黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
29話 アレスのお願い
「全く! せっかく僕が席を取って待っていたのに、全然来ないなんて!」
「本当に悪かったって。ちょっと、剣の手入れに集中してしまったんだ」
今、俺は食堂でアレスに怒られている。理由はもちろん、約束の時間を過ぎても、食堂に俺が行かなくて、アレスに迎えに来てもらうという事をしてしまったからだ。
この件に関しては全面的に俺が悪いので黙って怒られている。メルさんとメイちゃんは怒られている俺を見てクスクスと笑っている。ロポは関係無しと野菜を食べている。
「まあ、今回は許してあげるよ。次は許さないからな」
「ああ、悪かったよ。それより食べようぜ。冷めてしまう」
俺は目の前にある料理を見て言う。メルさんの旦那さんでメイちゃんの父親であるグレイさんが作ってくれた料理だ。
サラダの盛り合わせに、オーク肉のステーキ、スープにパンだ。どれも美味しそうな匂いをしている。オーク肉もいい匂いだ。
ミストレアさんの家にいる時も俺が狩るたびに食卓に並んだけど、これが結構美味しいのだ。1体から取れる量が多いから保存食としても重宝するし。
「全く。だけど、せっかくの温かい料理だ。冷める前に食べるか。話は後でも出来るし」
それからは目の前の料理を減らす事に集中した。アレスが胸を張って言うだけあってどれも美味しかった。ただ気になったのが
「……アレス、食べるの遅くないか?」
アレスの食べるスピードが半端なく遅いのだ。別に他人の食べる速さをどうこう言うつもりは無いのだが、それでも遅い。俺が一口で食べれる大きさのステーキを4当分ぐらいにして食べるのだ。口を大きく空けて食べるのは、はしたないと、姉上に言われたのを思い出す。
「し、仕方ないじゃ無いか。僕はこの食べ方で今まで過ごして来たのだから」
「ふーん。そうなのか。まあ、待つからゆっくり食べてくれ」
そう言う風に過ごして来たなら仕方ないな。別に汚く食べているわけでは無いから気にする事では無いし。
「す、済まないレディウス。何とか早く食べっ! ゲホッゲホッ!」
「だ、大丈夫か!?」
無理して急いで食べようとするから、アレスはむせてしまった。俺が少し背中をさすってあげると落ち着いて来たが、少し悪い事をしてしまったな。
「はぁ、はぁ、あ、ありがとう、背中さすってくれて。落ち着いたよ」
「あ、ああ」
……こいつ本当に男か? 涙目で上目遣いでお礼を言われたら、そこら辺の女より可愛く見えたのだが。息遣いも色っぽいし。……ヘレネーさんと離れた寂しさで俺の目がおかしくなっているのか?
「どうしたの?」
「い、いや、何でも無い。それより、慌てなくて良いからゆっくり食べろよ」
「うん、ありがとう」
ふぅ、少し怪しまれたが、何とか誤魔化せたな。男に見惚れてたなんて噂がたったら外を歩けなくなる。それからアレスが夕飯を食べ終わるのは、30分近く経った後だった。
「……本当にごめん。食べるのに時間がかかって」
「そんなに落ち込むなよ。別に気にしていないって言っているだろ?」
アレスは俺に結構な時間、待たせてしまった事を悔やんでいる。別に俺は全く気にしていない。それどころか、俺も待たせてしまったからこれでおあいこだな、ぐらいに思っているのだが、物凄く落ち込んでいるので言えないでいる。
「でも……」
「もう止め止め! これじゃあ延々と同じ話を繰り返すだけだ。そんな事よりも、何か話したい事があったんじゃ無いのか?」
それでも、アレスは謝ろうとするので、無理矢理話を終わらせる。そうじゃ無いと本当に食事の話を続けてしまうからな。
「そうだな。こんな事に時間は使ってられない。早速だが、僕が話したい事は、僕の手伝いをして欲しいんだ」
「アレスの手伝い?」
アレスはさっきの落ち込んだ表情とは別に、物凄く真剣な顔で話し出す。とても重要なようだ。
「ああ。僕の実家は、王都にあるのだけれど、母親が病気になったんだ。病名は石皮病。生き物の皮膚が、まるで石のように硬くなっていく事から名付けられた病気だ。子供、大人関係なく突然なる病気で、治療を早くしないと全身が石みたいに硬くなって死に至るんだ」
ほえ〜。そんな病気があるのか。それも嫌な病気だな。全身が石みたいになって死んでいくなんて。アレスが言うには、石になった場所は動かす事が出来なくなり、そこから痛みが走るらしい。しかも、進行が進むにつれて痛みも大きくなるとか。
「治療するためには、ある魔獣の毒が必要になるんだ」
「ある魔獣?」
「うん。Bランクのコカトリスって魔獣なんだ。そいつの体には石化毒という毒があって、その毒を浴びると、体が石になるんだ。それを治すのにまた、コカトリスの毒が有効で、その毒で作られた薬は石皮病にも有効らしいんだ。だけど、さっきも言ったようにBランク。普通の冒険者や兵士じゃあ倒せなくて。だからその薬も滅多に出回らなくて」
「だから、自分で見つけ出すと?」
「……うん。コカトリスはこの魔山の中腹辺りにいるみたいで、冒険者ギルドで聞いたけど、BランクやAランクの人が偶に狩ってくるそうだ」
「それなら、そのコカトリスの石化毒の採取の依頼を出したら良いんじゃ無いのか?」
俺がもっともな事を尋ねると、アレスは首を横に振る。何でだ?
「……時間が無いんだ」
「時間?」
「石皮病は、別の名前で5ヶ月病とも言われていて、体全身が石になるのは、子供や大人関係なく5ヶ月でなるんだ。だから5ヶ月病。僕の母親が発症したのは2ヶ月前。ここにくるのに1ヶ月。依頼を受けてくれそうな人を探すのにもう1ヶ月経ってしまった。帰りの分を抜いたらもう後2ヶ月しかないんだ」
「それで、もう依頼を受けてくれる人がいないから、自分がコカトリスを狩りに行こうと?」
「いや。流石にそれは厳しいのは僕もわかっている。だから、ここ最近は一緒に行ってくれそうな冒険者を探していたんだ。そして今日」
「絡まれていたのか」
俺の言葉にアレスは頷く。それは運が悪かったというか何というかだな。
「それで俺に頼みたい事って言うのは……」
「もうわかっていると思うけど、コカトリス討伐を手伝って欲しい」
俺の目から視線を外さずに真剣な表情で言ってくる。だけど
「でも、俺は黒髪だぜ。魔法で援護なんか出来ないし、俺は剣しか使えない。そんな奴が役に立つとは思えないのだが」
俺はごく真面目に分析して言ったつもりだったのだが、その言葉にアレスはくつくつと笑い出した。何だよ。
「いや、ごめん。だってあの勝負を見て、レディウスを黒髮だからと侮る奴なんていないよ。僕も初めは黒髪の君が入ってきても危ないと思っていたけど、君は歯牙にも掛けずにあの3人を倒してしまった。
あれでもCランクの中だと上の方だったらしいのに、それをいとも簡単に君は倒してしまった。それ程の強さを持つ君だからお願いしているんだ」
うーん。どうしようか。俺は別にかなり急ぐと言う旅では無い。軍が締め切る前までに王都に着けば良いからな。それにアレスも最終的には王都が終着点みたいだし。
あっ、この事をお願いしたかったから、俺が宿を取るときに驚きの声を上げていたのか。そして、俺が直ぐに出ると言ったときは落ち込んでと。
「もちろんタダとは言わない。今は依頼のために使おうと思っていた大金貨2枚しか無いけど、王都に戻ったら他にもお礼が出来る。前金としてこの大金貨は渡してもいい」
そう言い、大金貨を俺の目の前に出すアレス。……仕方ないな。
「わかった。俺でよかったら手伝うよ」
「ほ、本当!?」
「ああ」
「本当の本当に!?」
「ああ」
「やったぁー! ありがとう、レディウス!!」
アレスはそう言って抱きついてきた。ちょっ!
「あ、アレス、ちょっと!?」
「……わわっ! ご、ごめん! 余りにも嬉しくてつい」
俺が肩を押して引き離すと、アレスは顔を真っ赤にしながら元の席に戻った。だけど、その気持ちは分からなくもない。だから
「倒せるかどうかはやって見ないと分からないけど、やるからには倒して、アレスのお母さんを助けような」
「うん!!」
こうして、俺とアレスはパーティーを組む事になった。
「本当に悪かったって。ちょっと、剣の手入れに集中してしまったんだ」
今、俺は食堂でアレスに怒られている。理由はもちろん、約束の時間を過ぎても、食堂に俺が行かなくて、アレスに迎えに来てもらうという事をしてしまったからだ。
この件に関しては全面的に俺が悪いので黙って怒られている。メルさんとメイちゃんは怒られている俺を見てクスクスと笑っている。ロポは関係無しと野菜を食べている。
「まあ、今回は許してあげるよ。次は許さないからな」
「ああ、悪かったよ。それより食べようぜ。冷めてしまう」
俺は目の前にある料理を見て言う。メルさんの旦那さんでメイちゃんの父親であるグレイさんが作ってくれた料理だ。
サラダの盛り合わせに、オーク肉のステーキ、スープにパンだ。どれも美味しそうな匂いをしている。オーク肉もいい匂いだ。
ミストレアさんの家にいる時も俺が狩るたびに食卓に並んだけど、これが結構美味しいのだ。1体から取れる量が多いから保存食としても重宝するし。
「全く。だけど、せっかくの温かい料理だ。冷める前に食べるか。話は後でも出来るし」
それからは目の前の料理を減らす事に集中した。アレスが胸を張って言うだけあってどれも美味しかった。ただ気になったのが
「……アレス、食べるの遅くないか?」
アレスの食べるスピードが半端なく遅いのだ。別に他人の食べる速さをどうこう言うつもりは無いのだが、それでも遅い。俺が一口で食べれる大きさのステーキを4当分ぐらいにして食べるのだ。口を大きく空けて食べるのは、はしたないと、姉上に言われたのを思い出す。
「し、仕方ないじゃ無いか。僕はこの食べ方で今まで過ごして来たのだから」
「ふーん。そうなのか。まあ、待つからゆっくり食べてくれ」
そう言う風に過ごして来たなら仕方ないな。別に汚く食べているわけでは無いから気にする事では無いし。
「す、済まないレディウス。何とか早く食べっ! ゲホッゲホッ!」
「だ、大丈夫か!?」
無理して急いで食べようとするから、アレスはむせてしまった。俺が少し背中をさすってあげると落ち着いて来たが、少し悪い事をしてしまったな。
「はぁ、はぁ、あ、ありがとう、背中さすってくれて。落ち着いたよ」
「あ、ああ」
……こいつ本当に男か? 涙目で上目遣いでお礼を言われたら、そこら辺の女より可愛く見えたのだが。息遣いも色っぽいし。……ヘレネーさんと離れた寂しさで俺の目がおかしくなっているのか?
「どうしたの?」
「い、いや、何でも無い。それより、慌てなくて良いからゆっくり食べろよ」
「うん、ありがとう」
ふぅ、少し怪しまれたが、何とか誤魔化せたな。男に見惚れてたなんて噂がたったら外を歩けなくなる。それからアレスが夕飯を食べ終わるのは、30分近く経った後だった。
「……本当にごめん。食べるのに時間がかかって」
「そんなに落ち込むなよ。別に気にしていないって言っているだろ?」
アレスは俺に結構な時間、待たせてしまった事を悔やんでいる。別に俺は全く気にしていない。それどころか、俺も待たせてしまったからこれでおあいこだな、ぐらいに思っているのだが、物凄く落ち込んでいるので言えないでいる。
「でも……」
「もう止め止め! これじゃあ延々と同じ話を繰り返すだけだ。そんな事よりも、何か話したい事があったんじゃ無いのか?」
それでも、アレスは謝ろうとするので、無理矢理話を終わらせる。そうじゃ無いと本当に食事の話を続けてしまうからな。
「そうだな。こんな事に時間は使ってられない。早速だが、僕が話したい事は、僕の手伝いをして欲しいんだ」
「アレスの手伝い?」
アレスはさっきの落ち込んだ表情とは別に、物凄く真剣な顔で話し出す。とても重要なようだ。
「ああ。僕の実家は、王都にあるのだけれど、母親が病気になったんだ。病名は石皮病。生き物の皮膚が、まるで石のように硬くなっていく事から名付けられた病気だ。子供、大人関係なく突然なる病気で、治療を早くしないと全身が石みたいに硬くなって死に至るんだ」
ほえ〜。そんな病気があるのか。それも嫌な病気だな。全身が石みたいになって死んでいくなんて。アレスが言うには、石になった場所は動かす事が出来なくなり、そこから痛みが走るらしい。しかも、進行が進むにつれて痛みも大きくなるとか。
「治療するためには、ある魔獣の毒が必要になるんだ」
「ある魔獣?」
「うん。Bランクのコカトリスって魔獣なんだ。そいつの体には石化毒という毒があって、その毒を浴びると、体が石になるんだ。それを治すのにまた、コカトリスの毒が有効で、その毒で作られた薬は石皮病にも有効らしいんだ。だけど、さっきも言ったようにBランク。普通の冒険者や兵士じゃあ倒せなくて。だからその薬も滅多に出回らなくて」
「だから、自分で見つけ出すと?」
「……うん。コカトリスはこの魔山の中腹辺りにいるみたいで、冒険者ギルドで聞いたけど、BランクやAランクの人が偶に狩ってくるそうだ」
「それなら、そのコカトリスの石化毒の採取の依頼を出したら良いんじゃ無いのか?」
俺がもっともな事を尋ねると、アレスは首を横に振る。何でだ?
「……時間が無いんだ」
「時間?」
「石皮病は、別の名前で5ヶ月病とも言われていて、体全身が石になるのは、子供や大人関係なく5ヶ月でなるんだ。だから5ヶ月病。僕の母親が発症したのは2ヶ月前。ここにくるのに1ヶ月。依頼を受けてくれそうな人を探すのにもう1ヶ月経ってしまった。帰りの分を抜いたらもう後2ヶ月しかないんだ」
「それで、もう依頼を受けてくれる人がいないから、自分がコカトリスを狩りに行こうと?」
「いや。流石にそれは厳しいのは僕もわかっている。だから、ここ最近は一緒に行ってくれそうな冒険者を探していたんだ。そして今日」
「絡まれていたのか」
俺の言葉にアレスは頷く。それは運が悪かったというか何というかだな。
「それで俺に頼みたい事って言うのは……」
「もうわかっていると思うけど、コカトリス討伐を手伝って欲しい」
俺の目から視線を外さずに真剣な表情で言ってくる。だけど
「でも、俺は黒髪だぜ。魔法で援護なんか出来ないし、俺は剣しか使えない。そんな奴が役に立つとは思えないのだが」
俺はごく真面目に分析して言ったつもりだったのだが、その言葉にアレスはくつくつと笑い出した。何だよ。
「いや、ごめん。だってあの勝負を見て、レディウスを黒髮だからと侮る奴なんていないよ。僕も初めは黒髪の君が入ってきても危ないと思っていたけど、君は歯牙にも掛けずにあの3人を倒してしまった。
あれでもCランクの中だと上の方だったらしいのに、それをいとも簡単に君は倒してしまった。それ程の強さを持つ君だからお願いしているんだ」
うーん。どうしようか。俺は別にかなり急ぐと言う旅では無い。軍が締め切る前までに王都に着けば良いからな。それにアレスも最終的には王都が終着点みたいだし。
あっ、この事をお願いしたかったから、俺が宿を取るときに驚きの声を上げていたのか。そして、俺が直ぐに出ると言ったときは落ち込んでと。
「もちろんタダとは言わない。今は依頼のために使おうと思っていた大金貨2枚しか無いけど、王都に戻ったら他にもお礼が出来る。前金としてこの大金貨は渡してもいい」
そう言い、大金貨を俺の目の前に出すアレス。……仕方ないな。
「わかった。俺でよかったら手伝うよ」
「ほ、本当!?」
「ああ」
「本当の本当に!?」
「ああ」
「やったぁー! ありがとう、レディウス!!」
アレスはそう言って抱きついてきた。ちょっ!
「あ、アレス、ちょっと!?」
「……わわっ! ご、ごめん! 余りにも嬉しくてつい」
俺が肩を押して引き離すと、アレスは顔を真っ赤にしながら元の席に戻った。だけど、その気持ちは分からなくもない。だから
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コメント
ノベルバユーザー360177
空欄めっちゃ空けすぎて逆に見づらくなってるから、1行空けだけでよいかと…