仮面ライダーChess&[チェスト]

特撮マニア

魂を賭けて『変身!』1-4



「ブオォォーーォォー!!!!!」


機械から発せられているとは思えない雄叫びが耳に響く。
怒号を浴びせられる長い、長い時間が人々の恐怖心を増幅させる。
ゆっくりと雄叫びは小さくなり、
そして収束する。
それでも耳の奥ではまだ雄叫びが響き続ける。

雄叫びが収まるとその場は静かだった。
何故だかは分からない。
誰も声を上げず、誰も身動きを取らなかった。
いや、取れなかった。

ズシィン!

機械生命体【メイル】が一歩を踏み出す。
静かな場に振動が再び響く。
それと共に人々の恐怖心が爆発した。

「ウワァーー ️」
「キャーー ️」
「逃げろぉー ️」

人々が逃げ惑う。阿鼻叫喚の地獄絵図がそこにあった。
お店の中も人々は混乱している

「退けよ!」
「離して!」

出入口に人がごった返す。
メイドさんも裏口の方から避難したようで姿は見えない。


「あれが……メイル…!?
何か……牛…?に似てる気がする……。」

表面は鉄色の金属だが、赤い模様が時折光輝いている。頭の上には立派な角が二本生えていて、鼻輪らしき物も確認出来る。

「なんだ、メイルを見るのは初めてか?」

先程と変わらないトーンで重賭さんが話しかけてくる。この人だけはここにいる誰よりも状況を理解していて、落ち着いているのだろう。

「直接見るのは……。
なんで平気なんですか……。」

「まぁ……、職業柄…的なやつだ。」

どんな職業ですか……。
賭博師じゃないんですか。

「で、研究員の卵。好奇心は湧いてくるか?」

「好奇心なんかより恐怖心しかありません。
って言うか、何か此方向かってきてません!?」

「そうだな、逃げるか。」

やっと椅子から立ち上がれば、人の山となった出入口には向かわずにキッチンの方にある裏口へ動き出す。
しかしあと少し、キッチンの方へ抜けられると思った直前で先に化け物が動いた。

「ブオォォーー!」

先程まで二足歩行していた牛型メイルは立ち止まり両手を地面につけた。
四つん這いの姿勢となり、頭を此方に向けている。メイルの方からより機械音が強くなると重賭さんが焦りの言動を初めて吐いた。

「……っ!
この感じはヤバそうだ……。
おい、そこの有象無象!死にたくなかったらその場に伏せろ!
勿論、お前もだよ!」

出入口扉でひしめき合っている人々に口悪く注意勧告をすれば、その流れで私の頭を掴んで抵抗する暇も無く地面へ伏せられた。

次の瞬間、牛型メイルの背中から火柱が上がる。
背面を焼き尽くすものではない。
推進力を得る為のものだ。
つまり、

メイルが加速してお店に突撃してきた。
ドォン ️と轟音が鳴り響き、店内は更に阿鼻叫喚を増していく。
メイルはすぐさま立ち上がり、暴れ始める。
先程の騒乱から生き残ることに集中したのか店内に残る人もだいぶ減っていた。

「突っ込んでくるとかマジかよ……。
……どうすっかな。」

さっきまで落ち着いていた重賭さんがここまで戸惑うのも無理はない。
裏口から出ようとしたのが災いしてしまった。
メイルの突進によってキッチンへのドアが歪み、脱出出来なくなってしまった。
今、私達と外への出入口の間にはメイルが大暴れしていた。


「ママ……。」


「…っ!」

窓側の席からか細い声が聞こえて、そちらを向くと赤いランドセルを持った男の子がテーブルの下で啜り泣いていた。

「男の子!?
あっ……!マズイですよ!」

私達の声よりも小さいはずの男の子の泣き声に何故かメイルが反応してしまった。

「重賭さん!助けましょう!」

「は?今の内に逃げるに決まってんだろ。」

「ちょっ…、何言ってるんですか!」

「人の命より自分の命の方が大事だろ。」

「……っ、」

一般的な回答だ。
助けようと言っている私も一人で行く勇気が持てない。
でも……、それでも……!


「人の命より自分の命の方が大事ですよ……。
でもだからって…!
目の前の命を見捨てることなんて、
私には出来ない!」


気が付いたら私は走っていた。
メイルの横を素早く走り抜けて男の子の元へ辿り着く。
男の子を抱き締めて落ち着かせようとする。
一人じゃない事に少しは安心したのか啜り泣くのは止めて、フーフーと私の服の裾を掴んでいる。

ふと振り返れば目の前にメイルがいた。
コォー、コォーと生物とは思えない呼吸音、赤く光る瞳には感情も私すらも写らない。
メイルが腕を振り上げる。
もう私は頭の中で思い出をフラッシュバックさせた。

メリッ、

しかし、振り上げられたメイルの右腕が私達に降ろされる事はなかった。
次の瞬間、3mはある体躯のメイルは吹っ飛んでいった。
重賭さんの横蹴りで……。

「え……っ!?」

思わず惚けた声が出てしまった。
だが、あんな巨体を蹴り飛ばせるとは思っていなかった為、その後の言葉が続かない。
そんな私を置いて、重賭さんは口を開く。

「気が変わった……。
お前にもう一度質問してやる。
大ヒントも付けてな。」

「今、この状況を覆せる術を俺は持ってる。
お前が望めば、助けてやる。
さて、何を賭ける?」

何って……、
今は何も……。

「……。
もし今、金が有ったとして、危機的状況の中でお前は子供を金で助けてくれと懇願するのか?」

「…… ️」

重賭さんが……私に何を求めてるのか、
わかった気がした。


「さて……、答えを聞こうか。」

「賭けるのは……私の命……です…!
私の事はいいから…この子だけでも…助けて!」

私は精一杯の声で懇願した。
助かるかは分からない、それでもこの人なら全てを変えてくれる気がした。

「……その賭け、乗った!」

不適な笑みを浮かべて重賭さんは私達に背を向ける。メイルと対峙する。
緊張感が場を包んだ。
スッと重賭さんが腰辺りに手を添える。
呼応するように腰回りにベルトと思う物が現れる。
ベルトの正面にある機械の右側を開ける。
そしてそのまま手を挙げると何かを持っていた。

「チェスの……駒?」

チェスはあまり詳しくないけど、
確か将棋でいう歩に近い駒だった気がする。
その駒の頭部分を押すと機械音が流れた。

『ポーン!』

それをベルトの開けた機械右側に入れる。
シュウ…シュウ…とベルトから
機械音が流れる。
その音に耳を傾ける。
その姿に目を向ける。
私の全ては今、目の前の一人に注がれていた。


「変身!」


掛け声と共に開けた右側を勢いよく閉める。
その瞬間、重賭さんを光が包む。
先程のチェスの駒のシルエットが映し出される。

『フォームアップ、チェスト
世界を掌握せよ……チェスト!』

空間全体に響き渡る機械音、
吹き飛ばされたメイルが立ち上がる。
そして光が収束する。

現れたのは白。
白き鎧の戦士であった。
どこかチェスの駒に似ている気がする。
雰囲気はメイルと同じであったが、私を包み込むのは恐怖ではなく安心感だった。

白き鎧の戦士はメイルが宣戦布告をする。
腕を突きだし、指で示す。


「さぁ……開戦パルティードと行くか。」



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