黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
34話 王都に向けて
「アレスティナ〜。用意出来たかぁ〜」
俺がアレスの部屋をノックしながら呼ぶと、中からドタドタと音がして、勢い良く扉が開かれる。そして
「なななな、なんで本名で呼ぶのさ! 何のために隠してるのと思ってるの!」
怒りながらアレスが出てきた。別に女の子だとバレても良いと思うのだけれど。
「そんな事より、準備は出来たのか? もう出発する時間だろ?」
「そんな事って……はぁ、まあいいや。うん。準備は出来たよ。早くお母様の元に薬を届けてあげなきゃ」
アレスは決意の満ちた目で頷く。今日でアレスが目を覚まして1週間が経つ。この1週間は、アレスの体の調子が元に戻るのに費やした。
アレスもコカトリスにやられたから1週間近くは寝込んでいたからな。体が鈍っていたのだろう。それに切れた腕をポーションで治すと、若干鈍く感じるんだよな。俺も何度か経験したからわかる。
「良し。それじゃあメルさんに挨拶して行くか」
「うん。行こう!」
この1週間話し合った結果、このままパーティーを組んで王都まで行く事になった。俺は元々行く気だったのだが、アレスの中では狩りに行くまでと思っていたらしく、その事を話すと泣いて喜ばれた。もちろん感極まって抱きついて来た。役得役得。
この1週間て必要な物はケイマルさんの支店で買い揃えて、旅の準備は終えている。後は馬車に乗って王都に行くだけだ。
馬車も、ケイマルさんの商会が王都まで行く馬車があるので、それに同乗させてもらえる事になった。道中の食事などはケイマルさんの方で持ってくれる代わりに、馬車の護衛を頼まれたけど。
アレスのお母さんの病気は予定だと後2ヶ月程らしいからな。今から1ヶ月かかると考えれば丁度良いぐらいだろう。
「あなたたち、もう行くの?」
俺たちが1階に降りると、メルさんが尋ねてくる。この人には色々とお世話になったな。
「はい。お世話になりました」
「メルさん、ありがとうございました」
俺とアレスは頭を下げる。すると
「ふふ、良いのよ。これが私の仕事だから。レディウス君。あなたに注意してもらいたい事があるの」
「注意ですか?」
「ええ。こういう領主が治めている街とかだと、表立って黒髪を批判するような人はあまりいないわ。だけど、これが村単位になると、過敏に反応する村もあるから気を付けてね。酷いところだと村にすら入れさせてもらえないから」
メルさんはそう言い悲しそうな表情を浮かべる。メルさんは何かと俺の事を心配してくれる。まるで誰かを俺に合わせるかのように。だけど、俺も色々と助かっているから気にはしないけど。
「わかりました。気を付けます」
最後に深く頭を下げて風鳴亭を出る。メルさんは最後まで手を振ってくれていた。
「良い宿だったね!」
「ああ。アレスに紹介してもらってよかった」
「えへへ。そう?」
俺がそう言うと、アレスは嬉しそうに頰を綻ばす。アレスの正体を知る前は、バレないようにキリッとしていたけど、バレてからは、どこか女の子っぽい仕草が増えた気がする。可愛いから良いけど。
「そういえば、レディウスって王都に何の用があるの? ただの観光とか?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
尋ねると、アレスは首を横に振る。俺の中では何故か言った気になっていたわ。
「そうか。俺の王都での目的は戦争に参加するためだ」
「……戦争って、隣国のブリタリス王国との戦争の事?」
「ああ。王都で募兵しているって聞いたからそこに行くつもりだったんだ。アレスは知っていたか?」
「もちろんさ。僕の父も参加するからね。うちの家、あっ、そういえば家名は名乗ってなかったね。僕の家の名前はオスティーン家って言うんだ。オスティーン家は武門の家だからね。お父様も軍で役職を持っているし」
「へえ〜。それは凄いな。アレスは戦争に参加しないよな?」
「僕? うん、僕はしないよ。基本成人前の人は参加できない事になっているから」
「……えっ?」
俺はまさかの事に俺は立ち止まってしまった。成人前の人はって事は俺無理じゃん。
「あっ、ごめんごめん。貴族の子供はって事。平民になると、子供や父親が兵役に行くと、その間の税収を減額したりするからそこまで厳しく無いよ。それでも、戦えないような子供は連れて行かないけど。レディウスなら大丈夫」
はぁ〜。良かった。もし、行ったのに駄目でした、じゃあ、笑い話にもならないからな。
「ふふ、ちょっと焦ったでしょ?」
悪い笑みを浮かべて俺を見てくるアレス。こいつからかいやがったな。そっちがそのつもりならこっちだって
「全く、冗談がきついぜアレスティナ。このお転婆な女の子は」
と言いながらデコピンしてやった。アレスはふぎゃっ! と変な声を出しながらおでこを押さえる。そして涙目の上目遣いで
「ちょ、ちょっと! 周りが見ているのに本名で呼ばないでよ! バレるじゃないか!」
「そう思うならもう少し男口調にして見たらどうだ。俺にバレてから口調が素に戻っているのか、女の子っぽいぞ?」
「〜〜〜〜〜〜っ!」
指摘してあげるとアレスは両手で口を押さえて顔を真っ赤にする。自覚がなかったのかな?
……少しやり過ぎたような気もするけど、これからも男のまま行くのか、それとも、女として行くのか決めるのはアレスだ。俺がとやかく言う事じゃない。
この先成長していけば、というより学園に入ったら男として生活するのは厳しくないか? まあ、オスティーン男爵が決める事か。俺的には
「男より女の子の方がいいけどな」
「えっ?」
俺が考えていると、突然アレスが声を出してきた。なんだ?
「どうした、アレス?」
「い、いや何でもないよ……レディウスにはもうバレているからレディウスの前だけでは……でも、お父様に何て言おうか……」
今度は1人でブツブツと言い始めた。本当にどうしたんだ? そんな1人でブツブツ言うアレスを見ながら歩いていると
「おっ、お待ちしてましたぞ、レディウス殿!」
ケイマルさんが店の前で待っていた。マーナさんは馬車に乗せる物を従業員に指示をしている。
「今回は馬車に同乗させて頂きありがとうございます。こちらが、前に石皮病の治療薬が必要になって、一緒のパーティーを組んでいるアレスです」
 
「あっ、初めまして、アレスです。ケイマルさんには治療薬が作れる薬剤師の方を紹介して頂いたようでありがとうございます!」
「いえいえ。構いませんよ。レディウス殿は命の恩人だからな。紹介するぐらい苦にはなりませんぞ。それよりも母親殿が良くなると良いですな」
ケイマルさんの言葉に、アレスは目を潤ませながら頭を下げる。何だかそこまで恩を感じてもらっていると照れるな。
「それから、この2人が今回の配達で王都に行く2人です。男の方がライル。女の方が妹のライネです。2人は兄妹で双子なんですよ。年齢はレディウス殿より3つ上です。さあライル、ライネ、挨拶しなさい」
「はい。私の名前はライルと言います。よろしくお願いします、レディウス君、アレス君」
「私の名前はライネ。よろしく」
ケイマルさんの紹介で一歩前に出て挨拶してくる2人。2人とも金髪の美少年、美少女で、ライルと名乗った方は短髪でタレ目のニッコリとした表情の少年だ。
ライネと名乗った方は、金髪の髪をアップにしていて白いうなじが見えている。兄のライルさんのタレ目とは違い、つり上がってキリッとした雰囲気のある少女だ。胸はぺったんこだ。
双子って聞いたけど、目が同じ碧眼と金髪以外はあまり似ていないな。
「初めまして、レディウスと言います。よろしくお願いしますライルさん、ライネさん」
「アレスです。よろしくお願いします!」
「はは、私の事はライルで良いですよ。敬語もいりません、レディウス君」
「わかった。それなら俺の事も呼び捨てでライル」
「ああ、レディウス」
何だか仲良くなれそうな雰囲気。……もしかして初めての男友達が出来るのでは……。そんな風にワクワクしていると
「さっさと出発しましょ、兄さん。ほらあなたたちも早く乗って。後私の事も別に呼び捨てで良いから」
とライネが急かしてくる。ライルは苦笑いして、最後にケイマルさんと話をしている。それからマーナさんも荷物を乗せ終えたようでようやく出発の時間となった。
「それては、レディウス殿。またお会いしましょう」
「はい。ケイマルさん、お世話になりました!」
ライルが御者台に乗って馬車を動かす。目指すは王都。何が起きるか楽しみだな。
◇◇◇
「あの黒髮の小僧がコカトリスの石化毒の薬を持っているだぁ?」
俺は目の前に座る男、アホンからそんな話を聞く。コカトリスと言えば、Bランクの魔獣じゃねえか。そんな魔獣をあの黒髮の小僧が狩れたのか?
「へい。後アレスの野郎も一緒だったようで。今日この街を出るそうです」
「そうか。それならお前たち20人ほどで囲めばいけるんじゃないのか?」
コカトリスの石化毒の薬は結構な値段で売れる。あの黒髮の小僧たちには勿体無いぜ。
「へい。そう思いまして人を集めたところです。あの小僧と、アレスにはきっちりお返しをしないといけませんからね」
「それじゃあ、いつも通り俺は目をつぶってやるから分け前を」
「へい、勿論です!」
「残念ながらそんな事はさせません」
俺とアホンがいつもの話をしていると、入り口から鈴の音のような声が聞こえてきた。俺もアホンも咄嗟に側にあった武器を持ち入り口をみるとそこには
「銀翼騎士団団長のミストリーネ・アインネルです。冒険者ギルドケストリア支部ギルドマスタービーン。Cランク冒険者『鷹の爪』のアホンですね。あなたたちを拘束致します。やってください」
「はっ!」
銀翼騎士団。王国の騎士団の1つで、女性のみで編成された騎士団。しかし、その女性は全員が普通の男性兵士より強い者で固められた騎士団で、今目の前にいるのが、その中でも最強の女。くそっ、誰かが王国にバラしやがったな!
「く、くそっ! 返り討ちにしてやる!」
アホンが斧を振り上げようとした瞬間
「風切」
ミストリーネが剣を振った……ようだ。俺には早すぎて見えなかった。そしてアホンの右腕が肩から切られてしまった。
「ぐぁぁぁぁあ!」
「取り押さえて連れて行きなさい」
「はっ!」
俺は部屋に入ってきた騎士たちに取り押さえられ、魔法で気を失ってしまった。
◇◇◇
「他に関わった冒険者たちは?」
「みな、捕縛いたしました。しかし、さすが団長ですね。さっきの剣も微かにしか見えませんでしたよ。やっぱり旋風流王級は凄いですね」
「微かでも見られれば十分です。それではここでの用は済みました。王都へ帰りましょう」
俺がアレスの部屋をノックしながら呼ぶと、中からドタドタと音がして、勢い良く扉が開かれる。そして
「なななな、なんで本名で呼ぶのさ! 何のために隠してるのと思ってるの!」
怒りながらアレスが出てきた。別に女の子だとバレても良いと思うのだけれど。
「そんな事より、準備は出来たのか? もう出発する時間だろ?」
「そんな事って……はぁ、まあいいや。うん。準備は出来たよ。早くお母様の元に薬を届けてあげなきゃ」
アレスは決意の満ちた目で頷く。今日でアレスが目を覚まして1週間が経つ。この1週間は、アレスの体の調子が元に戻るのに費やした。
アレスもコカトリスにやられたから1週間近くは寝込んでいたからな。体が鈍っていたのだろう。それに切れた腕をポーションで治すと、若干鈍く感じるんだよな。俺も何度か経験したからわかる。
「良し。それじゃあメルさんに挨拶して行くか」
「うん。行こう!」
この1週間話し合った結果、このままパーティーを組んで王都まで行く事になった。俺は元々行く気だったのだが、アレスの中では狩りに行くまでと思っていたらしく、その事を話すと泣いて喜ばれた。もちろん感極まって抱きついて来た。役得役得。
この1週間て必要な物はケイマルさんの支店で買い揃えて、旅の準備は終えている。後は馬車に乗って王都に行くだけだ。
馬車も、ケイマルさんの商会が王都まで行く馬車があるので、それに同乗させてもらえる事になった。道中の食事などはケイマルさんの方で持ってくれる代わりに、馬車の護衛を頼まれたけど。
アレスのお母さんの病気は予定だと後2ヶ月程らしいからな。今から1ヶ月かかると考えれば丁度良いぐらいだろう。
「あなたたち、もう行くの?」
俺たちが1階に降りると、メルさんが尋ねてくる。この人には色々とお世話になったな。
「はい。お世話になりました」
「メルさん、ありがとうございました」
俺とアレスは頭を下げる。すると
「ふふ、良いのよ。これが私の仕事だから。レディウス君。あなたに注意してもらいたい事があるの」
「注意ですか?」
「ええ。こういう領主が治めている街とかだと、表立って黒髪を批判するような人はあまりいないわ。だけど、これが村単位になると、過敏に反応する村もあるから気を付けてね。酷いところだと村にすら入れさせてもらえないから」
メルさんはそう言い悲しそうな表情を浮かべる。メルさんは何かと俺の事を心配してくれる。まるで誰かを俺に合わせるかのように。だけど、俺も色々と助かっているから気にはしないけど。
「わかりました。気を付けます」
最後に深く頭を下げて風鳴亭を出る。メルさんは最後まで手を振ってくれていた。
「良い宿だったね!」
「ああ。アレスに紹介してもらってよかった」
「えへへ。そう?」
俺がそう言うと、アレスは嬉しそうに頰を綻ばす。アレスの正体を知る前は、バレないようにキリッとしていたけど、バレてからは、どこか女の子っぽい仕草が増えた気がする。可愛いから良いけど。
「そういえば、レディウスって王都に何の用があるの? ただの観光とか?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
尋ねると、アレスは首を横に振る。俺の中では何故か言った気になっていたわ。
「そうか。俺の王都での目的は戦争に参加するためだ」
「……戦争って、隣国のブリタリス王国との戦争の事?」
「ああ。王都で募兵しているって聞いたからそこに行くつもりだったんだ。アレスは知っていたか?」
「もちろんさ。僕の父も参加するからね。うちの家、あっ、そういえば家名は名乗ってなかったね。僕の家の名前はオスティーン家って言うんだ。オスティーン家は武門の家だからね。お父様も軍で役職を持っているし」
「へえ〜。それは凄いな。アレスは戦争に参加しないよな?」
「僕? うん、僕はしないよ。基本成人前の人は参加できない事になっているから」
「……えっ?」
俺はまさかの事に俺は立ち止まってしまった。成人前の人はって事は俺無理じゃん。
「あっ、ごめんごめん。貴族の子供はって事。平民になると、子供や父親が兵役に行くと、その間の税収を減額したりするからそこまで厳しく無いよ。それでも、戦えないような子供は連れて行かないけど。レディウスなら大丈夫」
はぁ〜。良かった。もし、行ったのに駄目でした、じゃあ、笑い話にもならないからな。
「ふふ、ちょっと焦ったでしょ?」
悪い笑みを浮かべて俺を見てくるアレス。こいつからかいやがったな。そっちがそのつもりならこっちだって
「全く、冗談がきついぜアレスティナ。このお転婆な女の子は」
と言いながらデコピンしてやった。アレスはふぎゃっ! と変な声を出しながらおでこを押さえる。そして涙目の上目遣いで
「ちょ、ちょっと! 周りが見ているのに本名で呼ばないでよ! バレるじゃないか!」
「そう思うならもう少し男口調にして見たらどうだ。俺にバレてから口調が素に戻っているのか、女の子っぽいぞ?」
「〜〜〜〜〜〜っ!」
指摘してあげるとアレスは両手で口を押さえて顔を真っ赤にする。自覚がなかったのかな?
……少しやり過ぎたような気もするけど、これからも男のまま行くのか、それとも、女として行くのか決めるのはアレスだ。俺がとやかく言う事じゃない。
この先成長していけば、というより学園に入ったら男として生活するのは厳しくないか? まあ、オスティーン男爵が決める事か。俺的には
「男より女の子の方がいいけどな」
「えっ?」
俺が考えていると、突然アレスが声を出してきた。なんだ?
「どうした、アレス?」
「い、いや何でもないよ……レディウスにはもうバレているからレディウスの前だけでは……でも、お父様に何て言おうか……」
今度は1人でブツブツと言い始めた。本当にどうしたんだ? そんな1人でブツブツ言うアレスを見ながら歩いていると
「おっ、お待ちしてましたぞ、レディウス殿!」
ケイマルさんが店の前で待っていた。マーナさんは馬車に乗せる物を従業員に指示をしている。
「今回は馬車に同乗させて頂きありがとうございます。こちらが、前に石皮病の治療薬が必要になって、一緒のパーティーを組んでいるアレスです」
 
「あっ、初めまして、アレスです。ケイマルさんには治療薬が作れる薬剤師の方を紹介して頂いたようでありがとうございます!」
「いえいえ。構いませんよ。レディウス殿は命の恩人だからな。紹介するぐらい苦にはなりませんぞ。それよりも母親殿が良くなると良いですな」
ケイマルさんの言葉に、アレスは目を潤ませながら頭を下げる。何だかそこまで恩を感じてもらっていると照れるな。
「それから、この2人が今回の配達で王都に行く2人です。男の方がライル。女の方が妹のライネです。2人は兄妹で双子なんですよ。年齢はレディウス殿より3つ上です。さあライル、ライネ、挨拶しなさい」
「はい。私の名前はライルと言います。よろしくお願いします、レディウス君、アレス君」
「私の名前はライネ。よろしく」
ケイマルさんの紹介で一歩前に出て挨拶してくる2人。2人とも金髪の美少年、美少女で、ライルと名乗った方は短髪でタレ目のニッコリとした表情の少年だ。
ライネと名乗った方は、金髪の髪をアップにしていて白いうなじが見えている。兄のライルさんのタレ目とは違い、つり上がってキリッとした雰囲気のある少女だ。胸はぺったんこだ。
双子って聞いたけど、目が同じ碧眼と金髪以外はあまり似ていないな。
「初めまして、レディウスと言います。よろしくお願いしますライルさん、ライネさん」
「アレスです。よろしくお願いします!」
「はは、私の事はライルで良いですよ。敬語もいりません、レディウス君」
「わかった。それなら俺の事も呼び捨てでライル」
「ああ、レディウス」
何だか仲良くなれそうな雰囲気。……もしかして初めての男友達が出来るのでは……。そんな風にワクワクしていると
「さっさと出発しましょ、兄さん。ほらあなたたちも早く乗って。後私の事も別に呼び捨てで良いから」
とライネが急かしてくる。ライルは苦笑いして、最後にケイマルさんと話をしている。それからマーナさんも荷物を乗せ終えたようでようやく出発の時間となった。
「それては、レディウス殿。またお会いしましょう」
「はい。ケイマルさん、お世話になりました!」
ライルが御者台に乗って馬車を動かす。目指すは王都。何が起きるか楽しみだな。
◇◇◇
「あの黒髮の小僧がコカトリスの石化毒の薬を持っているだぁ?」
俺は目の前に座る男、アホンからそんな話を聞く。コカトリスと言えば、Bランクの魔獣じゃねえか。そんな魔獣をあの黒髮の小僧が狩れたのか?
「へい。後アレスの野郎も一緒だったようで。今日この街を出るそうです」
「そうか。それならお前たち20人ほどで囲めばいけるんじゃないのか?」
コカトリスの石化毒の薬は結構な値段で売れる。あの黒髮の小僧たちには勿体無いぜ。
「へい。そう思いまして人を集めたところです。あの小僧と、アレスにはきっちりお返しをしないといけませんからね」
「それじゃあ、いつも通り俺は目をつぶってやるから分け前を」
「へい、勿論です!」
「残念ながらそんな事はさせません」
俺とアホンがいつもの話をしていると、入り口から鈴の音のような声が聞こえてきた。俺もアホンも咄嗟に側にあった武器を持ち入り口をみるとそこには
「銀翼騎士団団長のミストリーネ・アインネルです。冒険者ギルドケストリア支部ギルドマスタービーン。Cランク冒険者『鷹の爪』のアホンですね。あなたたちを拘束致します。やってください」
「はっ!」
銀翼騎士団。王国の騎士団の1つで、女性のみで編成された騎士団。しかし、その女性は全員が普通の男性兵士より強い者で固められた騎士団で、今目の前にいるのが、その中でも最強の女。くそっ、誰かが王国にバラしやがったな!
「く、くそっ! 返り討ちにしてやる!」
アホンが斧を振り上げようとした瞬間
「風切」
ミストリーネが剣を振った……ようだ。俺には早すぎて見えなかった。そしてアホンの右腕が肩から切られてしまった。
「ぐぁぁぁぁあ!」
「取り押さえて連れて行きなさい」
「はっ!」
俺は部屋に入ってきた騎士たちに取り押さえられ、魔法で気を失ってしまった。
◇◇◇
「他に関わった冒険者たちは?」
「みな、捕縛いたしました。しかし、さすが団長ですね。さっきの剣も微かにしか見えませんでしたよ。やっぱり旋風流王級は凄いですね」
「微かでも見られれば十分です。それではここでの用は済みました。王都へ帰りましょう」
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