黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

42話 路地裏で見たのは

「はぁぁ!」


「ほいっ」


 周りから剣で切りかかってくる男たち。俺も剣で逸らして避けるが、次から次へとやってくる。全部で30人ほど。人数は全員いる内の1割程だが、中々の実力者が中には混ざっている。


「しっ!」


「うおっ!」


 剣を振りかざす男たちに混じった上に、身を低くして走ってくるから分かりづらい。その男は短剣で俺の喉元を狙ってくる。


 俺は頭を逸らして避けるが、避けた隙を狙って回し蹴りを放ってくる。今度はしゃがんで避ける。ただ避けるだけでなく、男の足を狙って剣を右薙ぎに振るう。


 しかし、男には片足のまま跳ばれて避けられた。男は俺から距離を取る。俺が男を攻めようとしたその時


「うおおおおおおお!」


 2メートルちょっとある巨体の男が、ショルダータックルをかましてくる。そして左右から避けられないように他の男たちが、後ろには先ほどの男もいる。左右前後がダメなら


「魔闘脚!」


 上しかないだろ。俺は飛んで避けて、剣を魔闘装する。刃に沿ってすると切ってしまうので、刃に対して面に魔力を集める。そして


「烈炎流大火山」


 俺は巨体の男の前の地面めがけて剣を振り下ろす。剣が地面にぶつかった瞬間地面が炸裂。巨体の男はそれを避けるようために転がっていく。


 俺は着地すると同時に魔闘脚・極を発動。直ぐに後ろにいる男に剣を向ける。男の喉元に剣を突きつけて今日は終わりっと。


 ◇◇◇


「やっぱりレディウスは強いっスね。これでも腕には自信があったんっスけど」


 先ほど、俺の喉を掻き切ろうとした男、グレッグがそんな事を言ってくる。いや、グレッグも強かったな。グレッグは対人に鍛えられたらしく、人間の急所を狙うのが得意だ。


「うむ。全く攻撃が当たらんからな」


 そしてもう1人の巨体の男、ガラナは腕を組んであぐらをかきながらうんうんと頷いている。この人は身体強化で体を固くして敵を殴り殺すというとんでもない技をやってのける。素手で岩も割るほどだ。


 ガラナは首に首輪を付けている。理由は貴族の子息に襲われそうになった女の子を助けるために、その貴族の子息を殺したためだ。


 その貴族の子息は元々悪行ばかり行っていたらしく、他の貴族からも疎まれていたため、本来なら即死刑のところを懲役刑になったみたいだ。流石に貴族の子息を殺して、罰は無しとはいかないからな。


 この戦争に参加して生き残れば、刑期が減るそうで、ガラナも刑期が終わるらしい。ぜひ生き残ってほしいものだ。


 俺たちの周りにはこの死壁隊に配属された男たちの中で、俺と一緒に鍛えたいという奴が俺を除いで全員で33人集まっている。その内首輪を付けていないのが23人で、首輪を付けているのが10人だ。俺含めると34人だな。


 他の奴らは何をしているかと言うと、俺たちをみて睨んでいる。俺がここの元リーダーを倒してから1週間が経った。


 あの時に俺は、みんなに生き残るために鍛えないかと進めた。その事に賛成してくれたのが、今ここにいる男たちだ。他の奴らはまだ元リーダーに従っている部分あって、こっちには来ない。


 首輪を付けていない奴は、何かきっかけがあれば来てくれるとは思うのだが。……あ、気がつけば日がてっぺんまで来ていた。もうこんな時間か。


「悪いな。俺そろそろ行くわ。みんなもあちこち痛むと思うが無理はするなよ。後、あいつらには気をつけとけよ。特にガラナたち首輪組は、結界より外に出られないのだから」


「何、大丈夫だ。俺たちもそう簡単にはやられないからな」


 そう言いガハハと笑うガラナ。何事も起きなければ良いのだが。ここはあいつらを信用するしかないな。


 俺は、ロポを連れて死壁隊の村を出る。目指すは王都の国立図書館だ。ここから走れば20分程かな。魔闘脚発動。そして俺は走り出す。後ろではロポが1メートルほどの大きさになって付いてくる。ここ1週間程の日課だ。


 しかし、今から行く国立図書館は今日初めて行く。理由はまず、場所を知らなかった事と、死壁隊の皆と訓練をしていたからだ。


 毎日行こう行こうと思っていたのだけど、訓練が楽し過ぎて、夜近くまでやってしまうのだ。


 今まで訓練と言えばミストレアさんやヘレネーさんとするか、ミストレーネさんとやり合うしかしてなかったからな。これだけの人数で出来るのが嬉しかったのだ。


 だけど、流石に毎日朝から晩まではしんどいだろうから、今日は朝から昼までと決めていた。その事はグレッグたちにも伝えていたので、快く了承してくれた。そして走る事15分。思ったより早く王都に着いた。


 門兵にギルドカードを見せて中へ入る。国立図書館はここから西にあるからな。少し裏道を通って行くか。俺はロポをフードに入れて街の中を歩く。


 この王都は、市民街と貴族街に別れている。一般街は普通の市民が暮らしているが、門近くのはずれあたりはスラム街となっている。


 貴族街は、市民街に近いところは商人や下級貴族が住んでおり、中心にある王城に近い屋敷にいる貴族ほど貴族の位が高くなって行く。


 そして、今日俺が目指す国立図書館は市民街と貴族街の境目辺りにある。そこに普通に行こうと思えば、少し入り組んだ道に入らなければならない。


 俺はそれが面倒なので、毎日行く事になった八百屋さんのおじさんに道を聞いておいた。その道は普通の入り組んだ道を通って行くよりは10分ほど時間を短縮出来るけど、スラム街を通って行かないといけないらしい。


 しかも、スラム街はチンピラが多いので、あまりお勧めはしないとの事。スラム街まで兵士は来てくれないらしいし。


 まあ、俺は気にしないけど。そんな事を考えながら進んで行くと、周りの人が少しずつ減って行く。スラム街が近いって事なのだろう。そして、ある境から少し暗い路地裏に入った。


 確かに普通の人は入りたくないな。日は当たらないから暗いし、危なく笑っているおじさんや、厳つい人たちをちょくちょく見かけるようになったからな。


 さっさと、抜けてしまおうと思っていたら


「ロナを離せ!」


 と男の子の声がする。その後に野太い男の声がして、殴られたような音が聞こえる。うーん、明らか絡まれたか何かされているな。ここは首を突っ込むべきか。


 取り敢えず見てみるか。まっすぐ行く予定だったけど、路地を右に曲がる。すると、そこには屈強そうな男が5人程。


 そのうちの1人に……あれは、黒色、か。黒い長い髪をした少女が掴まれ、地面に這いつくばるように男の子が2人倒れていた。男の子2人は茶髪だった。3人とも俺より1つ下ぐらいか。


 屈強そうな男たちは、倒れている男の子を踏みつける。それを止めてと泣き叫ぶ女の子。……はぁ、助けるか。

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