黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
17話 知り合い
「それで一体何の用だい、レイブン?」
ミストレアさんが出て行く事で一触即発の雰囲気を何とか霧散させ、家の中へ案内する事が出来た。それでもヘレネーさんと騎士たちの雰囲気が悪いし、その上俺という黒髪も現れた事により、もっと悪くなった。
騎士たちが
「黒髪だと!? レイブン様に近づくんじゃない!」
言った瞬間、騎士の喉元にはヘレネーさんの剣が光っていたからな。俺のために怒ってくれたのは物凄く嬉しいのだけれど、少し怖い。
ミストレアさんと、レイブンさんとやらが止めてくれなければ、騎士の人の首は飛んでいただろう。それ程の殺気をヘレネーさんは出していた。
そんな事もありながらもようやく家の中へ案内して、初めに戻る。レイブンさんがミストレアさんの対面に座り、騎士2人はレイブンさんの後ろに立つ。
ヘレネーさんは一応お客なので、嫌々ながらもお茶を出していた。俺はというとミストレアさんの後ろで立っている。なんか座る雰囲気じゃなかったからな。
「……その前にそちらの2人には少し」
とレイブンさんがミストレアさんに言う。俺たちには聞かせられない話なのだろうか? それなら席も外しても良いのだけれど。そう言おうとしたら
「別に問題ないさ。ヘレネーは私の孫娘で、レディウスは私の弟子だ。だから別に聞かれても大丈夫さ」
そう言いレイブンさんに話の続きを促すミストレアさん。本当に良いのだろうか。レイブンさんの後ろの騎士たちは俺を睨んで来るし。……移動したい。
「ミストレア様の孫娘と言えば彼らの娘さんですか。初めましてユリアン殿とヘレア殿の娘さん。私の名前はレイブン・クリフィールと言う。ユリアン殿とヘレア殿には私もお世話になった」
「……初めまして。私はヘレネー・ラグラスです。父と母を知っているのですね」
へぇ〜、ヘレネーさんの両親の知り合いなのか。まあミストレアさんとも知り合いっぽいし、ヘレネーさんの両親の事を知っていてもおかしくないか。
確か、ヘレネーさんのお母さんのヘレアさんと言う方がミストレアさんの娘さんだったっけ。俺も話に聞いただけだけど、10年ほど前に現れたレッドドラゴン討伐に行って亡くなったらしい。
討伐は成功したらしく、生き残った冒険者が両親の遺品を持って帰ってきてくれたと言っていたな。ヘレネーさんが使っている剣もその1つだとか。
だから、母上の形見が盗まれた話も、親身になって聞いてくれた。ヘレネーさんには感謝してもしきれないな。
「ああ、私もミストレア様にお世話になった時があってね。その時に知り合ったんだ。もう20年ほど前ですかな?」
「そうだねぇ。あの時はまだレイブンたちが10代の頃か。レイブンの父親が、あの頃泣き虫だったレイブンを連れてきて鍛えてやってくれって来たんだっけ?」
「ははは。お恥ずかしい。これでも部下を率いる上司です。出来れば部下の前でその話は遠慮していただきたい」
そう言い金髪の髪をかくレイブンさん。へぇ〜、って事は一応俺の兄弟子にもなるわけだ。しかし凄えなミストレアさんは。弟子に国の重鎮がいるなんて。
「わかったよ。それでここに来た理由は? まさか世間話に来たわけじゃないだろうね?」
ミストレアさんが再度尋ねると、レイブンさんはさっきまでの笑顔を消して、大将軍に相応しい威圧感を放ってくる。
「もちろんです。今回ここに伺ったのは、ミストレア様もご存知かと思いますが、戦争の事についてです」
「戦争ねぇ」
戦争といえばアルバスト王国とブリタリス王国の戦争の事か。今まではミストレアさんに話を聞くだけだったけど、アルバスト王国の大将軍から聞くとなるとより信憑性は増す。軍を率いるとしたらこの人かこの人の部下になるのだから。
「はい。予定としては来年の6月ごろを予定としております。ウィリアム殿下が学園を卒業し準備が出来次第ですな。軍は私の部下が率います。兵は3万ほどになるでしょうか」
「へぇ〜。アルバストが用意出来るうちの半分を使うのかい。それ程今回の戦争は力を入れていると見える」
アルバスト王国は人口50万ほどの国だからな。俺もミストレアさんに聞いた話だけど、常備軍が1万ちょっと。招集して限界が5万ほどと言っていたけど、その内の半分以上を動員するなんて。
「はい。次期国王のウィリアム殿下に勝ち戦を知ってもらうためにです。それと国境付近でうるさいブリタリス王国を黙らすため、上手くいけば割譲も狙っています」
「なるほどねぇ〜。それでそこまで私に話したと言う事は」
「はい。ミストレア様にも従軍していただきたいと思い伺いました。して頂こうと思うのは、兵士の訓練にウィリアム殿下の護衛になります」
なるほどな。確かにミストレアさんはスパルタ過ぎるけど、それさえ我慢すればとても教えるのが上手い先生だ。
それにこの人が側にいればウィリアム殿下も安全な方だろう。まあ、戦争は何が起こるかわからないから一概には言えないけど。戦争知らないけど。
「要件はわかった。私の答えは、断る、だ」
そう考えていたらあっという間に断ってしまった。レイブンさんは案外想像がついていたのか表情は変わらないけど、後ろの騎士たちが物凄い顔で驚いている。まさか大将軍のお願いを断るとは思っていなかったのだろう。
「……理由を伺っても?」
「そんなものわかりきっているだろうに。私たちの時代は終わった。それだけだよ。あんたたちも新しいウィリアム殿下という世代に託すために、今回の戦争を始めるのだろう? それなのに私みたいな婆が入っても、古臭い考えを押し付けてしまうだけだ」
……見た目は30代が何を言っているのだか。レイブンさんもミストレアさんの言っている事がわかるのか黙ってしまったが
「……しかし、時にはそういう古い考えも必要なのでは?」
と続ける。しかし
「なら、レイブン。お前が教えてやったら良い。わたしゃあごめんだよ」
ミストレアさんは聞き入れない。もうこうなったらテコでも意見を変えないだろう。
「……わかりました。仕方ありませんね。それならヘレネーさんでしたかな? あなたは参加しませんか? 4属性持ちのあなたなら活躍できるでしょう」
そして、ミストレアさんが駄目だとわかったら、つぎはヘレネーさんを勧誘し始めた。確かにミストレアさんは髪色が透き通るような綺麗な水色だ。
4属性持ちだからかなり活躍するのではないだろうか。それに烈炎流は上級だし。
「私は参加しません」
だけど、ヘレネーさんも断ってしまった。
「そうですか、残念です。……仕方ありませんが、私も仕事が残っているのでこれ以上長居は出来ません。用事も済みましたので帰らせていただきます。ヘレネーさん。もし参加する気になったら、アルバスト王国にある練兵場へ来て下さい。そこで、徴兵を行なっていますので」
「だから私は……!」
レイブンさんが立ち上がり帰ろうとするけど、ヘレネーさんをしつこく誘ってくる。ヘレネーさんも再度断ろうとすると、レイブンさんが俺をチラッと見て来た。ヘレネーさんもそれに気がつき黙ってしまった。
これは遠回しに俺に言っているのか? ミストレアさんもクスクス笑っているし。レイブンさんの後ろにいる騎士たちは気が付いてないようだけど。
まあ、騎士たちの前で黒髪の俺に話しかけられないだろうし。しかし、良い情報が聞けた。
「では、失礼します」
「ああ」
ミストレアさんが軽く返すと、レイブンさんがゲートを発動する。あの人のゲートでここまでやって来たのか。そしてレイブンさんたちが帰ったのを見計らって
「さあ、晩御飯にするかい。お腹が減ってしまったよ」
とミストレアさんが背中を伸ばしながらそう言う。さっきまでは威厳たっぷりだったのに、今はただのお婆さんだ。見た目はお姉さんだけど。俺もヘレネーさんを手伝うか。
「あ、それからレディウス。明日から修行の総仕上げに入るから覚悟しておきな」
……重要な事をサラッと言いやがったなこの人は。
◇◇◇
「レイブン様! 本当に連れてこなくて良かったのですか!?」
「なに。あれ以上言ってもミストレア様は来て下さらなかったさ」
「そちらではなく孫の方です! あの女1人でも連れて来れば違ったのに!」
「そんな事すれば、私たちはミストレア様に殺されていたよ」
それにあの黒髪の少年。ミストレア様の弟子だと言っていたが、中々の体運びだった。初めは黒髪と忌避感を抱いていたが、黒髪とは思えない程の自信に満ち溢れていた表情を見て、興味が湧いた。
一応、徴兵については伝えたが、来てくれるだろうか。部下の手前話す事は出来なかったが、次に会ったら話して見たいものだ。
ミストレアさんが出て行く事で一触即発の雰囲気を何とか霧散させ、家の中へ案内する事が出来た。それでもヘレネーさんと騎士たちの雰囲気が悪いし、その上俺という黒髪も現れた事により、もっと悪くなった。
騎士たちが
「黒髪だと!? レイブン様に近づくんじゃない!」
言った瞬間、騎士の喉元にはヘレネーさんの剣が光っていたからな。俺のために怒ってくれたのは物凄く嬉しいのだけれど、少し怖い。
ミストレアさんと、レイブンさんとやらが止めてくれなければ、騎士の人の首は飛んでいただろう。それ程の殺気をヘレネーさんは出していた。
そんな事もありながらもようやく家の中へ案内して、初めに戻る。レイブンさんがミストレアさんの対面に座り、騎士2人はレイブンさんの後ろに立つ。
ヘレネーさんは一応お客なので、嫌々ながらもお茶を出していた。俺はというとミストレアさんの後ろで立っている。なんか座る雰囲気じゃなかったからな。
「……その前にそちらの2人には少し」
とレイブンさんがミストレアさんに言う。俺たちには聞かせられない話なのだろうか? それなら席も外しても良いのだけれど。そう言おうとしたら
「別に問題ないさ。ヘレネーは私の孫娘で、レディウスは私の弟子だ。だから別に聞かれても大丈夫さ」
そう言いレイブンさんに話の続きを促すミストレアさん。本当に良いのだろうか。レイブンさんの後ろの騎士たちは俺を睨んで来るし。……移動したい。
「ミストレア様の孫娘と言えば彼らの娘さんですか。初めましてユリアン殿とヘレア殿の娘さん。私の名前はレイブン・クリフィールと言う。ユリアン殿とヘレア殿には私もお世話になった」
「……初めまして。私はヘレネー・ラグラスです。父と母を知っているのですね」
へぇ〜、ヘレネーさんの両親の知り合いなのか。まあミストレアさんとも知り合いっぽいし、ヘレネーさんの両親の事を知っていてもおかしくないか。
確か、ヘレネーさんのお母さんのヘレアさんと言う方がミストレアさんの娘さんだったっけ。俺も話に聞いただけだけど、10年ほど前に現れたレッドドラゴン討伐に行って亡くなったらしい。
討伐は成功したらしく、生き残った冒険者が両親の遺品を持って帰ってきてくれたと言っていたな。ヘレネーさんが使っている剣もその1つだとか。
だから、母上の形見が盗まれた話も、親身になって聞いてくれた。ヘレネーさんには感謝してもしきれないな。
「ああ、私もミストレア様にお世話になった時があってね。その時に知り合ったんだ。もう20年ほど前ですかな?」
「そうだねぇ。あの時はまだレイブンたちが10代の頃か。レイブンの父親が、あの頃泣き虫だったレイブンを連れてきて鍛えてやってくれって来たんだっけ?」
「ははは。お恥ずかしい。これでも部下を率いる上司です。出来れば部下の前でその話は遠慮していただきたい」
そう言い金髪の髪をかくレイブンさん。へぇ〜、って事は一応俺の兄弟子にもなるわけだ。しかし凄えなミストレアさんは。弟子に国の重鎮がいるなんて。
「わかったよ。それでここに来た理由は? まさか世間話に来たわけじゃないだろうね?」
ミストレアさんが再度尋ねると、レイブンさんはさっきまでの笑顔を消して、大将軍に相応しい威圧感を放ってくる。
「もちろんです。今回ここに伺ったのは、ミストレア様もご存知かと思いますが、戦争の事についてです」
「戦争ねぇ」
戦争といえばアルバスト王国とブリタリス王国の戦争の事か。今まではミストレアさんに話を聞くだけだったけど、アルバスト王国の大将軍から聞くとなるとより信憑性は増す。軍を率いるとしたらこの人かこの人の部下になるのだから。
「はい。予定としては来年の6月ごろを予定としております。ウィリアム殿下が学園を卒業し準備が出来次第ですな。軍は私の部下が率います。兵は3万ほどになるでしょうか」
「へぇ〜。アルバストが用意出来るうちの半分を使うのかい。それ程今回の戦争は力を入れていると見える」
アルバスト王国は人口50万ほどの国だからな。俺もミストレアさんに聞いた話だけど、常備軍が1万ちょっと。招集して限界が5万ほどと言っていたけど、その内の半分以上を動員するなんて。
「はい。次期国王のウィリアム殿下に勝ち戦を知ってもらうためにです。それと国境付近でうるさいブリタリス王国を黙らすため、上手くいけば割譲も狙っています」
「なるほどねぇ〜。それでそこまで私に話したと言う事は」
「はい。ミストレア様にも従軍していただきたいと思い伺いました。して頂こうと思うのは、兵士の訓練にウィリアム殿下の護衛になります」
なるほどな。確かにミストレアさんはスパルタ過ぎるけど、それさえ我慢すればとても教えるのが上手い先生だ。
それにこの人が側にいればウィリアム殿下も安全な方だろう。まあ、戦争は何が起こるかわからないから一概には言えないけど。戦争知らないけど。
「要件はわかった。私の答えは、断る、だ」
そう考えていたらあっという間に断ってしまった。レイブンさんは案外想像がついていたのか表情は変わらないけど、後ろの騎士たちが物凄い顔で驚いている。まさか大将軍のお願いを断るとは思っていなかったのだろう。
「……理由を伺っても?」
「そんなものわかりきっているだろうに。私たちの時代は終わった。それだけだよ。あんたたちも新しいウィリアム殿下という世代に託すために、今回の戦争を始めるのだろう? それなのに私みたいな婆が入っても、古臭い考えを押し付けてしまうだけだ」
……見た目は30代が何を言っているのだか。レイブンさんもミストレアさんの言っている事がわかるのか黙ってしまったが
「……しかし、時にはそういう古い考えも必要なのでは?」
と続ける。しかし
「なら、レイブン。お前が教えてやったら良い。わたしゃあごめんだよ」
ミストレアさんは聞き入れない。もうこうなったらテコでも意見を変えないだろう。
「……わかりました。仕方ありませんね。それならヘレネーさんでしたかな? あなたは参加しませんか? 4属性持ちのあなたなら活躍できるでしょう」
そして、ミストレアさんが駄目だとわかったら、つぎはヘレネーさんを勧誘し始めた。確かにミストレアさんは髪色が透き通るような綺麗な水色だ。
4属性持ちだからかなり活躍するのではないだろうか。それに烈炎流は上級だし。
「私は参加しません」
だけど、ヘレネーさんも断ってしまった。
「そうですか、残念です。……仕方ありませんが、私も仕事が残っているのでこれ以上長居は出来ません。用事も済みましたので帰らせていただきます。ヘレネーさん。もし参加する気になったら、アルバスト王国にある練兵場へ来て下さい。そこで、徴兵を行なっていますので」
「だから私は……!」
レイブンさんが立ち上がり帰ろうとするけど、ヘレネーさんをしつこく誘ってくる。ヘレネーさんも再度断ろうとすると、レイブンさんが俺をチラッと見て来た。ヘレネーさんもそれに気がつき黙ってしまった。
これは遠回しに俺に言っているのか? ミストレアさんもクスクス笑っているし。レイブンさんの後ろにいる騎士たちは気が付いてないようだけど。
まあ、騎士たちの前で黒髪の俺に話しかけられないだろうし。しかし、良い情報が聞けた。
「では、失礼します」
「ああ」
ミストレアさんが軽く返すと、レイブンさんがゲートを発動する。あの人のゲートでここまでやって来たのか。そしてレイブンさんたちが帰ったのを見計らって
「さあ、晩御飯にするかい。お腹が減ってしまったよ」
とミストレアさんが背中を伸ばしながらそう言う。さっきまでは威厳たっぷりだったのに、今はただのお婆さんだ。見た目はお姉さんだけど。俺もヘレネーさんを手伝うか。
「あ、それからレディウス。明日から修行の総仕上げに入るから覚悟しておきな」
……重要な事をサラッと言いやがったなこの人は。
◇◇◇
「レイブン様! 本当に連れてこなくて良かったのですか!?」
「なに。あれ以上言ってもミストレア様は来て下さらなかったさ」
「そちらではなく孫の方です! あの女1人でも連れて来れば違ったのに!」
「そんな事すれば、私たちはミストレア様に殺されていたよ」
それにあの黒髪の少年。ミストレア様の弟子だと言っていたが、中々の体運びだった。初めは黒髪と忌避感を抱いていたが、黒髪とは思えない程の自信に満ち溢れていた表情を見て、興味が湧いた。
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コメント
ウォン
ある程度理解があるようで