黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

19話 気付いた気持ち

「それじゃあ、レディウスの卒業を祝して……」


「「「乾杯!」」」


「グゥ!」


 今日の夕食は、俺が卒業できる事が決まった事のお祝いで豪華な食事になった。どうやらミストレアさんは、俺を放り出した後、俺が感知出来ない辺りから見ていたらしい。万が一何かあったらいけないからと。


 ……俺のクソババア発言も聞いてたらしく、俺を連れ帰った後は、オークの時よりも死ぬ思いをしたけど。


 そのオークたちとの戦いを見ていたミストレアさんにより、俺が戦争に行っても、五分五分ぐらいで生き残ると判断されて卒業と言われた。


 オークたちの集落に放り込んだのは、多人数に囲まれた時のための特訓だとか。人間の様に考えたり、軍略を使ったりはしなく、力任せのところはあるのだが、それだけでも囲まれれば脅威なので、囲まれた時にどうするかの試験だったらしい。


 俺は全部切り刻んでしまったけど、無理だと思ったら逃げても良かったらしい。初めに言って欲しかったけど、聞いていても逃げなかっただろう、多分。


 夕食は、ヘレネーさんの手料理で豪華なものばかりだ。俺が合格したからか、今日は奮発してくれたらしい。どれもこれも美味しそうだ。


 俺がもし受からなかったらどうしてたのかと聞いたら


「わ、私は受かるって、し、信じてたもん!」


 って顔を背けながら言われた。……なにこれ可愛い。俺は口元を手で押さえ顔を背ける。このままだと俺のにやける顔がヘレネーさんに見られる。


 ヘレネーさんは、少し悲しそうな顔をするが、この顔を見られるよりかはいい。……でも、ヘレネーさんの悲しそうな顔は見たくないな。


「……あんたたちはまったく。それでレディウスはいつ此処を出るんだい? 私が王都アルバストへ送ってあげるからギリギリまでは大丈夫だよ」


 そんな俺たちを見て呆れた声を出すミストレアさんだけど、俺にはとっても助かる提案を出してくれた。だけど


「俺は3日後には出ようと思います」


「えっ!?」


「へぇ〜。どうしてだい?」


 俺の発言に驚いたのか、ヘレネーさんは大きな声を上げる。ミストレアさんは予想が出来ていたのか落ち着いた雰囲気で俺に尋ねてくる。


「少し国を見て回りたいんです。俺はあまり外を知りませんから」


 生まれてからの10年間は屋敷の外を知らなかった。屋敷より外に出る事を許してもらえなかったからな。そして、屋敷を出た後は1週間もしないうちに死にかけた。これは俺が甘かったから。


 その後はミストレアさんたちに助けてもらい、色々な事を教えてもらったが、街に出た事は無く、基本この家にいた。というよりかは外に出る暇もなく修行に明け暮れていたからな。


 何か買い物があればミストレアさんが転移を使って買ってくるし。俺が唯一外に出たといえば修行でグポと追いかけっこをするか、ミストレアさんに魔獣の住処に放り込まれるかだったからな。


 この家も、町外れの山の麓にあるから誰も来ないし。客はたまに来るみたいだけど、基本俺がいない時だったから接点がない。この前のレイブンさんが久しぶりに喋った他人だ。


「そうかい。レディウスがそういう考えがあるのならアルバストの国境まで送って上げるよ。そこから馬車で1月。歩きだと4ヶ月から5ヶ月はかかるけど王都に着くだろう。それで良いかい?」


「はい、十分です」


 戦争まであと1年はある。半年国を見回って、後半年は軍に入れば丁度良いくらいだろう。それからはミストレアさんに王都の事を色々聞いたりした。


 王都にももちろん剣術流派の道場があるらしく、ミストレアさんの名前を出せば中に入れるらしい。ミストレアさんの弟子とわかるお守りみたいなものを渡されてそれを見せれば確実だとか。


 そして道場の師範、上級以上まで到達している人に、自分の流派を見てもらって、合格がもらえれば位を上げることが出来るとか。


 上級の人は上級まで。王級まであげようと思ったら上級師範を5人か、王級師範を1人から合格を貰わないといけないらしい。


 他にもミストレアさんが贔屓にしていた武器屋とか、宿屋とか色々聞いたので、そこにも行ってみようと思う。


 俺が旅するためのお金については、ミストレアさんが作ってくれた。どうやら俺が討伐してきた魔獣の売れる部分を、知り合いの商人に売ってくれていたみたいだ。俺が出て行くときの足しにと。


 そのお金が入っている袋を渡されて、中を見た時は焦ってしまった。だって中には大金貨が3枚、金貨1枚、大銀貨3枚、小銀貨4枚、銅貨が6枚入っていたのだから。


 総計、38万4600ベクもあったのだから。大金貨なんて初めて見た。この3年間でそんなに稼いでいたんだな。全く気付かなかったよ。


 大抵はゴブリンやオークらしいが、これの3分の1はツインヘッドスネークらしい。あいつの部位はどこでも売れるらしく、かなり高かったそうだ。


 それからは美味しい食事を食べながら色々な話を聞いて、その日は解散となった。ただ、ヘレネーさんの顔色が優れなかったのが気にはなったが。


 そして、出発の前日の夜。


「はあ〜。明日でここを出て行くのかぁ〜。何だか長いようで短かったような」


 俺はこの2日間で綺麗に掃除した部屋を見る。俺が傷まみれになってもお世話になった部屋だ。愛着は当然湧いている。


 俺の荷物は、肩掛け袋が一つと剣ぐらいか。後はアルバスト王国に行ってから揃える事になるだろう。色々な街を見て回る事が出来るから楽しみだ。しかし


「……何だかヘレネーさんは余所余所しかったな」


 そんな風に色々と楽しみだと考えてしまうのだが、やっぱりそれ以上に考えてしまうのはヘレネーさんの事だ。前のお祝いの時に俺が3日後に出る話をしてから、ヘレネーさんは俺を避けるようになった。


 いくら話しかけようとしても、用事があるからと避けられてしまう。修行の時もご飯の時も。最後の最後に嫌われてしまったようだ。


 そして皮肉な事にそういう態度を取られて俺はようやく気が付いた。ヘレネーさんの事が好きだって事を。こんな事になるまで気付かないなんて本当に馬鹿だな俺は。


 だけど仕方ない。向こうは俺の事が嫌いなのに無理に話しかけてもヘレネーさんに申し訳ない。最後は潔く去るのみだ。涙で枕を濡らす事になるけど許してほしい。


 そう思い今日はもう寝ようと思い寝転ぶと


 コンコンと扉を叩く音がする。誰だろうかと思い扉を開けるとそこには


「い、今、大丈夫?」


 とやって来たのは俺を嫌っているはずのヘレネーさんだった。一体どうしたのだろうか?

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