黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
7話 拾った命
「お婆様こっちです!」
「ああ、血の匂いだ。急ぐよヘレネー!」
私とお婆様は今は鬱蒼と茂った森の中を全速力で駆けている。何故こうなったかと言うと時を少し遡る。
私たちは、お婆様が新人の冒険者の時からお世話になっているケントリー伯爵の屋敷に行っていた。
既に先代は亡くなられて、先代の長男であったレパント・ケントリー伯爵だったけど、レパント伯爵ともお婆様は懇意があったので、家を移したという報告に行っていた。
その帰り道、本当ならお婆様の光魔法のゲートで家まで戻る予定だったけど、お婆様が昔住んでいた辺りを見たいというので、この伯爵領内は歩いて帰る事にした。
私たちは、訓練の一環で常に身体強化をしていて、聴覚や嗅覚も強化している。そのため、「昔はここでよく狩りをしたものだ」とお婆様のお話を聞いている途中で、私は嫌いな匂いを感じた。
それは、お婆様も気がついたみたいで、というよりお婆様はより正確にわかったみたいで、この匂い、血の匂いが魔獣では無くて人間の匂いだとわかったみたい。
一滴二滴では無い、尋常では無いほどの量の血の匂いがするので、お婆様は直様森へと入って行った。私も直ぐにお婆様の後を追いかけ、今では先導しているけど、お婆様が私に合わせてくれているみたい。お婆様が本気を出せば、一瞬で私は置いていかれちゃうからね。
そして血の匂いの元に辿り着くとそこには、血塗れで倒れる黒髪の少年と、その少年を囲むウルフたちの姿があった。
お婆様は直ぐに風魔法を放って、ウルフたちを細切れにしてしまったけど、この少年は多分生きていないだろう。そう思えるほど、血が流れていた。
「……お婆様、どう?」
多分死んでいるんだろうけど、それでも確かめるお婆様に私は尋ねると
「ヘレネー! 直ぐにハイポーションを! まだ生きてるよ!」
うそっ!? これだけ血を流してまだ生きているなんて。私は直様、腰に下げていた鞄から、私が持っている中で1番良いハイポーションを取り出す。
私もお婆様も水魔法が使えないから治療ができない代わりに、どんな傷を負っても治せるように、大量にポーション類を蓄えている。
お婆様が少年にポーションをかけるために、仰向けにすると、うわっ! ……これは酷過ぎる。左目と体をザックリと切られてしまっている。その上右腕は、ボロボロ。
体と右腕はポーションで治るだろうけど、右腕は動かせるようになるまで時間がかかるだろうし、左目はもう……。
「ヘレネー。この子を連れて帰るよ」
「わかったわ」
私は倒れているこの少年を担いでお婆様の側まで近づく。せっかく高いハイポーションを使ったんだからこんなところで死んだら許さないんだから!
そしてお婆様はゲートを発動して家まで帰ったのだった。
この時はこの少年とこんなに長い付き合いになるとは思っていなかった。これが、私とレディウスの出会いだった。
◇◇◇
「……め、……ポ、……しちゃ!」
「……グゥ」
何だ。顔の辺りに何かが乗って跳ねている?
「あっ! だからその人の上に……」
「グゥ!」
うぐっ! 今度は腹に衝撃が。一体何が?
「うぅぅ……」
僕は目を覚ますために目を開ける。うっ、眩しい! 何でこんなに眩しいんだ? 少しずつ目を慣らして開けていくと、そこには
「グゥグゥ!」
真っ黒なウサギが俺の顔を覗き込んでいた。見た目はホワイトラビットみたいだけど、全身真っ黒だ。うおっ! 急に顔を舐めてきた。く、擽ったいって! めっちゃ人懐っこいなこいつ。
「起きたのね?」
そんな風に黒ウサギを見ていたら、その奥からとても綺麗な少女が覗き込んできた。髪の毛の色は空のように透き通るような水色で、目も同じ色だ。つり上がった目が少し強気な印象を与えるが、かなり美少女だ。
「き、君は誰だ!? こ、ここは?」
「私はヘレネー・ラグレス。ここは魔剣王って呼ばれた元S級冒険者、私のお婆様のミストレア・ラグレスの家よ。森で瀕死だったあなたを助けたのは私たちなのだから少しは感謝してよね」
この水色髪の少女、ヘレネーさんの言葉で思い出す。そうだ僕は……あっ!
「剣! 剣が! すみませんヘレネさん! 僕の側に剣は無かったですか!? 長さ100センチほどの剣……ぐっ!」
僕はヘレネーさんに聞こうと勢い良く起き上がろうとしたら、体が思いの外動かなくて、ベッドに倒れてしまった。
「あっ! もう、いきなり起き上がったりしたらダメじゃない。あなたは1ヶ月近く寝込んでいたんだから。それからあなたが倒れていた側に剣なんて無かったわ」
僕はその言葉に目の前が真っ黒になりそうだった。1ヶ月寝込んでいた事にも驚きだが、それよりも
「け、剣が……」
やっぱりあの時ベーネたちに盗まれたんだ。くそっ、くそっ、くそっ! 母上から貰った大切な物を僕は、僕はっ!
「……その剣がどうしたのよ? 大事なものだったの?」
「……母上の形見でした」
「……っ! そう、だったの」
それからは沈黙が続く。そうだ。今はその話をしている場合じゃない。僕は体を確認する。右腕は力が入り辛く、左目は真っ暗だ。
左目をゆっくりとなぞっていくと、傷跡みたいなのが残っている。それから体の切られたところは痛くはない。あれだけの大怪我を治してくれて、1ヶ月もの間面倒を見てくれたのだ。
何の意図があって助けてくれたかはわからないけど。ベーネたちに裏切られた事があるから直ぐには信用が出来ないけど。お礼だけは言わないと。助けて貰った事には違いない。
「すみません、取り乱したりして。僕の名前はレディウスです。助けてくれてありがとうございます」
僕が普通に接すると、ヘレネーさんは暗くしていた表情が少し明るくなる。
「別に良いのよ。助けたのはお婆様だし。レディウスね。よろしく」
そう言って手を差し伸べてくるヘレネーさん。だけど
「レディウス?」
「……助けて貰ってこういう事は言いたくないのですが、どうして助けたのですか? 助けていただいた事は有難いです。でも、あなたたちに僕を助ける理由がない。それにこの髪なのに……」
僕はベーネたちの事があったので、失礼と思いながらも疑ってしまう。なんで僕みたいな黒髪を助けたのか、と。僕は最後の方をの言葉を濁しながら尋ねると、ヘレネさんは
「そんなの偶然よ。偶々帰り道に血の匂いがして、偶々あなたが倒れていて、偶々助かったから連れて帰っただけ。ただそれだけよ。
あっ、あと偶々助けた少年が黒髪だっただけ。別に今までもそういう風に出会った人たちには同じようにして来たわ。その中にはもちろん黒髪もいたし。助からなかった人もいたけど」
……そうか。偶然が偶然に重なって僕の命は助かった。なら、ただ喜べば良いだけなのに僕は。
「ごめんなさいヘレネーさん。変な事を尋ねてしまって」
僕はベットの上で頭を下げる。せっかく助けていただいたのに、変に疑って失礼な事をしてしまった。
「ちょ、ちょっと! 別に良いから頭を上げて!」
と頭の上からあたふたする声が聞こえる。そして
「グゥグゥ!」
「ちょっと! ロポ! レディウスの頭の上で跳ねちゃダメ!」
頭を下げていると頭の上に黒ウサギのロポが乗って来て跳ね出した。軽いから良いけど。そんな風にヘレネーさんの怒る声と、ロポの楽しそうに鳴く声を頭の上で聞いていると
「目が覚めたようだねえ。ロポも懐いて楽しそうだね」
外から綺麗な声が聞こえてくる。僕が頭を上げるとロポは僕の背中を転がって行くけど、それも楽しそうに鳴いている。僕はロポを撫でながら声のする方を見る。
そこには、美熟女が立っていた。……え? ヘレネーさんのお婆さんだよね? お母さんじゃなくて?
「え、ええっと、ヘレネーさんのお母さんですか?」
「ほっほっほ! これは嬉しい事を言ってくれるねぇ。私はもう直ぐで60歳の婆でね、ミストレア・ラグレスさ。よろしくさ」
そう言い微笑んでくれるミストレアさん。紫色の髪に170センチほどの身長に、重そうな巨乳。見た目は30後半程だ。絶対誰もお婆さんなんて思わないぞこれ。
「は、はい、よろしくお願いします。僕の名前はレディウスと言います。僕を助けてくれてありがとうございました」
「何、偶々気がついただけさ。それより、何であんなところで、片目と体を切られるような大怪我をしてたんだい?」
ミストレアさんに挨拶を終えると、ミストレアさんが、僕の傷の原因を聞いてくる。この人たちは僕の命を助けてくれた恩人だ。偶々らしいけど、何か理由をあれこれと言われるよりかは信用できる。だから僕はあの時のことを話した。
「ああ、血の匂いだ。急ぐよヘレネー!」
私とお婆様は今は鬱蒼と茂った森の中を全速力で駆けている。何故こうなったかと言うと時を少し遡る。
私たちは、お婆様が新人の冒険者の時からお世話になっているケントリー伯爵の屋敷に行っていた。
既に先代は亡くなられて、先代の長男であったレパント・ケントリー伯爵だったけど、レパント伯爵ともお婆様は懇意があったので、家を移したという報告に行っていた。
その帰り道、本当ならお婆様の光魔法のゲートで家まで戻る予定だったけど、お婆様が昔住んでいた辺りを見たいというので、この伯爵領内は歩いて帰る事にした。
私たちは、訓練の一環で常に身体強化をしていて、聴覚や嗅覚も強化している。そのため、「昔はここでよく狩りをしたものだ」とお婆様のお話を聞いている途中で、私は嫌いな匂いを感じた。
それは、お婆様も気がついたみたいで、というよりお婆様はより正確にわかったみたいで、この匂い、血の匂いが魔獣では無くて人間の匂いだとわかったみたい。
一滴二滴では無い、尋常では無いほどの量の血の匂いがするので、お婆様は直様森へと入って行った。私も直ぐにお婆様の後を追いかけ、今では先導しているけど、お婆様が私に合わせてくれているみたい。お婆様が本気を出せば、一瞬で私は置いていかれちゃうからね。
そして血の匂いの元に辿り着くとそこには、血塗れで倒れる黒髪の少年と、その少年を囲むウルフたちの姿があった。
お婆様は直ぐに風魔法を放って、ウルフたちを細切れにしてしまったけど、この少年は多分生きていないだろう。そう思えるほど、血が流れていた。
「……お婆様、どう?」
多分死んでいるんだろうけど、それでも確かめるお婆様に私は尋ねると
「ヘレネー! 直ぐにハイポーションを! まだ生きてるよ!」
うそっ!? これだけ血を流してまだ生きているなんて。私は直様、腰に下げていた鞄から、私が持っている中で1番良いハイポーションを取り出す。
私もお婆様も水魔法が使えないから治療ができない代わりに、どんな傷を負っても治せるように、大量にポーション類を蓄えている。
お婆様が少年にポーションをかけるために、仰向けにすると、うわっ! ……これは酷過ぎる。左目と体をザックリと切られてしまっている。その上右腕は、ボロボロ。
体と右腕はポーションで治るだろうけど、右腕は動かせるようになるまで時間がかかるだろうし、左目はもう……。
「ヘレネー。この子を連れて帰るよ」
「わかったわ」
私は倒れているこの少年を担いでお婆様の側まで近づく。せっかく高いハイポーションを使ったんだからこんなところで死んだら許さないんだから!
そしてお婆様はゲートを発動して家まで帰ったのだった。
この時はこの少年とこんなに長い付き合いになるとは思っていなかった。これが、私とレディウスの出会いだった。
◇◇◇
「……め、……ポ、……しちゃ!」
「……グゥ」
何だ。顔の辺りに何かが乗って跳ねている?
「あっ! だからその人の上に……」
「グゥ!」
うぐっ! 今度は腹に衝撃が。一体何が?
「うぅぅ……」
僕は目を覚ますために目を開ける。うっ、眩しい! 何でこんなに眩しいんだ? 少しずつ目を慣らして開けていくと、そこには
「グゥグゥ!」
真っ黒なウサギが俺の顔を覗き込んでいた。見た目はホワイトラビットみたいだけど、全身真っ黒だ。うおっ! 急に顔を舐めてきた。く、擽ったいって! めっちゃ人懐っこいなこいつ。
「起きたのね?」
そんな風に黒ウサギを見ていたら、その奥からとても綺麗な少女が覗き込んできた。髪の毛の色は空のように透き通るような水色で、目も同じ色だ。つり上がった目が少し強気な印象を与えるが、かなり美少女だ。
「き、君は誰だ!? こ、ここは?」
「私はヘレネー・ラグレス。ここは魔剣王って呼ばれた元S級冒険者、私のお婆様のミストレア・ラグレスの家よ。森で瀕死だったあなたを助けたのは私たちなのだから少しは感謝してよね」
この水色髪の少女、ヘレネーさんの言葉で思い出す。そうだ僕は……あっ!
「剣! 剣が! すみませんヘレネさん! 僕の側に剣は無かったですか!? 長さ100センチほどの剣……ぐっ!」
僕はヘレネーさんに聞こうと勢い良く起き上がろうとしたら、体が思いの外動かなくて、ベッドに倒れてしまった。
「あっ! もう、いきなり起き上がったりしたらダメじゃない。あなたは1ヶ月近く寝込んでいたんだから。それからあなたが倒れていた側に剣なんて無かったわ」
僕はその言葉に目の前が真っ黒になりそうだった。1ヶ月寝込んでいた事にも驚きだが、それよりも
「け、剣が……」
やっぱりあの時ベーネたちに盗まれたんだ。くそっ、くそっ、くそっ! 母上から貰った大切な物を僕は、僕はっ!
「……その剣がどうしたのよ? 大事なものだったの?」
「……母上の形見でした」
「……っ! そう、だったの」
それからは沈黙が続く。そうだ。今はその話をしている場合じゃない。僕は体を確認する。右腕は力が入り辛く、左目は真っ暗だ。
左目をゆっくりとなぞっていくと、傷跡みたいなのが残っている。それから体の切られたところは痛くはない。あれだけの大怪我を治してくれて、1ヶ月もの間面倒を見てくれたのだ。
何の意図があって助けてくれたかはわからないけど。ベーネたちに裏切られた事があるから直ぐには信用が出来ないけど。お礼だけは言わないと。助けて貰った事には違いない。
「すみません、取り乱したりして。僕の名前はレディウスです。助けてくれてありがとうございます」
僕が普通に接すると、ヘレネーさんは暗くしていた表情が少し明るくなる。
「別に良いのよ。助けたのはお婆様だし。レディウスね。よろしく」
そう言って手を差し伸べてくるヘレネーさん。だけど
「レディウス?」
「……助けて貰ってこういう事は言いたくないのですが、どうして助けたのですか? 助けていただいた事は有難いです。でも、あなたたちに僕を助ける理由がない。それにこの髪なのに……」
僕はベーネたちの事があったので、失礼と思いながらも疑ってしまう。なんで僕みたいな黒髪を助けたのか、と。僕は最後の方をの言葉を濁しながら尋ねると、ヘレネさんは
「そんなの偶然よ。偶々帰り道に血の匂いがして、偶々あなたが倒れていて、偶々助かったから連れて帰っただけ。ただそれだけよ。
あっ、あと偶々助けた少年が黒髪だっただけ。別に今までもそういう風に出会った人たちには同じようにして来たわ。その中にはもちろん黒髪もいたし。助からなかった人もいたけど」
……そうか。偶然が偶然に重なって僕の命は助かった。なら、ただ喜べば良いだけなのに僕は。
「ごめんなさいヘレネーさん。変な事を尋ねてしまって」
僕はベットの上で頭を下げる。せっかく助けていただいたのに、変に疑って失礼な事をしてしまった。
「ちょ、ちょっと! 別に良いから頭を上げて!」
と頭の上からあたふたする声が聞こえる。そして
「グゥグゥ!」
「ちょっと! ロポ! レディウスの頭の上で跳ねちゃダメ!」
頭を下げていると頭の上に黒ウサギのロポが乗って来て跳ね出した。軽いから良いけど。そんな風にヘレネーさんの怒る声と、ロポの楽しそうに鳴く声を頭の上で聞いていると
「目が覚めたようだねえ。ロポも懐いて楽しそうだね」
外から綺麗な声が聞こえてくる。僕が頭を上げるとロポは僕の背中を転がって行くけど、それも楽しそうに鳴いている。僕はロポを撫でながら声のする方を見る。
そこには、美熟女が立っていた。……え? ヘレネーさんのお婆さんだよね? お母さんじゃなくて?
「え、ええっと、ヘレネーさんのお母さんですか?」
「ほっほっほ! これは嬉しい事を言ってくれるねぇ。私はもう直ぐで60歳の婆でね、ミストレア・ラグレスさ。よろしくさ」
そう言い微笑んでくれるミストレアさん。紫色の髪に170センチほどの身長に、重そうな巨乳。見た目は30後半程だ。絶対誰もお婆さんなんて思わないぞこれ。
「は、はい、よろしくお願いします。僕の名前はレディウスと言います。僕を助けてくれてありがとうございました」
「何、偶々気がついただけさ。それより、何であんなところで、片目と体を切られるような大怪我をしてたんだい?」
ミストレアさんに挨拶を終えると、ミストレアさんが、僕の傷の原因を聞いてくる。この人たちは僕の命を助けてくれた恩人だ。偶々らしいけど、何か理由をあれこれと言われるよりかは信用できる。だから僕はあの時のことを話した。
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