ。みんなからは親しみを込めてデズ学園長と呼ばれているわ」


 残念な事に期待は外れてしまった。それにしても強烈な人だな。一度見たら忘れられない顔をしている。


 でも、この人がレイブン将軍の戦友であるデズモンド・クリスタンドか。たしかレイブン将軍に聞いた異名は『剛力』だったかな。


「ほら、そんなところに立っていないでこっちに来なさい」


「……失礼します」


 デズ学園長に促され俺は部屋の中にあるソファに座る。デズ学園長も向かいのソファに座り、机の上に色々物を置いていく。


「レイブンから話は聞いているだろうけど、もう一度説明するわね。あなたはこれから来年の3月まで騎士学科に入学してもらう事になるわ。クラスは4年Bクラス。4年生は3クラスあって各クラス30人だから。そこで騎士について色々と学んでもらう事になるから」


 それから、と机の上に置いた物をこちらに渡してくる。物を見ていると制服と教材のようだ。制服は黒を基調として、所々に青のラインが入っている。


「学科ごとに線の色が違うわ。合同学科は赤、騎士学科は青、商業科は緑といった風にね」


 なるほど。そういえば、王宮であったあの女性も赤だったな。という事はあの女性は合同学科になるのか。


「レイブンから聞いたけど、あなたミストレア様の弟子なんだってね。期待しているわよ」


 うふふん。と微笑みながらそんな事を言われるが、何に期待しているのかがわからない。それから、デズ学園長が呼び鈴を鳴らすと、事務員っぽい人がやって来た。あの呼び鈴、魔道具なのだろう。


「グランド先生を呼んでちょうだい」


「かしこまりました」


 それから待つ事10分ほど。デズ学園長と戦争の事について話していると、扉がノックされて「グランドです」と声がする。


 デズ学園長が返事をすると入って来たのは、金髪のオールバックに眼鏡をかけた40代前半の男性だった。この人がグランド先生か。


「グランド先生、呼んで悪いわね。彼がこの前話したレイブンの紹介の生徒よ。あなたのクラスでよろしくね」


「わかりました。君は確かレディウス君だったね? 早速行こうか」


「あ、はい。それではデズ学園長、これからよろしくお願いします」


「ええ。頑張ってちょうだい」


 俺とグランド先生はデズ学園長に見送られながら学園長室を出る。


「先ずは、制服に着替えて貰おう。そのために先ずは更衣室に行こうか」


 グランド先生に連れられて更衣室にやって来た。外で待っているからここで着替えろと言う。俺はグランド先生の指示に従って更衣室に入って着替えている。着替え終えて鏡を見ると


「あまり似合ってないな」


 つい苦笑いしてしまった。何だか似合ってないように思えてならないからだ。まあ、これから着ていけば見慣れるだろう。それから更衣室を出て、グランド先生の案内に付いて行く。


「先ずは私が教室に入るから、呼んだら中へ入って来てくれ。入ったら自己紹介な」


「わかりました」


 グランド先生はそう言い教室に入る。俺は1人廊下で待っていると


「では、入って来てくれ」


 と、教室の中からグランド先生の声が聞こえてくる。何だか緊張して来たな。俺は数回深呼吸して、教室に入る。そして教壇に立ち教室を見回すと、みんな一様に驚いた表情を浮かべている。見ているのはやはり髪と左目。


 俺もみんなをじっくりと見させて貰おう。男女比率は8:2ってところか。30人って言っていたから男が24人、女が6人だな。基本は茶髪と金髪だが、ピンク色の髪の女性と、紫色の男性が混じっている。


「それでは、自己紹介をしてくれ」


「はい。俺の名前はレディウスと言います。年は14歳になります。よろしくお願いします」


 俺が自己紹介をして頭を下げると、まばらながらも拍手が聞こえてくる。頭を上げて再び見回すと、俺の事を普通に迎えてくれている人もいれば、蔑みの目で見ている人もいる。まあ、慣れているからあまり気にしないが。


「良し。それでは早速授業を開始するから、みんな移動してくれ」


 俺がクラスメイトたちを見ていると、グランド先生が突然そんな事を言い始める。なんだ移動って? そんな俺の疑問にグランド先生は答えてくれる。


「これなら戦闘訓練を行う。みんな4年間鍛えられているからまあまあの実力者たちだぞ。それに君の力も見たいからね」


 そう言い教室を出て行くグランド先生。まあ、戦闘訓練は必要だよな。って、俺も後に付いて行かなければ。場所がわからないからな。


 前を歩くクラスメイトの後を付いて行くが、クラスメイトたちは俺の方をチラチラと見てコソコソと話す。そんな中、ピンク髪をした女性が俺の方にやって来た。


「お前、私と勝負しろ」


 そして突然そんな事を言ってくる。ピンク髪の女性は髪をポニーテールにしていて、目元はつり上がった目をしている。胸は普通より少し大きいぐらいで身長が170ほどだろう。


「ええっと、どうしてですか?」


「私がお前の実力を確かめてやる」


 ピンク髪の女性はそう言うだけで、行ってしまった。その事を周りのクラスメイトは再びコソコソと話し始める。そんなクラスメイトを見ていると、突然肩を組まれる。肩を組まれた方を見ると、俺と身長があまり変わらない金髪の男だった。


「ドンマイだなお前。まさか『鬼姫』に目をつけられるなんて」


「『鬼姫』? なんですかそれ?」


「さっきのピンク髪の女の異名だよ。一回演習の時にオーガに囲まれる事があってさ。その時にさっきの女が身の丈ほどある大剣を使ってオーガをバッサバッサと切り殺していたからそんな異名が付いたんだよ」


「へえ〜、それはすごいですね」


 オーガといえばCランクの魔獣だ。全身赤くて頭に2本の角が生えた人型の魔獣で、オークが10体いても太刀打ちは出来ない程の強さを持つ。そんな相手を1人で立ち向かえるなんて相当な実力なんだろう。


「ああ、俺の名前はガウェイン。よろしくな!」


「ええ。俺の名前は先ほど紹介した通りレディウスです。よろしくお願いします」


「そんな堅苦しい話し方しなくて良いぜ。普通に話してくれ」


「そうか? それならよろしく、ガウェイン」


 俺はクラスメイトであるガウェインと話しながらみんなの後を付いて行くのだった。

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