黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

4話 冒険者ギルド

 グレモンド男爵領を出て3日が経った。グレモンド男爵領から出ている馬車に乗り、僕は隣の街『レクリウム』にやって来た。


 ここはケントリー伯爵家の領地の1つで、グレモンド男爵領には無かった冒険者ギルドがある。僕も姉上の説明を簡単に聞いただけなので詳しくはわからないけど、いわゆる何でも屋というやつだ。


 街の中のゴミ拾いから、街の外の魔獣退治、貴族の護衛など様々な依頼がある。まあ、今の僕には魔獣なんて倒せないんだけど。今考えているのは雑用しながら剣術を磨くって事かな。


 そんな事を考えていたら馬車は止まった。ほえ〜、ここが『レクリウム』か。ここら辺じゃあ、1番栄えている街だ。


 僕は御者に銅貨3枚払う。この大陸の通貨はどの国もベクで通用する。小銅貨、銅貨、大銅貨、小銀貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、そして白金貨、大白金貨となる。


 小銅貨→10ベク、銅貨→100ベク、大銅貨→500ベク
 小銀貨→1千ベク、銀貨→5千ベク、大銀貨→1万ベク
 金貨→5万ベク、大金貨→10万ベク
 白金貨→100万ベク、大白金貨→1千万ベク


 となる。白金貨、大白金貨程にもなれば貴族や商人しか使う事は無いらしい。僕も勿論見た事は無い。大人1人の1日2食の食費が大体大銅貨1枚で済むぐらいで、節約すれば1月大銀貨1枚で過ごせる。


 ゲルマンから貰った手切れ金は金貨1枚。これでもうグレモンド家には関わるなって事だろう。まあ、今の僕にはこれが全財産だ。母上が少し残してくれたお金があるけど大事に使わないと。


 そう思いながらレクリウムの門に辿り着く。ここで身分証の確認をするらしい。でも今の僕には無いので新しく作らないといけない。姉上に聞いた話だと、冒険者ギルドのカードが身分証代わりになるらしいけど。


「次!」


 そして僕の番が来た。僕は門兵の人の側まで行くと被っていたマントを脱ぐ。門兵の人は僕の頭を見て顔をしかめるが、仕事はしてくれるみたいだ。


「おいボウズ。身分証はあるのか?」


「身分証は持っていませんので冒険者ギルドで作ろうと思っています」


「お前が冒険者にか? はっ! 死ぬのがオチだぜ。まあ、黒髮がいくら死のうが損失にはならないか。大銅貨1枚で仮身分証と交換だ。冒険者ギルドで登録が出来たらここに持ってこい。金は返してやる」


「わかりました」


 僕は大銅貨を1枚取り出して門兵に渡す。門兵からは木の札みたいなを渡された。これが仮身分証になるのか。周りからはヒソヒソと言われているけど、こんなのいちいち気にしていたら面倒だ。さっさと入ってしまおう。


 門をくぐって中へ入ると、門の外とは違う賑やかさがある。店の商品を売ろうとする店主の声。子供たちが遊び回る楽しそうな声。まだ昼間なのに酒に酔って叫んでいる男の声。様々な声が聞こえる。


 道も馬車が4台ほどは通れるほどの広さに門の近くは店が立ち並び、奥に行く程居住地が建っている。僕はキョロキョロとしながら周りを見ていると


「……あいつ黒髪だぜ?」


「近寄ったダメよ!」


「全く、気味が悪いぜ」


 ……やっぱり、どこでも黒髪は一緒だな。僕はそんな声を無視しながらギルドを目指す。だけど場所がわからないな。近くの人に聞こうとしても、みんな僕の髪を気味悪がって近寄ろうともしない。……どうしようかな。そう考えていたら


「あら、坊や。どうしたの?」


 とえらく煽情的な格好をした女性が僕の下へやって来た。金髪の髪の毛を右側に束ねて、踊り子のような衣装を着ている。まあ、踊り子なんて見たことないくて本で読んだだけなんだけど。


「いや、ちょっと冒険者ギルドの場所がわからなくて」


「あら、そうなの。それなら私が案内してあげるわ」


 そう言い歩き出す女性。この人について行って良いものなのか。少し不安だけど、他の人は教えてくれそうにないからついて行くしかないね。


 僕は少し注意しながらついて行く。姉上の話だと冒険者ギルドはみんなが入りやすいように、表通りに出ている事が多いらしい。だから裏地に連れていかれそうになったら逃げれば良いのだ。


 そうして歩く事10分ほど。


「ほら坊や。ここが冒険者ギルドよ」


 おお、ここが冒険者ギルドか。看板には盾に剣が交差するように刺さっている絵が描いてある。


「ありがとうございます。お姉さん」


 僕は案内してくれた女性に向かって礼をする。疑ってごめんなさい。心の中で謝っておこう。


「ふふ、別に良いのよ。それじゃ、また・・ね」


 そう言い手を振りながら去って行く。母上や姉上たちみたいに僕の髪を見ても普通に接してくれる人はいるんだな。その事に少し嬉しくなってしまった。


 僕は女性の姿が見えなくなるまで見送ってから、ギルドの中へ入る。


 ギルドの中は1階がギルドに依頼したり、受けたりする受付がある。そこではギルドの職員の人が働いている。奥の壁には板があり、そこには大量の紙が貼られている。あれが依頼なのだろう。結構あるんだね。


 そして2階は酒場になっているようだ。2階から男の人の笑い声が聞こえる。昼から楽しそうだな。そう言えば、僕には同年代の友達がいないや。姉上やミアは違うし、バルトも僕を虐める相手にしか見てなかっただろう。


 冒険者になったら一緒に依頼する友達とか仲間とか出来るのかな? そう考えたら少しワクワクする。僕はそんな思いを抱きながら受付まで辿り着いた。


「はい、次の方……って、え?」


 受付のお姉さんが書類を片付けながら、次の人を呼んだので、次の番である僕は受付まで行くと、僕の方を見たお姉さんがギョッとした表情を浮かべる。僕というよりかは髪を見てだけど。


「く、黒髪……ゴホンッ! ええっと本日はどのようなご用件でしょう?」


「冒険者ギルドに登録したいんだ」


「冒険者登録ですね。ではこの用紙に必要事項をお書き下さい。読み書きは出来ますか?」


「はい、大丈夫です」


 そして用紙を見て行くと、欄には、名前、出身地、得意武器、魔法属性が書く欄がある。僕は魔法属性以外は埋めた。


「これでお願いします」


「はい。……字が綺麗ですね」


 読み書き計算は3年間で姉上にみっちりとやらされたからな。商人みたいに難しいのは無理だけど普通に売り買いする時の計算ぐらいなら出来る。


 そしてお姉さんが用紙を見ていって最後の方を見てから僕を見る。絶対魔法属性の欄を見ている。


「わかりました。これで登録いたします。初回は登録料は無料ですが、紛失などによる再発行は大銀貨1枚となります。紛失が5回続くようでしたら、冒険者の資格なしと見なし剥奪されますのでご注意下さい」


「わかりました」


 最初は驚いていたお姉さんだけど、仕事中だからか変な目で見なくなった。仕事だからとわかっていても少し嬉しい。


「冒険者ギルドについて説明は要りますか?」


 姉上に簡単には聞いたけど、もう一度詳しく聞いておきたいな。


「はい、お願いします」


「わかりました。それでは説明致します。まず冒険者にはランクというものが存在します。登録時点ではFランク。そこから順番にE、D、C、B、A、Sとなります。このランクを上げるにはランクの一個下のランクを40回、同じランクの依頼を30回、1つ上のランクを15回こなす必要があります」


 今の僕だとFランクの依頼を30回こなすかEランクの依頼を15回こなさないといけないんだね。


「依頼は自分のランクの同ランクの依頼が、1つ上か1つ下のランク依頼しか受けれません。それ以外のランクは受付に持ってきても受け取りませんのでご注意下さい」


「という事は、上のランクの人は下の依頼を受けられないのですか? 例えばBランクの人がDランクの依頼を受けたりと」


「はい。上のランクの人が下のランクの人の依頼を受けてしまうと、下のランクの人が依頼を受けられなくなるのを防ぐためです。
 まあ、そんな人はいないのですが。下のランクを受けたとしてもランクは上がらない上に、貰える依頼料はランクが低い程少ないので、上の人からすればメリットが無いのです」


 なるほどな〜。確かに下の依頼を受けるぐらいなら、自分のランクと同じか1つ下の依頼を受けた方が良いのか。


「他にご質問はございますでしょうか?」


「いえ、今の所大丈夫です」


「そうですか。これが冒険者カードになります。先程も申しましたが失くさないようにご注意下さい」


「はい、ありがとうございます」


 そうして受付のお姉さんからギルドカードを受け取る。これで僕も冒険者か。


「それでは依頼を受けられるのでしたらあちらに貼られているものが依頼です。右からFランク依頼がありますのでご確認ください」


「はい、ありがとうございました」


 僕は親切に教えてくれた受付のお姉さんに礼を言って依頼板に向かう。宿屋も探さないといけないけど、どんな依頼があるか見ておこう。

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