黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

18話 最終試験

「くそっ! あの鬼ババア! 最終試験だって言いながらこんな場所に放り出しやがって! ちっ!」


 俺は横から殴りかかってくる俺の顔ぐらいある拳を剣で逸らす。そのままその腕に滑らす様に剣を動かし、敵の懐に入り喉元を切る。これで10体目。


「ブモオオォオオ!」


 仲間がやられた事により怒りの声を上げる敵、オークたち。ここはどこかもわからない山奥のオークの集落だ。そこに俺は鬼ババアことミストレアさんに放り出された。


 昨日レイブンさんたちが帰った後に、明日は修行の総仕上げをするからなんたら言っていたから、気合を入れて起きたのに、まさかの放置なんて!


「ブモモオゥ!」


 そんな事を考えていたら再びオークが殴りかかってくる。あの鬼ババア。オークを倒せっていうのはわかるけど、まさか集落のど真ん中に放置していくなんて。しかも気づかれる様に魔法で音まで出して。そのおかげで到着数秒でオークに囲まれてしまった。数は100体ほど。


 オークは小さいのでも体長が2メートル近くあり、身体中が筋肉と脂肪で覆われている、豚顔の魔獣だ。そんな肉ダルマに周りを囲まれている。こんな奴らに囲まれても嬉しくない!


 俺は右腕で殴りかかってくるオークの拳をしゃがんで避け、魔闘脚をした足で、殴りかかってきたオークの左膝を蹴る。


 グシャっと膝が割れる音がしてオークは左側へ倒れるので、俺は直様痛みで喚いているオークの側に行き、剣を切り上げ首を刈り取る。


 俺はそのまま目の前にいるオークへ袈裟切りをする。オークは両手を交差して防ごうとするが


「烈炎流、斬火」


 俺は気にせずそのまま剣を振るう。魔闘装をして放つ烈炎流に切れないものはない(ミストレアさん談)。俺の剣は、オークの腕の抵抗を感じる事なく上半身と下半身を切り離す。


 烈炎流は威力は大きいのだが、小回りが利かなく大振りになってしまうのが難点だ。本来なら。だけど、俺は烈炎流の動きに、旋風流の動きを混ぜた。


 それが思いの外上手く出来たので、それを使って訓練をしている。初めはミストレアさんやヘレネーさんに、型を勝手に崩すんじゃないと怒られたが、俺の動きを見ているうちに許してくれた。


 得意な旋風流と普通には使える烈炎流を混ぜる事は出来たが、1番苦手な明水流は中々苦労した。何とか旋風流の動きと混ぜる事が出来たけど、中々難しい。


「ブモモオオオオオ!」


 そんな事を考えていたら、今までのオークとは違い鉄製武器を持っているオークたちが現れた。今までは素手や棍棒だったが、今度のオークは剣や斧、槍などを持っている。


 普通のオークは後ろに下がり武装オークたちが前に出てくる。そして迫り来るオークたち。


「ブモオ!」


 斧を振り下ろしてくるオークの攻撃を、半歩左足を下げる事で避け、左切り上げをする。後ろから槍を突いてくるのを、しゃがんで避け、回転しながら両足を切り落とす。前に倒れてきたオークの頭を踏み潰し踏み越え、その後ろにいたオークへ高速の刺突を放つ。


 切っていったオークたちはドタドタと倒れて行くが、ちっ、全然数が減らない。


 切りかかってくるオークの剣を、明水流で逸らし、そのまま腹を切る。腹を押さえ怯んだところを魔闘脚で強化した足で蹴り飛ばす。後ろのオークも巻き込んだ。


「ブモモモモモオオオオ!」


 オークを切って切って切りまくっていると、後ろにいたまた姿が違うオークが何かを叫ぶ。するとオークの手から火の玉が放たれるではないか。あの野郎。俺が使えないっていうのに……。


 こんな奴にひがんでも仕方ない。俺は魔闘眼を発動する。そして火の玉の魔力の弱いところを狙い……切る!


 ミストレアさんに初めに見せてもらった技だ。まだミストレアさん程上手くは出来ないがこの程度なら。それから魔法が使えるオークは何度も何度も魔法を放ってくるが、俺は全て切り伏せる。


 そして魔法オークの魔法が止んだのを見計らって、魔闘脚全開で走る! 全開で発動すると、かなり魔力が消費するため長時間は発動出来ないが、この距離なら十分だ。


 一気に魔法オークまで詰め寄り、頭から下まで剣を振り下ろす。おっ、こいつ他のオークより柔らかい。何でだ? この事を考える暇も無く魔法オークは左右に分かれ、臓物をこぼす。


 その光景を見てさらに怒ったオークたちは、武器を持っている持っていないに限らず攻めてきた。オークたちは次々と俺に殺到する。


 俺は逃げずに迎え撃つ。切りかかってくるオークの腕を切り落とし、槍で突いてくるオークは、槍を逸らし別のオークへ突き刺せた。


 あっ、力任せに刺すから鉄槍が曲がったじゃないか。でも、そんな事御構い無しに俺は、その槍を突き刺して驚いているオークと刺されて驚いているオークの首を切り落とす。


 気が付いたら辺り一面オークの死体で埋もれていた。オークの血で染まっていない地面はないみたいに。しかし、俺もボロボロだ。


 オークの攻撃を避けて逸らしてとしていたが、どうしても掠ってしまうものがある。剣や槍で切られた切り口もあれば、殴られるのを避け損ね痣になっているのも。どれも致命傷では無いので、無視していたが意識すると痛い。


 転がって避けたりもしたから全身ドロドロだしな。早く洗い流したい。周りには残り30体ほどか。これならあの技が使えるか。


「魔闘装・極」


 俺は剣を横薙ぎに構え、魔力を剣に集める。前にミストレアさんに習った、魔力を一箇所に集める技だ。今俺の魔力はこの剣に全て集まっている。


 魔力が可視化できる程の量だ。集めるだけなら簡単そうにも思えるが、これが思いの外難しい。少しでも集中を切らしたら魔力が霧散してしまうからだ。


 この一点に集める技で一撃必殺の攻撃だったり、絶対防御の盾で防いだりと出来る。一撃必殺や絶対防御と謳っているが、相手より集めた魔力が大きければだけど。


「行くぞオークども! 烈炎流、大炎斬!」


 俺はその場で回転しながら横薙ぎを放つ。それと同時に魔闘装・極で集めた魔力も放出。俺の持つ剣の延長として刀身に形を変える。これで超巨大な剣の出来上がりだ。


 かなり強力な技だが、まわりに味方がいれば使うことの出来ないので、時と場所を選ぶ技だ。それでも発動すればまさに一撃必殺。まわりのオークたちは全て上と下に分かれてしまった。


「はぁ、はぁ」


 ただ、もう1つ欠点があるのだが、それは魔力消費が半端なく多い事だ。今の俺だと1日に2回出来ればいい方だ。


 俺は魔力切れと、オークたちを倒した事による安心で、身体中が痛むので、その場で膝をつく。あちこちから血が流れてヒリヒリするし、痣が痛い。その上疲れてしまったので


「終わった〜」


 俺はその場に寝転んだ。まわりにもう敵がいないか確認しながらだけど。血生臭いからちょっとあれだけど、ここでミストレアさんを待つか。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品