黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

5話 森へ

「へぇ〜、いっぱい依頼があるんだね」


 受付で冒険者登録が出来た僕は、依頼板のところへやって来た。僕が受けられるFランクの依頼は、街の溝掃除、ゴミ拾い、赤ん坊の子守、ペットのお散歩など。


 Eランクで街の外に出て、薬草採取やキノコの採取など、ホワイトラビットの討伐やゴブリンの討伐などの討伐系もEランクから。


「ホワイトラビットなら出来そうかも」


 僕はその中にあるホワイトラビットの討伐の紙を取る。


 ーー
 ホワイトラビット討伐
 常時依頼
 繁殖力の高いホワイトラビットの討伐をお願いします。ホワイトラビットは食料にもなるので体が討伐部位となります。よろしくお願いします。
 報酬 1体につき銅貨1枚
 ーー


 この常時依頼ってなんだろうか。一回受付で聞いてみよう。さっきのお姉さんが空いているので聞いてみるかな。


「お姉さん、すみません」


「あら、依頼を受けられますか?」


「それなのですが、ホワイトラビットの討伐を受けようと思うのですが、ここにある常時依頼とは何でしょうか?」


 僕は依頼板から持って来た紙を指差す。


「ああ、常時依頼とは、本来その依頼を受けて完了したら依頼は再びされるまで無くなるのですが、この常時依頼が書かれている依頼は無くならずに再度受ける事が出来るのです。
 このホワイトラビットやゴブリンは常時依頼に当たりまして、この街から1時間ほど歩いた場所にある森にいるのですが、繁殖力が早いのです。あまりに放っておくと、周りの村の畑などを荒らしたり、人に危害を加えたりするので、常時依頼とされています」


 なるほど。確かに畑とか荒らされたら生活に困ってしまうもんね。それにここから1時間なら、今から行って帰って来るのに合計2時間。……うん、太陽が沈むまでまだ6時間ほどあるから帰って来られる。


「わかりました、受けようと思います」


「では、ギルドカードを出して下さい」


 受付のお姉さんにそう言われたのでギルドカードを渡す。するとお姉さんは机の下から水晶を出してそれにギルドカードをかざす。何をしているのだろう?


「はい、これで受注出来ました。あと一度に依頼が受けられるのは5つまでとなっていますのでご注意下さい」


 そう言いながら渡されたギルドカードを見ると


 ーーーー
 レディウス Fランク
 出身地   グレモンド
 得意武器  剣
 魔法属性  ー
 受注中依頼
 ホワイトラビット討伐
 ーーーー


 僕が登録時に書いた情報が載っている。それに今受けている依頼も載っている。これは便利だな。あの水晶は魔道具なのだろう。家ではゲルマンがお風呂に入る時の水を出す魔道具しか見た事なかったからね。


「ありがとうございます。行って来ます」


「はい、頑張って下さい」


 受付のお姉さんに挨拶してからギルドを出る。やっぱりギルドの中の人たちも僕の髪を見て、誰も近寄って来ない。だけど、コソコソと話す話の中に戦争の話があった。


 僕も姉上に少しだけ聞いた事があったけど、この『アルバスト王国』は西の隣の国『ブリタリス王国』に戦争をするために今は色々と準備をしているらしい。いつになるかはわからないけどそのために軍備増強していて、兵士を募集したりしているらしい。


 戦争かぁ。僕も強かったら参加するんだけど、今のままじゃ出ても死ぬだけだし。まだ先の話だから考えなくても良いかな。


 そんなことを考えながらギルドを後にする。ホワイトラビットは血抜きだけしたら良いから解体用のナイフもまだ買わなくて良いかな。……良く良く考えたら僕生き物殺すの初めてじゃないか。出来るかな……。


 そんな事を考えていたら門まで来てしまった。仮身分証を返すためにさっきの門兵を探す。……あっ、いたいた。


「すみません」


「あぁん? さっきのボウズじゃねえか。登録は出来たのか?」


「はい、これです」


 僕は先ほど渡してもらったギルドカードを門兵に見せる。門兵はそれを受け取って確認している。


「……これで大丈夫だ。この門を通る時は次からはこのカードを見せな。ほれ大銅貨だ」


「はい、ありがとうございます。それで、ホワイトラビットの討伐に行きたいのですが、森はどちらにあるのでしょうか?」


「ホワイトラビットか。その森ならここから2キロほど東へ行ったところだ。まあ、気を付けな。あそこはホワイトラビットだけでなくゴブリンやウルフも出るからな。ボウズみたいな初心者だとウルフの群れに囲まれたら、餌にされるのがオチだぜ」


 ウルフか。群れで生活する狼だっけ? 怖いなぁ〜。


「わかりました。見かけたら直ぐに逃げます」


「まあ、どうでも良いがな。ほらさっさと行け。仕事の邪魔だ」


 そう言い手をシッシッと振る門兵。確かに後ろに人が集まって来ている。僕はなんだかんだ言って色々と教えてくれた門兵に軽く礼をして門を出る。


 ここから2キロほどか。何時も朝走っているみたいに走っていくか。


 どうホワイトラビットを捕まえるか、そういえばどういう姿をしているか知らないや、とか考えながら走る事10分ほど。


「ここかな?」


 整備された街道の側に大きな森があった。木々は3メートル程の大きさが沢山生えている。森の大きさは直径で3キロほどかな?


「良し、入るか」


 僕は少々の不安と、どうな生き物かと思う期待を抱きながら、森へ入ろうとした時


「あら、さっきの坊やじゃない?」


 と後ろから声をかけられる。その方を向くと


「あっ、あなたはギルドまで案内してくれたお姉さん!」


 そう、先ほどギルドの場所をわからなかった僕にギルドの場所を教えてくれたお姉さんだった。出会った時みたいに扇情的な格好で、その上から革鎧を着け腰に2本の短剣を差している。


「坊やも依頼に来たの? 私と一緒ね?」


 そう言いうふふ、と笑うお姉さん。姉上程では無いけど綺麗な人だな。そう思って見ていると


「こいつか?」


 後ろには2人の男が立っていた。1人は2メートルほどある巨体で茶髪の男。背には斧を背負っている。そしてもう1人は金髪の優しそうな男の人で腰に確かレイピアだったかな? 細剣を提げていた。


「ええ、この子よ」


「確かに黒髪の割には身なりが……」


 3人で話しているために何を話しているかは聞こえないけど、もう行っていいのかな?


「あの……」


「ああ、ごめんなさい。それで坊やは何の依頼を受けに来たの?」


「え? ああ、僕はホワイトラビットの討伐を受けに来ました」


「ああ、ホワイトラビットね。あれはすばしっこいから捕まえづらいのよね。良かったら手伝ってあげよっか?」


 そう言い僕の目線まで腰を下げてくれるお姉さん。うっ、前かがみなので胸元が……。僕は顔を反らしながら


「で、でもお姉さんたちには別の依頼があるんじゃあ」


「私たちはウルフ討伐だからこの森の奥まで行かないといけないのよ。だから一緒に行きましょ。手取り足取り教えてあげるわ」


 この時の僕は、先ほど助けてくれたので良い人なのだろうと思っていた。だから


「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。実は言うとホワイトラビットがわからなくて」


 お姉さんたちに手伝ってもらう事をお願いした。僕はこの時、後ろの男の人たちが笑っているのに気がつかなかった。

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