ボクは死にました

狂気的な恋

第2話 日常との別れ、非日常との邂逅

 「 竜崎、優花、おはよう。 」
 「  おはよう、白くん。 」
 「 よお、白。 」


 にわかに騒がしい教室で二人に挨拶する。竜崎 勝はボクの親友で、橘 優花は彼女だ。高校に入ってからの関係で一年ぐらい続いている。


 いつものように挨拶をして、返される。他愛ない話で盛り上がる。そんなことでボクは無性に安堵してしまう。


 ボクは、四人家族の末っ子として生を受け 花奈雪 白 と名付けられた。とりわけ酷い虐待をされたわけでもないが、両親はあまりボクを愛してはいなかった。その上、母は癇癪持ちでヒステリックであったため事あるごとに周りに当たり散らす。さいたるはけ口はボクでいつも兄と比較してきた。曰く、兄はお前より頭が良かった、兄はお前より運動ができた、兄はお前より人望があった、などなど。優秀な兄は人当たりが良くたくさんの人から好かれた。当然親からの愛も一身に受けていた。そんな中、二年前に生まれたボクは兄を愛するのに邪魔だったようで、だんだんと疎まれるようになった。ボクが10歳になる頃には、ボクが失敗をすると決まってため息を引き出しこういうのだ、「 あんたなんか産むんじゃなかった 」と。その暴言を聞くたびにボクの幼い心はズタズタに引き裂かれるような痛みを伴い、泣かなくなった。その内、家での繋がりを求めなくなり、他人に求めるようになった。


「 はい、今日のお弁当。 」
 「今日もありがとう。 」


 毎日、パンなどで済ましていたボクを見かねた彼女が健康に悪いと言って作ってくれるようになった。彼女曰く、一つ作るも二つ作るのも変わらない、と。 


 「 しろ〜、昨日の試合見たか? 」
 「 あぁ、見た見た。最期の10秒にスリーポイントシュートを決めたのは胸熱だったよ。」
 「 途中の三人抜きもすごかったよな。」
 「そのあとレイアップを外したのは痛かったけどね。 」
 

 ボクと竜崎はバスケ部に入っており、バスケ好きだ。竜崎は見た目がかなり不良っぽいがかなり格好いい。最初見たときは住む世界がちがうな、と思ったが共通の趣味があったためかなり仲良くなった。


 しばらく二人と話していたが、担任が入ってきたので席に着く。特に何もなかったようで、大したことを話さず教室から出て言った。つまらない授業を聞く気にもならないので机に突っ伏して寝ることにする。


 「 おい、起きろ!いつまで寝ているんだ! 」


ガクガクと体を揺さぶられ、耳元で怒鳴られる。眼を覚ますが、とうぜん寝起きは最悪だ。


 「 もっと静かに起こしてくれよ。聖くん。」
 「 お前が寝なければいいだけだろ。 」


 目の前で不機嫌そうな顔した超絶さわやかイケメン君は聖 京 。真面目で成績優秀、運動神経抜群、容姿端麗、その上性格も良いときた。もちろんゆたくさんの人から好かれる。人当たりがいいせいか、妬まれたり、嫌われたりということはないらしい。唐突だが、ボクはこいつと関わり合いたくない。何故か?確かに彼は正義感が人一倍強く、困っている人を見かけたら迷わず手を差し伸べるような善良な人物だ。一方で思い込みが激しく、人の話を聞かず暴走することが度々あるらしい。なまじスペックが高いため、多少の問題が起きたところで、片手間に済ましてしまう。また、性善説を信じてるのか人はみんな善の心を持っていると思っているらしい。字面だけで見ると関わり合いたくないただイタイ奴だ。まぁ、他の人は大して気にしていないようだけど。


「 ちゃんと起きて、授業を受けろ。」
「 はいはい、頑張ります。」
「 馬鹿にしてるのか!」
「 してない、してない。次の時間からちゃんと受けるから。」
「 いつもそう言ってるだろうが。」


 とても面倒だ。さっさと自分のグループに戻って欲しい。周りから睨まれて居心地が悪い。


「  はぁ、いつもお前は…‥。 」


 なんで聖に呆れられなくちゃいけないんだ。普通に腹立つ。なんでこいつは、ボクにこんな手厳しいのかよく分からない。正直、鬱陶しい。なんだか小言を漏らしているが、ボクは全然聞いてない。


そんな最中、スピーカーからザザ…ザザ…ーと砂嵐の音が漏れ出てくる。聖はいったんボクに構うのをやめて放送を聞くようにしたようだ。クラスメイトも話すのをやめ、傾注している。放送が終わってから説教を再開されてもたまらないので、教室の外に出ようとする、が


  ガッッ! ガッ ガッ


 扉が開かなかった。


「えっ?」


いたずらで鍵をかけた奴でもいるのかとも思い鍵を解こうとするが


「 開いてる…‥!? 」


 施錠されておらず、このドアを開ける障害は何一つない。だというのにドアはコンクリートの壁と同化したような揺るぎなさでピクリとも動かない。


 「 どうなってんだ? 」


 あまりにも不可解な現象に独り言が出てしまう。周りには変な目で見られている。平素ならこんなことにはならないので、少し動揺しているみたいだ。


 不意にスピーカーのノイズが消える。


「  こんにちは、学生諸君。私は異界の神々の一柱である。君たちには私達の世界に来てもらう。あぁ、拒否権は君たちにはない。拒んだところで無理矢理つれていくだけだからね。 」


 背筋が凍った。ボクはクラスメイトの誰よりもこの異常を把握しているからだろう。ボク達はとじこめられている。これがどれほど危険であるか知らないアホはいないだろう。


 「 はぁ?なに言ってんだこいつ。 」
 「 ドッキリかも。そういうテレビ番組なかった? 」
 「だとしても、もう少しまともなこと言わない?この歳でファンタジーなこと言われても、信じるわけないじゃん。 」


 周囲のクラスメイトは次々と好き勝手に先ほどの相手をけなしている。ボクは彼らの余裕そうな態度が信じられない。扉ががっちりと閉まっていることに気づいてないにしても、こんなふざけたことをする奴がまともなわけがない。そもそも、学校にいる誰にも気付かれずに、いつも鍵がかけられている放送室に忍び込んでいる時点で何かがおかしいと活気べきだろう。助けを予防と携帯に手を伸ばし110番しようとする。スマホのパスワードを解除し、番号を入力しようと電話アプリに触れた瞬間


 バチィッ‼︎ 


「  ガッ⁉︎ あっつ‼︎ 」


急に電話から火花が散り、手を焦がす。あまりの熱さに足元に落としてしまう。


 バシャッ


 「 はっ? 」


目を疑った。携帯が床に広がり、原型は跡形もなく、グスグズに溶けきっている。銀と黒が混じったヘドロのような液体はボコボコと沸騰し、煙を吐いていた。熱気と一緒にゴムが溶けたような匂いと焦げた匂いが漂ってくる。目の前で起きた理解不能な現象はボクに夢を見させているのか、と思わせるほどの衝撃があった。いい歳してこんなおかしな夢を見るとは、と苦笑したかったがあまりに生々しい感触がこれは現実だと伝えてくる。


「  さて、余計なことをする輩が出たのでさっさと説明を始めるとしよう。君たちにはエドルドという私達が管理する世界に来てもらう。君たちのサブカルチャーによくある異世界召喚ものだ。エドルドは剣と魔法の世界で、なにも持たない君たちはあっさり死んでしまうだろうから君たちが各自持つ特殊能力を引き出してあげよう。私達の加護も与える。少しの努力で強くなれる。いわゆるチートというやつだ。感謝したまえ。 」


 「 そんな…こと… 」


 こちらのことを全く気にも止めず話を続け、上からものを語る。なるほど、神様らしい傲慢さと自信のありようだ。皮肉ってみるものの、最悪の想像が頭にちらつき体がカタカタ震える。いま、ボク達が遭遇している存在は神ではないかもしれない。だが人ではない。人を超えた何かだろう。どうやったのかわからないが、閉め切られた教室の外から携帯を溶かしたのだ。明らかに普通ではない存在。人智の及ばない怪物。


 異世界転移は妄言ではないのかもしれない。


 目の前がブラックアウトしそうになる。あまりのストレスに吐き気がする。全てが未知の世界に無理矢理連れていかれ絶望感は体に不調をきたすほどだった。


 クラスの男子には、「 テンプレきたー‼︎ 」とか言って嬉しそうにしている人もいるが、なにを喜んでるのだろうか?異世界なんて17年間培ってきた常識が通じないかもしれないんだぞ?命の価値なんか紙くずほどもない世界かもしれない、軍隊すら歯牙にも掛けない化け物がいるかもしれない。そんなところに連れていかれかもしれないんだぞ?信じられない。ボクのクラスにこんなキチガイがいたのか。


 まぁ、喜んでいる者は極小で相手にしていない者が大半で、小馬鹿にしたような態度で聞いている。聖も何かゴチャゴチャとスピーカーに話しかけているが、馬鹿なのだろうか?相手に聞こえるわけないだろ。


 「 説明は終わりだ。あとはあちらの世界で勝手に調べてくれ。これより君たちをエドルドに転移させる。他の神に加護を授けてもらえるよう祈っていろ。 」


 一方的かつ高圧的に話は打ち切られた。それと同時に、床が白く輝きだす。ようやく、他のクラスメイトもさっきの放送がおふざけでも、不審者の狂言でもないことに気づいたようで、顔を青くした。白い輝きは、煌々とボクらを照らし目を灼いてくる。光量が爆発的に増え、光の奔流が襲いかかり、周囲の状況すら見えなくなり感覚がデタラメになる。次第に意識が薄れていき、完全に消え失せる。









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